理論心理学,批判心理学とは?

理論心理学と批判心理学

 理論心理学(theoretical psychology)は,今日ではさまざまに分化した心理学の多くの専門領域のひとつです.
 理論的問題を研究主題とするため,心理学の一領域でありながら,その全体をみわたす視座から研究活動を展開しています.
 心理学に関する理論的問題は19世紀の最後の四半世紀の間に,大学における制度的学問として心理学が成立して以来,諸国の研究者の関心を集めてきました.

 しかし「理論心理学」という言葉は多義的で,どのような心理学なのか分かりにくい,という声も聞きます.

 国際理論心理学会(International Society for Theoretical Psychology)に集う研究者の多くは,理論心理学とは「心理学のメタ学問」である,と考えています.
 心理学史や心理学の哲学・社会学などを探究し,今日までに心理学が生み出した数多くの理論と研究方法論を比較検討し,理論構成にかかわる諸問題を考察して,新たな理論の構築を含め新しい心理学を目指しています.

 現行の心理学を変革しようと企図する批判心理学者にとって,理論心理学がもたらす既存の心理学の歴史や哲学,社会的位置などの描像は研究を含む様々な批判的実践の出発点です.
 理論心理学者は
国際理論心理学会(ISTP,1985年創設)やアメリカ心理学会 理論的/哲学的心理学部会(第24部会,1963年創設)などで,メタ学問的研究に取り組んでいます.代表的な学術誌に Theory&Psychology 誌や Journal of Theoretical and Philosophical Psychology 誌があります.



現代批判心理学運動

 心理学のメタ学問としての理論心理学は,批判心理学(critical psychology)の基礎となるものです.「批判」という言葉は,特に日本語ではネガティブな印象をもたれやすいようです.
 しかし,批判心理学は他者の活動をただ批判するような後ろ向きの心理学ではありません.

 20世紀は「心理学の世紀」だった,と言われます.前世紀をとおして心理学は多方面に発展し,大学における研究のようなアカデミックな領域でも,産業や教育,軍事,司法,医療,福祉,行政など様々な社会セクターにおいても心理学の存在感が高まっています(心理学化の進行).
 心理学は各種の教科書に記されているような数多くの成果をもたらしました.それは心に関する学問を推進し,人々の生活にとって有用な多くの知識や技術を産出してきました.

 しかし,「客観的で科学的な人間一般の心理学」のよそおいのもとで特定の文化的,社会的価値を自然化し,日常生活の中で人々の内的性質を管理・統制して主観性と実生活にときに偏った影響を及ぼすなど,その負の側面にも目を向ける必要があります.

 現行の心理学が人間の幸福や福祉に寄与しているか(反対に幸福や福祉を阻害していないか),心理学研究をとらわれのない立場から推進しているか,といった視点から,心理学と心理学者の営みを批判的に検討して,新しい心理学のあり方を探究する研究者は稀ではありません.

 批判心理学は現行の心理学がかかえている様々な問題(理論構成,研究や心理臨床などの実践,心理検査などの心理学的所産,心理学の教育や制度,社会との関係など)を検討し,解決しようとしています.
 そのために理論心理学が様々なリソースをもたらしてきました.
 

 批判心理学はある特定の学派や理論や方法ではありません.上記のように既存の心理学を変えようと取り組むスタンスが批判心理学を特徴づけています.批判心理学者の多くは,心理学と自分自身を反省的に振り返るリフレキシビティを共有しています.

 こうした立場にたつ欧米やラテンアメリカ,アフリカ,アジアの心理学者が方法や理論などの相違を越えて近年,連携するようになりました.これを私は20世紀末以降の世界の心理学の特徴のひとつと捉え,「現代批判心理学運動」と呼んでいます.

 諸国の批判心理学者が取り組む課題も,そのために採用する方法も理論的リソースも多様です.
 フェミニスト心理学や解放の心理学,ポスト構造主義心理学,社会構成主義,反人種差別の心理学,質的心理学,ポストコロニアル心理学,LGBTQ心理学,ドイツ批判心理学(ベルリン学派),批判的コミュニティ心理学,メタ学問としての理論心理学,新しい心理学史などの立場から「批判的に心理学に取り組むdoing
psychology critically」研究者が多いようです.

  こうしたことから英語表記では‘critical psychology’ではなく,‘critical psychologies’と複数形で表すことも少なくありません.


おすすめの文献

 批判心理学と理論心理学を詳しく知るには,下記の文献が役に立ちます.

Parker, I. (Ed.) (2015) Handbook of Critical Psychology (Routledge International Handbooks). Routledge.

Teo, T. (Ed.) (2014) Encyclopedia of Critical Psychology (4 vols.). New York: Springer.

Teo, T. (2015, January 26) Critical Psychology: A Geography of Intellectual Engagement and Resistance. American Psychologist. Advance online publication.

Dafermos, M., Marvakis, A., Mentinis, M., Painter, D. and Triliva, S. (Eds.) (2013) ‘Critical psychology in a changing world: building bridges and expanding the dialogue (Special issue)’, Annual Review of CriticalPsychology,10. (https://discourseunit.com/annual-review/10-2013/)

五十嵐靖博 (2011) 「批判心理学とは何か:現代批判心理学運動と日本における可能性」.心理科学,第32巻第2号.

五十嵐靖博 (2004) 「理論心理学:心理学のメタサイエンス」 (『入門マインドサイエンスの思想:心の科学のための現代哲学入門』(新曜社)に所収)



批判心理学セッション

 批判心理学研究会は2010年から日本心理学会の年次大会などでシンポジウムを開いてきました.
 2017年10月に批判心理学にかかわる様々な主題を自由に発表し,討議する場として批判心理学セッションを始めました.批判心理学研究会が主催します.
 批判心理学に関心をおもちの方は,どなたでも参加できます.

 気軽に,前向に批判心理学について語り合いましょう.
 セッションは隔月で開かれます.各セッションの日時やプログラムなどの詳細は随時,当ブログでお知らせします.

 

 

2020年6月24日 (水)

心理学史研究の新しいエンサイクロペディア

 心理学史研究の新しい成果を集めたエンサイクロペディアが最近,発行されました.

 Wade Pickren(編)「オックスフォード心理学史エンサイクロペディア(The Oxford Encyclopedia of the History of Psychology)」
 https://oxfordre.com/psychology/page/psych-history/the-oxford-encyclopedia-of-the-history-of-psychology


 世界各地で現在,歴史家が取り組む心理学史研究がひとつにまとめられています.
 「心理学史の歴史」(Adrian C. Brock),「インターセクショナリティと心理学史」 (Alexandra Rutherford, Tal Davidson),「心理学と抑圧」(Wahbie Long),「ルネサンスから20世紀までの自己の資源」(Elwin Hofman)など,面白そうなタイトルをもつ章が並んでいます.

 心理学史に関心をもつ人におすすめです.
 しかし,このエンサイクロペディアを利用するには,版元に定額を支払ってサブスクライブするか,チャプターごとに購入する必要があり,使いかってはよくありません.
 詳細は上記のサイトをご覧ください.

 大学など所属先がある方は,大学図書館に利用できるよう依頼されるとよいのでは.



 

 

2020年6月 2日 (火)

グローバル危機の心理学:YouTubeで視聴しましょう

 「グローバル危機の心理学」に関するバーチャル国際会議は,2500名以上の参加者が集う一大フォーラムになりました.
 文字通り,世界中からこの会議にあつまった基調講演者と口頭発表者とオーディエンスが,新型コロナウィルス問題など現在,私たちが経験している共通の問題を真剣に討議しました.

 基調講演者には国際的に著名な批判心理学者や社会構成主義者が多数,含まれています.
 日本からも2件の基調講演と複数の口頭発表が行われました.

 私もこの国際会議の運営委員を務めたのですが,日本から世界の聴衆に向けて,学問の発展やよりよい社会を築くために,意義ある発信をなしえたと思います.
 (4月から遠隔授業の準備や原稿の締め切りに追われて忙しく,かなり大変でした.でもこの仕事をしてよかった,と実感しています.)

Youtubeで基調講演や口頭発表を視聴できます.是非,活用してください.
The Psychology of Global Crises #PGC2020
(https://www.youtube.com/channel/UCI9zMQVlS1cB5HQ60ExrqQA/videos?view=0&sort=dd&shelf_id=1)



2020年5月18日 (月)

まもなく開会しますーグローバル・クライシスの心理学:オンライン国際会議

 まもなく「グローバル・クライシスの心理学」に関するオンライン国際会議が開幕します.
 多くの著名な心理学者を含む60余名の基調講演者が登壇します.日本の状況を踏まえた基調講演もふたつ,予定されています.
 
 1500名の研究者がこの国際会議に集います.現在,世界各地で同時に進行している「グローバル・クライシス」を,心理学がどのように捉えているかを知る格好の機会です.
 是非,この機会をご活用ください.参加費は無料です.

グローバル・クライシスの心理学:国家による監視,連帯,日常生活
日時:2020年5月20‐30日

開催地:バーチャル(すべてのセッションはオンラインで実施されます)

発表申し込みの締切り:2020年5月10日

参加費:無料

公式ウェブサイト:https://www.aup.edu/psychology-global-crises

Registration_flyer

 

 

2020年4月17日 (金)

グローバル・クライシスの心理学:オンライン国際会議のお知らせ

 新型コロナウィルスが世界で猛威を振るい,私たちの生活に大きな影響を与えています.
 感染を抑制するために「社会的距離をとる」ことが求められ,人とモノの動きが減って経済活動も文化活動も縮小しています.

 私たちが現在,経験している困難は世界で同時に進行している’グローバル・クライシス’の一部であり,世界各地で生活を送る人がそれぞれの文脈で経験している問題と通底しているのです.
 特に北側諸国において弱い立場にある人が,南側諸国では大多数の人がいっそうの困難を今,受忍しています.

 コロナ禍はすでに多くの人の心と生活に様々な影響を及ぼしていますが,今後,どこまでそれが拡大するか,現時点で確かな見通しを得ることはできません.問題に取り組む過程で私たちの生活と社会のあり方が大きく変わりゆく可能性もあります.

 こうした事態を前にしてパリ・アメリカ大学の批判心理学者,Martin Dege博士を中心とする研究者集団が「グローバル・クライシスの心理学」をテーマとして,バーチャル国際会議を開きます.
 リーマンショック後の国際金融危機と緊縮財政政策,地球温暖化,ヨーロッパや南北アメリカにおける「移民の危機」,情報技術とAIの発展による監視社会の到来など,私たちが経験しているグローバル・クライシスを考察する格好の機会です.


グローバル・クライシスの心理学:国家による監視,連帯,日常生活
日時:2020年5月20‐30日

開催地:バーチャル(すべてのセッションはオンラインで実施されます)

発表申し込みの締切り:2020年5月10日

参加費:無料

公式ウェブサイト:https://www.aup.edu/psychology-global-crises/call-submissions


下記のテーマやその他の幅広いテーマに関する発表を募集しています.関心をお持ちの方は公式ウェブサイトをご覧ください.
・危機,犠牲者,権力闘争
・危機の中の行為可能性(エージェンシー)とアクティビスム
・健康と不平等
・どのようにして危機は政治へと実装されるか
・危機の時代における連帯
・ナショナリズムと危機
・危機の概念の歴史と系譜学
・危機の哲学
・グローバル化と地政学

Call-for-submissions_pdf

ダウンロード - call20for20submissions_pdf.pdf

 

 










2020年4月 3日 (金)

4月11日の批判心理学セッションは延期です

 4月11日に15回目の批判心理学セッションが予定されていました.
 しかし,新型コロナウィルスによる感染が拡大しているため,5月以降に延期することになりました.

 新しい日程を遠からず,お知らせいたします.

 みなさん,御身大切になさってください.




2020年3月30日 (月)

アメリカ心理学会のコロナ禍対策が日本語で公開されました:心理学の可能性と課題

 新型コロナウィルス問題が私たちの日常生活に大きな影響を与えています.
 この事態に直面して,心理学は何を為しうるでしょうか.

 アメリカ心理学会が米国民に向けてウェブ上で公開したコロナ禍対策が,日本心理学会によって翻訳され公式ウェブサイトに掲載されました.
 感染を防ぐために外出が禁止され,「社会的距離をとる」よう求められている事態で生じうる心理的影響への対処法を提言しています.

「もしも「距離を保つ」ことを求められたなら:あなた自身の安全のために(Keeping Your Distance to Stay Safe)」
(https://psych.or.jp/about/Keeping_Your_Distance_to_Stay_Safe_jp/#L1h-1_ub1)

 日本心理学会のこの活動を朝日新聞が報道しました(3月22日).

「長くなる在宅,心の健康保つ秘訣は? 米心理学会が伝授」
(https://digital.asahi.com/articles/ASN3M7J2XN3MPLBJ001.html?iref=pc_ss_date)


 朝日新聞の報道では,コロナ禍による自宅待機への対処法として「「この感染症に関する信頼できる情報を得る」「日々のルーティンを作って実行する」「電話やSNSなどを活用したバーチャルなつながりを保つ」「自分の力では変えることのできない状況を受け入れるため『感謝の日記』をつける」などをアメリカ心理学会が推奨している,と述べられています.

 報道に接して私が最初に抱いた感慨は,心理学が心という誰にとっても馴染み深い対象を研究する点で,ユニークな学問だということです.
 上記を含めて理論心理学と批判心理学の立場から,念頭に浮かんだ考えを記します.

心=専門家が占有しない対象を研究する心理学
 上の新聞報道に記載されたコロナ禍対策には,専門家でなくても考えつきそうなものが多い,と私には思われます.もちろんアメリカ心理学会が公開した元の記事を読むと,専門用語を用いてよりプロフェショナルらしく書かれています.
 しかし煎じ詰めると,多分に常識的な内容だと感じます.専門家は一般の人々が知らないことを教えてくれそうですが,そうした内容が少ないと思うからです.
 これは心理学者の怠慢というより元来,心が私たちの誰もが日々,経験していてよく知っているものだからでしょう.専門家でなくてもよく知られている研究対象をもつ心理学はユニークな学問です.

心理学化
 アメリカ心理学会がこうした記事を米国民に向けて発信し,日本心理学会がそれを翻訳してウェブ上で公開したことは,コロナ禍のような重大な社会的課題に心理学が積極的に関与する時代が既に到来していることを示しています.
 日本で全国紙がそれを報道したことと合わせて,心理学が社会に広く流布した「心理学化」の時代のただなかに私たちがいることを,改めて実感しました.

アメリカ化の影響
 日本ではアメリカよりも数週間早く,新型コロナウィルスによる感染症が大きな問題になっていました.しかし,日本心理学会がこの問題について,社会に向けて発信することはありませんでした.
 今回,日本心理学会がアメリカ心理学会のウェブ記事を邦訳して公開したことは,第2次大戦後の日本心理学のアメリカ化を示す一例でしょう.日本社会を脅かす大問題を目の前にしたときでも,アメリカ心理学会の跡に従う道を歩んでいるのです.

 しかし新型コロナウィルス対策について,アメリカと日本では社会的,文化的条件が異なるかもしれません.
 たとえば感染防止のために人との接触を低減する(社会的距離をとる)には,罰則を伴う強制が有効なのでしょうか.あるいは,集団が共有する規範に訴えて行動の変容を促す施策が効果を発揮するのでしょうか.
 日本で活動する心理学者の視点から,コロナ禍問題を研究する必要がありそうです.

社会的視点の希薄さ
 ともあれ,アメリカと日本で心理学の立場から重大な社会課題に取り組む発言がなされたことは,一歩前進です.
 しかし心と社会の関係を考える視点がまだ希薄だ,と批判心理学者の目に映ります.

 たとえば「社会的距離をとる」ことに伴うおもな問題は,アメリカにおける健康保険や有給病気休暇の制度的不備,経済的格差が健康格差を引き起こしていること,低収入による生活難や心的な不健康です.感染を防ぐために「社会的距離をとる」行動や治療のために病院で受診する行動
が行われる社会的文脈も考えなければなりません.
 こうした問題が改善されなければ,ウェブ記事の主題である心の健康を実現することはできません.

 日本心理学会による翻訳記事も,このことに触れていません.
 心理学はやはり,大きな課題に直面しているのではないでしょうか.

 

 

2020年2月20日 (木)

東アジア批判心理学会議のプログラム

 東アジア批判心理学会議(2020 Critical Psychology Conference in East Asia)が近づいてきました.
 今月29日,3月1日に和光大学で開催されます.

 プログラムが下記のウェブサイトで公開されています.
 https://2020criticalpsychologytokyo.jimdofree.com/

  次のリンクからスケジュールを閲覧できます.
  ダウンロード - 17200220202020revised20preliminary20schedule2020cpcea.pdf

  
    Itou2002201 

 

2020年1月27日 (月)

次の批判心理学セッションは,4月11日に開かれます

 4月11日(土)に,15回目の批判心理学セッションが開かれます.

 発表を希望される方は,当ブログ開設者にお知らせください.

 

 おととい,14回目のセッションが開かれました.
 発表と質疑応答と懇親会での会話から,私は多くを学びました.
 参加された皆さん,どうもありがとうございました.

 下は14回目のセッション のプログラムです.

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批判心理学セッション14

日時:1月25日,午後2時から

1.山本 登志哉(発達支援研究所)「裁判官と心理学者のディスコミュニケー

ション:対話的にその構造を分析する」(2)

2.百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所)「バシリューク「体験から

祈りへ」(От переживания ― к молитве)を読む」

3.いとう たけひこ(和光大学)「原発避難者の語り」

主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会

 

2020年1月 8日 (水)

批判心理学セッションのプログラム

 1月25日 に14回目の批判心理学セッションが開かれます.
 批判心理学に関心をおもちの方なら,どなたでも参加できます.
 参加費は無料です.

 批判心理学研究会が主催するこの「セッション」は,批判心理学について本格的な研究発表と討議を行う,おそらく日本で唯一のフォーラムです.
 

 

批判心理学セッション14

日時:1月25日,午後2時から

会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)

1.山本 登志哉(発達支援研究所)「裁判官と心理学者のディスコミュニケーション:対話的にその構造を分析する」(2)

2.百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所)「バシリューク「体験から祈りへ」(От переживания ― к молитве)を読む」

3.いとう たけひこ(和光大学)「原発避難者の語り」

主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会

参加費:無料

アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分

所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.

※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありません.6階の612号室までお越し下さい.

2019年12月29日 (日)

トランプ大統領のアンガーマネジメント,ザギトワ選手の自分探し:2019年末の「心理学化」

 心理学の概念や専門用語や理論などが,日常的な言語使用に立ち現れる現象は「心理学化」のひとつの事例です.
 心理学化は,心理学が産出した知的産物が社会に流布したことを示すとともに,教育やビジネスや健康など社会の諸領域でどのような心理学知識・技術が求められているかを示唆しています.

 最近,マスメディアの報道に接して,理論心理学者・批判心理学者の目に留まった例をふたつ.


トランプ米大統領のアンガーマネジメント
 地球温暖化など気候変動への対処を政治経済界の指導者に求める運動を先導し,世界各地に広めたグレタ・トゥーンベリさん.タイムズ誌が2019年の「顔」に選出しました.

 すると,トランプ米大統領がツィッターに,
 「本当にばかげている.グレタは自分のアンガーマネジメント(怒りの制御)の問題に取り組まなきゃならない.それから友達と良い映画を見に行ってこい! 落ち着けグレタ,落ち着け!」と投稿しました.

 トランプ氏、グレタさんに「落ち着け」 映画見ればと皮肉(AFP通信,2019年12月13日)
 (https://www.afpbb.com/articles/-/3259334)

 アンガーマネジメントは近年,日本でも知られるようになりました.認知行動主義的なアプローチを用いて,個人の内部の怒りの過程を自分でコントロールするものです.
 過度の怒りの反応が自他にもたらす損失を自己コントロールによって低減できるなら,当人にも職場や学校など社会にとっても有益です.
 このためビジネスや教育などの現場で活用できる,という考えが北米で広まり普及しました.
 日本でも今後,いっそう活用されそうです.

 ところで,グレタさんに「忠告」したトランプ大統領は,政治集会や記者会見でしばしば,怒りや不満を露わにしています.本人は,自分では怒りをコントロールできている,と考えているのでしょうか?
 あるいは,ああした公的な場所での怒りの表出は,周到に計算された政治的パフォーマンスなのでしょうか?

ザギトワ選手の自分探し
 2018年,ピョンチャンで行われた冬季オリンピックのフィギュアスケート競技で金メダルを獲得したロシアのアリーナ・ザギトワ選手.愛らしい容姿も相まって,日本でも大人気です.

 12月,トリノで開かれたグランプリ・ファイナルで最下位に終わりました.
 すると今後の競技生活について,
 「スケートを続けるために,これからは調子の回復につとめる.自分探しの旅に出る.その後は…分かるでしょ」と語ったそうです.

 ザギトワ「自分探しの旅に出る」“引退報道”の真相を告白/フィギュア(サンスポ,2019年12月19日)
 (https://www.sanspo.com/sports/news/20191219/fgr19121917320007-n1.html)

 ロシア語でどのように「自分探し」について語ったのか,明らかでありません.が,日本の報道で「自分探し」という言葉が用いられたのは,この言葉が日本社会で広く普及しているからでしょう.
 「自己実現」や「自己アイデンティティ」のよりくだけた表現として,日本社会の中で「自分探し」が生まれ,前世紀末ころから広まりました.
 サッカー日本代表として若者の人気を集めた中田英寿選手が引退表明したときに,「自分探し」の旅に出ると述べたことを覚えている方も多いのではないでしょうか.

 誰にとっても「自分」は重要な関心の的ですが,それをどのようなものとして理解し考えるか,文化や社会が異なれば異なりえます.その際には自分を形容し概念化する言葉やカテゴリーが,陰に陽に「自分(自己)」についての考えに影響を及ぼしています.
 「自分探し」は20世紀末以降の日本社会の文化や社会状況,価値観などを背景として,既存の心理学的概念とかかわりながら生まれ,普及した言葉(概念)です.
 それを用いようとするニーズが社会とそこで生きる人々の中にあるのでしょう.だから「自分探し」は2020年も,広く用いられると予想されます.

 

 

 

2019年12月18日 (水)

1月25日に批判心理学セッションが開かれます.

 次回の批判心理学セッションは,1月25日(土)に開かれます.
 会場はこれまでと同じ静岡大学東京事務所,午後2時開始です.

 批判心理学に関心をおもちの方は,どなたでも参加できます.
 自由に,前向きに新しい研究について学び,討議しましょう!
 参加費は無料です.

 研究発表も募集しています.批判心理学の研究主題や目的や方法,理論的リソースは多様です.多様な研究の発表の場として是非,活用してください.

 当ブログ開設者に,気軽にご連絡ください.

 

 

 

2019年12月 8日 (日)

トッド・スローン教授のために:批判心理学・カウンセリング・心理療法ジャーナルの特集号

 批判心理学・カウンセリング・心理療法ジャーナルJournal of Critical Psychology,Counselling and Psychotherapyが,北米を代表する批判心理学者として知られるトッド・スローン教授(1952-2018)が成した研究を振り返り,再評価する特集を刊行しました.

 スローン教授は北米のパーソナリティ心理学やヨーロッパの批判心理学を深く理解したのち,ラテンアメリカにかかわる解放の心理学やコミュニティ心理学に取り組みました.
 ゼロ年代以降はアメリカのシアトル市に拠点をおき,ルイス&クラーク大学教授としてスローン博士が活動した同市のコミュニティにおいて格差や貧困や平和問題等,社会課題の解決をめざす心理学的実践を探究しました.
 また,多くの社会活動家と交流し,次世代の活動家の育成や支援に尽力しました.
 昨年12月に訃報が伝えらえると,多くの国・地域から早すぎる死を悼む声が寄せられました.

 この特集は世界各地でスローン教授と交流をもった研究者が,彼の仕事を考察しその知的遺産を継承する道を論じています.

Journal of Critical Psychology, Counselling and Psychotherapy (Volume 19, Number 4, December 2019)
Special issue : For Tod Sloan, Edited by David Fryer
-Editorial Tod Sloan :work in progress  (David Fryer)
-Tod Sloan’s Struggle  (Dennis Fox)
-Valediction for Tod  (John Kaye)
-An interview with Tod Sloan  (Wayne Dykstra and Tod Sloan)
-Tod Sloan (1952-2018)'s Micro Critical Psychology Movement: A view and memoir of a Japanese critical psychologist  (Yasuhiro Igarashi)
-Ghost Walks or Thoughtful Remembrance. How should the heritage of psychiatry be approached?  (Elisabeth Punzi)
-Against Humanism  (Grant Jeffrey)
-The Emergent Rebel:Tod Sloan’s legacy in critical psychology and beyond  (Creston Davis)
-Proposal for Courses and a Certificate at the Institute for Critical Psychology, -Global Center for Advanced Studies  (Tod Sloan)
-If You Are A Critical Psychologist, Read and Cite Tod Sloan  (Robert K Beshara)


 スローン教授が20年前に刊行した『批判心理学:変革を求める世界の声』は,20世紀末に始まった現代国際批判心理学運動の道標として世界の批判心理学者に知られ,必読文献のひとつになりました.
 当時,既存の心理学とは異なる批判的なアプローチを模索していた世界各地の心理学者に,多くの刺激を与えました.

 Sloan T (2000). Critical Psychology: voices for change. Basingstoke: Macmillan.

              Critical Psychology 


 私も20年近くの間,交流をもつ機会に恵まれ,「トッドさん」の仕事と生活の送り方から様々な刺激を受けました.こうした経験を記録し共有すべきと考え,上の特集に論文を投稿しました.
 スローン教授の事績について,詳しく知りたい方は下記をご参照ください.

Tod Sloan, Professor Emeritus (https://graduate.lclark.edu/live/profiles/248-tod-sloan)



2019年11月30日 (土)

CIAによるテロ容疑者への「強化尋問」を描いた映画:「ザ レポート」

 CIAによるテロ容疑者への過酷尋問を描いた映画「ザ レポート」がアメリカで公開され,話題になっています.
 日本でもAmzonプライムで視聴できるようになりました.日本語字幕付きです.

 2001年にアメリカを襲った9.11同時多発テロの直後にCIAが尋問技法を検討する場面から,2名の心理学者が「学習性絶望感」理論に基づく「強化尋問技法」をCIA幹部に提案する場面,凄惨な尋問(拷問)の実態,米上院情報委員会が調査を行って報告書を作成し,政治的駆け引きを経て報告書概要の公表に至る過程が描かれています.

 この公開された上院報告書(概要)で明らかになった数々の出来事から,作品の原案が作られました.
 ちょうど5年前の12月に公開されると,日本を含め世界各国で広く報道され,「CIAによる心理学的拷問」に非難の声があがり,アメリカ心理学とアメリカ心理学会のあり方に関心が集まりました.
 当時,このブログでもお伝えしました.
 「アメリカ上院がCIAの強化尋問技法(心理学的拷問)の効果を否定するレポートを公表しました」(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2014/12/post-545d.html)

 主演はアダム・ドライバー.スター・ウォーズのカイロ・レン役で有名になりました.
 上院インテリジェンス特別委員会委員長を務めるファインスタイン議員(民主党)のスタッフとして調査報告を指揮する役を演じています.
 同議員の他,CIAの長官やテロ対策センター長など政府機関の実在する当事者・関係者が作品の中で演じられています.

 タイトルの「レポート」は「拷問レポート」を意味しています.この映画のもとになった上院の報告書のほかに,CIAも自ら「過酷尋問」を検証する作成しました.
 しかし政府や議会が作成した米国の暗部を明かす報告書が,広く公開されることは稀です.この上院の報告書も全文ではなく,概要だけが公表されました.

  下のポスターではTortureという単語が,赤く塗りつぶされています.

     The Report(原題)



 「CIA拷問問題」に関心をお持ちの方にも,映画好きの方もおすすめです.
 ワシントンDCで激しい権力闘争が繰り広げられる,アメリカ政治の舞台裏を描いた政治ドラマとして楽しめます.

 「過酷尋問」を主導した2名の空軍出身の心理学者の振る舞いがあまりに酷いので,心理学に対する視聴者のイメージが悪化しそうです.
 幸か不幸か,この「CIAによる拷問」に加担したアメリカ心理学会の幹部たちは,映画には登場しません.空軍出身の臨床心理学博士はAPA幹部と会議をもち,情報交換を行っていました.(「学習性絶望感」やポジティブ心理学の提唱者として有名な元APA会長は,自宅で彼らやCIA幹部と会合をもっていたそうです.)

 「学習性絶望感」など「科学的心理学」にもとづき,国を守るために愛国者としてテロ容疑者を尋問したと主張する心理学者が,これほど醜く描かれた理由をあらためて考える必要がありそうです.

 当ブログでこの問題をたびたび,取り上げました.
  「CIAの拷問に加担した心理学者の罪:リフトンとの対話」(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2016/02/cia-96b6.html)
  「心理学的拷問を行った心理学者と被害者,CIA高官の宣誓供述ビデオ」(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2017/06/cia-aef7.html)
  「アメリカ心理学会とCIAと強化尋問技法(心理学的拷問)1
(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2015/05/cia-1e82.html)


    

 

 

 

2019年11月20日 (水)

12月15日に批判心理学セッションが開かれます

 13回目の批判心理学セッションが12月15日に開かれます.
 批判心理学にかかわる様々な主題について学び,討議する(おそらく日本で唯一の)貴重なフォーラムです.

 批判心理学に関心をお持ちの方は,どなたでも参加できます.
 参加費は無料です.


批判心理学セッション13

日時:12月15日,午後2時から

会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)

プログラム
1.いとう たけひこ(和光大学)「原発避難者の語り」

2.山本 登志哉(発達支援研究所)「裁判官と心理学者のディスコミュニケーション:対話的にその構造を分析する」

3.田辺 肇(静岡大学)「Semi-lay theories: How effectance shape our actions, beliefs, and constructs: the critical discussion on Tanabe & Tokuyama (2019) Model development to improve capabilities to cope with dissociation and affect dysregulation in a context of social care of children」

4.百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所)「体験概念(переживания,Perezhivanie)の検討-エフ・イ・ヴァシリューク「体験概念の歴史について」(2013)とM.Cole(eds)「MCA Symposium on Perezhivanie(2016)を参考に- 」

5.増田 匡裕(和歌山県立医科大学)「パーソナル・コンストラクト理論による対人魅力の類似性仮説を蘇らせてみる」

主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会

参加費:無料

アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)
所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.

※当日,建物玄関・ロビー等に開催掲示はありません.6階の612号室までお越し下さい.

 

 

 

2019年11月18日 (月)

アメリカの公共放送NPRが「エルサルバドルの虐殺」の30周年について報道しました:マルティン‐バロ(1942‐1989)の解放の心理学

 アメリカの公共放送 NPRが,1989年11月16日におきた「エルサルバドルの虐殺」から30年が経った機会に,生存者や目撃者など,当事者の声を報道しました.

 30年前のこの日,中米のエルサルバドルにあるセントラル・アメリカ大学構内の教職員宿舎で深夜,6名のイエズス会神父と宿舎の調理師,その16歳の娘が銃殺されました.
 米国の軍事支援を受けた軍隊(いわゆる「死の部隊」)が同大学を襲い,教職員と家族を殺害した事件は当時,世界に衝撃を与えました.
 ラテンアメリカ諸国への米国の政治的介入や軍事支援の実態に,改めて注目が集まりました.

 下のNPRのウェブサイトで,30周年に配信された記事とラジオ放送にアクセスできます.

 1989年にエルサルバドルで起きたイエズス会士の虐殺を記憶する(Remembering The 1989 Massacre Of Jesuits In El Salvador
(https://www.npr.org/2019/11/15/779628824/remembering-the-1989-massacre-of-jesuits-in-el-salvador?fbclid=IwAR2p8pper2BAo7OkUkZy6tT-9nruvw98Y9-c-2PT59QoBPY5yG_yoK5nqDQ)

 「いつも彼らを思い出しています」:目撃者が1989年のエルサルバドルでのイエズス会士虐殺を語る('I Miss Them, Always': A Witness Recounts El Salvador's 1989 Jesuit Massacre)
(https://www.npr.org/2019/11/16/774176106/i-miss-them-always-a-witness-recounts-el-salvador-s-1989-jesuit-massacre)


 銃殺された犠牲者のひとりは,解放の心理学を樹立し実践したスペイン出身の心理学者,イグナシオ・マルティン‐バロ(Ignacio Martín-Baró,1942‐1989)です.
 彼は社会心理学者として,カソリックの宗教者としてエルサルバドル政府の圧政や激しい経済格差,それらの人々の生活への悲惨な影響などを心理学研究をとおして批判していました.

 そのため,彼の仕事は当時の政権や右派勢力に疎まれました.
 同じように貧困者や政治的抑圧を受ける弱者の側に立ち,社会正義を求めて活動していた同僚の神父と,虐殺が行われた教職員宿舎の調理師とその子どもとともに,軍兵士によって殺害されてしまいました.
 
 マルティン‐バロがスペイン語で書いた論文が英訳され,手軽に読むことができます.
    Writings for a Liberation Psychology (Ignacio Martín-Baró, 1996, Harvard University Press)

   Writings for a Liberation Psychology


 ラテンアメリカでは彼が活躍する前から,解放の神学や解放の教育学が発展していました.
 解放の心理学もラテンアメリカ諸国が共有する政治的,経済的,文化的文脈(貧困や格差,米国の強大な力,カソリック信仰など)を背景として,それらの影響を受けて生まれました.
 マルティン‐バロの没後,解放の心理学は社会心理学を中心に多くの研究やコミュニティでの実践を生み出しました.
 今日までに北米の主流心理学とは異なるアプローチを代表する批判心理学(非主流心理学)のひとつへと発展しています.




2019年9月19日 (木)

次の批判心理学セッションは12月15日です

 次回の批判心理学セッションは12月15日(日曜)に開かれます.
 会場はいつもと同じ静岡大学東京事務所.午後2時開始です.
 発表を希望される方は,当ブログ開設者にお知らせください. 

 先日,下に示した12回目のセッションが盛大に開かれました.
 日米の性的マイノリティに関する研究や,心理学初学者へのメタ学問的な心理学への導入教育など,当初の予定になかった発表も行われ,テーブルを囲んで活発に意見が交わされました.

 飛行機や新幹線に乗って駆け付けた参加者もいました.5時間余りの発表と討議の時間が長いとは,私は全く感じませんでした.
 初めての参加者から「こんな刺激の多い研究会は初めてです」といった声もきかれました.
 ここから研究や教育,社会的取組みなど,新しい心理学実践が生まれるといいですね!

批判心理学セッション12
日時:9月16日(敬老の日),午後2時から
会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)
1.増田 匡裕(和歌山県立医科大学)「“Communication in relationships”ではなく“Relational communication”なら:G.A.Kellyのパーソナル・コンストラクト理論」
2.百合草 禎二(常葉大学名誉教授)「なぜヴィゴツキーの心理学思想に惹かれるのか」
3.いとう たけひこ(和光大学)「原発避難者の語り」
4.五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学)「東アジアと世界の批判心理学を繋ぐ:東アジア批判心理学会議と国際批判心理学運動」
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会
参加費:無料
アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html

2019年9月10日 (火)

締切りが11月15日に延長されました:東アジア批判心理学会議

締切りが延長されました!
 東アジアと世界の批判心理学者の交流を目指して,「東アジア批判心理学会議」が和光大学で開催されます.東アジアの地で初めて開かれる批判心理学に関する国際学術会議です.
 発表の申し込みの締切りが11月15日まで,延長されました.まだ,間に合います!

東アジア批判心理学会議(The 2020 Critical Psychology Conference in East Asia
日時:2020年2月29日(土),3月1日(日)
会場:和光大学(東京都町田市)
発表申込の締切り:2019年11月15日(火)
使用言語:英語.原則としてシングル・セッションの口頭発表形式です
参加費:昼食等の実費
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会
共催:和光大学いとうたけひこ研究室
発表論文の刊行:本会議で発表される論文は査読を経てAnnual Review of Critical Psychology の特集号「Critical Psychologies from East Asia(仮題)」に掲載されます.
※発表の申し込み方など詳細は下の公式ウェブサイトをご覧ください.
 https://2020criticalpsychologytokyo.jimdofree.com/


東アジアの心理学の共通性
 この学術会議は東アジアと世界各地の批判心理学者が集う初めての国際会議です.
  
 東アジアの心理学者は,漢字や仏教や儒教などの文化的資源を共有しています.このため心理学的活動の背景となる価値観や研究対象を捉えるカテゴリーや概念にも共通性が見られます.
 また,東アジアの心理学者は長い歴史的経験を共有しています.特に近代以降には,19世紀の最後の四半世紀から西洋心理学を導入して始まった日本の心理学が,植民地主義政策の下で東アジアに普及しました.
 第2次大戦後には中国を除いて政治的,経済的,文化的にアメリカの影響が強まり,心理学の「アメリカ化」が進みました.
 現在,中国語圏の心理学では中国の影響力が高まり,アメリカ心理学(より広く西洋心理学)に代わるものとして「土着心理学」(中国語では「本土心理学」)が盛んになっています.


東アジアと世界の批判心理学のネットワークを!
 その一方,東アジアではまだ,批判心理学者のネットワークは築かれていません.イギリスや中欧と北欧,北アメリカ,ラテンアメリカ,南アフリカには既に各々の文脈で多様な活動を展開している批判心理学者の交流を促すためにネットワークが生まれ,新しい心理学実践を刺激しています.
 本会議が東アジアの批判心理学者どうしを,また東アジアの批判心理学者と世界の批判心理学者を繋ぐ一歩となります.

 東アジア批判心理学会議は日本と中国,香港,台湾,韓国,マカオの心理学者と批判心理学に関心を持つ様々な専門領域の研究者が集い,さらに南北アメリカやアジアやアフリカなどの批判心理学者を招いて,心理学が直面している課題とそれへの取り組みを討議します.

 この会議からきっと,現行の心理学が抱えている諸問題に取り組む新しい心理学実践(研究,心理臨床,教育,学会・学界活動,社会的活動など)が生まれてくることでしょう.
 関心をお持ちの方は是非,公式ウェブサイトをご覧ください.

 Flyer2020cpcea201999


 

2019年8月28日 (水)

9月16日に批判心理学セッションが開かれます!

 9月16日(敬老の日)に,12回目の批判心理学セッションが開かれます.

 Kellyのパーソナル・コンストラクト理論 やヴィゴツキー心理学の意義,原発事故避難者の語りの分析,東アジア批判心理学会議が目指す目的など,面白い主題が目白押しです.
 批判心理学に関心をお持ちの方は,どなたでも参加できます.参加費は無料です.  


批判心理学セッション12
日時:9月16日(敬老の日),午後2時から

会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)

1.増田 匡裕(和歌山県立医科大学)「Communication in relationships”ではなく“Relational communication”なら:G.A.Kellyのパーソナル・コンストラクト理論」

2.百合草 禎二(常葉大学名誉教授)「なぜヴィゴツキーの心理学思想に惹かれるのか」

3.いとう たけひこ(和光大学)「原発避難者の語り」

4.五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学)「東アジアと世界の批判心理学を繋ぐ:東アジア批判心理学会議と国際批判心理学運動」

主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会

参加費:無料

アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)

所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.
※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありません.6階の612号室までお越し下さい.
 


2019年8月 4日 (日)

批判心理学の新ジャーナル:待望の創刊です!

 批判心理学に関する研究を発表するフォーラムとして,新しい学術雑誌が創刊されました.
 そのタイトルは「アライ(Awry):批判心理学ジャーナルAwry: Journal of Critical Psychology」です.
 
 Awryは「斜めに」といった意味の英単語です.

 疑いの余地のない「科学的事実」とみなされている既存の心理学知識を,別の視角から「斜めに」見て再検討する,といった含意が読み取れます.
 (ジジェクの「斜めから見る:大衆文化を通してラカン理論へ (Looking Awry: An introduction to Jacques Lacan through popular culture(1991)からこのタイトルの示唆を得た,と新雑誌の編集長に伺いました.ただし,批判心理学ジャーナルはラカン派精神分析と特にかかわりはない,とのことです.)

 新雑誌は査読付きジャーナルです.
 論文を掲載するために著者が「論文処理費」を支払う必要はありません.論文を読むのも無料です.本当の意味でオープン・アクセスジャーナルといえます.

 年に2回,刊行されオンラインで公開されます.

 心理学が産み出した理論やセラピー,専門用語や概念,研究方法や心理学教育,社会との関係など既存の心理学が直面している多くの主題が,このジャーナルを舞台として探究されるのでしょう.北米やヨーロッパやオセアニアだけでなく,ラテンアメリカやアフリカやアジアの研究者がきっと重要な寄与を為すのだろう,と期待しています.

 今,論文の投稿や特集の企画を募集しています.下のウェブサイトをご参照ください.
 私も編集委員を務めています.日本から,東アジアから独自の研究を刊行できればいいですね!


 Awry: Journal of Critical Psychology (AJCP)
  https://www.awryjcp.com/index.php/awry

 

2019年7月27日 (土)

Frontiers in Psychology誌の特集「高等教育の市場化」

 Frontiers in Psychology誌が,特集「高等教育の市場化:消費者としての学生と自由市場が結合した現状」を刊行します.今,この特集号に掲載する論文を募集しています.

 同誌は近年,注目を集めているオープンアクセス・ジャーナルを代表するひとつです.
 「高等教育の市場化」はこの十数年ほどの間,日本で心理学教育に携わる大学教員が学生の募集や教育,生活の指導,就活の支援,研究活動,外部資金の調達など様々な場面で経験してきた現象です.(今後いっそう,この傾向が強まりそうですね.)

 心理学(特に臨床心理学)は高等教育の「消費者」である学生が好む学問です.
 また「消費者」のニーズや内的な能力や性質を把握し,必要があればそれらに介入する技術を心理学が提供しています.この意味で心理学は,文部科学行政や大学の運営を担う「管理者」のために役立つ,便利な学問という側面をもっています.

 市場化された高等教育を受ける学生の主観性と経験,同時代の政治経済や教育行政と学問や教育の関係を心理学者が探究することは,有意義な研究主題でしょう.

 関心をお持ちの方は,下記のウェブサイトをご覧ください.(私もこの特集の編集委員を務めています.)


 The Marketization of Higher Education: The State of the Union between the Student as Consumer and the Free Market (https://www.frontiersin.org/research-topics/10838/the-marketization-of-higher-education-the-state-of-the-union-between-the-student-as-consumer-and-the)

 

 Frontiers in Psychology誌はオープンアクセス・ジャーナルですので,特集に掲載された論文を誰でも無料で読めます.このため多くの読者を期待できます.
 しかし,論文の著者は高額の論文掲載料(Article Processing Charge)を支払わなければなりません.ご注意ください.

 掲載料については次のウェブサイトをご覧ください.
 https://www.frontiersin.org/about/publishing-fees



 

2019年6月17日 (月)

批判的教育学事典(明石書店,2017)

 ラウトレッジ社のインターナショナル・ハンドブックの1冊,‘The Routledge International Handbook of Critical Education′(2009) が翻訳されていることを,ご存知でしょうか?
 日本語版のタイトルは「批判的教育学事典
」です.

 子どもや若者の教育がその在り方や目的,方法などをめぐって利害を異にする各種の主体の重要な関心事となることは,容易に予想できます.
 たとえば,子どもの自発的な興味や発達を重んじるか,時代の政治経済や社会からの要請を重んじて教育の目的や内容を決めるか,など多くの論争点が浮かんできます.
 「主流」の教育学とは異なる,様々な「批判的」なアプローチが登場するのも,うなずけます.

 次世代を担う子どもや若者の教育は,19世紀に国民国家が成立して以来,政治や行政,経済などを管理し統治する人々の関心の焦点でした.心理学が19世紀の後半に成立する背景になったのも,こうした社会セクターのニーズです.

 この事典から心理学の隣接学問である教育学における様々な批判的研究を,手軽に知ることができます.
 心理学を専攻する学生のために研究室に1冊,備えておかれるとよいのではないでしょうか?
 27,000円と高価ですが,有用な事典です.

 同じラウトレッジ社の国際ハンドブックシリーズから刊行されている‘The Routledge International Handbook of Critical Psychology’(2015)も,翻訳されるといいですね.

 批判的教育学事典
 マイケル・W・アップル,
ウェイン・アウ,ルイ・アルマンド・ガンディン編
 長尾彰夫,澤田稔監修
 27,000円
 明石書店, 2017.1.(原著の35章のうち28章を邦訳)
 

 批判的教育学事典


 以下,目次をお示しします.

第1部

第1章
批判的教育学の全体像 マイケル・W・アップル,ウェイン・アウ,ルイ・アルマンド・ガンディン

第2部
社会的文脈と社会的構造
第2章
世界銀行・IMFと批判的教育学の可能性 スーザン・L・ロバートソン,ロジャー・デール
第3章
学校教育の新自由主義的再編における運動と停滞 キャメロン・マッカーシー,ヴィヴィアナ・ピトン,スチョル・キム,デイヴィッド・モンヘ
第4章
企業化と学校の支配 ケネス・J・ソルトマン
第5章
カリキュラムというトロイの木馬 フルホ・トレス・サントメ

第3部
再配分・承認・差異化権力
第6章
再生産論再考-批判的教育理論におけるネオ・マルクス主義 ウェイン・アウ,マイケル・W・アップル
第7章
資本主義の君臨-階級闘争におけるペダゴジーと実践 ヴァレリー・スキャタンブロ-ダンニバーレ,ピーター・マクラーレン
第8章
人種はいまなお問題である-教育における批判的人種理論 グローリア・ラドソン-ビリングズ
第9章
教育におけるポスト構造主義的フェミニズムとは何だったのか ジュリー・マクロード
第10章
安全な学校、セクシュアリティ、批判的教育 リサ・W・ルーツェンヘイザー,シャノン・D・M・ムーア
第11章
男らしさと教育 マーカス・ウイーバー-ハイタワー
第12章
インクルーシブ教育という逆説-差異の文化的政治学 ロジャー・スリー
第13章
教育の批判理論に対するフーコーの異議申し立て ローザ・マリア・ブエーノ・フィッシャー(英語訳:リサ・G・ベッカー)

第4部
フレイレの遺産
第14章
テキストと闘うこと-フレインの批判的ペダゴジーを文脈化し、再文脈化する ウェイン・アウ
第15章
我々はどのようなタイプの革命に向けたリハーサルを積んでいるのだろうか-アウグスト・ボアールの「被抑圧者の演劇」 リカルド・D・ロサ

第5部
実践のポリティクスと理論の再生
第16章
批判的メディア教育とラディカル・デモクラシー ダグラス・ケルナー,ジェフ・シェア

第17章
批判的教育学のための教師教育 ケン・ザイクナー,ライアン・フレッスナー
第18章
集合的記憶の修復-批判的教育(学)の歴史 ケネス・テイテルバウム
第19章
教育力のある都市と批判的教育学 ラモン・フレチャ
第20章
市民学校プロジェクト-ブラジル、ポルトアレグレ市における批判的教育の適用と再生 ルイ・アルマンド・ガンディン
第21章
「日本」版批判的教育学・教育研究を創出する-批判的知の脱西洋化に向けて ケイタ・タカヤマ
第22章
中国における批判的教育研究の現状と可能性 グァン-ツァイ・ヤン,イン・チャン

第6部
社会運動と教育実践
第23章
批判的意識だけでは十分ではない-社会的公正、政治的参加、学生の政治化 ジーン・エニオン
第24章
教員組合と社会正義 メアリー・コンプトン,ロイス・ウェイナー
第25章
教員、実践と民衆-韓国教員の承認をめぐる闘争 ヒー・リョン・カン

第7部
批判的教育学のための批判的研究方法
第26章
転換期における批判的研究方法論に向けて ロイス・ウェイス,ミシェル・ファイン,グレッグ・ディミトリアディス
第27章
批判的教育研究は「量的」たりうるか ジョセフ・J・フェラール
第28章
文化横断的研究と教育におけるオリエンタリズム、西洋と非西洋の二元主義とポスト・コロニアルな視点 ヨシコ・ノザキ

 

 

2019年6月15日 (土)

第8回国際コミュニティ心理学会議(2020年6月26-28日,メルボルン)

 第8回国際コミュニティ心理学会議が,来年6月26日から28日までオーストラリアで開かれます.
 会場はビクトリア大学(メルボルン)です.

 コミュニティ心理学は北米心理学など,個人主義的な心理学観に基づく研究や心理臨床実践が支配的な心理学界において,「主流心理学」が直面している課題に取り組む批判心理学の先駆けとして長年,重要な役割を果たしてきました.

 第2次世界大戦後に国際心理学界を主導してきた北米心理学は,「個人の内部に閉じた心」を研究対象としています.
 外部からの入力(独立変数)が個人の心的過程(媒介変数)での内潜的な処理を経て,反応・行動(従属変数)として出力・測定されるという心観です.
 しかし心をひとりの個人の中で閉じたものとしてではなく,身近な他者や家庭,地域社会,学校や職場などのコミュニティ,さらに政治経済や諸制度などの社会構造と個人の心の関りにおいて研究することもできます.
 批判コミュニティ心理学は,北米主流心理学を制約している「過度の個人主義」を超えるアプローチを探究してきました.

 アメリカのコミュニティ心理学が1960年代に出立してから,長い時間が経ちました.
 
当初,アメリカのコミュニティ心理学は1960年代のアメリカ社会に広がっていた進歩的な気風を反映して,批判的なアプローチも採用していたのですが,他の多くの心理学の下位領域と同様,次第に「主流心理学」に組み込まれていきました.
(それでも私が見聞した限りでは,「統治や管理の機構のために働くエージェントに成り下がった臨床心理学よりはましだ」と世界の批判コミュニティ心理学者は考えているようです.臨床心理学者の皆さん,ごめんなさい.)

 コミュニティ心理学は日本の心理学教育で,もっと多くの時間と頁数を当てて紹介されるべき有用な領域です.
 心理学概論書でコミュニティ心理学の意義が詳しく説明され,批判コミュニティ心理学の日本語教科書が刊行されることが待望されています.
 (日本のコミュニティ心理学者の皆さん,よろしくお願いします!批判コミュニティ心理学を忘れないでください!)

 第8回国際コミュニティ心理学会議のおもな主題は,下記のとおりです.
・持続可能な未来のための知識(Knowledge for sustainable futures)
・多様な人々が参加できる文化と健康なコミュニティの創造(Creating inclusive culture and healthy communities)
・境界での活動(Working the boundaries)
・グローバルな動力学のローカルな表出(Global dynamics in local expressions

 発表申し込みの締め切りは,8月2日です.
 詳細については,下記の公式ウェブサイトをご覧ください.
  https://communitypsychologyaustralia.com.au/index.html


 

2019年6月 7日 (金)

次回の批判心理学セッションは9月16日(敬老の日)です

 11回目の批判心理学セッションが,6月2日に開かれました.
 遠方から飛行機や新幹線に乗って駆け付けた方も加わり,いつもにも増して活発な知的討議が行われました.

 発表テーマはコミュニケーション学への社会心理学からの新しい理論的研究,ロシアにおける旧ソビエト心理学の活動理論を受け継いで発展した心理療法,最近の日本社会における「自己肯定感」の批判心理学史的研究でした.

 ある発表者が会の後に,批判心理学「セッション」という発表形式は本当に良かった,自分の着想や説明に対して参加者たちがそれぞれの視点からたくさん刺激を与えてくれた,と述べていました.

 私も全く同感です.
 この数年で日本社会の中に急速に普及した「自己肯定感」という言葉の批判心理学史的研究を報告したのですが,参加者からいくつか貴重な示唆をいただきました.研究をさらに進められそうです.

 今後もこの「セッション」の長所を活かして,心理学が直面している課題に取り組む多様な研究を討議する場にしたい,と考えています.
 日ごろ研究や心理臨床や教育などの現場で心理学を実践している研究者の皆さん,学生として心理学を学んでいる皆さん,「今ある心理学」に疑問を抱かれたなら,批判心理学セッションで一緒に考えてみませんか?

 次回の批判心理学セッションは9月16日(敬老の日)に,同じ会場で午後2時から開かれます.
 発表を希望される方は,当ブログ開設者にお知らせください.

 下記は6月2日に開かれたセッションのプログラムです.

批判心理学セッション11
日時:6月2日(日),午後2時から
話題提供1:増田 匡裕(和歌山県立医科大学)「コミュニケーション学でもらった“玉手箱”を心理学の“浜辺”で開けてみると(その2:承前):G.A.Kellyの理論で対人コミュニケーションを説明するとはどういうことか」
話題提供2:百合草 禎二(常葉大学名誉教授)「エフ・イエ・バシリョク『体験の心理学:危機的状況の克服の分析』の第1章「体験の現代的見解」を読む」
話題提供3:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学)「『自己肯定感』という言葉の起源と展開:心理学史研究と批判心理学の立場から」
会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)




 

2019年5月15日 (水)

「資本主義の病理学」という心理学の国際会議

 コスタリカの心理学者から来春,当地で開かれる国際会議の知らせが届きました.
 その国際会議は「資本主義の病理学に関するコスタリカ会議2020(PATHOLOGIES OF CAPITALISM
COSTA RICA 2020)」です.

 心理学者が主催し,世界各地から心理学者が集う学術会議が「資本主義の病理学」と題されていることに,驚かれた方も多いことでしょう.
 心理学がなぜ,政治経済の問題である資本主義とかかわりがあるのだろうか,と疑問に思われたなら,自分の心観を振り返えるよい機会です.

 認知行動主義的アプローチをとる「主流心理学」では,心理学は「心と行動」の科学と定義づけられています.
 しかしこの立場はすでに,特定の心理学の哲学に依拠しています.
 素直に字義通りに考えれば,心理学は「心を研究対象とする学問」でしょう.

 北米で生まれ発展した認知行動主義は個人の内部に閉じた心が行動に反映される,という心理学の哲学を採用しています.
   ここには北米の個人主義的な文化が表れている,とかねて多くの理論心理学者や批判心理学者が指摘してきました.
 もともと北米社会の文化や価値観に根差したものだったので,「個人の内部に閉じた心」という心観が北米の心理学者たちに自ずと受け入れられた,といえそうです.

 しかし,それにとどまらず心に影響を与え,その在り方を規定している個人を超えた諸要因ー政治経済や社会構造,文化などーを検討することも可能です.
 特に20世紀末以降,北側諸国が推し進めた新自由主義経済政策の下でグローバル競争が激化し,世界の多くの国・地域の雇用や物価に影響するようになりました.福祉や文教,環境などに関わる政府の政策が改悪されるなど,人々の生活に大きな影響を及ぼしています.
 それが個人の心のあり方や心身の健康に関わることは言うまでもありません.
 そこで「資本主義の病理学」という視点が重要だと考える心理学者が,世界各地で同時多発的に現れました.

 2020年会議は来年4月1日から3日まで,コスタリカ大学で開催されます.詳細はメール(patologiasdc@gmail.com )にて問い合わせてください.
 イグナティオ・ドブルス・オロペザ(Ignacio Dobles Oropeza)教授を中心に,コスタリカ大学の心理学者たちが国際会議を主催します.

 「資本主義の病理学」に関する心理学の国際会議は昨秋,ニューヨークで1回目の会議が開かれました.
 この会議は50人の招待者に限定されたクローズドなものでしたが,思いがけず,私も招待状を受け取りました.
 せっかくの機会ですので参加したところ,旧知の批判心理学者や心理学史研究者も出席していました.
 心理学の諸領域や関連する諸学問の多様な視角から資本主義の政治経済と心の関係をめぐって発表と活発な討議が行われました.私も他の出席者たちも,多くの新しい知的刺激を受けました.
 今後,こうして共有された経験から,世界の各地で新しい心理学が生まれてくることでしょう.

 来春開かれる「資本主義の病理学に関するコスタリカ会議2020(PATHOLOGIES OF CAPITALISM
COSTA RICA 2020)」はそのひとつです.
 この国際会議は招待者限定ではなく,世界の多くの心理学者と心理学に関心を持つ諸学問の研究者に開かれています.

 

2019年5月 9日 (木)

批判心理学セッションのお知らせ:社会心理学とコミュニケーションの新しい視点,現代ロシアの心理療法,自己肯定感の歴史

 6月2日,日曜に10回目の批判心理学セッションが開かれます.

 今回もユニーク,かつ重要な研究が発表されます.
 G.A.ケリーとコミュニケーション,旧ソビエト心理学の現代的展開としての新しい心理療法の理論,今日の日本社会における「自己肯定感」の起源とその影響など,他の学会や研究会では聴く機会の稀なテーマが発表されます.
 きっと,話題提供を受けて交わされる討議も,知的刺激に満ちたものになることでしょう.

 批判心理学に関心をお持ちの方は,どなたでも参加できます.
 参加費は無料です.


批判心理学セッション11
日時:6月2日(日),午後2時から

会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)

話題提供1:増田 匡裕(和歌山県立医科大学)「コミュニケーション学でもらった“玉手箱”を心理学の“浜辺”で開けてみると(その2:承前):G.A.Kellyの理論で対人コミュニケーションを説明するとはどういうことか」

話題提供2:百合草 禎二(常葉大学名誉教授)「エフ・イエ・バシリョク『体験の心理学:危機的状況の克服の分析』の第1章「体験の現代的見解」を読む」

話題提供3:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学)「『自己肯定感』という言葉の起源と展開:心理学史研究と批判心理学の立場から」

主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会

参加費:無料

アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)
所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.
※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありません.6階の612号室までお越し下さい.

 

2019年4月22日 (月)

次回の批判心理学セッションは,6月2日に開かれます

 10回目の批判心理学セッションが昨日,開かれました.

 第1部は今道友昭先生による批判環境心理学に関するレクチャーでした.
 日本ではまだ知られていない,この研究領域の主題や基本的な考え方,社会的,政治経済的背景などを詳しくうかがうことでができました.アメリカの,特にニューヨークの生活環境や社会構造が新しい学問の発展を導く実例を学びました.
 批判環境心理学が今後,どのような理論や実践を生み出すか,注目されます.

 第2部の話題提供では現在,ロシアで展開している心理療法の理論と哲学を学ぶことができました.ソビエト心理学が培った長く分厚い理論的研究伝統に根ざして,新たな心理療法が創出される研究実践を初めて知り,強い印象を受けました.
 おそらく日本国内でこの主題について聞く機会は,他では得られないのではないでしょうか.

 次回の批判心理学セッションは6月2日に,同じ会場で開かれます.
 発表を募集しています.関心をおもちの方は当ブログ開設者にご連絡ください.

批判心理学セッション10
日時:4月21日(日),午後2時から
会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)
第1部 講演
今道 友昭(ニューヨーク市立大学・ラガーディアコミュニティーカレッジ) 「批判環境心理学の挑戦:その成果と課題」
第2部 話題提供
1.百合草 禎二(常葉大学名誉教授) 「エフ・イエ・バシリョク『体験の心理学:危機的状況の克服の分析』を読む」
2.五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「原子力発電所事故の心理学<序説>:批判心理学,ディスコース分析と理論心理学からの取組み」

 

2019年3月29日 (金)

2020 Critical Psychology Conference in East Asia

  2020 Critical Psychology Conference in East Asia will be held on February 29th and March 1st, 2020 at Wako University in the City of Machida in Tokyo.

Aims:
  The international critical psychology movement has been provoking changes in the psychological world since the turn of the 21st Century. Although it not as strong as in the UK, North Europe, South Africa, Canada, and Latin America, critical psychologists are carrying out important work here in East Asia. The principal aim of the 2020 Critical Psychology Conference in East Asia is to connect critical psychologists in this area and to connect them with critical psychologists with parts of the globe.

  So called ‘modern psychology’ has long history in East Asia. Western psychology was introduced into Japan from the late 19th Century, soon after Japan emerged from its period of isolation and set about building a modern state following the models of Western powers. Psychology was institutionalised as a new discipline in several Japanese universities by the early 20th Century. Japanese psychology stimulated the development of psychology elsewhere in East Asia, a manifestation of intellectual and ideological colonization as the Empire of Japan expanded its territory in the region. These are among the origins of psychology in East Asia.
  Since the latter half of the 20th Century, psychology in East Asia has developed, each country affecting the other, sometimes intentionally, sometimes unintentionally. Psychologists there share Buddhism, Confucianism, Chinese characters and other cultural-political factors as a background and moral tradition. Now psychology has developed both in academia and in various kinds of social sectors where psychological knowledge has been used for their purposes of treating their ‘objects’, people.

  Psychology in East Asia has problems such as psychologization and Americanization among others. Although critical psychologists in East Asia have been working to tackle these problems, they have not known each other well as yet. There are no networks of critical psychologists here, as exist in Europe, US and Latin America, to an extent, in Africa. By connecting ourselves, and connecting with critical psychologists in other area of the globe, we expect something great will be born.

  We hope to create a forum to facilitate exchanges among critical psychologists in East Asia and exchanges between them and critical psychologists around the world to make change in psychology and psychologized society in pursuit of the welfare of people and advancement of knowledge.

 

Date:
  February 29th & March 1st, 2020.

Venue:
  Wako University in the City of Machida, Tokyo.
  (Address: 2160 Kanai-machi, Machida-shi, Tokyo 195-8585 JAPAN)

 

Conference process
 
2020CPCEA will be held in a single plenary session, without parallel sessions. Every conference participant will be strongly encouraged to attend every presentation and to share relevant thoughts, views and experiences in post-presentation discussions.

 

Submission of paper proposals
 
Please submit proposals for conference presentations by email as MS Word attachments, including the title, a 250-word abstract and brief biographical information, by October 1st 2019 to: Yasuhiro Igarashi (yigarashi@yamano.ac.jp) with 'Submission for 2020CPCEA' in the subject line.

 

Participation fee:
   Free, except for lunch expenses (TBA). The conference is supported by Wako University and Critical Psychology Colloquium of Japanese Psychological Association.

  

Language used for presentation:
  
English

  

Who should participate?
  Those interested in critical psychology specifically in East Asia but also from around the world as it connects with developments in East Asia, are welcomed. Not only psychologists, but also researchers and students in other disciplines and people who have an interest in critical psychology are warmly welcomed.
 We are sure new approaches and practices to tackle problems psychology suffers from and problems caused by psychology, will be made more visible from these close exchanges by the participants at the conference.

  Papers presented at the conference can be published in in the special issue of Annual Review of Critical Psychology devoted to the conference.

  Please contact the organize committee to know more about the conference.

 

Suggested readings on critical psychology in East Asia:

Bo Wang. (2013). Working at the Borders: Reconstructing the History of Chinese Psychology from the Perspective of Critical Psychology. Annual Review of Critical Psychology 10. (https://discourseunit.com/annual-review/10-2013/)

Fu Wai. (2013). Critical Psychology is not psychology: an essay from the perspective of an ancient Chinese philosopher Gongsun Longzi written by a so-called Hong Kong psychologist. Annual Review of Critical Psychology, vol. 10.  (https://discourseunit.com/annual-review/10-2013/)

Zhipeng Gao. (2013). The Emergence of Modern Psychology in China, 1876 – 1929. Annual Review of Critical Psychology, vol.10. (https://discourseunit.com/annual-review/10-2013/)

Yasuhiro Igarashi. (2006). Role of Critical Psychology in Japan: Protest Against Positivistic Psychology and Search for New Knowledge of the Mind. Annual Review of Critical Psychology, vol.5. (https://discourseunit.com/annual-review/5-2006/)

Yasuhiro Igarashi, Atsuko Aono, Tin Tin Htun, Satoshi Suzuki, & Hajime Tanabe. (2013). Critical Psychology in Japan: Voices for change. Annual Review of Critical Psychology, vol.10. (https://discourseunit.com/annual-review/10-2013/)

 

Conference organize committee:

  Yasuhiro Igarashi, Yamano College of Aesthetics, Japan. Chair.  (Email: yigarashi@yamano.ac.jp)

  Takehiko Ito, Wako University, Japan.  (Email: take@wako.ac.jp)

  Fu Wai, Hong Kong Shue Yan University, Hong Kong.  (Email: wfu@hksyu.edu)

  David Fryer, University of Queensland, Australia. (d.fryer@uq.edu.au)

 

The offcial website of 2020CPCEA is opened now.
  https://2020criticalpsychologytokyo.jimdofree.com/


 

 

 

 

 

 

2019年3月 7日 (木)

4月21日に批判心理学セッションが開かれます

 10回目の批判心理学セッションが,4月21日に開かれます.

 今回のセッションは2部構成です.

 第1部は環境心理学における批判心理学的研究実践について,
今道友昭先生に詳しくレクチャーしていただきます.今道先生はニューヨーク市立大学(CUNY)を拠点に教育・研究に取り組んでおられます.
 数多くの民族が共在する新自由主義経済のメッカであり,著しい力の格差の下で苛烈な競争が繰り広げられているニューヨーク市の生活環境を背景に,CUNYでは参加型アクションリサーチ(PAR)によるマイノリティを擁護する研究が盛んです.
 CUNYはアメリカで批判心理学がもっとも盛んな大学のひとつと言えるでしょう.
 ニューヨークや北米における批判心理学についても,今道先生からうかがえることと思います.

 第2部はソビエト心理学と原子力発電所事故の心理学に関する話題提供です.
 レクチャーと話題提供,そのあとのディスカッションが楽しみですね.

 批判心理学に関心をお持ちの方のご参加を歓迎します.参加費は無料です.


批判心理学セッション10

日時:4月21日(日),午後2時から
会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)
第1部 講演

今道 友昭(ニューヨーク市立大学・ラガーディアコミュニティーカレッジ) 「批判環境心理学の挑戦:その成果と課題」

第2部 話題提供
1.百合草 禎二(常葉大学名誉教授) 「エフ・イエ・バシリョク『体験の心理学:危機的状況の克服の分析』を読む」
2.五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「原子力発電所事故の心理学<序説>:批判心理学,ディスコース分析と理論心理学からの取組み」
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会

参加費:無料
アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)
所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.

※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありません.6階の612号室までお越し下さい.
 
 
 
 

2019年1月30日 (水)

2月17日に批判心理学セッションが開かれます

 2月17日に9回目の批判心理学セッションが開かれます.

 
発表テーマはヘックマンの『幼児教育の経済学』,心理学におけるフーコー派ディスコース分析,原発避難者の語りです.いずれも他の学会や研究会では聴く機会の稀な興味深い主題です.

 批判心理学に関心をおもちの方は,どなたでも参加できます.参加費は無料です.
 気軽にお運びください.



批判心理学セッション9
日時:2月17日(日),午後2時から

会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)

話題提供1:百合草 禎二(常葉大学名誉教授)  「ヘックマンの『幼児教育の経済学』の読み取りを糺す: 議論の本質はどこにあるのか?」

話題提供2:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学)  「心理学におけるフーコー派ディスコース分析:4ステップの読解の実際」

話題提供3:いとう たけひこ(和光大学)  「原発避難者の語り」

主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会

参加費:無料

アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)

所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.

※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありません.6階の612号室までお越し下さい.











 

2019年1月10日 (木)

次回の批判心理学セッションは2月17日,次々回は4月21日です

 次回の批判心理学セッション9は2月17日(日曜)の午後2時,開始です.

 会場は静岡大学東京事務所(東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室.http://www.cictokyo.jp/access.html)です.
 話題提供者を募集しています.発表を希望なさる方は当ブログ開設者にお知らせください.

 その次は4月21日(日曜)に,同じ会場で開かれます.この10回目の批判心理学セッションは2部構成です.

 第1部は今道友昭先生(ニューヨーク市立大学・ラガーディアコミュニティーカレッジ)による批判環境心理学に関するレクチャーです.
 環境心理学と聞くと知覚や認知の応用領域を連想しますが,コミュニティや社会や文化なども私たちが生きる環境の重要な一部です.それが人の心や行動にどのように関わっているのか,批判心理学的な取組みを報告していただきます.
 レクチャーのタイトルは「批判環境心理学の挑戦:その成果と課題」です.

 今道先生はニューヨーク市立大学(CUNY)で学位を取得され,同大学で研究・教育に取り組んでおられます.CUNYはアメリカでもっとも批判心理学が盛んな大学のひとつです.
 CUNYや
ニューヨークにおける批判心理学の動向についても,紹介してくださることでしょう.
 楽しみです.

 第2部は日本で活動する心理学者による,多様な研究の報告です.

 批判心理学に関心をおもちの方は気軽にお運びください.





2018年12月26日 (水)

「歴史への新しいアプローチを討議する」(M.タムとP.バーク編,2018):心理学史研究の発展のために

 今,日本社会で生きる私たちは,さまざまな「心理学知識」が浸透した環境のなかで生活を送っています.
 自分の身近に人の心や内的な性質,行動などを説明する用語,それらを測定する検査,「心の問題」に対処するセラピーなどが,どのくらい普及しているか,お気づきでしょうか.

 それらの心理学知識は私たちの生活に,私たちが自他を理解する仕方に,陰に陽に影響を与えています.
 だから,それらをよりよく知ることが幸福な生活を送るために必要です.心理学知識はときに私たちの生活に悪影響を及ぼします.

 心理学を知るためには,心理学の歴史を知る必要があります.目の前にある心理学知識の由来を知れば,その長所も短所も明らかになることでしょう.
 しかし歴史は一つではありません.ある歴史的事象をどのように説明するかは,歴史を記述する人の立場や考え方(歴史観)によって大きく異なります.
 歴史観が異なれば,書かれ語られる歴史の物語も変わります.

 歴史学の領域で現在,新しい歴史観が探究され,そのもとで新しい研究が進められています.
 その最新の動向を討議する研究論文集が刊行されました.

M.タムとP.バーク編,「歴史への新しいアプローチを討議する」ブルームスベリー・アカデミック社,2018. (Debating New Approaches to History.
Marek Tamm & Peter Burke, (Eds), Bloomsbury Academic, 2018)



 心理学史研究にたずさわるものには学ぶことの多い良書です.歴史学の最前線に触れ,知的刺激を与えてくれます.
 「グローバル・ヒストリー」,「ジェンダー史」,「ポストコロニアル・ヒストリー」などすでに盛んなアプローチに加えて,「デジタル・ヒストリー」,「ニューロ・ヒストリー」,「ポストヒューマニスト・ヒストリー」,「環境史」,「人新世」など,興味深い主題が満載です.目次をみているだけでワクワクします!

 下に目次をお示しします.

Introduction, Marek Tamm (Tallinn University, Estonia)
1. Global History
Contributor: Jürgen Osterhammel (University of Konstanz, Germany)
Commentator: Pierre-Yves Saunier (Université Laval, Canada)
2. Environmental History
Contributor: Grégory Quénet (Versailles Saint-Quentin-en-Yvelines University, France)
Commentator: Sverker Sörlin (KTH Royal Institute of Technology in Stockholm, Sweden)
3. Gender History
Contributor: Laura Lee Downs (European University Institute, Italy; EHESS, France)
Commentator: Miri Rubin (Queen Mary University of London, UK)
4. Postcolonial History
Contributor: Rochona Majumdar (University of Chicago, USA)
Commentator: Prasenjit Duara (Duke University, USA)
5. History of Memory
Contributor: Geoffrey Cubitt (University of York, UK)
Commentator: Ann Rigney (Utrecht University, The Netherlands)
6. History of Emotions
Contributor: Piroska Nagy (Université du Québec à Montréal, Canada)
Commentator: Ute Frevert (Max Planck Institute for Human Development, Germany)
7. History of Knowledge
Contributor: Martin Mulsow (Erfurt University, Germany)
Commentator: Lorraine Daston (Max Planck Institute for the History of Science, Germany)
8. History of Things
Contributor: Ivan Gaskell (Bard Graduate Center, USA)
Commentator: Bjørnar Olsen (UiT – The Arctic University of Norway)
9. History of Visual Culture
Contributor: Gil Bartholeyns (Université de Lille 3, France)
Commentator: Jean-Claude Schmitt (EHESS, France)
10. Digital History
Contributor: Jane Winters (School of Advanced Study, University of London, UK)
Commentator: Steve F. Anderson (University of California, Los Angeles, USA)
11. Neurohistory
Contributor: Rob Boddice (Freie Universität Berlin, Germany; McGill University in Montreal, Canada)
Commentator: Daniel Lord Smail (Harvard University, USA)
12. Posthumanist History
Contributor: Ewa Domanska (Adam Mickiewicz University in Poznan, Poland; Stanford University, USA)
Commentator: Dominick LaCapra (Cornell University, USA)
Conclusion, Peter Burke (University of Cambridge, UK)            

Media of Debating New Approaches to History

 

2018年12月24日 (月)

次回の批判心理学セッションは2月17日です

 昨日,8回目の批判心理学セッションが開かれました.

 コミュニケーション学と社会心理学,特に構築主義や構成主義をめぐって話題提供と討議が,1時間半余りの間,活発に行われました.
 その後,自然科学と人間観の関係を質問紙によって探究する大規模な研究の結果が速報され,結果の解釈やさらなる分析の仕方が討議されました.今までにない研究のツールと理論的発展が期待され,今後の発展が楽しみです.

 いずれも私にとって,新しい知見を得る機会となりました.原子力発電所事故に関する私の発表にも,さまざまなご意見をいただきました.
 ありがとうございました.
 セッションの後の懇親会も,研究の進め方や研究者としての在り方などを語り合い,楽しくかつ有意義な時間を過ごしました.
 
 
批判心理学セッション8
日時:12月23日(日),午後2時から

会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)
話題提供1:増田 匡裕(和歌山県立医科大学) 「コミュニケーション学でもらった“玉手箱”を心理学の“浜辺”で開けてみると(その2):“e”が2つの「ケリー」よりも1つの「ケリー」が「認知的アプローチ」で「構成主義」の基盤と呼ばれる彼岸」
話題提供2:小田 友理恵(法政大学大学院)・吉田 光成(専修大学大学院)・新川 拓哉(Intsitut Jean Nicod)「自然科学は人間観にどのような影響を及ぼしているのか」
話題提供3:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「原子力発電所事故にかかわる諸問題を考える:批判心理学,理論心理学とディスコース分析の立場から」

 

 次回の批判心理学セッションは2月17日(日曜)の午後2時から,同じ会場で開かれます.
 批判心理学に関心をお持ちお方はどなたでも参加できます.

 話題提供を希望なさる方は当ブログ開設者にご連絡ください.

2018年12月19日 (水)

批判心理学を知るために:ヴィヴィアン・バー 著「ソーシャル・コンストラクショニズム:ディスコース・主体性・身体性」

 大学などの心理学入門の授業ではたいてい,心理学は「心と行動の科学」だと教えられています.これは1930年代にアメリカで成立した新行動主義から,1950‐60年代にコンピュータ科学などの成果を取り入れて認知行動主義へと発展した現在の「主流心理学」の心理学観を表した心理学の定義です.

 認知行動主義的アプローチに依拠する「主流心理学」が抱える問題点を現在,日本でも他の国・地域でも多くの心理学者が自覚し,その解決に取り組んでいます.
 そのためには心理学の存在論や認識論など,哲学の水準で「主流心理学」を検討して新しい心理学の哲学を,それに支えられた研究方法論を構築しなければなりません.

 さまざまな可能性が探究され,
新しいアプローチが生み出されてきました.社会構成主義はその主要なひとつです.
 心理学の研究対象を「客観的,普遍的なもの」としてでなく,ある文化や社会の文脈において,特定の言語を用いて集合的に構成されたもの,という見方で研究しています.

 イギリスの批判心理学者,ヴィヴィアン・バー(Vivien Burr)の定評ある社会構成主義の教科書が邦訳されました.2015年に刊行された第3版の日本語訳です.

 ヴィヴィアン・バー (著)「ソーシャル・コンストラクショニズム:ディスコース・主体性・身体性」 田中 一彦 ・大橋 靖史 (訳),川島書店,2018


 社会構成主義に関する数多くの研究を引用して,各種の異なる立場を説明しています.訳文も読みやすく,優れた仕事を分かりやすい日本語で読む楽しみを味わえます.
 批判心理学とディスコース分析の入門書としても,お勧めできます.

 著者のバー氏はイングランド北部にあるハダースフィールド大学心理学科の「批判心理学教授」を自称しています.
 イギリスは最も批判心理学が盛んな国のひとつです.本書から1980年代以降に当地で興った「イギリス批判心理学」やディスコース分析の考え方を知ることができます.
   
 下に目次をお示しします.   
第1章 ソーシャル・コンストラクショニズムとは何か
第2章 ソーシャル・コンストラクショニズムの主張
第3章 ソーシャル・コンストラクショニズムにおける言語の役割
第4章 ディスコースとは何か
第5章 ディスコースの外に実在世界は存在するか
第6章 巨視的ソーシャル・コンストラクショニズムにおけるアイデンティティと主体性
第7章 微視的ソーシャル・コンストラクショニズムにおけるアイデンティティと主体性
第8章 ソーシャル・コンストラクショニズムの探究
第9章 ソーシャル・コンストラクショニズムにおける問題と論争



2018年12月 4日 (火)

質的心理学辞典が刊行されました

 長年,心理学の「正当な研究方法」として実験室実験やサンプル数の多い大規模な質問紙法など,量的方法が重んじられてきました.

 そうした「主流心理学」が心理学研究に強く影響を及ぼす状況において,インタビューやフィールドワーク,アクションリサーチなどの質的方法を用いて心理学研究を行うことは,それ自体が「主流心理学」への批判となり得ます.

 日本質的心理学会の企画により,質的心理学辞典が刊行されました.

  「質的心理学辞典」,能智正博(編集代表),新曜社,4800円


 版元のウェブサイトの記述によると(https://www.shin-yo-sha.co.jp/mokuroku/books/978-4-7885-1601-4.htm),

「日本質的心理学会創立15周年記念出版。
 拡大と深化を続ける質的探究の「いま」を概観し理解するための1098項目を厳選。
 多様な学問的背景をもつ第一線の252名が、初学者にもわかりやすく語義を解説し、読み物としてもおもしろさ抜群。
 多様な人びとの対話と協働を促す必携の書!
 *質的研究の辞典は日本初!*初心者からベテランまで必携の書」 とのことです.


 ざっと目を通したところ,上記のようにさまざまな知識に手軽に触れられ,読み物として楽しめました.電子ブックも刊行されるそうです.
 心理学に関心をお持ちなら,手元に置いておかれると役に立つことでしょう.お薦めできます.

 私も「批判心理学」や「批判的ディスコース分析」,「反精神医学」などの項目を寄稿しました.
 (「批判」や「反」という接頭語がつく用語を担当するのは,批判心理学者の役まわりなのでしょうね.かならずしも本意ではないのですが....)


2018年11月28日 (水)

批判心理学セッションが,12月23日に開かれます

 12月23日に批判心理学セッションが開かれます.
 批判心理学について幅広い主題を自由に討議するこのセッションも,8回目を迎えました.

 今回も他では聴く機会の少ない,しかし重要なテーマが取り上げられます.発表とディスカッションのために十分な時間があてられます.

 批判心理学に関心をお持ちの方は,気軽にお運びください.
 参加費は無料です.



批判心理学セッション8

日時:12月23日(日),午後2時から

会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)

話題提供1:増田 匡裕(和歌山県立医科大学) 「コミュニケーション学でもらった“玉手箱”を心理学の“浜辺”で開けてみると(その2):“e”が2つの「ケリー」よりも1つの「ケリー」が「認知的アプローチ」で「構成主義」の基盤と呼ばれる彼岸」

話題提供2:小田 友理恵(法政大学大学院)・吉田 光成(専修大学大学院)・新川 拓哉(Intsitut Jean Nicod)「自然科学は人間観にどのような影響を及ぼしているのか」

話題提供3:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「原子力発電所事故にかかわる諸問題を考える:批判心理学,理論心理学とディスコース分析の立場から」

主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会

参加費:無料

アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)
所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.

※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありません.6階の612号室までお越し下さい.



2018年11月17日 (土)

来年,批判心理学の実践に関する国際会議がアメリカで開かれます.

 2019年に批判心理学の実践を主題とする国際会議がアメリカで開かれる,との知らせを今日,批判心理学の国際的ネットワークを通して受けました.


 批判心理学の実践に関する国際会議2019(The 2019 International Critical Psychology Praxis Congress)
日時:2019年,9月27-28日
会場:ノーザン・ニューメキシコ大学(エスパノラ市,ニューメキシコ州,USA)
発表申し込みの締切り:2019年5月1日


 批判心理学の主題や目的や研究方法論は多様です.
 この国際会議は批判心理学の「実践」に焦点を当て,「グローバル・サウス」などの格差を主要なテーマとして掲げています.
 格差は南北間でも,経済的に豊かな北側諸国の内部でも,新自由主義経済の下で深刻な問題になりました.
 日本社会も同じ課題を抱えています.

 批判心理学的実践(理論や方法論の探究,心理臨床実践,社会的実践,教育など)によって今日,世界各地で生活者が直面している問題を解決する道を探究することが,国際会議の目的です.

 発表を希望される方は次の12のカテゴリーから,自分の研究にふさわしいカテゴリーを選び,発表のアブストラクトを添えて応募することになります.

1. 批判心理学の理論的リソース
a) マルクス主義 / アナーキズム / 批判理論
b) 精神分析
c) フェミニズム
d) ポスト構造主義 / 思弁的実在論(Speculative realism)
e) ポストコロニアリズム / 脱植民地性(Decoloniality)
f) 批判的人種哲学

2. 批判心理学の適用の実際
a) 臨床実践
b) アクティビスム / 法
c) ラディカル・リサーチ
d) 教育 / 対話
e) エコロジー / スピリチュアリティ
f) 倫理 /美学 / 政治


 批判心理学の実践に関する国際会議の詳細については,下記のサイトをご覧ください.

  https://sites.google.com/view/criticalpsychology/2019-icppc



2018年10月22日 (月)

次回の批判心理学セッションは12月23日です

 10月20日に7回目の批判心理学セッションが開かれました(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2018/09/1020-3225.html).

 旧ソビエト心理学を代表する研究者のひとりであるレオンチェフの仕事について,特に時間をかけて発表と討議が行われました.
 続いて,日本語の「自己実現」の歴史や今日の日本社会における用例と個人の主観性への作用について話題提供されました.
 3番目に先日,初回の認定試験が実施された公認心理師の制度や養成教育について話題提供と意見交換が行われました.

 新たに複数の大学院生が参加し,新しい風が吹き入れられました.
 参加者は他の研究会では得られない刺激を得られたことでしょう.


 次回の批判心理学セッションは12月23日(日曜)の午後2時から,同じ会場で開かれます.

 発表を希望される方は,当ブログ開設者にお知らせください.批判心理学にかかる様々な問題を自由に,前向きに討議しましょう!


2018年9月17日 (月)

10月20日に批判心理学セッションが開かれます

 7回目の批判心理学セッションが10月20日(土曜)に開かれます.
 会場は前回と同じ静岡大学東京事務所です.

 話題提供の主題はレオンチェフの心理学の哲学,心理学史と批判心理学の立場から見た自己実現,公認心理師の養成制度と多岐に渡ります.
 きっと面白い発表と討議が行われることでしょう!

 批判心理学に関心をお持ちの方は,どなたでも参加できます.参加費は無料です.


批判心理学セッション7

日時:10月20日(土),午後2時から

会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)

話題提供1:百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所) 「ア・エヌ・レオンチエフ『心理学の哲学』所収、第三部 方法論ノート(А.Н.Леонтьев,Методологические тетради,"Философия психологии(Раздел III) " Москва,1940)を読む 」

話題提供2:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「『自己実現』とは何だろうか』:心理学史と批判心理学の視点から」

話題提供3:田辺 肇(静岡大学)「公認心理師養成制度の概要:第1回公認心理師試験を終えて」

主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会

参加費:無料

アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)
所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.

※当日,建物玄関ロビー等に開催案内は掲示されません.6階の612号室までお越し下さい.



2018年8月31日 (金)

アメリカ心理学会と軍事心理学:グアンタナモ収容所における心のケア

「国家安全保障の尋問」が明らかにしたアメリカ心理学会の混迷

 2015年8月,アメリカ心理学会(APA)は「国家安全保障に関する尋問」に同会員が関与することを禁止しました.

 2001年にアメリカを襲った9.11同時多発テロの後,米政府の軍事情報当局がテロ対策のためにテロ容疑者に「過酷尋問」を行いました.
 軍事心理学者やAPA幹部がそれに加担したことが,人権NGOやジャーナリストの調査やホフマン報告によって明らかになりました.
 APAの一般会員や北米社会の世論の批判を受け,2015年7月にAPAの最上級職員が辞職し,翌月,
APA代議員会は倫理指針を改訂して国家安全保障に関する尋問への加担を禁止しました.

 ホフマン報告書は,過酷尋問への加担を隠蔽し批判を抑えるためにAPA執行部が学会内部で各種の工作を行っていた事実も認定しました.
 良くも悪くも世界の心理学を主導しているAPAにおける,苛烈な学会政治の一端が明らかになりました.


APA代議員会にみる苛烈な学会政治

 同じ状況は現在も続いているようです.
 米政府の軍事情報当局における心理学者の役割を維持し拡大しようとするAPA内の勢力,「心理学的拷問」はなかったと主張する勢力と,APA幹部が過酷尋問に加担したことを批判し改革を求める勢力の間の対立や巻き返しを狙う活動が,7月以来,各種のメディアで報道された「グアンタナモの収容者の心のケアのための心理学者の再派遣」をめぐる問題の背景です.

 8月8日にこの問題を審議したアメリカ心理学会代議員会の模様を,バズフィードが報じています.

 「劇的な投票,心理学者がテロ容疑者を対象として仕事を行うプランを否決(In A Dramatic Vote, Psychologists Have Rejected A Plan To Allow Work With Terror Suspects)」
 
https://www.buzzfeednews.com/article/peteraldhous/apa-psychology-guantanamo-vote)

 バズフィードの報道によると代議員会において,国家安全保障に係る収容施設で心理学者が働くことを認める動議を提出した勢力(軍事心理学者とAPA執行部)が,急に採決の延期を求めました.採決せずに新たにこの問題を扱う委員会を設けようと提案しました.
 採決の結果,否決されることを恐れたようです.

 これに対して,
国家安全保障に係る収容施設で心理学者が働くことに反対する勢力が,採決の延期に反対する動議を提出しました.
 採決の延期に反対する動議は95対76で認められました(棄権1).

 その後,問題の動議が審議される段になると,動議の提案者(元APA会長)が会場からジャーナリストなど代議員ではない人を締め出し,秘密会とするよう求めました.(もともと代議員会は公開される予定でした.)
 しかしAPAの顧問弁護士が秘密会とする法的根拠はない,と助言し,審議は公開されることになりました.
 しかし,件の動議に賛成する演説を行うことになっていた軍事心理学者(国防総省所属)が,軍人である自分は公開の場では発言できないと主張し,以後の審議は秘密会となったそうです.


 採決の結果,賛成57,反対105,棄権15の得票により動議は否決されました.



今後も続く分断の影響
 7月に明らかになった今回の問題は,軍事心理学者(おもに国防総省に所属する臨床心理学者)とAPA執行部が,ホフマン報告の後に為された改革に対して巻き返しを図った事例のひとつだと考えられます.

 2015年7月に公開された同報告書とその後のAPA倫理指針の改定に反対する勢力は,一般に考えられている以上に強大なようです.

 否決されたとはいえ3年後に再度,倫理指針を改定する動議がAPA理事会の支持を得て代議員会に付されたことは,この間になされた改革がAPAの有力者たちの本意ではないことを示しているのでしょう.
 この動議は代議員の3分の1の支持を集めました.3年前には軍事心理学部会の代議員を除くと,支持する代議員はいませんでした.
 「グアンタナモの収容者に心のケアを行わないのはジュネーブ条約に違反する」という主張は,相当数の代議員に通じたようです.

 来年か再来年か,あるいは3年後か,今回と同じようにAPA代議員会で倫理指針の変更を目指し,あるいは他の仕方で「国家安全保障に係る収容施設」で心理学者が活動することを認めるよう学会政治が繰り広げられるのではないでしょうか.

 アメリカの心理学者にとって,国防総省は研究資金を支給し多くの雇用をもたらす重要なカウンターパートです.同省も軍事的目的の遂行や組織の維持のために心理学を必要としています.
 国防総省など政府当局の要請に応えれば,さらなる心理学の職業的発展が期待できます.
 こうした事情が「グアンタナモ収容所に拘留されている容疑者に心のケアを提供すべきである」と主張する人たちを動機づける一因だと思われます.

 トランプ政権が成立して以来,グアンタナモ収容所のような米国外の軍事基地でのテロ容疑者の超法規的な拘束や,水責めを含む「過酷尋問」を容認する政治的状勢が強まりました.現在の国務長官は過酷尋問を支持し,CIA長官はブッシュ政権下で過酷尋問を実際に指揮していました.いずれもトランプ大統領が指名しました.
 この米国の政治的状勢がアメリカ心理学会の倫理指針の再改定を求める活動に影響している,という指摘もあります.

 APAの内部での政治的駆け引きも,今後も続きそうですね.


 ホフマン報告書をアメリカ心理学会のウェブサイトから削除する動議は,同報告書をウェブサイト内の独立したページから除き,倫理に関す問題の展開を示すページの中に入れるものとして採決されたようです.
 以前のように外部から直接,ホフマン報告書にアクセスできなくなりました.同報告書に異議を唱える勢力が一定の勝利を収めたのでしょう.
 現在では下記のウェブページをよく探すと,報告書を見いだすことができます.
 Timeline of APA Policies & Actions Related to Detainee Welfare and Professional Ethics in the Context of Interrogation and National Security
(http://www.apa.org/news/press/statements/interrogations.aspx)




 ニューヨークタイムズやサイエンス誌などによる下記の報道もあわせて参照してください.

 ニューヨークタイムズ
  「心理学者は軍の収容施設での活動することを禁止する指針を変更せず(Psychologists’ Group Maintains Ban on Work at Military Detention Facilities)」
 (https://www.nytimes.com/2018/08/09/health/interrogation-psychologists-guantanamo.html?smid=tw-nythealth&smtyp=cur)

 「サイエンス」誌のニュースサイト
 「軍事的抑留者を処遇する規則を変更しようとするアメリカの心理学者たち(U.S. psychology group set to modify rules on interactions with military detainees)」
 (http://www.sciencemag.org/news/2018/07/us-psychology-group-set-modify-rules-interactions-military-detainees)

 バズフィード
 「心理学者たちの拷問報告書に関する汚い争い(Psychologists Are In A Nasty Fight About A Report On Torture)」

 (https://www.buzzfeednews.com/article/peteraldhous/psychology-torture-guantanamo-interrogation)

2018年8月10日 (金)

アメリカ心理学会代議員会がグアンタナモ収容所への心理学者の再派遣を認める動議を否決しました

 8月8日にサンフランシスコで開かれたアメリカ心理学会代議員会において,アメリカの軍事・情報当局が設営する捕虜やテロ容疑者の収容施設で,国防総省やCIAに所属する心理学者が活動することを認める動議が否決されました.

 ニューヨークタイムズも速報しました.

 「心理学者は軍の収容施設での活動することを禁止する指針を変更しない(Psychologists’ Group Maintains Ban on Work at Military Detention Facilities)」
 (https://www.nytimes.com/2018/08/09/health/interrogation-psychologists-guantanamo.html?smid=tw-nythealth&smtyp=cur)


 グアンタナモ収容所など,収容者の虐待や人権侵害が懸念される施設に再び心理学者(APA会員に限られます)を配属する施策(国防総省やAPA軍事心理学部会が求めています)は,多数の賛同を得られなかったようです.
 上の動議に賛成する票が32.9%,反対票は60.7%,棄権票が6.4%だったそうです.

  国際赤十字など米国防総省とは独立した団体が収容者の健康のために心理学者を派遣することは,現在もAPA倫理指針によって認められています.
 アメリカ心理学会(APA)の代議員会は,心理学の諸領域を探究する専門部会と北米と近隣の諸地域を代表する地域部会,APA理事会メンバーによって構成されます.同学会の運営を司る最高決定機関です.

 7月初旬に私が今回の問題を初めて聞いたときには,この動議がAPA代議員会によって採択されるかもしれない,という声を耳にしました.
 代議員会は理事会など執行部が主導する運営チームによって司会進行されます.代議員会に提出される動議はすでに理事会の承認を得ています.
 その動議はAPA内の各種の委員会で専門家が時間をかけて討議し,そうするのが妥当だという資料を添えて提議されます.

 APA代議員会の代議員を務めた経験をもつ知人の話では,執行部が提出した動議に反対するのは容易ではないそうです.
 専門家が正しいと認め,証拠とともに提議している事案に,非専門家が反対するのは困難なことです.
「専門家でないくせに反対するのは,専門家の倫理に反している」という非難を招くおそれもあります.
 
1,2日の短い会期の間に多数の議事が組まれているため,よく考えて討議する時間もありません.
 こうしたことからAPA理事会が承認した事案は通常,APA代議員会でも承認されます.

 今回,APA理事会が採択した動議が代議員会で否決されたのは,「心理学的拷問」が再び行われる危険性に多くの代議員たちが懸念を抱いていることを示しているのでしょう.

 この数週間,アメリカ自由人権協会(ACLU)やアムネスティ・インターナショナル,人権のための医師団,ヒューマン・ライツ・ウォッチなどの人権団体や拷問被害者の治療にあたる専門家が声明や公開書簡を発表し,APAとAPA代議員に上記の動議を承認しないように働きかけてきました.
 拷問に反対するAPA会員も懸命に活動していました.

 こうした声が代議員たちを動かしたようです.



2018年7月20日 (金)

アメリカ心理学会とグアンタナモ収容所への心理学者の再配属

アメリカ心理学会の理事会,代議員会と国家安全保障の尋問

 対テロ戦争と心理学の関係をめぐって,アメリカ心理学会の運営を担う執行部や代議員会で新しい動きが起きています.
 アメリカ心理学会(APA)の理事会が,米国防省総省やCIAに所属する心理学者(APA会員)が軍やCIAなどが設営した収容施設で,戦争捕虜やテロ容疑者の処遇に再び関与できるように倫理指針を改定する動議を承認しました.

 また同理事会は,ホフマン報告書をAPAのウェブサイトから取り除くことを求める動議も,承認しました.
 ホフマン報告書は9.11同時多発テロの後に,APA幹部が国防総省やCIAなど軍事・情報当局と連携してテロ容疑者への「過酷尋問」に加担した問題を,同理事会が委嘱した独立調査委員会が調査した結果をまとめたものです.

 この報告書は2015年7月にAPAのウェブサイトで一般に公開されました.
 テロ容疑者への「強化尋問技法」を用いた「心理学的拷問」に一部のアメリカの心理学者とアメリカ心理学会執行部が加担した問題を考えるうえで,ホフマン報告書はもっとも重要な資料とされています.
 同報告書がAPAのウェブサイトで閲覧できなくなれば,APAとアメリカ心理学が抱える問題を知る契機が失われかねません.
 
 現時点ではホフマン報告書を下記のサイトからダウンロードできます.
 Report of the Independent Reviewer and Related Materials
(http://www.apa.org/independent-review/)


 APA理事会が承認した2つの動議は来月,サンフランシスコで開かれるAPA年次大会に合わせて開催される代議員会で審議されます.
 APA代議員会が承認すれば,上記が実際に行われることになります.

 アメリカで「心理学的拷問」に反対する活動に取り組んでいる友人たちが,知らせてくれました.




APA代議員会は賛成するでしょうか?
 2015年7月にホフマン報告書が公開されると,APAの会員たちも北米社会の一般の世論と同様に,
・CIAや米軍の心理学者が自らテロ容疑者に「過酷尋問」を行ったこと,
・APA執行部が軍事・情報当局の求めに応じて「過酷尋問」を実施する体制(いわゆる「政府が認可した拷問のレジーム」)を支えていたこと,
・APA執行部がそれらの事実を認めず,APAは「過酷尋問」に関与していないと虚偽の説明をして10年ほどの間,一般のAPA会員や公衆を欺いてきたこと,等に強く抗議しました.

 ホフマン報告書を受けて長年,APAの運営を担っていた幹部職員(CEO,副CEO,倫理局長,広報局長など)が辞職しました.

 同年8月に代議員会は,アメリカ心理学会会員が「国家安全保障に関する尋問」に関与することを禁止する動議を157対1の圧倒的多数で採択しました.(反対した1名は軍事心理学部会の代議員です.)
 これによりAPA会員は軍やCIAの収容施設で尋問に関与できなくなりました.アメリカ精神医学会やアメリカ医学会は,すでに10年前に禁止していました.「ヒポクラテスの誓い」が重んじられる医療界では当然のことでしょう.
 以前,当ブログでこのAPA代議員会について報告しました.

 「心理学的拷問を禁止したAPA代議員会:デモクラシー・ナウ!で視聴しましょう(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2015/08/post-2fe3.html)

 アメリカの非営利ニュースメディア,「デモクラシー・ナウ!」のウェブサイトで,倫理指針を改定したAPA代議員会の審議の模様を報道した動画が公開されています.(お薦めです!)

 「No More Torture: World’s Largest Group of Psychologists Bans Role in National Security Interrogations」(http://www.democracynow.org/2015/8/10/no_more_torture_world_s_largest)

 APA代議員会は専門部会や地域部会の代表,APA理事会メンバーで構成されます.アメリカ心理学会の最高意思決定機関です.
 3週間後に迫った代議員会へ向けて,上の動議に賛成する側も反対する側もそれぞれの意図を実現するために今,活発に動いているのでしょう.




なぜ再び,軍事心理学者をテロ容疑者の処遇に関与させるのでしょうか?
 再度,グアンタナモ収容所のような収容施設で米軍やCIAの心理学者が捕虜や容疑者の処遇に関与できるように倫理指針を改定するという提案をAPA理事会が採択したと聞き,私は驚きました.

 この提案は第19部会(軍事心理学)に所属する軍事心理学者が中心になり,提議されました.
 軍やCIAの施設で心理学者は捕虜や容疑者の健康や福祉のために働くのであって,尋問を行うのではない,容疑者たちが心理学的ケアを受ける権利を奪ってはならない,心理学者は心身の健康に関するケアを行う義務を果たすべきである,といった主張をしています.
 9.11同時多発テロの後に心理学者が「過酷尋問」に加担したような事態は,再び起きないという意見です.(第19部会は元来,米軍の心理学者は拷問などの倫理に反する行為をしてはいない,と主張してきました.)

 この動議に反対する人たちは,軍やCIAに所属する心理学者は中立的立場で捕虜や容疑者に接するわけではない,テロ対策のために情報が求められる戦時下の緊迫した状況では容疑者に「過酷尋問」が行われやすい,軍やCIAの心理学者はこうした状況で「過酷尋問」に加担するおそれがある,国際赤十字など軍やCIAとは独立した組織で容疑者の健康や福祉のために心理学者が働くことは現在も認められている,といった主張をしています.

 私は前者よりも後者の方が説得力がある,と考えます.
 軍事・情報当局とその収容施設に拘束された容疑者の間には,圧倒的な力の格差があります.
 軍やCIAに所属する心理学者は組織の一員として,上位者の命令や指示に従うよう求められます.「専門的な知識や技術を用いて人に害を為してはならない(Do no harm)」という健康専門職者の倫理規範を守れない事態に直面することもあるでしょう.

 米軍とCIAの心理学者はテロ容疑者への「心理学的拷問」に加担しました.CIAに雇用された米軍出身の臨床心理学者は自ら「強化尋問技法」を作り,アルカイダ幹部に「過酷尋問」を行いました.
 もう一度,敢えて彼(女)を軍やCIAの収容施設に配置する必要があるとは思いません.

 また,ホフマン報告書をAPAのウェブサイトから取り除く動議が採択されれば,APA執行部がごく最近に犯した重大な過誤を公衆が知るすべが失われます.
 その過誤はアメリカ史に記録される歴史的事件の一部です.人権や自由を重んじてきた建国以来の「アメリカの理想」が政・官・学界で共有されなくなった新しい時代を標した倫理上の惨事として,広くマスコミで報道されました.

 3年前に同報告書が公開されると,その中で責任を問われた心理学者を中心に報告書が認定した事実に異をとなえる声が上がりました.同報告書は間違っているので,もう一度,独立調査を行うべきだ,と主張する人も現れました.
 今,APA理事会がホフマン報告書を公衆の目から見えにくくしようとするのは,こうした過去の連続線上で起きた出来事のようです.
 その意味で意外ではありません.

 以前,当ブログに掲載した下記の記事をご参照ください.
 アメリカ心理学会元会長の書簡Ⅱ:「心理学的拷問」とホフマン報告の後の倫理
(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2016/06/post-6ab7.html)


 漏れ聞くところでは,APA代議員会は同理事会などの執行部が主導して司会進行され,2日ほどの会議の間に数多くの議題が審議されるそうです.
 1事案につき短時間の説明と討議の後に採決されることが多く,たいていは提出された動議が採択されるそうです.じっくり考えて問題をよく理解し,議論する時間はありません.

 APA理事会が上記の2つの動議を承認した今,代議員会もそれを採択することが期待されているのでしょう.
 3年前にAPA代議員会が「国家安全保障に関する尋問」にAPA会員が関与することを圧倒的な多数決で禁止した知らせを聞いて,私は「いよいよアメリカの心理学者の良識が発揮されたな」と感じ,安堵しました.
 アメリカの心理学者たちも「心理学的拷問」の悲惨な実態を知れば,これを許すはずはない,と考えていたからです.

 3年の月日が過ぎ,APA代議員の顔ぶれも変わりました.この問題の詳細を知らない代議員も多くなったため,APA理事会が承認した2つの動議を代議員会も採択するのではないか,という観測もあります.
 しかしたった3年で倫理指針の再改定が行われようとしていることに,驚きを禁じえません.
 それほど国防総省などの軍事・情報当局はAPAに大きな影響を与えているのでしょう.当局はかねて心理学者を戦争や諜報のために活用してきました.

 ホフマン報告書はアメリカ心理学会の運営を担う人たちが,雇用や研究資金の獲得や政官界での心理学者の地位の向上を目指して,「ブッシュ政権が認可したテロ容疑者への拷問」に加担した事実を認定しました.

 APAの内部でそうした状況は現在も,変わっていないのかも知れません.
 9.11の後に「心理学的拷問」に加担したのも,今,倫理指針を再改定してホフマン報告書を隠そうとするもの,根っこにあるのは同じ動機のようにみえます.

 代議員の皆さん,事前配布された資料を読み込む作業など大変だと思いますが,がんばってください!
 


 
〔追記〕
 この問題を考えるうえで,「サイコロジー・トゥデイ」に掲載された下の記事が参考になります.
 ロイ・エイデルソン 「再び岐路に立つAPA:来月に開かれる代議員会の投票は専門家として贖罪を続けることを選ぶか?」
 
Roy Eidelson, Another Crossroads for the APA :Will votes next month mean continued progress toward redeeming the profession?
(https://www.psychologytoday.com/us/blog/dangerous-ideas/201807/another-crossroads-the-apa)

 2005年の夏,APA会員の中から対テロ戦争における「心理学的拷問」に反対する運動が本格的に始まりました.上の記事を書いたエイデルソンはそこで大きな役割を担ったひとりです.


 サイエンス誌も取り上げています.APAの理事会,倫理や公共政策,法などに関する各種の委員会の動向を報じています.
 「軍事的抑留者を処遇する規則を変更しようとするアメリカの心理学者たち(U.S. psychology group set to modify rules on interactions with military detainees)」
 (http://www.sciencemag.org/news/2018/07/us-psychology-group-set-modify-rules-interactions-military-detainees)


 ネットメディアの「バズフィード」も,26日にこの問題を報道しました.
 「心理学者たちの拷問報告書に関する汚い争い(Psychologists Are In A Nasty Fight About A Report On Torture)」
(https://www.buzzfeednews.com/article/peteraldhous/psychology-torture-guantanamo-interrogation)
 APAの内部と一般社会の見方の落差がここにも表れています.


 APAの有力者たちが「国家安全保障に関する尋問」をめぐって,逆コースへの歩みを早めている背景として,トランプ政権において大統領や国務長官やCIA長官が「過酷尋問」を容認する立場をとる政治情勢の影響も考える必要があります.

 当ブログに以前,下記の記事を掲載しました.
 トランプ米大統領がテロ対策で水責めなどの拷問は有効だ,と述べました:心理学的拷問
(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2017/01/post-edf3.html)


 トランプ大統領が「水責めの女王」をCIA長官に指名しました:対テロ戦争における「心理学的拷問」
(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2018/03/cia-60a1.html)




2018年7月16日 (月)

次回の批判心理学セッションは10月20日です

 6回目の批判心理学セッションが,7月15日に開かれました.
 発表テーマは下記のとおりです.

  話題提供1:鈴木  聡志(東京農業大学) 「戦時体制下日本の臨床心理学:教育相談,知能検査,ゲシュタルト心理学」
  話題提供2:百合草  禎二(主体科学としての心理学研究所) 「心理学における弁証法の問題(2):矛盾の適用例」
  話題提供3:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「『心理学とは何だろうか』という問題を考える:批判心理学と理論心理学の立場から」
  話題提供4:田辺 肇(静岡大学) 「薬物依存と性非行:解決を阻むものは何か」

 話題提供から私は多くのことを新たに学びました.
 このセッションでしか知りえないことを,知ることができました.発表者と質問者の討議が活発に行われ,今後の研究につながる推進力が得られたと実感しています.

 次回の批判心理学セッションは10月20(土)に,同じ会場(静岡大学東京事務所)で開かれます.
 発表を希望される方は当ブログ開設者にお知らせください.心理学の各種の研究主題や方法,社会諸セクターでの心理学の適用,歴史や哲学,心理学教育,その他についての発表を歓迎します.

 批判心理学に関心をお持ちの方は,どなたでも参加できます.(参加費は無料です.)



2018年7月14日 (土)

アメリカ心理学ミュージアムの展示施設がオープンしました

 アメリカ心理学ミュージアム(National Museum of Psychology)が,6月27日にグランドオープンしました.(https://www.uakron.edu/chp/museum/)

 
アクロン大学(オハイオ州アクロン市)のカミングス心理学史センターの1階に,大規模な展示施設が新しく作られました.
 心理学の歩みや人々の生活との関係などを,同センターの数多い収蔵品の中から選りすぐりのコレクションを用いて,分かりやすく説明しています.アメリカで初めての,おそらく他国にも類例のない心理学を専門とする博物館です.

 「人間であるとはどのようなことか」というメイン・テーマを掲げ,1.職業としての心理学,2.科学としての心理学,3.心理学と社会変革,という3つの領域で心理学の歴史を提示しています.

 教科書でおなじみの研究が実物を用いて展示されています.たとえば,次のようなものです.
・ジンバルドの刑務所実験:囚人や看守の衣服や装備,両者の役割に応じた日ごとの行動の変化など,
・バンデューラの観察学習:子どもに与えられたボボ人形.人形に対する子どもの反応など,
・エレノア・ギブソンの視覚的断崖:実際に歩いて渡れる断崖です,
クラーク夫妻が実験で用いた白人と黒人の人形:アメリカの公民権運動の歴史を画したブラウン判決で証拠として採用された研究の詳細,
・1910年代から移民や新兵に課された知能検査:検査の設問に答え,その場で診断が下されます,
・フロイトのクリニックの長椅子:患者用の長椅子に横たわって,自由に記念撮影できます.

 分離脳の研究で1981年にノーベル医学・生理学賞を受賞したロジャー・スペリーに授与されたノーベル・メダルも展示されています.(レプリカではなく,本物です).

 幸運なことに先月,一般公開される直前にミュージアムを内覧する機会を得ました.時間のたつのを忘れて楽しみました.
 展示を通してミュージアムを運営する心理学史研究者の考え方を知ることも,同業の研究者としては楽しいことです.

 英語での展示ですが,心理学に関心をお持ちの方はアメリカ旅行のついでにミュージアムを訪問されると,日本では味わえない経験ができます!


 オハイオ州のテレビ局がミュージアムを紹介した動画です.

University of Akron debuts the country’s first Museum of Psychology - WKYC Channel 3(https://www.wkyc.com/article/news/local/akron/university-of-akron-debuts-the-countrys-first-museum-of-psychology/95-567204752)


CHPsychMuseum-web

                              (https://www.uakron.edu/chp/museum/)

2018年6月12日 (火)

7月15日に批判心理学セッションが開かれます

 7月15日(日曜)に,6回目の批判心理学セッションが開かれます.

 今回のセッションでは,第2次大戦時の日本心理学の歴史研究,弁証法的心理学に関する理論的考察,「心理学とは何だろうか」という古くて新しい問題の批判心理学・理論心理学の立場からの考察が報告される予定です.

 批判心理学に関心をお持ちの方は,どなたでも参加できます.
 参加費は無料です.


批判心理学セッション6

日時:7月15日(日),午後2時から
会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)
話題提供1:鈴木 聡志(東京農業大学) 「戦時体制下日本の臨床心理学:教育相談,知能検査,ゲシュタルト心理学」
話題提供2:百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所) 「心理学における弁証法の問題(2):矛盾の適用例」
話題提供3:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「『心理学とは何だろうか』という問題を考える:批判心理学と理論心理学の立場から」
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会
参加費:無料
アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)

所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありませんので6階612号室までお越し下さい.



2018年6月10日 (日)

トールマンと上代晃を再評価する機会:「目的と認知:エドワード・トールマンとアメリカ心理学の転換」,キャロル著,2017,ケンブリッジ大学出版局

新行動主義の立役者としてのトールマン像

 今日,西洋に由来するアカデミックな心理学や科学的心理学の方法論として流布している認知行動主義は,1930年代に北米の心理学者たちが確立したS-O-R図式や変数概念,心的概念の操作的定義など,新行動主義が生み出した道具立てに依拠しています.

 エドワード・トールマン(1886-1959)は1920年代から30年代をとおして,新行動主義が生まれ精緻化される過程で大きな役割を果たした立役者として,心理学教科書に記載されています.
 目的的行動主義や「サイン‐ゲシュタルト」に加えて,認知地図の概念を考案し認知心理学の発展の道を開いた理論家として位置づけられているようです.

 トールマンの仕事の全体を考えるうえで役立つ歴史研究書が刊行されました.

デビッド・キャロル著 「目的と認知:エドワード・トールマンとアメリカ心理学の転換」,2017,ケンブリッジ大学出版局
David W. Carroll,  Purpose and Cognition: Edward Tolman and the Transformation of American Psychology. 2017. Cambridge University Press)

 心理学者として形成される時代から1930年代の論理実証主義者との交流,目的的行動主義の模索と確立,反戦や経済恐慌などの社会的課題への取り組み,第2次大戦時の軍事心理学への参加,戦後にアメリカ社会を席巻したマッカーサー主義(赤狩り)との対決など,トールマンの知的活動と社会的活動の双方をこの本から知ることができます.
 大
戦後に日本心理学に絶大な影響を与えてきたアメリカ心理学の成り立ちを考えるうえで有用な歴史書です.

 心理学史研究者の一人として学ぶところが多く,さまざまな知的刺激を得られ研究へのモチベーションを高めてくれます.
 (同書の著者は心理学史研究の専門的訓練を受けたエキスパートではありませんが,良い本を書いてくれました!)

 

日本の理論心理学者,上代晃とトールマン

 アメリカのアクロン大学(オハイオ州)は1960年代半ばからアメリカ心理学の歴史に係る各種の資料を収集し公開しています.北米における心理学史研究の拠点として多くの研究者を支えてきました.

 今から十数年前,私は同大学のアメリカ心理学史アーカイブを訪れ,日本の心理学に大きな影響を与えたトールマンの資料を調べていました.
 すると,彼が上代晃(じょうだい・こう)の渡米とデューク大学心理学科での研究を実現するために関係者と交わした書簡を見いだしました.

 上代晃(1915-1958)は戦後の復興期に理論心理学者,学習心理学者として活躍しました.広島大学教育学部の学習心理学講座の教授を務めていた1958年に,胃がんのため42歳の若さで亡くなりました.
 トールマンらアメリカの心理学者が彼のために尽力したデューク大学での研究は,叶わないまま終わりました.

 上代はアメリカの行動主義的学習心理学の影響のもと,独自の理論心理学を探究しました.彼の没後,その理論心理学が継承されることはありませんでした.
 デューク大学心理学科には当時,北米で理論心理学を主導していたシグムンド・コッチが在職し,活発な研究活動を行っていました.
 上代が病に倒れることなくデューク大学で研究に取り組んでいたら,両者の間で建設的な知的交流が生まれたかもしれません.
 もし彼が広島で大学教員が定年を迎える歳まで研究活動を行っていたなら,理論心理学の立場から国際的規模で心理学に新しい潮流を生み出していたのでは,と夢想しています.

 今月下旬にオハイオ州立アクロン大学心理学史研究センター(www.uakron.edu/chp)で,国際行動社会科学史学会(カイロンの愛称で知られています)の創設50周年記念大会が開かれます.

 同大学の心理学史アーカイブが私に,上代とトールマンの交流を知る機会を与えてくれました.
 今日,日本で上代を知る人は稀です.その理論心理学研究の意義を理解する人はもう,いないのかもしれません.
 上代が(おそらく,命がけで)研究活動を行っていた広島の地でも,彼の事績が記された記録や資料はほとんど失われてしまいました.

 私も以前から,上代が理論心理学と題する著書を刊行したことや広島大学の学習心理学を担っていたことは聞いていました.が,彼の学問の詳細を知るに至りませんでした.
 アメリカ心理学史アーカイブがそれを可能にしてくれました.

 かねてアクロン大学の心理学史部門に感謝の思いを伝えたいと考えていたところ,同大学心理学史研究センターがカイロンの年次大会を開くことになりました.
 そこでこの大会で,上代の仕事と心理学者としての在り方を事例として,理論心理学や心理学史研究の立場から「心理学とは何だろうか」という19世紀以来,心理学が直面している課題について研究発表を行う予定です.
 (上代の没後,60周年にあたる2018年にこうした機会が訪れました.)
 下記のサイトにこの発表のアブストラクトが掲載されています.
 Koh Johdai (1915-1958) and his Pioneering Project of Theoretical Psychology: The Importance of E.C.Tolman in a Theory of Behavior (Yasuhiro Igarashi)
 (https://www.academia.edu/38853852/Koh_Johdai_1915-1958_and_his_Pioneering_Project_of_Theoretical_Psychology_The_Importance_of_E.C.Tolman_in_a_Theory_of_Behavior

 なぜ,トールマンは上代のアメリカでの研究を実現するために努力したのでしょうか.
 その理由や背景をキャロルの著書「
目的と認知:エドワード・トールマンとアメリカ心理学の転換」から,うかがうことができます.
 同書の著者はおそらく,上代の存在やトールマンが彼のために尽力したことを知らないかもしれません.
 しかし,トールマンが学問に取り組む姿勢から,両者の交流が生まれた文脈がわかります.

 下に目次をお示しします.

目次
Preface
Introduction
1. Growing up in New England
2. The Harvard milieu
3. Out West
4. A new formula for behaviorism
5. Purposive behaviorism
6. The turn toward operationism
7. 'A concern for social events'
8. Cognitive maps
9. The loyalty oath
10. The legacy of Edward Chace Tolman

 

「Purpose and Cognition: Edward Tolman and the Transformation of American Psychology」の画像検索結果

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018年5月24日 (木)

「国際批判ポジティブ心理学ハンドブック」のおもしろさ:批判的なポジティブ心理学とは?

 このところ,本を紹介する記事が続いていますが,批判心理学のハンドブックをもう一冊,取り上げます.

 「国際批判的ジティブ心理学ハンドブック」(ブラウン,ロマ,エロア‐オロサ編,ラウトレジ,2018)
 The Routledge International Handbook of Critical Positive Psychology (Nicholas J. L. Brown, Tim Lomas, and Francisco Jose Eiroa-Orosa (Eds.),
2018, Routledge)

  ゼロ年代以降に日本でも,ポジティブ心理学に注目が集まっています.
 ビジネスや学校教育などの領域で,個人のパフォーマンスを向上させる心理学の知識やスキルのひとつとして受け入れられつつあります.

 仕事や勉強で私たちがより良い成績をあげられるなら,望ましいことでしょう.
 心理学の応用はこうした実用的な目的のために,大学の中で制度的学問として心理学が登場した19世紀後半以来,様々な社会セクターで行われてきました.
(知能など個人の能力や性質の研究は,制度的心理学の発展を待たずに独自の発展を遂げました.)

 ポジティブ心理学はポジティブにものごとを考える人は仕事や勉強や人間関係もポジティブに進む,という分かりやすい枠組みを与えてくれます.
 こうしたことから今日の日本社会でも普及し始めました.おそらく今後,この心理学の理論と応用がいっそう広まると予想されます.

 ポジティブ心理学と「批判」という言葉を取り合わせた同書のタイトルは,一見すると矛盾したものようにもみえます.
 しかし,科学の装いを活用した特定のイデオロギーの自然化,メリトクラシーとの親和性,過度の個人主義など,批判心理学者が取り組んできた主題がその中に見出だされます.
 

 ポジティブ心理学は個人の心のあり方(認知)によって,その人の仕事や勉学など日常生活のパフォーマンスがより効率的なよいものに変わる,という考えを理論の基礎に含みます.
 そのため,産業・ビジネスや教育,組織論など人を対象とする様々な社会セクターで歓迎されます.
 対象者の心的な能力や業績をマネージメントするツールとして,すぐに活用できるからです.

 管理者や経営者など「統治」する側ではなく,対象者の心がその人が行う活動(仕事や勉強など)の成否を決める鍵になると考えられています.望ましい成果を得られなかった場合,管理者の責任は問われず,対象者にそれが帰属される傾向が認められます.
 人はポジティブな認知スタイルやレジリエンスを自ら備えるよう求められ,学校教育でもそのための介入が取り入れられようとしています.


 しかし上記の考え方は,欧米の批判心理学者がしばしば取り上げる「個人化」のありがちな事例です.
 環境や社会ではなく個人の心に焦点が置かれ,もし不都合な問題が生じたら,その人の心を変えることによって問題を解決するという発想が,自明な正しいものとされがちです.

 ある人のパフォーマンスは当人の認知によって変わる,そのためにポジティブな認知の仕方やレジリエンスをもつべきだ,という考え方をあなたはどう思いますか?


 ポジティブ心理学の創始者の一人であるマーティン・セリグマンは,1960年代後半に自ら行った動物実験による学習性絶望の研究から出発し,やがて学習性の希望へ,さらにポジティブ心理学へと研究を発展させました.
 学習心理学の枠組みの中でこれらが理論化され,絶望も希望やレジリエンスも当事者が経験や訓練によって習得できる心的性質のひとつとなりました.
 セリグマンは現在,北米で最も有名な心理学者のひとりです.(存命する心理学者では一般の人々の間で,最もよく知られていると言えるかも知れません.)

 学習性絶望は21世紀に米国が戦う「テロとの戦い」において,テロ容疑者や戦争捕虜に米国の軍事・情報当局が行った「心理学的拷問」の理論モデルになりました.
 ポジティブ心理学が推進するレジリエンス研究から得られた知見は,米軍兵士の心的健康を維持・増進するプログラムに活用されています.
 セリグマンが主宰するペンシルバニア大学ポジティブ心理学研究所は米軍から巨額の研究費を支給されました.

 このようにポジティブ心理学はツッコミどころが多く,これが盛んな国・地域の批判心理学者が関心をもつのは,ある意味では当然です.
 批判的な視点から検討した多くの論考を集めてハンドブックが刊行されるほど,欧米でポジティブ心理学が発展し普及している点も,注目に値します.

 ハンドブックにジーン・マルチェク(第6章「ポジティブ心理学は土着心理学なのだろうか?」)や,トッド・スローン(第25章「解放的実践としての快楽」)など北米の著名な批判心理学者も寄稿しています.


 下に目次をお示しします.
The Routledge International Handbook of Critical Positive Psychology
(Edited by Nicholas J. L. Brown, Tim Lomas, Francisco Jose Eiroa-Orosa)
Foreword: Interiorizing and Interrogating Well-Being  (Isaac Prilleltensky)
Chapter 1 Critical Positive Psychology: A Creative Convergence of Two Disciplines  (Piers Worth and Matthew Smith)

Section 1: Criticism of Positive Psychology
Introduction  (Nicholas J. L. Brown)
Chapter 2  The Unavoidable Role of Values in Positive Psychology: Reflections in Light of Psychology’s Replicability Crisis  (Brent Dean Robbins and Harris L. Friedman)
Chapter 3  Taking a Closer Look at Well-Being as a Scientific Construct: Delineating its Conceptual Nature and Boundaries in Relation to Spirituality and Existential Functioning  (Douglas A. MacDonald)
Chapter 4  The Meaning and Valence of Gratitude in Positive Psychology  (Liz Gulliford and Blaire Morgan)
Chapter 5  Positive Psychology, Mental Health, and the False Promise of the Medical Model  (Sam Thompson)
Chapter 6  Is Positive Psychology an Indigenous Psychology?  (Jeanne Marecek and John Chambers Christopher)
Chapter 7  Community Psychology’s Contributions on Happiness and Well-being: Including the Role of Context, Social Justice, and Values in Our Understanding of the Good Life.  (Salvatore Di Martino, Francisco José Eiroa-Orosa, and Caterina Arcidiacono)
Chapter 8  Positive Psychology: Intellectual, Scientific, or Ideological Movement?  (Bernardo Moreno-Jiménez and Aldo Aguirre-Camacho)
Chapter 9  Is Positive Psychology Compatible With Freedom?  (Digby Tantam)
Chapter 10  Critique of Positive Psychology and Positive Interventions  (Paul T. P. Wong and Sandip Roy)
Chapter 11  Toward a Well-Spoken Explanatory Style  (Paul Kalkin)
Chapter 12  An Introduction to Criticality for Students of Positive Psychology  (Nicholas J. L. Brown)
Interlude 1
Chapter 13  Five Historic Philosophers Discuss Human Flourishing and Happiness in Positive Psychology: A Speculative Dialogue in Three Acts  (Liz Gulliford and Kristján Kristjánsson)

Section 2: Doing Positive Psychology Critically
Introduction  (Tim Lomas)
Chapter 14  A Re-appraisal of Boredom: A Case Study in Second Wave Positive Psychology  (Tim Lomas)
Chapter 15  Affirming the Positive in Anomalous Experiences: A Challenge to Dominant Accounts of Reality, Life, and Death  (Edith Steffen, David J. Wilde, and Callum E. Cooper)
Chapter 16  Uncovering the Good in Positive Psychology: Toward a Worldview Conception That Can Help Positive Psychology Flourish  (Peter C. Hill and M. Elizabeth Lewis Hall)
Chapter 17  Toward a Culturally Competent Positive Psychology  (Adil Qureshi and Stella Evangelidou)
Chapter 18  Cultural and Racial Perspectives on Positive Psychologies of Humility  (David R. Paine, Sarah H. Moon, Daniel J. Hauge, and Steven J. Sandage)
Chapter 19  Positive Psychology’s Religious Imperative  (Daniel K. Brown and David G. George)
Chapter 20  @@@@Character Strengths as Critique: The Power of Positive Psychology to Humanise the Workplace  (Roger Bretherton and Ryan M. Niemiec)
Chapter 21  Toward an Integrative Applied Positive Psychology  (Byron Lee)
Chapter 22  Positive Politics: Left-wing Versus Right-wing Policies, and Their Impact on the Determinants of Wellbeing  (Tim Lomas)
Chapter 23  A Proposed Enquiry Into the Effect of Sociocultural Changes on Well-Being  (Francisco Jose Eiroa-Orosa)
Chapter 24  Complexity: Towards a New Measure of Societal Well-being  (Daniel T. Gruner and Mihaly Csikszentmihalyi)
Interlude 2
Chapter 25  Pleasure as a Form of Liberatory Practice  (Tod Sloan and Marisol Garcia)

Section 3: Applied Perspectives
Introduction  (Francisco Jose Eiroa-Orosa)
Chapter 26  Community Social Psychology and Positive Psychology: Learning From the Experience of @@@@Latin America  (Ramón Soto Martínez and Salvatore Di Martino)
Chapter 27  Positive, Necessary, and Possible Lives: Experience and Practice from the Struggle for a Dignified Life  (José Eduardo Viera and Lauren Languido)
Chapter 28  Exploring the Role of Engagement on Well-Being and Personal Development: A Review of Adolescent and Mental Health Activism  (Anne C. Montague and Francisco Jose Eiroa-Orosa)
Chapter 29  Citizenship, Mental Health, and Positive Psychology  (Jean-François Pelletier, Chyrell Bellamy, Maria O’Connell, Michaella Baker, and Michael Rowe)Chapter 30  The Brutality of Reality  (Chris Beales)
Chapter 31  Philotimo: Vices and Virtues of a Moral Archetype  (Manos Rhodes Hatzimalonas)
Chapter 32  Evaluating Positive Education: A Framework and Case Study  (Dianne A. Vella-Brodrick, Nikki S. Rickard, and Tan-Chyuan Chin)
Chapter 33  Shaping Positive Education Research to Influence Public Policy  (Charlie Simson, Lauren Rosewarne, and Lea Waters)
Chapter 34  Positive Psychology at a City Scale  (Mike Zeidler, Liz Zeidler, and Byron Lee)
Chapter 35  Judging the Efficacy and Ethics of Positive Psychology for Government Policymaking  (Mark D. White)
Chapter 36  Feel Good or Be Happy. Distinctions Between Emotions and Development in the Environmental Psychology Research of Wellbeing  (Pablo Olivos and Ricardo Ernst)

The Routledge International Handbook of Critical Positive Psychology (Hardback) book cover

2018年5月18日 (金)

「批判社会心理学ハンドブック」(ゴフ編,2017,パルグレーブ社)

 批判心理学に関心をおもちの方,これから批判心理学を学ぼうという方におすすめの本です.

 ブレンダン・ゴフ編 「批判社会心理学ハンドブック」(パルグレーブ社編,2017)
(Brendan Gough(Ed). 2017. The Palgrave Handbook of Critical Social Psychology. 2017)

 パルグレーブ社のハンドブックシリーズの一冊として刊行されました.
 平易な説明で読みやすく,1章ごとにコンパクトにまとめられています.

 私は批判心理学や理論心理学を専門としているのですが,社会心理学の領域で他の研究者がこれらをどのように考えているかが分かります.
 読んでいて楽しく,新しい知識を得られ,知的喜びを感じられます.

 社会心理学の基礎を学んだ後,批判心理学を知ろうとする方はこの本から始められるのもよいでしょう.


 下に目次をお示しします.

目次

PART I. Introduction
Chapter 1. Critical Social Psychologies: Mapping the Terrain; Brendan Gough

PART II. Critical Perspectives
Chapter 2. Feminisms, Psychologies, and the Study of Social Life; Eva Magnusson & Jean Marecek.
Chapter 3. Marxism as a Foundation for Critical Social Psychology; Michael Arfken
Chapter 4. Social Constructionism; Viv Burr & Penny Dick.
Chapter 5. The Radical Implications of Psychoanalysis for a Critical Social Psychology; Tom Goodwin.
Chapter 6. Queer Theory; Damien Riggs & Gareth Treharne.
Chapter 7. Critical Race Studies in Psychology; Phia S. Salter & Andrea D. Haugen.
Chapter 8. Psychology of Liberation Revised (A Critique of Critique); Maritza Montero.

PART III. Critical Methodologies
Chapter 9. Phenomenology; Darren Langdridge.
Chapter 10. Narrative Social Psychology; Michael Murray.
Chapter 11. Discourse Analysis; Martha Augoustinos
Chapter 12. Psychosocial Research; Stephanie Taylor
Chapter 13. Innovations in Qualitative Methods; Virginia Braun, Victoria Clarke & Debra Gray

PART IV. Rethinking Social Cognition
Chapter 14. Attitudes and Attributions; Andy MacKinlay & Chris McVittie.
Chapter 15. Social Influence; Stephen Gibson & Cordet Smart.
Chapter 16. Prejudice; Keith Tuffin
Chapter 17. Prosocial Behaviour; Irene Bruna Seu
Chapter 18. Relationships: From Social Cognition to Critical Social; Simon Watts.

PART V. Social Identities/Relations/Conflicts.
Chapter 19. The Self; Chris McVittie & Andy MacKinlay.
Chapter 20. Gender; Sarah Riley & Adrienne Evans.
Chapter 21. Sexual Identities and Practices; Majella McFadden.
Chapter 22. Critical Approaches to Race; Simon Goodman
Chapter 23. Towards a Critical Social Psychology of Social Class; Katy Day, Bridgette Rickett & Maxine Woolhouse.
Chapter 24. Critical Disability Studies; Dan Goodley, Rebecca Lawthom, Kirsty Liddiard & Katherine Runswick-Cole.
Chapter 25. Intersectionality: An Underused but Essential Theoretical Framework for Social Psychology; Lisa Bowleg.

PART VI. Critical Applications.
Chapter 26. Critical Health Psychology; Antonia C. Lyons & Kerry Chamberlain.
Chapter 27. Critical Clinical Psychology; Steven Coles & Aisling Mannion.
Chapter 28. Educational Psychology in (times of) Crisis: Psycho-Politics and the Goovernance of Poverty; China Mills.
Chapter 29. Critical Organisational Psychology; Matthew McDonald & David Bubna-Litic.
Chapter 30. Environment: Critical Social Psychology in the Anthropocene; Matthew Adams.

2018年5月16日 (水)

「批判心理学を教育する:国際的視点」(ニューンズ&ゴールディング編,2017,ラウトレッジ)

 ゼロ年代以降,世界の心理学の新動向を見わたしていた心理学者の間で,批判心理学の発展が注目を集めるようになりました.
 北側諸国でも南側諸国でも,専門領域の垣根を越えて「批判心理学(critical psychology)」の名のもとで研究や心理臨床や社会的実践や教育に取り組む心理学者が登場しました.
 多くの国・地域の研究者が集う国際的なネットワークが築かれたことが知られると,心理学界に新たな潮流が生まれたという認識が広がりました.

 批判心理学は各々の心理学者の研究関心や専門領域,方法論の差異に応じて実際には多様なかたちで実践されています.
 しかし,研究主題や方法の多様性にもかかわらず現在,心理学が直面している課題に取り組み,心理学の内部から改革しようと試みる姿勢を批判心理学者は共有しています.

 研究であれ,心理臨床であれ社会的活動であれ,変革するには自分が行っている批判心理学的実践を次世代に伝える教育が重要です.

 イギリスの批判心理学者が中心になり批判心理学の教育を考察した論集が刊行されました.

 ニューンズ ,ゴールディング編 「批判心理学を教育する:国際的視点」 ラウトレッジ 2017 (Craig Newnes & Laura Golding (Eds.), 2017. Teaching Critical Psychology: International Perspective. Routledge)

 私は心理学概論や心理学史,心理学の哲学などの授業で批判心理学の立場から心理学教育に取り組んでいます.
 他の国・地域の批判心理学者が心理学教育をどのように考えているか,この本から知ることができて
参考になります. 

 批判心理学と心理学教育を主題とする良い本です.
 しかし,私が知る範囲ではなぜか,その存在があまり知られていないようです.
 昨年の夏,イギリスで開かれた学会に参加した時に,たまたまこの本の編者の一人に紹介され,同書を知りました.

 批判心理学に関心をおもちの方にお薦めします.
 特に第2章「批判的教育のための10の提案」(ジョン・クロンビー著)が,批判心理学の教育へのイントロダクションとして役立ちます.


 下に目次をお示しします.

Preface: On critical pedagogy  (Peter McLaren)

Chapter One: Teaching psychology critically  (David Fryer & Rachael Fox)

Chapter Two: Ten suggestions for critical teaching  (John Cromby)

Chapter Three: Towards coherence in teaching critical Psy  (Craig Newnes)

Chapter Four: Teaching disability, teaching critical disability studies  (Dan Goodley, Katherine Runswick-Cole and Michael Miller)

Chapter Five: Fear and loathing in the education system  (Robbie Piper)

Chapter Six: What can teachers of critical and community psychology learn from their learners?  (Olivia Fakoussa, Gemma Budge, Mandeep Singh Kallu, Annie Mitchell and Rachel Purtell)

Chapter Seven: Teaching indigenous psychology: A conscientisation, de-colonisation, and psychological literacy approach to curriculum  (Pat Dudgeon, Dawn Darlaston-Jones, & Abigail Bray)

Chapter Eight: Psy and the law: The Law Project for Psychiatric Rights' public education approach  (Jim Gottstein)

Chapter Nine: Teaching withdrawal of antipsychotics and antidepressants to professionals and recipients  (Peter Lehmann)

Chapter Ten: Human rights and critical psychology  (Beth Greenhill & Laura Golding)

Chapter Eleven: Children’s experiences of domestic violence: A teaching and training challenge  (Jane Callaghan, Lisa Fellin & Joanne Alexander)

Chapter Twelve: Supervision: A principles based approach  (Sara Tai)

2018年5月 7日 (月)

5月26日の批判心理学セッション:平和心理学と平和教育,心理学教育,弁証法的心理学,ディスコース分析

 5月26日(土)に開かれる批判心理学セッションのプログラムが決まりました.

 5回目のセッションでは,対テロ戦争と心理学の関係を例示する批判心理学の立場からの心理学教育,平和心理学と平和教育,クラウス・リーゲルの弁証法的心理学,原子力発電所事故のディスコース分析などを主題とする話題提供が予定されています.

 話題提供も討論も,形式にとらわれず自由に,かつ前向きな姿勢で行われます.

 批判心理学に関心をお持ちの方は,どなたでも参加できます.
 参加費は無料です.
 


批判心理学セッション5
日時:5月26日(土),午後2時から
会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)
話題提供1:いとう たけひこ(和光大学) 「一般心理学講義における批判心理学の位置づけ:和光大学での五十嵐靖博さん特別授業を手がかりに」
話題提供2:百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所) 「心理学における弁証法の適用:矛盾を手がかりに」
話題提供3:杉田 明宏(大東文化大学) 「平和心理学から見る平和教育の課題」
話題提供4:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「原子力発電所事故のディスコース分析(3):復興大臣の記者会見をめぐって」
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会
参加費:無料
アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)
所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありません.6階612号室までお越し下さい.



2018年4月26日 (木)

批判心理学セッションが5月26日(土)に開かれます

 第5回批判心理学セッションが,5月26日(土)に開かれます.

 原子力発電所事故のディスコース分析,心理学教育と対テロ戦争における「心理学的拷問」,クラウス・リーゲルの弁証法的心理学やその他の主題について話題提供が行われる予定です.

 会場は前回と同様に,静岡大学東京事務所です.(東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内.JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分
 午後2時,開始です.


 話題提供者を募集しています.当ブログ開設者にお知らせください.
 参加費は無料です.

 批判心理学に関心をおもちの方なら,どなたでも参加できます.
 気軽にご参集ください.



2018年4月19日 (木)

アメリカ質的心理学会大会のプログラム

 アメリカ質的心理学会(Society for Qualitative Inquiry in Psychology)の年次大会が5月21,22日にピッツバーグのデュケイン大学で開催されます.
 大会
プログラムが同学会のウェブサイトで公開されました(http://qualpsy.org/)

 プログラムをみると,質的心理学のさまざまな研究方法やそれを支える哲学,コミュニティがかかえる実生活の諸問題への取り組み,心理臨床や福祉,心理学教育,諸国の研究動向など,心理学における質的研究にかかわる主題が幅広く論じられるようです.

 1年前に2017年の大会のプログラムをみたときは特に関心をもたなかったのですが,今年のそれは一見しておもしろそうです.

 大会は
デュケイン大学で開催されます.
 同大学でアメディオ・ジオルジ
1960年代後半から現象学的心理学の研究と教育に取り組み,多くの研究者を養成しました.北米における質的心理学の最重要拠点のひとつです.

 現象学的心理学に関する発表もプログラムに多く記載されています.同大学ではコミュニティの諸問題の実践的研究も盛んなようです.
 50年前にジオルジが始めた質的心理学の研究・教育プロジェクトが実を結びました.質的心理学に関する学術会議の開催校にふさわしい大学ですね.
 (ジオルジ先生,おめでとうございます!長い間,ありがとうございました.)

 1980年代から2010年代まで,ジオルジの邦訳書が3冊,刊行されています.
 1980-90年代に主流のアメリカ心理学とは異なる心理学を模索していた日本の心理学者に,貴重な示唆を与えてくれました.
 私もそのひとりです.ゼロ年代に数度,国際学会でお目にかかる機会があり,ひたむきに現象学的心理学に取り組む姿を瞥見して強い印象を受けました.

  アメディオ・ジオルジ 「現象学的心理学の系譜:人間科学としての心理学」(早坂泰次郎訳 勁草書房 1981)
  アメディオ・ジオルジ 「心理学の転換:行動の科学から人間科学へ」(早坂泰次郎訳 勁草書房 1981) 
  アメディオ・ジオルジ 「心理学における現象学的アプローチ:理論・歴史・方法・実践」(吉田章宏訳 新曜社 2013)



 アメリカ質的心理学会は2011年にアメリカ心理学会の第5部会(量的方法と質的方法)のサブ部会となりました.

 学会の公式ジャーナル「Qualitative Psychology」もお薦めです.面白い研究がたくさん掲載されています.(http://www.apa.org/pubs/journals/qua/ )

 5月にアメリカ質的心理学会の大会の他に,国際質的研究学会の年次大会もイリノイ州で開かれます(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2017/11/14-6800.html)

 質的心理学者がウキウキする季節になりました.



2018年4月15日 (日)

アメリカ心理学会の質的論文ガイドライン

 先日,イギリス心理学会が学術雑誌における質的研究の重要性をあらためて提起する声明を発表した,と当ブログでお知らせしました.

 大西洋を挟んで北米では,アメリカ心理学会(APA)の研究論文の刊行に関するタスクフォースが,質的研究法や混合研究法を用いて行われた研究を論文化する上で参照すべき基準をまとめました.
 アメリカン・サイコロジスト誌で発表されました.


報告書のタイトル:
 「質的研究,質的メタ分析と混合法による心理学研究を報告するジャーナル論文の標準:APA論文刊行とコミュニケーション委員会タスクフォースの報告(Journal Article Reporting Standards for Qualitative Primary, Qualitative Meta-Analytic, and Mixed Methods Research in Psychology: The APA Publications and Communications Board Task Force Report)」

著者:
 Levitt,H.,Bamberg,M.,Creswell,J.,Frost,D.,Josselson,R.,& & Suárez-Orozco,C.

発表誌:

 American Psychologist, 2018, Vol.73, No.1, Pp.26–46



 心理学だけでなく社会科学の多くの領域で,アメリカ心理学会の論文記述様式(APAスタイル)が定番になっています.

 量的心理学の一部が科学主義の傾向を強め心理学研究が阻害されたことへの反省から,質的心理学者の中には過度に形式化された論文の記述スタイルを避ける傾向がみられます.

 しかし質的研究が普及すると,論文の質を保つために記述様式の基準を求めるニーズも強まります.
 研究の目的や方法,研究資料の分析,考察など,論文の各節で何をどのように述べたらよいか,留意すべき諸点が明確に示されれば,論文を書く人にも論文を査読する人にも便利です.
 アメリカン・サイコロジスト誌に発表された上記の報告は,質的研究による論文の執筆者と査読者のニーズに応えるものです.

 この報告の「研究の目的」の節をみると,
 「研究に用いるアプローチを説明しなさい.例)記述的方法,解釈的方法,フェミニスト研究,精神分析,ポスト構造主義,構成主義,批判的方法,ポストモダン,プラグマティックなアプローチ」,
 といった説明がみられます.

 アメリカ心理学会の会員が同学会の旗艦誌である「アメリカン・サイコロジスト」に掲載された同学会のタスクフォースの報告書で,フェミニスト心理学や批判心理学,ポスト構造主義的心理学などを推奨される時代が訪れたようです.

 アメリカの心理学者の間で質的研究がある程度まで受け入れられ,その中に批判的研究が含まれていることが伺われます.


2018年4月 3日 (火)

イギリス心理学会の声明:学術雑誌における質的研究の重要性

 イギリス心理学会が3月27日に声明を発表し,学術雑誌における質的研究の重要性を強調しました.

 「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」や「ジャーナル・オブ・チャイルド・アンド・ファミリースタディーズ」などが編集指針を改訂し,質的研究を受け入れない方針を示したことに反対を唱えています.

 上記の学術雑誌が質的方法を用いて行われた研究の掲載を止める理由として,
「優先度が低い」,「他の研究者によって引用されない」,「実用的な価値が低い」といったことが挙げられています.
 
 これらは良い研究かどうかを判断する基準の一部でしょう.
 しかし質的研究だから上記を満たさない,というわけではありません.量的研究など質的研究とは異なる方法を用いて行われる研究も,それらを満たさない場合もあります.
 良い研究もあれば悪い研究もあるのは,質的研究も量的研究も同じことです.

 上記の学術雑誌の編集委員会がもしも,質的研究だから悪い研究だ,と考えているなら,科学ではなく「科学主義」の悪しき例の一つです.
 研究対象の質を観察し記述して詳細に分析する研究方法が,科学研究において重要なことは明らかではないでしょうか.


 下記のサイトでイギリス心理学会の声明文が公開されています.
 https://www.bps.org.uk/news-and-policy/statement-qualitative-research-journals

 下に全文を引用します

「Statement on qualitative research in journals

                       27 March 2018

 As the learned society and professional body for psychology in the UK, the British Psychological Society is concerned in relation to the adoption of a revised editorial policy by some journals (including the Journal of Child and Family Studies and the British Medical Journal) to stop accepting submissions of qualitative research.

 We are particularly concerned at the claims that such studies are “low priority”, “unlikely to be highly cited”, “lacking practical value”, or “not of interest to our readers”.

 Qualitative research is now widely recognised as an important aspect of scientific work.  Whilst some research may be considered of “lacking practical value” or of “low quality”, the same argument can be made for research utilising other methodological approaches and techniques, and are not issues that are restricted to qualitative research alone.

 There is a risk that editorial decisions of this nature will begin to shape the discipline, instead of the discipline being shaped by the activity of the broader community of researchers.

 We wish to reiterate that the Society’s editorial policy across our portfolio of journals (published in partnership with Wiley) remains open to submissions of high quality research from all methodological approaches.


  Professor Daryl O'Connor (Chair, Research Board)
  Professor Andy Tolmie (Chair, Editorial Advisory Group)  」




  



2018年3月24日 (土)

フェイスブックの「いいね!」と心理学:ビッグデータを活用したトランプ陣営の選挙キャンペーン

 2016年に行われたアメリカの大統領選挙でトランプ候補が対立候補のクリントン氏を破った選挙キャンペーンにおいて,フェイスブックなどのSNSが活用されたことは以前から知られていました.そこで自陣営に都合のよい偽のニュースが大量に発信されました.
 フェイクニースは流行語になりました.

 最近のマスメディアの報道で,心理学者の関与が指摘されています.


 下記の東京新聞の記事(「米大統領選で不正利用か FBから5000万人分情報流出」,3月23日朝刊)によれば,心理学者が重要な役割を果たしたそうです.

「...米交流サイトのフェイスブック(FB)が大量の個人データの流出に揺れている。五千万人分もの情報が不正に第三者に渡ったことが発覚。二〇一六年の米大統領選でトランプ陣営の選挙運動に使われた可能性もある。米当局が調査に着手し、集団訴訟を起こされる事態にもなっている。

 米紙ニューヨーク・タイムズなどによると、FBは英ケンブリッジ大心理学者と学術目的で、ユーザー情報を提供する契約を結んだ。心理学者はユーザーの性格などを分析するアプリを開発し、個人情報の提供に同意した二十七万人がアプリをダウンロードした。

 その後、心理学者はFBの許可を得ず、提携関係にあった英国のデータ分析企業ケンブリッジ・アナリティカ(CA)に情報を流した。ユーザー本人だけでなく、FB上の「友人」を含め五千万人を超える情報が流出したとみられる....」

 他の報道とあわせて考えると,フェイスブックのユーザーの「いいね!」のような利用行動やプロファイル情報を多数収集し,そのビッグデータの計量心理学的解析によって明らかになった各ユーザーの心的特性に応じて個別にマイクロ広告を送り,トランプ陣営に有利な投票行動を促した,ということのようです.

 選挙キャンペーンにおける心理学の有用性を知悉したIT情報コンサル企業,ケンブリッジ・アナリティカ社が心理学者を雇用して必要な情報を取得し,SNSを活用したキャンペーン手法を助言してトランプ陣営に勝利をもたらした,と報じられています.

  写真

  (東京新聞,3月23日朝刊より


 個人のネット上の行動情報が当人が知らないうちに収集され,心理学的手法を用いて特定の経済的,政治的目的のために利用される可能性について,以前から私も懸念を感じていました.批判心理学や理論心理学にとって,重要な問題です.

 しかし既に2016年のアメリカの大統領選挙やブレグジットを選んだイギリスの国民投票で,結果を左右する効果をもたらしていたとのこと.
 私が予想していたより,現実の方が進んでいました.

 上で述べたフェイスブックの問題では利用者の「いいね!」などを性格のビッグ・ファイブ理論を用いて分類していたそうです.
 教科書でお馴染みのよく知られた性格理論です.理論的には新しい発展はみられません.

 しかし,ビッグデータを効率的に収集する技術が実現し,多くの利用者の情報を心理統計学的に分析して各利用者の心的性質や行動傾向を推測する技術が向上しました.
 その知見を個々のSNSユーザの心的性質に応じてアレンジし,行動を変容するために適宜,提示するIT技術を利用できる時代になりました.

 この傾向は今後,いっそう強まっていくことでしょう.
 心理学化が深化する新しい時代のただ中で,私も皆さんも日々の生活を送っているのです.
 私たちの主観性や行為の選択が,自分でも気づかないうちに心理学を適用したテクノロジーの作用によって影響を受けているかもしれません.

 上で引用した東京新聞の記事のほかに,次の記事をお薦めします.

 日経ビジネス 「トランプ勝利の影にあった『心理広告戦略』:続く選挙を前に欧米メディアが懸念する「CA社」の動き」,2017年1月25日(http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/012000544/)

 フォーブス 「
トランプを勝利させた『謎のビッグデータ企業』CEOの激白」,2017年11月15日(https://forbesjapan.com/articles/detail/20267)

 

2018年3月19日 (月)

トランプ大統領が「水責めの女王」をCIA長官に指名しました:対テロ戦争における「心理学的拷問」

 3月14日にトランプ米大統領が国務長官を解任し,後任にCIA長官を指名したニュースが大きく報道されました.
 同大統領は同時に,新しいCIA長官にジーナ・ハスペル氏を指名しました.このニュースは日本のマスメディアの注目を集めていないようです.
 しかし今日の「テロとの戦い」を考える上で.重要な出来事のひとつです.


 ハスペル氏は9.11同時多発テロの後,CIAがテロ情報を得るためにテロ容疑者に対して国外の秘密拘禁施設で「強化尋問技法」を用いて「過酷尋問」を行った作戦を指揮した,と報道されています.
 この尋問では水責めなど,心身の健康に重大な悪影響を与える技法が米政府の認可の下で実施されました.
 「アメリカ政府が認めた拷問」がハスペル氏の関与の下で始まりました.

 過酷尋問に対してアメリカ内外で批判が高まり,連邦上院が調査を始めると,尋問を記録した多数の録画テープが破壊されました.
 ハスペル氏が破壊を指示した,と報道されています.もし過酷尋問の実態が映像で公開されれば,当時のブッシュ政権や米政府は重大なダメージを受けたことでしょう.

 当ブログで以前に数度,サウジアラビア人のアブ・ズベイダ容疑者が2002年にパキスタンでCIAに捕捉され,タイの秘密拘禁施設に移送されて,2名の軍事心理学者によって水責めを含む強化尋問技法を用いた過酷尋問を受けた問題を取り上げました.
 この作戦を指揮したのはハスペル氏です.

 CIAによるテロ容疑者への過酷尋問は,「自由の国」,「人権を重んじる国」を理想として掲げてきたアメリカの変化を示す歴史的な事件のひとつだと言われています.
 その責任者がアメリカ政府を代表する情報機関のトップに指名されるとは,トランプ氏が米大統領に選出される前には想像できなかったことです.

 昨年,トランプ米大統領によってCIA副長官に指名されるまで,ハスペル氏の名前も写真も公表されることはありませんでした.同氏がCIAの秘密工作部門の要員だったためです.


 今後,「過酷尋問は拷問ではない.テロ対策の一環として必要である」という意見がトランプ政権のもとで,再び強まる可能性があります.

 ただし,上院が上記の問題を理由としてハスペル氏のCIA長官への就任を認めないのでは,という指摘もあります.
 また,同氏がドイツなどに入国した場合は,人道に対する犯罪の嫌疑のために身柄を拘束される可能性がある,という報道もあります.拷問は国連拷問禁止条約や戦争捕虜の保護を定めたジュネーブ条約に違反する重大な犯罪だと考えられています.

 この問題に関心をおもちの方は,下記の報道をご参照ください.

AFP通信(3月14日) 「拷問関与を議員ら批判,米CIA長官指名のハスペル氏」http://www.afpbb.com/articles/-/3167299

中日新聞(3月14日) 「史上初の女性CIA長官に ベテラン捜査官ハスペル氏」http://www.chunichi.co.jp/s/article/2018031401000687.html

ブルームバーグ(3月14日) 「次期CIA長官指名のハスペル氏,拷問関与疑惑を問題視される可能性」 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles



2018年3月13日 (火)

4月8日に批判心理学セッションが開かれます

 4月8日に批判心理学セッションが開かれます.

 昨年10月に1回目のセッションが開かれてから,4度目となります.
 批判心理学に関心をおもちの方なら,どなたでも参加できます.参加費は無料です.

 ドイツ批判心理学やコミュニケーション学からみた心理学の特徴や問題点,批判心理学的実践としての心理学教育,対テロ戦争における「心理学的拷問」について話題提供が行われます.
 自由に,前向きな姿勢で心理学とその歴史や哲学,社会とのかかわりなどについて討議しましょう.

 
批判心理学セッション4
日時:4月8日(日),午後2時から
会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)
話題提供1:百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所) 「Individual subjectivity and its development,in Tolman, C. W. (1994). Psychology,society,and subjectivity: An introduction to German Critical Psychologyを読む」(2)
話題提供2:田辺 肇(静岡大学) 「批判心理学を教育に活かすには?:精神保健福祉史,心理学史,心理学論における(4) “心のモデル”の伝え方(2)」
話題提供3:増田 匡裕(和歌山県立医科大学) 「コミュニケーション学でもらった“玉手箱”を心理学の“浜辺”で開けてみると(その2):【対話論の続編】『対人関係の弁証法理論』の応用研究は心理学者にも魅力的か?」
話題提供4:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「アメリカ心理学と対テロ戦争におけるテロ容疑者への拷問:最近の展開」
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会
参加費:無料
アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)
所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありませんので6階612号室までお越し下さい.

2018年3月10日 (土)

アメリカ心理学を変えた5名の非白人の女性心理学者

 3月8日の世界女性デーが過ぎたところです.
 アメリカ心理学会の女性による心理学実践を促進する試みをご紹介します.

 アメリカ心理学会(APA)で心理学教育の促進を担うAPA教育局(APA’s Education Directorate)がウェブサイトに,「注目すべき5人の非白人の女性心理学者:心理学を永遠に変え,これからもあなたたちを鼓舞しづける先人たち」(5 Phenomenal Women of Color Who Changed Psychology Forever and Will Inspire You to Do the Same)と題する記事を公開しています.
 下記のURLを参照ください.

(http://psychlearningcurve.org/women-of-color-who-changed-psychology/?utm_content=buffer145bf&utm_medium=social&utm_source=twitter.com&utm_campaign=buffer)


 5人の女性心理学者とは下記の先人たちです.残念ですが,英語のままお示しします.
 4番目のリエコ・トゥルー博士は新潟出身の日本人です.

1. Inez Beverly Prosser (1895-1934)
 The first African American woman to complete a PhD in psychology in 1933, she had to leave Texas to pursue her degree because no graduate schools there accepted African Americans. She studied how racially integrated and racially segregated schools impact African American youth.


2. Martha Bernal (1931-2001)
   The first Latina to earn a PhD in psychology in the United States, she studied ethnic identity and made clinical training more relevant for minorities. She also mentored Latino/a psychologists and founded the National Hispanic Psychology Association.


3. Mamie Phipps Clark (1917-1983)
    She and her husband, Kenneth Clark, studied racial preferences and identity in Black children in integrated schools compared to segregated schools. In the famous Doll Studies, children were presented with four dolls, two black and two white. They were asked which doll they liked best. More than 65% of the kids chose a white doll. These findings were used in the Brown v. Board of Education Supreme Court case that dismantled school segregation.


4. Reiko True    
 Born in Japan, she attended university in Tokyo, one of only 3 women in a class of 80. She remains passionate about equal access to mental health care and lobbied to create the first mental health center in California to serve Asian Americans. She then led the center, ensuring staff were trained in Asian languages and culture.


5. Jennifer Eberhardt
 2014 MacArthur Award Winner Jennifer Eberhardt, Stanford University.    
Her research shows how subliminal images activate racial stereotypes, changing what and how people see. She investigates the largely unconscious yet deeply ingrained ways that individuals racially code and categorize people, with a particular focus on associations between race and crime. She uses these findings to raise awareness about stereotypes in the criminal justice system and in education. In 2014, she received a MacArthur Foundation award for her groundbreaking work.


 対テロ戦争におけるテロ容疑者への「心理学的拷問」に関する問題では,アメリカ心理学会はアメリカ精神医学会やアメリカ医学会などに比べて,倫理的な後進性を露呈しました.
 精神科医や医師がテロ容疑者の心身に重大な悪影響を与える尋問を拒んだのに対して,心理学者は国防総省やCIAの求めに応じて「強化尋問技法」を考案して「過酷尋問」を自ら行い,またそれを施行する制度を支えました.

 しかし,非白人女性の心理学者の再評価や教育・研究環境の改善の面では前向きに取り組んでいるようです.

 「国家安全保障に関する尋問」はアメリカの心理学者にとって,政府や軍事・情報当局,連邦議会などとの関係を深めて心理学の地位を向上させるため,また雇用や研究資金の獲得などのため,批判的な取り組みを容易に行いえないようにみえます.

 この点ではアメリカ心理学会のあり方に同意することはできません.
 しかし女性心理学者の,特に非白人の女性心理学者の活動を支援する施策には賛同します.

 私のジェンダーは男性ですが,フェミニスト心理学や女性によるジェンダー心理学の重要性を批判心理学や理論心理学の立場から痛感し,日本で少しでもこれらを推進できないかと願ってこの10数年ほどの間,微力を尽くしてきました.
 しかし,変化をもたらしえない自分の力不足を,改めて感じています.

 とはいえフェミニスト心理学の重要性は変わりません.後に続く人がきっと,いることでしょう.ご健闘とご多幸をお祈りします.




2018年3月 9日 (金)

イアン・パーカーの「サイ・コンプレックスを考える:心理学と精神分析と社会理論の批判的検討」(ゼロブックス,2018)

 批判心理学に関心をおもちの方なら,一度はイアン・パーカーの論文や著書を読まれたか,その評判を聞いたことがあるのではないでしょうか.

 パーカーはイギリスのマンチェスターでフェミニスト心理学者のエリカ・バーマンとともに設立したディスコース・ユニットを拠点として,この30年ほどの間,批判心理学を展開してきました.

 数多い彼の著書の最新刊が「サイ・コンプレックスを考える:心理学と精神分析と社会理論の批判的検討」(ゼロブックス,2018)です.

 Ian Parker (2018)  Psy-Complex in Question :Critical Review in Psychology,Psychoanalysis and Social Theory. Zero Books


  この本は1990年代初めからパーカーが発表した書評を,サイ・コンプレックスの観点から集成したものです.
 サイ・コンプレックスは心理学(psychology)や精神分析(psychoanalysis)や精神医学(psychiatry)など,英語表記で接頭辞の「psy」を語頭にもつ心に関する諸学問が,社会の様々な領域のニーズを背景として生み出してきた心を説明する理論や用語や検査,セラピー等が実生活の中で適用され,人々の主観性や行為に影響を与えている情況を説明する概念です.

 心理学などの学問を,社会や政治経済,諸制度,文化などとの関わりの中で捉える視点が,サイ・コンプレックスという概念の眼目です.
 コンプレックスというと「劣等感(インフェリオリティ・コンプレックス)」を考えがちですが,それではありません.
 サイ・コンプレックスをあえて漢字を用いて訳すと「心理的複合体」といった表記になりそうですね.

 パーカーの新刊は心に関する他の研究者の仕事を,彼がサイ・コンプレックスの観点からどう考えたか,読者に教えてくれます.
 ひとつの論考が数ページと短く,簡潔で分かりやすい書き方で論じられています.百数十ページほどの手軽に読める便利な本です.

 批判心理学者は制度的学問としての心理学に止まらず,現代社会や社会の構造的問題と心理学的文化の関係を問うなど,より広い視座をもつに至る例が多いようです.
 パーカーの場合は個別学問としての心理学を超えて,ラカン派精神分析やジジェクの精神分析的研究,さらにそれらと社会理論の関係へと知的関心と社会的実践が拡張していった軌跡を,同書に収められた書評が示しています.

 下に目次をお示しします.

 イアン・パーカー 
「サイ・コンプレックスを考える:心理学と精神分析と社会理論の批判的検討」(ゼロブックス,2018)
1.イントロダクション:サイ・コンプレックスのレビューと批判
2.心理学と心理療法
3.精神分析,ラカン
4.社会理論,ジジェク

  Psy-Complex in Question   

2018年3月 1日 (木)

シンポジウム 「対テロ戦争における『過酷尋問』と心理学:ホフマン報告書を読む」

 「テロとの戦い」におけるテロ容疑者への「過酷尋問」にアメリカ心理学会とアメリカの心理学者が加担した問題をめぐって,3月19日に下記のシンポジウムが開かれます.
 この問題に関心をお持ちの方はどなたでも参加できます.参加費は無料です.

 2016年のシンポジウム「心理学と対テロ戦争と『国家安全保障の尋問』」(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2016/01/post-c778.html),2017年のシンポジウム「対テロ戦争における『心理学的拷問』を考える:ホフマン報告の後の心理学」(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2017/02/post-dc2e.html)に続いて,3回目となります.

 今回のシンポジウムはホフマン報告書の原文にもとづき,「心理学的拷問」を検討します.



シンポジウム 「対テロ戦争における『過酷尋問』と心理学:ホフマン報告書を読む」

 2011年にアメリカを襲った9.11同時多発テロの後,テロ対策のためアメリカ政府の施策の一環として軍事・情報当局によってテロ容疑者に「過酷尋問」が行われました.
 過酷尋問は被尋問者に著しい苦痛を与え心身の健康を損なう拷問だとアメリカ国内でも,国際社会でも非難の声があがりました.アメリカの心理学者とアメリカ心理学会が当局の求めに応じて過酷尋問に加担した事実が明らかになると,北米社会において心理学への信頼が揺るがされる事態を招きました.

 本シンポジウムではアメリカ心理学会の関与を検証したホフマン報告書を読み,アメリカの心理学者がなぜ「心理学的拷問」に加担したのか考察します.

日時:3月19日(月),14:30-16:45
話題提供:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「ホフマン報告書にみるアメリカ心理学会と心理学者の行動の論理と倫理:批判心理学の立場から」
指定討論1:いとう たけひこ(和光大学)
指定討論2:杉田 明宏(大東文化大学)
会場:和光大学A棟9階心理教育学科資料室
(https://www.wako.ac.jp/access/campus.html)
参加費:無料
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会
共催:平和のための心理学者懇談会,心理科学研究会平和心理学部会


 このシンポジウムに続いて同じ会場で,平和のための心理学者懇談会・心理科学研究会平和心理学部会 2017年度第4回合同研究会が開かれます.

2018年2月 6日 (火)

次回の批判心理学セッションは4月8日です.

 2月4日に3回目の批判心理学セッションが開かれました.
 心理学の方法論や理論や概念,心理学教育や心理学史,心理学の科学性,福島原子力発電所事故の心理学などをめぐって活発な討議が行われました.

 午後から夜まで5時間半ほど,テーブルを囲んで意見を交わしました.年配の参加者から「何十年ぶりに院生時代に戻ったようだ」,「この研究会では自由に何でも言える」といった声が聞かれました.
 批判心理学セッションの良い特徴を示す発言でしょう.

 前回に続いて3度目のセッションでも,私は発表を聴いて多くを学び,自由な意見交換から新しい刺激を得ました.
 下記は発表テーマの一覧です.

 ・話題提供1:増田 匡裕(和歌山県立医科大学) 「コミュニケーション学でもらった“玉手箱”を心理学の“浜辺”で開けてみると(その1):バフチンの対話論に基づく「対人関係の弁証法理論」が知られていない。」
・ 話題提供2:百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所) 「Tolman, C. W. (1994). Psychology, society, and subjectivity: An introduction to German Critical Psychology London,UK: Routledge を読む」
  ・話題提供3:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「原子力発電所事故のディスコース分析(2):猪苗代湖ズの『プライド。祈るように叫んだ歌』をめぐって」
  ・話題提供4:小田 友理恵(法政大学大学院) 「心理学の『科学性』について:科学史と心理学史を踏まえた,主観性と客観性に関する考察」
  ・話題提供5:田辺 肇(静岡大学) 「批判心理学を教育に活かすには?:精神保健福祉史,心理学史,心理学論における(3)“心のモデル”の伝え方」


 次回の批判心理学セッションは,4月8日に静岡大学東京事務所で開かれます.
 批判心理学に関心をおもちの方はどなたでも参加できます.温かい雰囲気の中で
前向きに心理学が抱えている諸問題や心理学の哲学や歴史,社会学,新しい心理学のあり方などを討議しましょう.

 発表を希望される方は,当ブログ開設者にお知らせください.



2018年2月 2日 (金)

2018年のアメリカ心理学の10大トレンド:心理学モニター誌の特集

 アメリカ心理学会の「心理学モニター」誌は,幅広い層の読者に向けて心理学を紹介する雑誌です.
 同学会はたくさん雑誌を刊行していますが,
「心理学モニター」誌はもっともよく読まれているもののひとつです.心理学の「科学」としての側面と,心理臨床や社会諸領域での心理学の応用の双方にかんするトピックを取り上げています.

 2018年のアメリカ心理学の10大トレンドを同誌が予想し特集号を組みました.(2017年11月号です.)

「注目すべき心理学の10の新トレンド:2018年に心理学に起こること (10 trends to watch in psychology :What's ahead in 2018)」. (Monitor on Psychology, November 2017, Vol 48, No. 10)

 次のウェブサイトで公開されていす.
 http://www.apa.org/monitor/2017/11/cover-trends.aspx



 10大トレンドのうちわけは,
・アメリカで心理学はいっそう人気を集め発展する,
・産業における応用心理学もいっそう重要になる,
・貧困や住環境などと健康の関係が注目を集める,
・科学政策など科学振興のために心理学が寄与する,
・神経遺伝学やエピジェネティクスで心理学が役立つ,
・不健康な職場と経済的コストの関係の理解が進む,
・健康専門職者の教育において心理学の重要性が増す,
・VR技術やITのアプリなどの新技術が心理学的サービスの利用可能性を高める,
・心理学界における女性の地位の向上が急務である,
・心理学界でもデータの共有やオープン・サイエンスが進む,
 というものです.

 いささか楽観的に過ぎるでしょうか?
 「テロとの戦い」におけるテロ容疑者への「過酷尋問」にアメリカの心理学者とアメリカ心理学会が加担した事実はマスコミ報道などで広く知られ,公衆の心理学への信頼を揺るがしました.

 しかし,北米社会はすでに高度に心理学化された社会になりました.ビジネスや教育や健康や司法や軍事など多くの社会セクターで心理学が求められています.
 だからこうした追い風を受けて,2018年も心理学はさらに進んでいくのでしょうね.

 「心理学モニター」誌があげた10大トレンドをそれぞれ説明する記事とそのリード文を下にお示しします.(英語のままです.お許しください.)

1.Psychology is more popular than ever.
    In a trend that bodes well for the discipline’s future and the nation’s health, the demand for psychologists—and psychology education—is robust.

2.Applied psychology is hot, and it's only getting hotter.
    Corporate America is increasingly in search of applied psychologists' skills.

3.Targeting social factors that undermine health.
    Psychologists are playing expanded roles in addressing how poverty, lack of decent housing and other environmental factors influence health outcomes.

4.Psychologists are standing up for science.
    The field is redoubling its efforts in the face of increased threats to science and science policy. Grassroots advocacy is springing up in cities and on campuses nationwide.

5.Epigenetics offers the promise of more precise treatments.
    Psychologists are helping to pioneer the fields of neurogenetics and epigenetics—work that could further illuminate problems in the brain and foster better therapies.

6.Research zeroes in on the costs of unhealthy workplaces.
    Psychologists are documenting the financial losses companies suffer when they fail to provide workplaces that offer psychosocial safety.

7.Integrated health training is on the rise.
    Expanded interprofessional education and training is boosting psychologists' skills and highlighting the critical role they can play on care teams.

8.Technology is revolutionizing practice.
    Apps and virtual help agents are forever changing the way psychological services are delivered.

9.Equality for women psychologists takes on new urgency.
    Women outnumber men in the psychology workforce, yet still aren't equally represented in the field's top positions or paid as much as men.

10.Psychologists embrace open science.
    The field is working to change cultural norms to encourage more data sharing and open science.


   

2018年1月11日 (木)

2月4日に批判心理学セッションが開かれます.

 2月4日に3回目の批判心理学セッションが開かれます.
 
批判心理学について自由に気軽に討議する場として,批判心理学研究会が隔月で開催しています.

 批判心理学に関心をおもちの方は,どなたでも参加できます.
 気軽にご参集ください.

 3回目のセッションでは心理学の研究方法論や歴史,心理学の科学性,ドイツ批判心理学,原子力発電所事故,精神保健福祉,バフチン,ディスコース分析など多様な主題が取り上げられます.


批判心理学セッション3
日時:2月4日(日),午後2時から
会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)
話題提供1:増田 匡裕(和歌山県立医科大学) 「コミュニケーション学でもらった“玉手箱”を心理学の“浜辺”で開けてみると(その1):バフチンの対話論に基づく『対人関係の弁証法理論』が知られていない。」
話題提供2:百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所) 「Tolman, C. W. (1994). Psychology, society, and subjectivity: An introduction to German Critical Psychology London,UK: Routledgeを読む」
話題提供3:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「原子力発電所事故のディスコース分析(2):猪苗代湖ズの『プライド。祈るように叫んだ歌』をめぐって」
話題提供4:小田 友理恵(法政大学大学院) 「心理学の『科学性』について:科学史と心理学史を踏まえた,主観性と客観性に関する考察」
話題提供5:田辺 肇(静岡大学) 「批判心理学を教育に活かすには?:精神保健福祉史,心理学史,心理学論における(3) “心のモデル”の伝え方」
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会
参加費:無料
アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分
(http://www.cictokyo.jp/access.html)
所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.
※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありませんので6階612号室までお越し下さい.




2018年1月 9日 (火)

国際行動社会科学史学会の50周年記念大会

 国際行動社会科学史学会の2018年の大会が6月21日から24日まで,アメリカのアクロン大学(オハイオ州)で開催されます.
 同学会はカイロン(ギリシア神話の半人半馬神,叡智のシンボル)の愛称で知られ,世界各地から心理学史研究者が集います.

 2018年の年次大会は学会の創設50周年を祝祭する記念大会です.
 詳細な開催情報については,同学会のウェブサイトをご参照ください(https://www.uakron.edu/cheiron/annual-meeting/2018.dot).


 アクロン大学はカミングス心理学史センター(http://www.uakron.edu/chp/)を備え,世界の心理学史研究の最重要拠点のひとつです.50周年記念大会にふさわしい会場ですね.

 同センターにはアメリカ心理学史アーカイブと心理学博物館が含まれ,アメリカ心理学の歴史に関する数多くの資料を収集・展示しています.
 多くの学会がアメリカで開かれていますが,アメリカ出張の折には同センターを訪問されるようお薦めします.心理学の歴史に関心をおもちなら,きっと新しい発見をされることでしょう.

 2016年7月にNHK・BSの『フランケンシュタインの誘惑:科学史の事件簿』でジンバルドの刑務所実験が取り上げられました.この研究で用いられた資材や備品などの各種の資料もアクロン大学心理学史センターが収蔵しています.
 番組の中で同大学の心理学史研究者であるデイビッド・ベイカー教授が刑務所実験の歴史的意義を説明しました.かたわらに囚人服や看守の制服や鉄格子のついたドアが展示されていました.アクロン大学心理学史センターの豊富なコレクションの一例です.

 今年のカイロン大会は学会の設立50周年を記念して,心理学の歴史を再考する特別プログラムが計画されている,と聞いています.
 心理学史研究のあり方を問うシンポジウムが開かれるといいですね.これから生み出される新しい研究を刺激する大会になるよう願っています.







2017年12月13日 (水)

Critical psychology seminar in Hong Kong, December 22nd

  Are you interested in critical psychology?
  Are you in Hong Kong on 22nd, December?  (The date is changed form 20th to 22nd!!!)

  If so, why don't you come to the round-table seminar on critical psychology organized by Dr Fu Wai (Shue Yan University)?
  The seminar is part of Inter-Institutional Development Scheme Project titled
'Phenomenology : A Multidisciplinary Dialogue (UGC/IIDS15/H01/16)'. It is the final of 10 lectures.

IIDS Seminar Series Phenomenology: A multidisciplinary Dialogue (UGC/IIDS15/H01/16)
Date : December 22nd, 14:00
Place : Seminar room 610, Open University of Hong Kong

Presenter : Yasuhiro Igarashi (Yamano College of Aesthetics, Japan)
Title : What is critical psychology? : A view from Japan

  I will talk about critical psychologies and the problem of 'what is psychology actually?' based on my experience in Japan since 1990s, mentioning to philosophy, history, sociology of psychology, cultural issues and issues related to power disparities in psychology and in society among others.

  Let's share views and ideas on psychology between Japan and Hong Kong and start research together to build new ways of doing psychology critically!




2017年12月10日 (日)

トランプ米大統領のメンタルヘルス:バンディ・リー編,「ドナルド・トランプの危険な症状:27人の精神科医とメンタルヘルス専門家が大統領を査定する」

 当ブログでこれまで数度,トランプ米大統領が論敵や批判者に対して「IQが低い」といった発言を繰り返した例を記しました.

 IQは心理学が産出した「心理学知識」のひとつです.これが社会に広く普及して自然な存在になる「心理学化」の事例を,トランプ大統領の発言に見ることができます.
 この例では「自分はIQが高い」と考えるトランプ氏が,相手を非難するためにIQやIQテストという心理学知識を用いています.
 それらは誰にでも通用する自明の存在として自然化されています.

 高度に心理学化が進んだアメリカ社会では,トランプ氏も心理学や精神医学などの「サイ学問」による吟味の対象になります.
 10月に刊行された下記の本が,アメリカでベストセラーになっているそうです.

 Bandy Lee (編)「ドナルド・トランプの危険な症状:27人の精神科医とメンタルヘルス専門家が大統領を査定する」 (
Bandy X. Lee(Ed.), The Dangerous Case of Donald Trump :27 Psychiatrists and Mental Health Experts Assess a President, Thomas Dunne Books)

 ロバート・リフトン(精神医学)やフリップ・ジンバルド(社会心理学・パーソナリティ心理学)など,日本でもよく知られた研究者が同書に寄稿しています.

 昨年,米大統領選挙においてトランプ氏が有力候補に浮上したころから,同氏の言動やパーソナリティやメンタルヘルスについて「心の専門家」が発言し始めました.
 心理学知識を用いて特定の人物を「病理化」したり「異常化」することは,心理学化を推し進める結果を招きます.
 そのため当ブログでは,この問題を取り上げませんでした.

 しかし,このところのトランプ氏の振る舞いを報道をとおして見聞きしていると,精神医学者や心理学者が専門的知識やスキルを用いて同氏をどのように説明するか,知りたくなります.



 アメリカでは主要メディアがこの問題を繰り返し取り上げています.今のところ,日本語で読める記事はわずかです.
 非営利ニュースメディア,「デモクラシー・ナウ!」が12月8日に同書を詳しく報道しました.

 「ドナルド・トランプの危険な症状」精神科医バンディ・リー 大統領の精神状態への危惧を語る(http://democracynow.jp/)

 上記のニュース・サイトの説明文を転記します.
 「ドナルド・トランプ大統領が6日に行われたイスラエルに関するスピーチで,ろれつが回らず言葉を誤って発音した後,彼の精神状態に対する疑念が広がり続けています.ホワイトハウス報道官サラ・ハッカビー・サンダースは7日,高まる懸念を受けて,トランプは健康診断を受ける予定になっていると発表しました.
 一方,国防総省幹部は先月,トランプが核兵器を発射せよとの非合法な命令を出しても無視すると,上院委員会に伝えています.この証言は,核戦争を開始する大統領の権限に関して40年余りを経て初めて開かれた議会聴聞会で出てきました.
 イェール大学医学部で教える司法精神医学者で,暴力の専門家として世界的に有名なバンディ・リー医師に話を聞きます.彼女はベストセラーとなったThe Dangerous Case of Donald Trump: 27 Psychiatrists and Mental Health Experts Assess a President(『ドナルド・トランプの危険な症状:27人の精神科医とメンタルヘルス専門家が大統領を査定』)を編集しました,...」

  
   The Dangerous Case of Donald Trump

 上の番組の逐語録が,デモクラシー・ナウ!のウェブサイトで公開されています.(英語です.)(https://www.democracynow.org/2017/12/8/the_dangerous_case_of_donald_trump#transcript)
 精神医学者がトランプ氏が患っているかもしれない心の健康の問題を詳説しています.(あまりの深刻さに目まいがしそうです.)

 大統領など重職にある公人のメンタルヘルスを専門家が論じることは,今までもありました.
 デモクラシー・ナウ!などの報道の論調は,これほど多くのメンタルヘルス専門家が一致して重大な懸念を表した政治的指導者はトランプ氏が初めてだ,健康上の問題のため誤った判断(戦争など)を下す可能性がある,というものです.

 「心の健康」や「心の異常」という概念は,時代や文化や社会が異なれば,異なった仕方で概念化されうる「社会構成物」です.
 しかし心が身体,特に中枢神経系と密接に関連していることは明らかです.身体や中枢神経系は社会や文化の差違にかかわらない「自然の事物」です.
 アメリカの心の専門家がアセスしたトランプ氏の心の健康は,どこまで社会構成物もしくは自然の事物なのでしょうか.

2017年12月 7日 (木)

次回の批判心理学セッションは2月4日です

 2回目の批判心理学セッションが,12月3日に開かれました.
 下記は以前,当ブログに掲載したお知らせです.

 批判心理学セッションのお知らせ:ディスコース分析,心理学教育,イギリス批判心理学,心理学観,アメリカ心理学と対テロ戦争
(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2017/11/post-5d2a.html)


 このセッションでは心理学の歴史や哲学,心理学の用語・概念のメタ学問的検討,心理学者と心理学界に影響を与える諸要因,心理臨床家やアカデミックな心理学者の心理学観,原子力発電所事故や低線量被ばくの問題と心理学など,多様なテーマをめぐって自由に活発な討議が行われました.

 現在の制度的学問としての心理学や,その背景としての心への知的関心,「科学的心理学」の基礎といった心理学者が普段,正面から考えることの少ないテーマにあれこれと思いをめぐらす貴重な機会になりました.
 私は討議を大いに楽しみました.他の参加者もそれぞれ,刺激を得られたようです.


 次回の批判心理学セッションは2月4日(日)に開かれます.詳細が決まり次第,お知らせします.
 批判心理学に関心をおもちの方のご参加を歓迎いたします.

 話題提供者も募集しています.
 心理学の研究や理論,心理臨床,教育,社会的活動,諸領域での心理学の適用など,現行の心理学に問題を見いだした方,問題意識をシェアして新しい取り組みを探究しませんか?
 発表をご希望の方は,当ブログ開設者にお知らせください.

2017年11月29日 (水)

マーク・ファロン著「不正な手段:CIAと国防総省とアメリカ政府が共謀した拷問の内幕話」

 グアンタナモ収容所やCIAの秘密収容施設(ブラックサイト)におけるテロ容疑者への「過酷尋問」をめぐって,現在も活発な議論が続いています.

 拷問の再発防止や被害者・遺族への補償,真相の解明と責任の追究など,重要な問題が目白押しです.
 CIAによる「強化尋問技法」を用いた尋問(拷問)を担った心理学者の責任を問う裁判も始まりました.

 長年,アメリカ海軍犯罪捜査局に勤務し,1990年代から最前線でテロ対策に取り組んできた専門家がこの問題を論じた著書が10月に刊行され,話題を集めています.

 マーク・ファロン著「不正な手段:CIAと国防総省とアメリカ政府が共謀した拷問の内幕話」

Mark Fallon, Unjustifiable Means: The Inside Story of How the CIA, Pentagon, and US Government Conspired to Torture.Regan Arts, 2017)


 9.11同時多発テロの後,ホワイトハウスや国防総省,CIAはテロ情報を求めて容疑者に「過酷尋問」を行う政策を採用しました.
 著者のファロン氏はその政策が生まれ,設計され実施される過程を,内側から見てきました.「強化尋問技法」による尋問がグアンタナモや他のアメリカ国外の秘密収容施設で行われるに至った状況を,この本が教えてくれます.

 ページをめくると,ところどころ単語や語句が黒塗りにされています.ファロン氏は国防総省でテロ対策の要職に就いていたため,本書を刊行するには国防総省のチェックを受け許可を得る必要がありました.
 黒塗りされ隠された氏名などは,著者が取り組んだ仕事の重要性を示しています.

 強化尋問技法を開発しアルカイダ幹部に自ら過酷尋問を行った心理学者や,国防総省やCIAやホワイトハウスと協働して過酷尋問を実施する体制を支えたアメリカ心理学会も,同書に登場します.

 ファロン氏はテロ対策のために過酷尋問が有効だ,という主張は誤りだと言います.
 「心理学的拷問」を採用しなかったアメリカのテロ対策担当官の考えを,この本から知ることができます.

   

2017年11月26日 (日)

国際質的研究学会が5月に開かれます

 国際質的研究学会の第14回大会が来年5月16日から18日まで,アメリカのイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で開催されます.

 今次大会のテーマは「困難な時代における質的研究(Qualitative  Inquiry  In Troubled Times)」です.

 大会案内をみると,ブレグジット(イギリスのEUからの離脱)やトランプ米大統領の登場,それに対するグローバルな抗議,異論の抑圧,民主主義の倫理的基盤への攻撃など,解決の容易でない問題に直面している困難な時代における質的研究を問う,といった企画趣旨が記されています.

 大会の詳細は次のウェブサイトをご覧ください. http://icqi.org/
  

 国際質的研究学会は心理学を含む人文社会科学の様々な領域の質的研究者が集う学会です.質的研究に関する最も規模の大きな学会のひとつです.

 質的研究の目的も主題も方法も,理論的リソースも多様です.

 研究関心の多様さに応じて,13の「スペシャル・インタレスト・グループ」が設けられ,グループごとにまとめてプログラムが組まれ発表が行われます.

 13のうち,「批判心理学とポスト構造主義心理学(Critical and Poststructural Psychology)」と「批判的な質的研究(Critical Qualitative Inquiry)」のグループが,私のような批判心理学と質的心理学に関心をもつ研究者が集まるグループです.

 質的研究における批判心理学の位置をこの学会が例示している,と言えるでしょう.日本の質的心理学者の間で批判心理学があまり理解されていないのは残念なことです.






2017年11月25日 (土)

批判心理学の新シリーズ「セラピーの文化」(ラウトレッジ社)

 臨床心理学が生み出した各種の心理療法など,多くのセラピーが身近なものになりました.
 今日の日本社会で生きる私たちの周りには,臨床心理士が提供する治療的サービスを始め,さまざまな「いやし」が日常生活に普及しています.
 欧米の批判心理学者はこうしたセラピーがセラピーの利用者や社会にもたらすものに,かねて注目していました.

 その文化を問う新しいシリーズがラウトレッジ社から刊行されることになりました.

 叢書「セラピーの文化(Therapeutic Cultures)」(https://www.routledge.com/Therapeutic-Cultures/book-series/TC)

 イギリスとノルウェイ,スペイン,トリニダード・トバゴで活動する若手の批判心理学者を中心とする編集委員が今,この叢書の企画を練っています.

 シリーズの1冊として刊行される研究を募集中です.
 関心をおもちの方は上記のウェブ・サイトに記載されている編集委員にメールで相談できます.

 日本社会でも今,さまざまなかたちの「いやし」をもたらすセラピー文化が花開いています.欧米で発展したセラピーもあれば,日本で生まれたものもあります.
 日本の文化や社会の諸条件,他国の影響などのもとでセラピー文化が私たちに何をもたらしているか,どのような社会的機能をもっているかなど,興味深い主題でしょう.
 私たちの日々の経験の中から,面白い研究を発信できそうです.

2017年11月 5日 (日)

トランプ大統領 「容疑者をグアンタナモに送る」:TBSニュースの報道

 ニューヨークで起きたピックアップトラックの暴走によって8名が死亡したテロ事件を受けて,トランプ米大統領が「容疑者をグアンタナモ」に送る,と発言しました.
 TBSテレビが報道しました.


 トランプ大統領「容疑者をグアンタナモに送る」
(http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3200570.html)

 この報道によると「ニューヨークのテロ事件で拘束されたサイポフ容疑者について,トランプ大統領はキューバのアメリカ軍グアンタナモ基地にあるテロ容疑者の収容施設に送ることを「検討する」と述べ,「容疑者をグアンタナモに送ることを必ず検討する.そして,現在の刑罰より迅速で厳しいものを考え出さなければならない」と述べたそうです.
 また大統領は「サイポフ容疑者がアメリカに入国する際に利用した「移民多様化ビザ抽選プログラム」について,「悪い人たちが入ってくる抽選制度は要らない」と述べて,廃止すべきとの考えを示し」たとのことです.

 
11月2日付けで中日新聞も報道しました.
 トランプ氏,反移民鮮明 「野獣はグアンタナモに」
 (http://www.chunichi.co.jp/s/article/2017110201000638.html)

 2001年に9.11同時多発テロが起き,アメリカが主導する「テロとの戦い」が始まりました.
 ブッシュ政権はキューバにあるグアンタナモ米軍基地内にテロ容疑者を収容する施設を設置し,テロ情報を求めて捕虜や容疑者に「過酷尋問」を行いました.
 この尋問が被尋問者の心身に重大な悪影響を与えていることが,人権NGOの調査やマスコミ報道によって明らかになり,国際社会から厳しい批判を受けました. (「過酷尋問」は拷問の言い替えです.)
 人権や自由を重んじる民主的な国だと自認してきたアメリカの倫理的正当性に,疑いの目が向けられるようになりました.

 グアンタナモ収容所でのテロ容疑者への尋問の計画と実施に当たって米軍の臨床心理学者が重要な役割を果たしました.
 また,アメリカ心理学会幹部が国防総省やホワイトハウスの担当官と協力し,同学会の倫理指針を改定するなどして政府が求めた過酷尋問を可能にしました.

 2009年にオバマ前大統領が就任すると,過酷尋問を拷問と認めて禁止しました.その舞台になったグアンタナモ収容所を廃止しようと試みました.が,果たせないまま今年1月,トランプ政権が始まりました.

 トランプ大統領は選挙キャンペーン中からテロ容疑者への過酷尋問は必要だ,と繰り返し発言してきました.大統領職に就くと,CIA副長官にかつて過酷尋問を担った職員を登用しました.

 グアンタナモ収容所における過酷尋問をめぐる論争は今後も続きそうです.
 ニューヨークのテロ事件の容疑者は既に連邦裁判所が統括する米国の司法制度のもとで裁かれています.その容疑者を国外の軍事施設に移送する,という同大統領の発言は異例です.

 同収容所とそこで行われた(現在も一部,行われているかもしれない)過酷尋問,またアメリカの心理学者が過酷尋問に加担した事実は,長く歴史に刻まれることでしょう.

  アメリカやカナダではテレビや新聞,インターネットなどでのマスコミ報道により,グアンタナモにおけるテロ容疑者への拷問と,米軍やCIAの心理学者が「過酷尋問」を行ったこと,アメリカ心理学会がそれに加担した事実は一般に広く知られています.

 トランプ米大統領が「テロ容疑者をグアンタナモへ移送する」と述べた報道を聞いて,北米ではテロ容疑者への「心理学的拷問」を思い出した人が少なからずいたことでしょう.





2017年11月 4日 (土)

批判心理学セッションのお知らせ:ディスコース分析,心理学教育,イギリス批判心理学,心理学観,アメリカ心理学と対テロ戦争

 批判心理学セッションが12月3日(日),午後2時から開かれます.
 2回目のセッションでは原発事故のディスコース分析やメンタルヘルスに関する心理学教育,イギリス批判心理学,心理学者の心理学観,アメリカ心理学と対テロ戦争における尋問などについて話題提供が行われます.

 批判心理学に関心をおもちの方なら,どなたでも参加できます.
 気軽にお運びください.



批判心理学セッション(2) 
日時:12月3日(日),午後2時から
会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)です
話題提供1:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「原子力発電所事故のディスコース分析:「ただちに健康に影響はありません」をめぐって」
話題提供2:田辺 肇(静岡大学)「批判心理学を教育に活かすには?:精神保健福祉史,心理学史,心理学論における(2)」
話題提供3:百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所) 「Ian Parker.ed.
Critical Psychology: Critical Concepts in Psychologyを読む(2)」
話題提供4:小田 友理恵(法政大学大学院)「心理学観測定の試み」
話題提供5:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学)「アメリカ心理学と対テロ戦争における拷問:最近の展開」ncepts in Psychologyを読む(2)」
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会
参加費:無料
アクセス:JR山手線・京浜東北線 田町駅下車 芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)
所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6
※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありません.6階612号室までお越し下さい.


2017年10月25日 (水)

マセイ大学(ニュージーランド)が批判健康心理学者を公募しています

 マセイ大学心理学部(ニュージーランド)が,批判健康心理学者を公募しています.

 批判健康心理学に関心をおもちの方なら,同大学に所属する心理学者が刊行した研究論文や教科書などを一度は読んだことがあるのではないでしょうか.多くの研究成果が同大学の名の下で発表されています.

 ニュージーランドは認知行動主義的心理学が生まれ発展した英語圏の一角です.が,「客観的で科学的な人間一般」の科学(主義的)心理学だけでなく,批判心理学的な健康へのアプローチが発展しました.マオリなどのエスニック・マイノリティを植民者である白人が抑圧してきた歴史への反省が,心理学においてマイノリティの視点や権利を重んじるアプローチの背景となっています.


 
マセイ大学(Massey University)は批判健康心理学の大学院プログラムを開設しています.この領域の研究と教育で国際的に高い評価を得ています.
 プログラムの詳細については,同大学の下記のウェブサイトをご覧ください.

  マセイ大学における健康心理学(Health psychology at Massey)
  (http://www.massey.ac.nz/massey/learning/departments/school-of-psychology/postgraduate-study/general-degrees/specialisations/health-psychology/health-psychology_home.cfm)

 今回の公募ではこの教育プログラムの中心となる研究者を求めています.雇用期限のつかない終身職です.
 これから同大学で批判健康心理学の研究と教育を担っていく心理学者を採用しようとしているようです.


 公募情報の一部を下にお示します.
 詳細は次のサイトに記載されています
http://massey-careers.massey.ac.nz/9953/professor-associate-professor-in-critical-health-psychology

職位:
 教授もしくは准教授.批判健康心理学を専攻.終身職.

勤務地:
 マセイ大学の各キャンパス(
Albany,Wellington,Palmerston Northの各キャンパス

給与:
 (追って知らせるとのことです.)

応募の締め切り:
 12月1日.


 8月にアジア社会心理学会大会がオークランド近郊のマセイ大学オールバニー・キャンパスで開催されました.同大学の批判健康心理学者も研究発表を行いました.
 この学会に私も参加したのですが,同大における活発な研究の一端をかいま見ることができました.

2017年10月16日 (月)

トランプ米大統領のIQテスト:心理学化

 トランプ米大統領が「IQ」や「IQテスト」という言葉を用いた発言が,マスコミで報道されました.


 「トランプ氏,「IQ比べ」を提案 長官の「バカ」発言に」 朝日新聞電子版,10月11日

 記事によると,「米NBCは4日,(国防長官の)ティラーソン氏はイラン核合意などをめぐるトランプ氏の対応に不満を募らせ辞任を検討し,7月に国防総省内で開かれた会議ではトランプ氏を「バカ」と呼んで批判したと報じた.報道直後,ティラーソン氏は緊急会見を開いて辞任を否定したが,発言自体については明確に否定しなかった」とのことです.

 この報道に対して,トランプ米大統領は「もし本当にそう言ったのなら,知能指数(IQ)テストで比べなければ」と述べ,「米国のティラーソン国務長官がトランプ大統領を「バカ」と呼んだという報道を受けて,トランプ米大統領は10日配信の米経済誌フォーブスのインタビューで「IQ比べ」を提案し,トランプ氏は「どちらが勝つかはわかっている」と語り,自信を見せた」と朝日新聞が報じています.


 私が知る範囲では,昨年のアメリカ大統領選挙のときからトランプ氏がIQやIQテストを語った発言が報道されるのは,今回で3度目です.(当ブログで取り上げるのも3度目です.)
 IQやIQテストという用語とそれらが前提とする人間の「知能」に関する考えは,トランプ氏にとって自然化され,疑いの余地のない自明のものになっているようです.

 トランプ氏のように自分は「頭がいい」と考える人が,「頭が悪い」とされる人をこれらの言葉で非難したり侮蔑することは珍しくありません.

 心理学が生み出した用語や理論,検査,セラピーなどが人間を不幸にするために適用される例です.

 アメリカや日本など多くの国でトランプ氏の発言が報道されました.「IQ」や「IQテスト」という言葉と心観がマスコミ報道によっていっそう普及し浸透しています.
 心理学化が進行する事例です.






2017年10月 7日 (土)

「国際応用精神分析スタディーズ」誌の特集号:アメリカ心理学会と対テロ戦争における拷問

 2001年にアメリカを襲った9.11同時多発テロの後,アメリカ政府は「テロとの戦い」を開始しました.
 テロを防ぐためにCIAなどの情報機関は,テロ情報を知っていると考えられた容疑者への尋問をいっそう重んじるようになりました.
 通常の尋問で許されない,心身に激しい苦痛を与える「強化尋問技法」を用いた「過酷尋問」が行われました.

 CIAがアメリカ国外に設置した「秘密収容施設(ブラック・サイト)」に,テロ容疑者が国境を越えて「超法規的移送プログラム」によって秘密裡に送られ,CIAが雇用した軍事心理学者が過酷尋問を行いました.
 戦争捕虜の人道的処遇を定めたジュネーブ条約や国連拷問禁止条約に違反する「アメリカ史の汚点」だ,と人権NGOやジャーナリストが批判の声をあげました.
 第2次大戦で捕虜になった日本兵やドイツ兵を人道的に処遇するなど従来,アメリカは戦争捕虜の人権を擁護する国として知られていました.

 しかし対テロ戦争において,CIAや国防総省によって組織的に過酷尋問が行われました.チェイニー米副大統領(当時)らホワイトハウス指導部が,テロ容疑者への過酷尋問によってテロ情報を収集し,テロを防止する施策を求めていました.
 このため心理学者が開発した強化尋問技法による過酷尋問は,「アメリカ政府が認可した拷問」と呼ばれるようになりました.
 長年,自由や人権を重んじてきた「アメリカの建国の理念」が,国際社会で疑われる事態を招きました.

 CIAや国防総省などアメリカの軍事・情報当局がテロ容疑者への過酷尋問を立案し実施する過程で,アメリカ心理学会が重要な役割を果たしました.
 2003年3月にイラク戦争が始まりました.同年11月,キューバに米軍が設営するグアンタナモ基地内の収容施設で,捕虜やテロ容疑者が過酷な処遇(拷問)を受けている,という国際赤十字の調査報告書についてニューヨーク・タイムズが報道しました.
 臨床心理学者や精神科医などを構成員とする「行動科学コンサルテーションチーム(BSCT)」が,グアンタナモ収容所における過酷尋問に関与している,と報道されました.

 捕虜や容疑者への拷問に対する批判が高まると,アメリカ医学会やアメリカ精神医学会は拷問を拒否する方針を明確に示しました.
 一方,アメリカ心理学会幹部が国防総省やCIAに協力して「国家安全保障に関する尋問」に加担した事実が,マスコミ報道によって次第に明らかになりました.
 北米社会において心理学者とアメリカ心理学会への信頼が揺るがされることになりました.

 「国際応用精神分析スタディーズ」誌(International Journal of Applied Psychoanalytic Studies)が,この問題を論じた特集「アメリカ心理学会と対テロ戦争」(Special Issue: The American Psychological Association and the War on Terror)を刊行しました.

 下記のサイトで公開されています.12月末までオープンアクセス期間です.
  http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/aps.v14.2/issuetoc

国際応用精神分析スタディーズ誌(International Journal of Applied Psychoanalytic Studies)
特集「アメリカ心理学会と対テロ戦争」(Special Issue: The American Psychological Association and the War on Terror) 2017年6月

 特集号が収録する論文のタイトルを下にお示しします.
1.アメリカ心理学会:罪の免責から恥辱へ    (Ghislaine Boulanger)
2.アメリカ心理学会と拷問:どのようにして拷問が行われたのか? (Bryant Welch)
3.虚偽情報による攪乱,裏切り,子取り鬼(boogeyman):アメリカ心理学会と「心理学の倫理と国家安全保障
(PENS)に関する会長特命委員会」と拷問に加担した心理学者についての個人的考察     (Nina K. Thomas)
4.尋問の文化:グアンタナモ収容所の抑留者の監察評価    (Sarah Schoen)
5.クローゼットの中の骸骨:アメリカ心理学会の批判的検討    (Jeanne Wolff Bernstein)
6.反革命    (Frank Summers)

2017年10月 4日 (水)

批判心理学セッションと「批判心理学ハンドブック」(パーカー編,2015)

  (公社)日本心理学会 批判心理学研究会が企画した批判心理学セッションが1日,開かれました.

 世界の心理学ワールドの中での批判心理学の位置づけや,相模原事件とヘイトスピーチ,日本の精神科医療と福祉,ドイツ批判心理学などを主題とする話題提供に続いて,自由に意見交換を行いました.
 関西や東海地方からの参加者も加わり,大学院のゼミのように少人数での熱心な討論の場となりました.
 (批判心理学「セッション」はシンポジウムのようなフォーマルなかたちではなく,ジャズのセッションのように自由に討議し知的刺激を与え合う場を目指しています.)

 次回の批判心理学セッションは12月に開かれる予定です.詳細が決まり次第,お知らせします.


 日本でも批判心理学への関心が高まりつつあります.
 心理学研究が発展し,心理学と心理学の産物である心理検査やセラピー,心と行動を説明する用語や理論などの心理学知識が社会の諸領域に浸透すると,心理学が抱えている問題も次第に明らかになります.

 そこから既存の心理学の研究や心理臨床,教育,社会的活動,学会活動,社会諸セクターでの応用などへの「批判」的取り組みが始まるのは,日本でも他の国・地域でも同じです.

  もし心理学が今日の日本で重要でないなら,たとえ深刻な問題を見いだしたとしても,わざわざ「批判」的な心理学を始める必要はありません.
 声をあげることなく,ただ心理学から立ち去ればよいでしょう.

 批判心理学者が心理学にあえて「批判的に取組む」のは現在,日本社会で生きる私たちにとって,心理学があまりに重要なものになったからです.
 こうした立場から批判心理学に取り組む心理学者が世界各地で,自分が見出した問題を解決するために活動しています.


 批判心理学の全体像を手軽に知りたい,という方に下記のハンドブックを推薦します.


 イアン・パーカー編 批判心理学ハンドブック ラウトレッジ社 2015
 (Parker, I. (ed.). Handbook of Critical Psychology, 2015, Routledge)

 主流心理学の諸領域への批判的アプローチや,批判心理学の新しい理論と方法,多様な批判心理学的実践の実際,世界の各地域における展開を手際よくレビューする諸章を収録しています.
 1章あたり10ページから10数ページと短く,読みやすいフォーマットで編集されています.
 初めて批判心理学を学ぶ方にお薦めです.北米やイギリス,ドイツなど特定の国・地域に偏った視点ではなく,幅広い視界を提示しています.執筆者は欧米とラテンアメリカ,アフリカ,アジアの各地の批判心理学者です.

 できれば日本語で読みたいですね.
 どなたか,日本語に翻訳しませんか?


 下に各章のタイトルをお示しします.邦題は当ブログ開設者による試訳です.

イアン・パーカー編 批判心理学ハンドブック 2015
1. イントロダクション  Ian Parker
第1部: 心理学とその批判の多様性
第1部a: 主流
2. 量的方法:科学の方法と目的  Lisa Cosgrove, Emily E. Wheeler & Elena Kosterina
3. 認知心理学:中産階級の個人から階級闘争へ  Michael Arfken
4. 行動主義:徹底的行動主義と批判的探究  Maria R. Ruiz
5. 感情:主流心理学を越えて  Paul Stenner
6. 生物学的心理学と進化心理学:批判心理学の極限  John Cromby
7. パーソナリティ:テクノロジー,商品,病理学  China Mills
8. 発達心理学:脱構築への転回  Erica Burman
9. 社会心理学:組織研究を論評する  Parisa Dashtipour
10. 異常心理学:さまざまな障害の心理学  Susana Seidmann & Jorgelina Di Iorio
11. 犯罪心理学:臨床的,批判的視点  Sam Warner

第1部b: 主流心理学を問うラディカルな試み
12. 質的方法:批判的実践と多様な領域の展望
13. 理論心理学:核心的問題の批判的哲学概説  Thomas Teo
14. 人間性心理学:批判的対抗文化  Keith Tudor
15. 政治心理学:権力への批判的アプローチ  Maritza Montero
16. コミュニティ心理学:主観性と権力と集団性  David Fryer & Rachael Fox
17. 組織心理学と社会問題:場所が位置づけられる地点  Mary Jane Paris Spink & Peter Kevin Spink
18. カウンセリング心理学:重要な成果と可能性と限界  Richard House & Colin Feltham
19. 健康心理学:ウェルビーイングと社会正義のための心理学を目指して  Yasuhiro Igarashi
20. ブラックサイコロジー:抵抗と再生と再定義   Garth Stevens
21. 女性心理学:ポリティクスと実践の諸問題   Rose Capdevila & Lisa Lazard
22. 「レズビアンとゲイの心理学」から「セクシュアリティの批判心理学」へ  Pam Alldred & Nick Fox

第1部C: サイ-コンプレックスの隣接領域 
23. 精神鑑定医と疎外:自分探しをする批判的精神医学  Janice Haaken
24. 心理療法:改革のエージェントか,修理屋か  Ole Jacob Madsen
25. 教育と心理学: ついに変化がおとずれるのだろうか?  Tom Billington & Tony Williams
26. ソーシャルワーク:抑圧と抵抗  Suryia Nayak
27. セルフ・ヘルプ: ポップ・サイコロジーとともに    Jan De Vos

第2部: さまざまな批判心理学
28. 活動理論:理論と実践  Manolis Dafermos
29. マルクス主義心理学と弁証法的方法  Mohamed Elhammoumi
30. ドイツ批判心理学:主体の立場からの心理学  Johanna Motzkau & Ernst Schraube
31. 精神分析が批判心理学に言うべきことは?  Kareen Ror Malone with Emaline Friedman
32. 脱構築:批判心理学の基礎  Andrew Clark & Alexa Hepburn
33. ドゥルーズ的視点:スキゾ分析と欲望のポリティクス  Hans Skott-Myhre
34. ディスコース心理学: おもな見解,いくつかの対立と2つの事例  Margaret Wetherell

第3部: 心理学と批判心理学に関するさまざまな立脚点と視座 
第3部a: さまざまな視座
35. フェミニスト心理学:研究,介入,課題  Amana Mattos
36. クイア理論:批判心理学を解体する  Miguel Rosell Pealoza & Teresa Cabruja Ubach
37. 解放の心理学:もうひとつの批判心理学  Mark Burton & Luis Gmez
38. 土地固有の心理学と批判的な抑圧から解放する心理学  Narcisa Paredes-Canilao, Ma. Ana Babaran-Diaz, Ma. Nancy B. Florendo & Tala Salinas-Ramos with S. Lily Mendoza
39. ポストコロニアル理論:批判心理学の世界へ向けて  Desmond Painter
40. 批判的ディザビリティ・スタディーズから批判的でグローバルなディザビリティ・スタディーズへ  Shaun Grech
41. 批判心理学のための政治的見識を備えた内在的スピリチュアリティ     Kathleen S. G. Skott-Myhre

第3部b:様々な地点
42. アフリカの批判心理学:不可能な課題  Ingrid Palmary & Brendon Barnes
43. 政治心理学とアメリカ大陸:植民地化と支配から解放へ  Raquel S. L. Guzzo
44. アラブ世界の批判心理学:パレスティナの植民地の文脈における批判コミュニティ心理学からの考察  Ibrahim Makkawi
45. アジアの批判心理学:4つの基本的概念  Anup Dhar
46.ヨーロッパの批判心理学の動向:心理学の常習的悪行への道  Angel J. Gordo Lopez & Roberto Rodrguez Lpez
47. 南太平洋:私たちの居場所の中にある空間の緊張  Leigh Coombes & Mandy Morgan

2017年9月14日 (木)

カリフォルニア大学サンタクルーズ校が社会正義を研究する社会心理学者を2名,公募しています

 カリフォルニア大学サンタクルーズ校の心理学科が,社会正義を研究する社会心理学者を2名,公募しています.テニュア・トラックの職種です.
 
 ・職種:助教授(2名).終身雇用も可
 ・専門領域:社会正義に関する社会心理学
 ・給与:経験や資格等に応じて決定
 ・応募期限:10月2日


 カリフォルニア大学サンタクルーズ校には,低所得層出身のヒスパニック系学生が多く学んでいるそうです.
 同大心理学科が社会正義を主題とする社会心理学プログラムを設けているのは,学生や地域社会のニーズを反映しているのでしょう.

 こうした社会心理学を実践する研究者は,本人が自称するかはどうかは別として,おそらく「批判心理学者」です.

 もう
十数年前のことですが,アメリカの心理学ワールドでは「批判的(critical)」という言葉は「コミュニスト」を連想させ,強すぎるという話をアメリカの心理学者から聞いたことがあります.
 (つまり,批判心理学者を自称する若手研究者がアメリカの大学で職を得るのは難しい,ということです.同じ北米でもカナダではそれほど困難ではなかったようです.)

 アメリカは「客観的な科学的心理学」が生まれ発展した土地柄です.また歴史的に共和党と民主党の2大政党の他に政権政党を批判する野党の存在感に乏しく,「批判」という言葉が過度にラディカルに響くようです.

 元来,科学や学問は既存の研究成果を批判的に検討するところから,次の新しい研究が始まります.
 「批判」がネガティブな含意を帯びている現状は不幸なことですね.

 しかし2010年代後半の今日では,アメリカの心理学者が「社会正義」や「フェミニズム」について語ることは,タブーではなくなりました.


 公募情報の詳細は次のサイトに記載されています.

   https://apo.ucsc.edu/academic_employment/jobs/JPF00464-18.pdf

 これをみると,社会正義の社会心理学の主題や観点として,下記が例として挙げられています.
  ・社会正義と構造的問題
  
種やエスニシティと不平等
  
抑圧と特権
  
偏見やステレオタイプ,差別への領域横断的アプローチ
  
社会的経済的正義を目指すさまざまな運動
  
犯罪と正義の制度の社会心理学
  
教育にまつわる諸問題
  
新自由主義的な政策と実践の社会心理学
  
移民の諸問題
  
コロニアリズムと脱植民地化
  
健康と健康格差の社会心理学
  
政治心理学
  
環境問題と正義
  
女性やマイノリティが高等教育において直面する諸問題

2017年9月12日 (火)

ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ソーシャルサイコロジーの特集「急激な社会変動を理解する」

 ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ソーシャルサイコロジーが,特集「急激な社会変動を理解する:新しい視点と方法」に掲載する論文を募集しています.
 同誌編集委員会から,論文の投稿を促すメールが届きました.

 この特集では特に,下記の3つの主題に関する研究が重んじられています.
・分離主義的事象(ブレクジットやスコットランドの独立問題など)と個人の心理学的転換と社会変動
・極端へと振れること(polarization)をどう説明するか
・どのようにして個人の内部の変化が社会変動へと結びつくか


 同誌はバリバリの主流心理学(客観的な科学的心理学)のジャーナルです.
 しかし,ときに実生活における重要な社会的問題・課題を取り上げています.

 EUからのイギリスの離脱や移民の増加に伴う諸問題,スコットランドの独立問題,トランプ現象の影響など,イギリスの社会心理学者にとって本来,重要な問題です.
 科学的心理学は社会問題や政治的問題から距離をおくべきだ,こうした問題に係れば,客観性や価値中立性が侵されることになる,という声も聞こえそうです.

 しかし,社会と個人の心や生活に大きな影響を与えている社会的事象を社会心理学が研究しないなら,その方が不自然です.
 同誌がこうした特集を企画するのは,主流心理学の変化を示すよい兆しといえるでしょう.

 論文の投稿を検討している場合は今月末までに,500語のアブストラクトを編集委員会に提出する必要があります.アブストラクトが審査され,投稿の可否が決められます.
 詳細は下記のサイトをご参照ください.
  
「急激な社会変動を理解する:新しい視点と方法(Understanding rapid societal change: Emerging perspectives and methods)」
  (http://onlinelibrary.wiley.com/journal/10.1111/(ISSN)2044-8309)

 現在,進行している急激な社会の変化を主題として,どのような新しい視点と研究方法が提示されるか,ワクワクします.
 日本社会で生活を送る私たちも近年,政治経済や外交問題など,様々な変化を経験しています.
 近い将来,これらを対象として社会心理学や心理学の専門誌が特集号を企画するようになるでしょうか?



2017年9月11日 (月)

BBCラジオの番組『良い心理学者,悪い心理学者』:テロ容疑者への「心理学的拷問」

 BBCのラジオ4が9.11同時多発テロの後,アメリカが戦う「テロとの戦争」において,心理学者が加担してテロ容疑者に行われた「過酷尋問(心理学的拷問)」を問う番組を放送しました.

 「良い心理学者,悪い心理学者(Good Psychologist, Bad Psychologist)」
 BBC Radio 4.8月30日に放送.
 この番組は下記のサイトで公開されています.
  
http://www.bbc.co.uk/programmes/b092fwzr

 2009年にオバマ米大統領(当時)が「我々は拷問を行った」と記者会見で述べた音声や,パキスタンでアルカイダ幹部を捕捉する作戦を指揮したCIA要員へのインタビュー,拷問を受けた被害者の肉声などが取り上げられています.

 「強化尋問技法」を開発してテロ容疑者に自ら過酷尋問を行ったアメリカの軍事心理学者も登場します.アメリカの法律家がこの技法による尋問は拷問ではないと認定した,だから自分は罪を問われない,と主張しています.

  強化尋問技法を支える理論になった「学習性無気力」と,この現象をイヌを被験体とする学習心理学実験を行って見いだし,理論化したアメリカの心理学者マーティン・セリグマンも取り上げられています.
 ポジティブ心理学の創始者として日本でも有名になりました.アメリカ心理学会会長を務め,存命する北米の心理学者の中ではもっとも著名なひとりです.

 また,アメリカ心理学会とアメリカの心理学者がテロ容疑者への過酷尋問に加担した実態を解明し,同学会会員が「国家安全保障に係わる尋問」に関与しないよう同学会の倫理指針を改訂する活動を行ったアメリカの心理学者も,インタビューに答えています.

 番組のタイトルに含まれる「良い心理学者」は彼(女)らを指しているのでしょう.「悪い心理学者」はもちろん,強化尋問技法を開発して尋問を行った軍事心理学者や,彼らに助言しサポートした心理学者たちです.

 30分足らずの短い番組ですが,対テロ戦争における心理学的拷問の争点を手際よく説明しています. (英語音声のみ)



2017年8月15日 (火)

批判心理学セッションのお知らせ

 批判心理学について気楽に,自由に討議する場を設けるため,「批判心理学セッション」を始めます.
 このセッションでは話題提供者の報告に続いて,参加者がテーブルを囲んで討論します.
 シンポジウムのようなフォーマルな仕方ではなく,より自由に語り合うという意味で「セッション」と名づけました.

 10月1日(日)に第1回のセッションを開きます.
 批判心理学に関心をおもちの方は気軽にご参集ください.


批判心理学セッション①  「批判心理学をはじめよう!」
日時:10月1日(日),午後5時から
会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室です.(エレベータを出て左側正面)
話題提供1:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「世界の心理学の中の現代批判心理学運動」
話題提供2:いとう たけひこ(和光大学) 「相模原事件と批判心理学:向谷地生良の思想を手がかりに」
話題提供3:田辺 肇(静岡大学) 「批判心理学を教育に活かすには?:精神保健福祉史,心理学史,心理学論における」
話題提供4:百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所) 「Ian Parker.ed., Critical Psychology: Critical Concepts in Psychologyを読む(その1)」
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会
アクセス:JR山手線・京浜東北線 田町駅下車 芝浦口徒歩1分
(http://www.cictokyo.jp/access.html).所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありませんので6階612号室までお越し下さい.


 批判心理学研究会はこれまで,日本心理学会大会や発達心理学会大会,国際心理学会議(ICP)などでシンポジウムを開いてきました.
 今世紀に入り世界の心理学界で批判心理学に対する関心が高まっています.気楽に発表して議論できる場が必要と考え,批判心理学研究会がこのセッションを設けます.
 今後,隔月で開く予定です.ふるってご参加ください.

 

2017年8月11日 (金)

カナダ批判心理学ネットワーク

 カナダの各地で批判心理学に取り組む心理学者がネットワークを築き,ウェブページを立ち上げました.

 カナダ批判心理学ネットワーク
 
(http://criticalpsychnetwork.blog.ryerson.ca/)

 同国で活動する批判心理学者をカナダ全土にわたって多数,紹介しています.
 批判心理学に関心をもつ学生がコンタクトできるよう,必要な情報を提供することを主たる目的としています.

 今世紀に入り世界的な心理学の新潮流として知られるようになった批判心理学は多様です.同ネットワークはカナダの今日の状況に応じた批判心理学を実践しているといえるでしょう.

 同じ北米でもアメリカ合衆国ではこうした批判心理学者のネットワークが築かれることは,おそらく近い将来には期待できそうにありません.
 米国は認知行動主義に依拠する「科学(主義)的心理学」が生まれ発展した場所柄です.ニューヨーク市立大学など批判心理学による研究と教育を重んじる大学もありますが,いまだに少数にとどまっています.

 米国に比べるとカナダにはもっと多くの批判心理学者が活動しています.米国の大学で批判心理学的研究によって学位を取得した同国出身の心理学者が,米国内で職を得られず,カナダの大学に就職する例もあります.
 カナダでは臨床心理学や社会心理学から理論心理学や心理学史研究まで,幅広い領域で批判心理学的実践が発展しています.

 同ネットワークは始まったばかりですが,次代を担う大学院学生に有意義なサポートや刺激を与えられるといいですね.
 近い将来に成果が生まれると確信しています.

 カナダで批判心理学に取り組んでいる友人たちにエールを送ります.

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