理論心理学,批判心理学とは?

理論心理学と批判心理学

 理論心理学(theoretical psychology)は,今日ではさまざまに分化した心理学の多くの専門領域のひとつです.
 理論的問題を研究主題とするため,心理学の一領域でありながら,その全体をみわたす視座から研究活動を行っています.
 心理学に関する理論的問題は19世紀の最後の四半世紀の間に,大学における制度的学問として心理学が成立して以来,諸国の研究者の関心を集めてきました.

 しかし「理論心理学」という言葉は多義的で,どのような心理学なのか分かりにくい,という声も聞きます.

 国際理論心理学会(International Society for Theoretical Psychology)に集う研究者の多くは,理論心理学とは「心理学のメタ学問」である,と考えています.
 心理学史や心理学の哲学・社会学などを探究し,今日までに心理学が生み出した数多くの理論と研究方法論を比較検討し,理論構成にかかわる諸問題を考察して,新たな理論の構築を含め新しい心理学を目指しています.

 現行の心理学を変革しようと企図する批判心理学者にとって,理論心理学がもたらす既存の心理学の歴史や哲学,社会的位置などの描像は研究を含む様々な実践の出発点です.
 
国際理論心理学会(ISTP,1985年創設)やアメリカ心理学会 理論・哲学心理学部会(第24部会,1963年創設)などで,メタ学問的研究に取り組んでいます.代表的な学術誌に Theory&Psychology 誌や Journal of Theoretical and Philosophical Psychology 誌があります.

 心理学のメタ学問としての理論心理学は,批判心理学(critical psychology)の基礎となるものです.「批判」という言葉は,特に日本語ではネガティブな印象をもたれやすいようです.
 しかし,批判心理学は他者の活動をただ批判するような後ろ向きの心理学ではありません.

 20世紀は「心理学の世紀」だった,と言われます.前世紀をとおして心理学は多方面に発展し,大学における研究のようなアカデミックな領域でも,産業や教育,軍事,司法,医療,福祉,行政など様々な社会セクターにおいても心理学の存在感が高まっています(心理学化の進行).
 心理学は教科書に記されているような数多くの成果をもたらしました.それは心に関する学問を推進し,人々の生活にとって有用な多くの知識や技術を産出してきました.

 しかし,「客観的で科学的な人間一般の心理学」のよそおいのもとで特定の文化的,社会的価値を自然化し,日常生活の中で人々の内的性質を管理・統制して主観性と実生活にときに偏った影響を及ぼすなど,その負の側面にも目を向ける必要があります.

 現行の心理学が人間の幸福や福祉に寄与しているか(反対に幸福や福祉を阻害していないか),心理学研究をとらわれのない立場から推進しているか,といった視点から,心理学と心理学者の営みを批判的に検討して,新しい心理学のあり方を探究する研究者は稀ではありません.

 批判心理学は現行の心理学がかかえている様々な問題(理論構成,研究や心理臨床などの実践,心理検査などの心理学的所産,心理学の教育や制度,社会との関係など) を検討し,解決しようとしています.
 そのために理論心理学が様々なリソースをもたらしてきました.
 

 批判心理学はある特定の学派や理論や方法ではありません.上記のように既存の心理学を変えようと取り組むスタンスが批判心理学を特徴づけています.批判心理学者の多くは,心理学と自分自身を反省的に振り返るリフレキシビティを共有しています.

 こうした立場にたつ欧米やラテンアメリカ,アフリカ,アジアの心理学者が方法や理論などの相違を越えて近年,連携するようになりました.これを私は20世紀末以降の世界の心理学の特徴のひとつと捉え,現代批判心理学運動と呼んでいます.

 諸国の批判心理学者が取り組む課題も,そのために採用する方法も理論的リソースも多様です.
 フェミニスト心理学や解放の心理学,ポスト構造主義心理学,社会構成主義,反人種差別の心理学,質的心理学,ポストコロニアル心理学,LGBTQ心理学,ドイツ批判心理学(ベルリン学派),批判的コミュニティ心理学,メタ学問としての理論心理学,新しい心理学史などの立場から「批判的に心理学に取り組むdoing psychology critically」研究者が多いようです.

  こうしたことから英語表記では‘critical psychology’ではなく,‘critical psychologies’と複数形で表すことも少なくありません.


おすすめの文献
 批判心理学と理論心理学を詳しく知るには,下記の文献が役に立ちます.

Parker, I. (Ed.) (2015) Handbook of Critical Psychology (Routledge International Handbooks). Routledge.


Teo, T. (Ed.) (2014) Encyclopedia of Critical Psychology (4 vols.). New York: Springer.

Teo, T. (2015, January 26) Critical Psychology: A Geography of Intellectual Engagement and Resistance. American Psychologist. Advance online publication.

Dafermos, M., Marvakis, A., Mentinis, M., Painter, D. and Triliva, S. (Eds.) (2013) ‘Critical psychology in a changing world: building bridges and expanding the dialogue (Special issue)’, Annual Review of CriticalPsychology,10. (https://discourseunit.com/annual-review/10-2013/)

五十嵐靖博 (2011) 「批判心理学とは何か:現代批判心理学運動と日本における可能性」.心理科学,第32巻第2号.

五十嵐靖博 (2004) 「理論心理学:心理学のメタサイエンス」 (『入門マインドサイエンスの思想:心の科学のための現代哲学入門』(新曜社)に所収)


批判心理学セッション
 批判心理学研究会は2010年から日本心理学会の年次大会などでシンポジウムを開いてきました.
 2017年10月に批判心理学にかかわる様々な主題を自由に発表し,討議する場として批判心理学セッションを始めました.批判心理学研究会が主催します.
 批判心理学に関心をおもちの方は,どなたでも参加できます.

 気軽に,前向に批判心理学について語り合いましょう.
 セッションは隔月で開かれます.各セッションの日時やプログラムなどの詳細は随時,当ブログでお知らせします.



2019年5月15日 (水)

「資本主義の病理学」という心理学の国際会議

 コスタリカの心理学者から来春,当地で開かれる国際会議の知らせが届きました.
 その国際会議は「資本主義の病理学に関するコスタリカ会議2020(PATHOLOGIES OF CAPITALISM
COSTA RICA 2020)」です.

 心理学者が主催し,世界各地から心理学者が集う学術会議が「資本主義の病理学」と題されていることに,驚かれた方も多いことでしょう.
 心理学がなぜ,政治経済の問題である資本主義とかかわりがあるのだろうか,と疑問に思われたなら,自分の心観を振り返えるよい機会です.

 認知行動主義的アプローチをとる「主流心理学」では,心理学は「心と行動」の科学と定義づけられています.
 しかしこの立場はすでに,特定の心理学の哲学に依拠しています.
 素直に字義通りに考えれば,心理学は「心を研究対象とする学問」でしょう.

 北米で生まれ発展した認知行動主義は個人の内部に閉じた心が行動に反映される,という心理学の哲学を採用しています.
   ここには北米の個人主義的な文化が表れている,とかねて多くの理論心理学者や批判心理学者が指摘してきました.
 もともと北米社会の文化や価値観に根差したものだったので,「個人の内部に閉じた心」という心観が北米社会で自明視されるようになった,といえそうです.

 しかし,それにとどまらず心に影響を与え,その在り方を規定している個人を超えた諸要因ー政治経済や社会構造,文化などーを検討することも可能です.
 特に20世紀末以降,北側諸国が推し進めた新自由主義経済政策の下でグローバル競争が激化し,世界の多くの国・地域の雇用や物価に作用が及び福祉や文教,環境などに関わる政府の政策が改悪されるなど,人々の生活に大きな影響を及ぼしています.
 それが個人の心のあり方や心身の健康に関わることは言うまでもありません.
 そこで「資本主義の病理学」という視点が重要だと考える心理学者が,世界各地で同時多発的に現れました.

 2020年会議は来年4月1日から3日まで,コスタリカ大学で開催されます.詳細はメール(patologiasdc@gmail.com )にて問い合わせてください.
 イグナティオ・ドブルス・オロペザ(Ignacio Dobles Oropeza)教授を中心に,コスタリカ大学の心理学者たちが国際会議を主催します.

 「資本主義の病理学」に関する心理学の国際会議は昨秋,ニューヨークで1回目の会議が開かれました.
 この会議は50人の招待者に限定されたものでしたが,思いがけず,私も招待状を受け取りました.
 せっかくの機会ですので参加したところ,旧知の批判心理学者や心理学史研究者も出席していました.
 心理学の諸領域や関連する諸学問の多様な視角から資本主義の政治経済と心の関係をめぐって発表と活発な討議が行われました.私も他の出席者たちも,多くの新しい知的刺激を受けました.
 今後,こうして共有された経験から,世界の各地で新しい心理学が生まれてくることでしょう.

 来春開かれる「資本主義の病理学に関するコスタリカ会議2020(PATHOLOGIES OF CAPITALISM
COSTA RICA 2020)」はそのひとつです.
 この国際会議は招待者限定ではなく,世界の多くの心理学者と心理学に関心を持つ諸学問の研究者に開かれています.

 

2019年5月 9日 (木)

批判心理学セッションのお知らせ:社会心理学とコミュニケーションの新しい視点,現代ロシアの心理療法,自己肯定感の歴史

 6月2日,日曜に10回目の批判心理学セッションが開かれます.

 今回もユニーク,かつ重要な研究が発表されます.
 G.A.ケリーとコミュニケーション,旧ソビエト心理学の現代的展開としての新しい心理療法の理論,今日の日本社会における「自己肯定感」の起源とその影響など,他の学会や研究会では聴く機会の稀なテーマが発表されます.
 きっと,話題提供を受けて交わされる討議も,知的刺激に満ちたものになることでしょう.

 批判心理学に関心をお持ちの方は,どなたでも参加できます.
 参加費は無料です.


批判心理学セッション11
日時:6月2日(日),午後2時から

会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)

話題提供1:増田 匡裕(和歌山県立医科大学)「コミュニケーション学でもらった“玉手箱”を心理学の“浜辺”で開けてみると(その2:承前):G.A.Kellyの理論で対人コミュニケーションを説明するとはどういうことか」

話題提供2:百合草 禎二(常葉大学名誉教授)「エフ・イエ・バシリョク『体験の心理学:危機的状況の克服の分析』の第1章「体験の現代的見解」を読む」

話題提供3:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学)「『自己肯定感』という言葉の起源と展開:心理学史研究と批判心理学の立場から」

主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会

参加費:無料

アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)
所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.
※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありません.6階の612号室までお越し下さい.

 

2019年4月22日 (月)

次回の批判心理学セッションは,6月2日に開かれます

 10回目の批判心理学セッションが昨日,開かれました.

 第1部は今道友昭先生による批判環境心理学に関するレクチャーでした.
 日本ではまだ知られていない,この研究領域の主題や基本的な考え方,社会的,政治経済的背景などを詳しくうかがうことでができました.アメリカの,特にニューヨークの生活環境や社会構造が新しい学問の発展を導く実例を学びました.
 批判環境心理学が今後,どのような理論や実践を生み出すか,注目されます.

 第2部の話題提供では現在,ロシアで展開している心理療法の理論と哲学を学ぶことができました.ソビエト心理学が培った長く分厚い理論的研究伝統に根ざして,新たな心理療法が創出される研究実践を初めて知り,強い印象を受けました.
 おそらく日本国内でこの主題について聞く機会は,他では得られないのではないでしょうか.

 次回の批判心理学セッションは6月2日に,同じ会場で開かれます.
 発表を募集しています.関心をおもちの方は当ブログ開設者にご連絡ください.

批判心理学セッション10
日時:4月21日(日),午後2時から
会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)
第1部 講演
今道 友昭(ニューヨーク市立大学・ラガーディアコミュニティーカレッジ) 「批判環境心理学の挑戦:その成果と課題」
第2部 話題提供
1.百合草 禎二(常葉大学名誉教授) 「エフ・イエ・バシリョク『体験の心理学:危機的状況の克服の分析』を読む」
2.五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「原子力発電所事故の心理学<序説>:批判心理学,ディスコース分析と理論心理学からの取組み」

 

2019年3月29日 (金)

2020 Critical Psychology Conference in East Asia

  2020 Critical Psychology Conference in East Asia will be held on February 29th and March 1st, 2020 at Wako University in the City of Machida in Tokyo.

Aims:
  The international critical psychology movement has been provoking changes in the psychological world since the turn of the 21st Century. Although it not as strong as in the UK, North Europe, South Africa, Canada, and Latin America, critical psychologists are carrying out important work here in East Asia. The principal aim of the 2020 Critical Psychology Conference in East Asia is to connect critical psychologists in this area and to connect them with critical psychologists with parts of the globe.

  So called ‘modern psychology’ has long history in East Asia. Western psychology was introduced into Japan from the late 19th Century, soon after Japan emerged from its period of isolation and set about building a modern state following the models of Western powers. Psychology was institutionalised as a new discipline in several Japanese universities by the early 20th Century. Japanese psychology stimulated the development of psychology elsewhere in East Asia, a manifestation of intellectual and ideological colonization as the Empire of Japan expanded its territory in the region. These are among the origins of psychology in East Asia.
  Since the latter half of the 20th Century, psychology in East Asia has developed, each country affecting the other, sometimes intentionally, sometimes unintentionally. Psychologists there share Buddhism, Confucianism, Chinese characters and other cultural-political factors as a background and moral tradition. Now psychology has developed both in academia and in various kinds of social sectors where psychological knowledge has been used for their purposes of treating their ‘objects’, people.

  Psychology in East Asia has problems such as psychologization and Americanization among others. Although critical psychologists in East Asia have been working to tackle these problems, they have not known each other well as yet. There are no networks of critical psychologists here, as exist in Europe, US and Latin America, to an extent, in Africa. By connecting ourselves, and connecting with critical psychologists in other area of the globe, we expect something great will be born.

  We hope to create a forum to facilitate exchanges among critical psychologists in East Asia and exchanges between them and critical psychologists around the world to make change in psychology and psychologized society in pursuit of the welfare of people and advancement of knowledge.

 

Date:
  February 29th & March 1st, 2020.

Venue:
  Wako University in the City of Machida, Tokyo.
  (Address: 2160 Kanai-machi, Machida-shi, Tokyo 195-8585 JAPAN)

 

Conference process
 
2020CPCEA will be held in a single plenary session, without parallel sessions. Every conference participant will be strongly encouraged to attend every presentation and to share relevant thoughts, views and experiences in post-presentation discussions.

 

Submission of paper proposals
 
Please submit proposals for conference presentations by email as MS Word attachments, including the title, a 250-word abstract and brief biographical information, by October 1st 2019 to: Yasuhiro Igarashi (yigarashi@yamano.ac.jp) with 'Submission for 2020CPCEA' in the subject line.

 

Participation fee:
   Free, except for lunch expenses (TBA). The conference is supported by Wako University and Critical Psychology Colloquium of Japanese Psychological Association.

  

Language used for presentation:
  
English

  

Who should participate?
  Those interested in critical psychology specifically in East Asia but also from around the world as it connects with developments in East Asia, are welcomed. Not only psychologists, but also researchers and students in other disciplines and people who have an interest in critical psychology are warmly welcomed.
 We are sure new approaches and practices to tackle problems psychology suffers from and problems caused by psychology, will be made more visible from these close exchanges by the participants at the conference.

  Papers presented at the conference can be published in in the special issue of Annual Review of Critical Psychology devoted to the conference.

  Please contact the organize committee to know more about the conference.

 

Suggested readings on critical psychology in East Asia:

Bo Wang. (2013). Working at the Borders: Reconstructing the History of Chinese Psychology from the Perspective of Critical Psychology. Annual Review of Critical Psychology 10. (https://discourseunit.com/annual-review/10-2013/)

Fu Wai. (2013). Critical Psychology is not psychology: an essay from the perspective of an ancient Chinese philosopher Gongsun Longzi written by a so-called Hong Kong psychologist. Annual Review of Critical Psychology, vol. 10.  (https://discourseunit.com/annual-review/10-2013/)

Zhipeng Gao. (2013). The Emergence of Modern Psychology in China, 1876 – 1929. Annual Review of Critical Psychology, vol.10. (https://discourseunit.com/annual-review/10-2013/)

Yasuhiro Igarashi. (2006). Role of Critical Psychology in Japan: Protest Against Positivistic Psychology and Search for New Knowledge of the Mind. Annual Review of Critical Psychology, vol.5. (https://discourseunit.com/annual-review/5-2006/)

Yasuhiro Igarashi, Atsuko Aono, Tin Tin Htun, Satoshi Suzuki, & Hajime Tanabe. (2013). Critical Psychology in Japan: Voices for change. Annual Review of Critical Psychology, vol.10. (https://discourseunit.com/annual-review/10-2013/)

 

Conference organize committee:

  Yasuhiro Igarashi, Yamano College of Aesthetics, Japan. Chair.  (Email: yigarashi@yamano.ac.jp)

  Takehiko Ito, Wako University, Japan.  (Email: take@wako.ac.jp)

  Fu Wai, Hong Kong Shue Yan University, Hong Kong.  (Email: wfu@hksyu.edu)

  David Fryer, University of Queensland, Australia. (d.fryer@uq.edu.au)

 

The offcial website of 2020CPCEA is opened now.
  https://2020criticalpsychologytokyo.jimdofree.com/


 

 

 

 

 

 

2019年3月 7日 (木)

4月21日に批判心理学セッションが開かれます

 10回目の批判心理学セッションが,4月21日に開かれます.

 今回のセッションは2部構成です.

 第1部は環境心理学における批判心理学的研究実践について,
今道友昭先生に詳しくレクチャーしていただきます.今道先生はニューヨーク市立大学(CUNY)を拠点に教育・研究に取り組んでおられます.
 数多くの民族が共在する新自由主義経済のメッカであり,著しい力の格差の下で苛烈な競争が繰り広げられているニューヨーク市の生活環境を背景に,CUNYでは参加型アクションリサーチ(PAR)によるマイノリティを擁護する研究が盛んです.
 CUNYはアメリカで批判心理学がもっとも盛んな大学のひとつと言えるでしょう.
 ニューヨークや北米における批判心理学についても,今道先生からうかがえることと思います.

 第2部はソビエト心理学と原子力発電所事故の心理学に関する話題提供です.
 レクチャーと話題提供,そのあとのディスカッションが楽しみですね.

 批判心理学に関心をお持ちの方のご参加を歓迎します.参加費は無料です.


批判心理学セッション10

日時:4月21日(日),午後2時から
会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)
第1部 講演

今道 友昭(ニューヨーク市立大学・ラガーディアコミュニティーカレッジ) 「批判環境心理学の挑戦:その成果と課題」

第2部 話題提供
1.百合草 禎二(常葉大学名誉教授) 「エフ・イエ・バシリョク『体験の心理学:危機的状況の克服の分析』を読む」
2.五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「原子力発電所事故の心理学<序説>:批判心理学,ディスコース分析と理論心理学からの取組み」
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会

参加費:無料
アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)
所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.

※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありません.6階の612号室までお越し下さい.
 
 
 
 

2019年1月30日 (水)

2月17日に批判心理学セッションが開かれます

 2月17日に9回目の批判心理学セッションが開かれます.

 
発表テーマはヘックマンの『幼児教育の経済学』,心理学におけるフーコー派ディスコース分析,原発避難者の語りです.いずれも他の学会や研究会では聴く機会の稀な興味深い主題です.

 批判心理学に関心をおもちの方は,どなたでも参加できます.参加費は無料です.
 気軽にお運びください.



批判心理学セッション9
日時:2月17日(日),午後2時から

会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)

話題提供1:百合草 禎二(常葉大学名誉教授)  「ヘックマンの『幼児教育の経済学』の読み取りを糺す: 議論の本質はどこにあるのか?」

話題提供2:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学)  「心理学におけるフーコー派ディスコース分析:4ステップの読解の実際」

話題提供3:いとう たけひこ(和光大学)  「原発避難者の語り」

主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会

参加費:無料

アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)

所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.

※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありません.6階の612号室までお越し下さい.











 

2019年1月10日 (木)

次回の批判心理学セッションは2月17日,次々回は4月21日です

 次回の批判心理学セッション9は2月17日(日曜)の午後2時,開始です.

 会場は静岡大学東京事務所(東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室.http://www.cictokyo.jp/access.html)です.
 話題提供者を募集しています.発表を希望なさる方は当ブログ開設者にお知らせください.

 その次は4月21日(日曜)に,同じ会場で開かれます.この10回目の批判心理学セッションは2部構成です.

 第1部は今道友昭先生(ニューヨーク市立大学・ラガーディアコミュニティーカレッジ)による批判環境心理学に関するレクチャーです.
 環境心理学と聞くと知覚や認知の応用領域を連想しますが,コミュニティや社会や文化なども私たちが生きる環境の重要な一部です.それが人の心や行動にどのように関わっているのか,批判心理学的な取組みを報告していただきます.
 レクチャーのタイトルは「批判環境心理学の挑戦:その成果と課題」です.

 今道先生はニューヨーク市立大学(CUNY)で学位を取得され,同大学で研究・教育に取り組んでおられます.CUNYはアメリカでもっとも批判心理学が盛んな大学のひとつです.
 CUNYや
ニューヨークにおける批判心理学の動向についても,紹介してくださることでしょう.
 楽しみです.

 第2部は日本で活動する心理学者による,多様な研究の報告です.

 批判心理学に関心をおもちの方は気軽にお運びください.





2018年12月26日 (水)

「歴史への新しいアプローチを討議する」(M.タムとP.バーク編,2018):心理学史研究の発展のために

 今,日本社会で生きる私たちは,さまざまな「心理学知識」が浸透した環境のなかで生活を送っています.
 自分の身近に人の心や内的な性質,行動などを説明する用語,それらを測定する検査,「心の問題」に対処するセラピーなどが,どのくらい普及しているか,お気づきでしょうか.

 それらの心理学知識は私たちの生活に,私たちが自他を理解する仕方に,陰に陽に影響を与えています.
 だから,それらをよりよく知ることが幸福な生活を送るために必要です.心理学知識はときに私たちの生活に悪影響を及ぼします.

 心理学を知るためには,心理学の歴史を知る必要があります.目の前にある心理学知識の由来を知れば,その長所も短所も明らかになることでしょう.
 しかし歴史は一つではありません.ある歴史的事象をどのように説明するかは,歴史を記述する人の立場や考え方(歴史観)によって大きく異なります.
 歴史観が異なれば,書かれ語られる歴史の物語も変わります.

 歴史学の領域で現在,新しい歴史観が探究され,そのもとで新しい研究が進められています.
 その最新の動向を討議する研究論文集が刊行されました.

M.タムとP.バーク編,「歴史への新しいアプローチを討議する」ブルームスベリー・アカデミック社,2018. (Debating New Approaches to History.
Marek Tamm & Peter Burke, (Eds), Bloomsbury Academic, 2018)



 心理学史研究にたずさわるものには学ぶことの多い良書です.歴史学の最前線に触れ,知的刺激を与えてくれます.
 「グローバル・ヒストリー」,「ジェンダー史」,「ポストコロニアル・ヒストリー」などすでに盛んなアプローチに加えて,「デジタル・ヒストリー」,「ニューロ・ヒストリー」,「ポストヒューマニスト・ヒストリー」,「環境史」,「人新世」など,興味深い主題が満載です.目次をみているだけでワクワクします!

 下に目次をお示しします.

Introduction, Marek Tamm (Tallinn University, Estonia)
1. Global History
Contributor: Jürgen Osterhammel (University of Konstanz, Germany)
Commentator: Pierre-Yves Saunier (Université Laval, Canada)
2. Environmental History
Contributor: Grégory Quénet (Versailles Saint-Quentin-en-Yvelines University, France)
Commentator: Sverker Sörlin (KTH Royal Institute of Technology in Stockholm, Sweden)
3. Gender History
Contributor: Laura Lee Downs (European University Institute, Italy; EHESS, France)
Commentator: Miri Rubin (Queen Mary University of London, UK)
4. Postcolonial History
Contributor: Rochona Majumdar (University of Chicago, USA)
Commentator: Prasenjit Duara (Duke University, USA)
5. History of Memory
Contributor: Geoffrey Cubitt (University of York, UK)
Commentator: Ann Rigney (Utrecht University, The Netherlands)
6. History of Emotions
Contributor: Piroska Nagy (Université du Québec à Montréal, Canada)
Commentator: Ute Frevert (Max Planck Institute for Human Development, Germany)
7. History of Knowledge
Contributor: Martin Mulsow (Erfurt University, Germany)
Commentator: Lorraine Daston (Max Planck Institute for the History of Science, Germany)
8. History of Things
Contributor: Ivan Gaskell (Bard Graduate Center, USA)
Commentator: Bjørnar Olsen (UiT – The Arctic University of Norway)
9. History of Visual Culture
Contributor: Gil Bartholeyns (Université de Lille 3, France)
Commentator: Jean-Claude Schmitt (EHESS, France)
10. Digital History
Contributor: Jane Winters (School of Advanced Study, University of London, UK)
Commentator: Steve F. Anderson (University of California, Los Angeles, USA)
11. Neurohistory
Contributor: Rob Boddice (Freie Universität Berlin, Germany; McGill University in Montreal, Canada)
Commentator: Daniel Lord Smail (Harvard University, USA)
12. Posthumanist History
Contributor: Ewa Domanska (Adam Mickiewicz University in Poznan, Poland; Stanford University, USA)
Commentator: Dominick LaCapra (Cornell University, USA)
Conclusion, Peter Burke (University of Cambridge, UK)            

Media of Debating New Approaches to History

 

2018年12月24日 (月)

次回の批判心理学セッションは2月17日です

 昨日,8回目の批判心理学セッションが開かれました.

 コミュニケーション学と社会心理学,特に構築主義や構成主義をめぐって話題提供と討議が,1時間半余りの間,活発に行われました.
 その後,自然科学と人間観の関係を質問紙によって探究する大規模な研究の結果が速報され,結果の解釈やさらなる分析の仕方が討議されました.今までにない研究のツールと理論的発展が期待され,今後の発展が楽しみです.

 いずれも私にとって,新しい知見を得る機会となりました.原子力発電所事故に関する私の発表にも,さまざまなご意見をいただきました.
 ありがとうございました.
 セッションの後の懇親会も,研究の進め方や研究者としての在り方などを語り合い,楽しくかつ有意義な時間を過ごしました.
 
 
批判心理学セッション8
日時:12月23日(日),午後2時から

会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)
話題提供1:増田 匡裕(和歌山県立医科大学) 「コミュニケーション学でもらった“玉手箱”を心理学の“浜辺”で開けてみると(その2):“e”が2つの「ケリー」よりも1つの「ケリー」が「認知的アプローチ」で「構成主義」の基盤と呼ばれる彼岸」
話題提供2:小田 友理恵(法政大学大学院)・吉田 光成(専修大学大学院)・新川 拓哉(Intsitut Jean Nicod)「自然科学は人間観にどのような影響を及ぼしているのか」
話題提供3:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「原子力発電所事故にかかわる諸問題を考える:批判心理学,理論心理学とディスコース分析の立場から」

 

 次回の批判心理学セッションは2月17日(日曜)の午後2時から,同じ会場で開かれます.
 批判心理学に関心をお持ちお方はどなたでも参加できます.

 話題提供を希望なさる方は当ブログ開設者にご連絡ください.

2018年12月19日 (水)

批判心理学を知るために:ヴィヴィアン・バー 著「ソーシャル・コンストラクショニズム:ディスコース・主体性・身体性」

 大学などの心理学入門の授業ではたいてい,心理学は「心と行動の科学」だと教えられています.これは1930年代にアメリカで成立した新行動主義から,1950‐60年代にコンピュータ科学などの成果を取り入れて認知行動主義へと発展した現在の「主流心理学」の心理学観を表した心理学の定義です.

 認知行動主義的アプローチに依拠する「主流心理学」が抱える問題点を現在,日本でも他の国・地域でも多くの心理学者が自覚し,その解決に取り組んでいます.
 そのためには心理学の存在論や認識論など,哲学の水準で「主流心理学」を検討して新しい心理学の哲学を,それに支えられた研究方法論を構築しなければなりません.

 さまざまな可能性が探究され,
新しいアプローチが生み出されてきました.社会構成主義はその主要なひとつです.
 心理学の研究対象を「客観的,普遍的なもの」としてでなく,ある文化や社会の文脈において,特定の言語を用いて集合的に構成されたもの,という見方で研究しています.

 イギリスの批判心理学者,ヴィヴィアン・バー(Vivien Burr)の定評ある社会構成主義の教科書が邦訳されました.2015年に刊行された第3版の日本語訳です.

 ヴィヴィアン・バー (著)「ソーシャル・コンストラクショニズム:ディスコース・主体性・身体性」 田中 一彦 ・大橋 靖史 (訳),川島書店,2018


 社会構成主義に関する数多くの研究を引用して,各種の異なる立場を説明しています.訳文も読みやすく,優れた仕事を分かりやすい日本語で読む楽しみを味わえます.
 批判心理学とディスコース分析の入門書としても,お勧めできます.

 著者のバー氏はイングランド北部にあるハダースフィールド大学心理学科の「批判心理学教授」を自称しています.
 イギリスは最も批判心理学が盛んな国のひとつです.本書から1980年代以降に当地で興った「イギリス批判心理学」やディスコース分析の考え方を知ることができます.
   
 下に目次をお示しします.   
第1章 ソーシャル・コンストラクショニズムとは何か
第2章 ソーシャル・コンストラクショニズムの主張
第3章 ソーシャル・コンストラクショニズムにおける言語の役割
第4章 ディスコースとは何か
第5章 ディスコースの外に実在世界は存在するか
第6章 巨視的ソーシャル・コンストラクショニズムにおけるアイデンティティと主体性
第7章 微視的ソーシャル・コンストラクショニズムにおけるアイデンティティと主体性
第8章 ソーシャル・コンストラクショニズムの探究
第9章 ソーシャル・コンストラクショニズムにおける問題と論争



2018年12月 4日 (火)

質的心理学辞典が刊行されました

 長年,心理学の「正当な研究方法」として実験室実験やサンプル数の多い大規模な質問紙法など,量的方法が重んじられてきました.

 そうした「主流心理学」が心理学研究に強く影響を及ぼす状況において,インタビューやフィールドワーク,アクションリサーチなどの質的方法を用いて心理学研究を行うことは,それ自体が「主流心理学」への批判となり得ます.

 日本質的心理学会の企画により,質的心理学辞典が刊行されました.

  「質的心理学辞典」,能智正博(編集代表),新曜社,4800円


 版元のウェブサイトの記述によると(https://www.shin-yo-sha.co.jp/mokuroku/books/978-4-7885-1601-4.htm),

「日本質的心理学会創立15周年記念出版。
 拡大と深化を続ける質的探究の「いま」を概観し理解するための1098項目を厳選。
 多様な学問的背景をもつ第一線の252名が、初学者にもわかりやすく語義を解説し、読み物としてもおもしろさ抜群。
 多様な人びとの対話と協働を促す必携の書!
 *質的研究の辞典は日本初!*初心者からベテランまで必携の書」 とのことです.


 ざっと目を通したところ,上記のようにさまざまな知識に手軽に触れられ,読み物として楽しめました.電子ブックも刊行されるそうです.
 心理学に関心をお持ちなら,手元に置いておかれると役に立つことでしょう.お薦めできます.

 私も「批判心理学」や「批判的ディスコース分析」,「反精神医学」などの項目を寄稿しました.
 (「批判」や「反」という接頭語がつく用語を担当するのは,批判心理学者の役まわりなのでしょうね.かならずしも本意ではないのですが....)


2018年11月28日 (水)

批判心理学セッションが,12月23日に開かれます

 12月23日に批判心理学セッションが開かれます.
 批判心理学について幅広い主題を自由に討議するこのセッションも,8回目を迎えました.

 今回も他では聴く機会の少ない,しかし重要なテーマが取り上げられます.発表とディスカッションのために十分な時間があてられます.

 批判心理学に関心をお持ちの方は,気軽にお運びください.
 参加費は無料です.



批判心理学セッション8

日時:12月23日(日),午後2時から

会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)

話題提供1:増田 匡裕(和歌山県立医科大学) 「コミュニケーション学でもらった“玉手箱”を心理学の“浜辺”で開けてみると(その2):“e”が2つの「ケリー」よりも1つの「ケリー」が「認知的アプローチ」で「構成主義」の基盤と呼ばれる彼岸」

話題提供2:小田 友理恵(法政大学大学院)・吉田 光成(専修大学大学院)・新川 拓哉(Intsitut Jean Nicod)「自然科学は人間観にどのような影響を及ぼしているのか」

話題提供3:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「原子力発電所事故にかかわる諸問題を考える:批判心理学,理論心理学とディスコース分析の立場から」

主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会

参加費:無料

アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)
所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.

※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありません.6階の612号室までお越し下さい.



2018年11月17日 (土)

来年,批判心理学の実践に関する国際会議がアメリカで開かれます.

 2019年に批判心理学の実践を主題とする国際会議がアメリカで開かれる,との知らせを今日,批判心理学の国際的ネットワークを通して受けました.


 批判心理学の実践に関する国際会議2019(The 2019 International Critical Psychology Praxis Congress)
日時:2019年,9月27-28日
会場:ノーザン・ニューメキシコ大学(エスパノラ市,ニューメキシコ州,USA)
発表申し込みの締切り:2019年5月1日


 批判心理学の主題や目的や研究方法論は多様です.
 この国際会議は批判心理学の「実践」に焦点を当て,「グローバル・サウス」などの格差を主要なテーマとして掲げています.
 格差は南北間でも,経済的に豊かな北側諸国の内部でも,新自由主義経済の下で深刻な問題になりました.
 日本社会も同じ課題を抱えています.

 批判心理学的実践(理論や方法論の探究,心理臨床実践,社会的実践,教育など)によって今日,世界各地で生活者が直面している問題を解決する道を探究することが,国際会議の目的です.

 発表を希望される方は次の12のカテゴリーから,自分の研究にふさわしいカテゴリーを選び,発表のアブストラクトを添えて応募することになります.

1. 批判心理学の理論的リソース
a) マルクス主義 / アナーキズム / 批判理論
b) 精神分析
c) フェミニズム
d) ポスト構造主義 / 思弁的実在論(Speculative realism)
e) ポストコロニアリズム / 脱植民地性(Decoloniality)
f) 批判的人種哲学

2. 批判心理学の適用の実際
a) 臨床実践
b) アクティビスム / 法
c) ラディカル・リサーチ
d) 教育 / 対話
e) エコロジー / スピリチュアリティ
f) 倫理 /美学 / 政治


 批判心理学の実践に関する国際会議の詳細については,下記のサイトをご覧ください.

  https://sites.google.com/view/criticalpsychology/2019-icppc



2018年10月22日 (月)

次回の批判心理学セッションは12月23日です

 10月20日に7回目の批判心理学セッションが開かれました(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2018/09/1020-3225.html).

 旧ソビエト心理学を代表する研究者のひとりであるレオンチェフの仕事について,特に時間をかけて発表と討議が行われました.
 続いて,日本語の「自己実現」の歴史や今日の日本社会における用例と個人の主観性への作用について話題提供されました.
 3番目に先日,初回の認定試験が実施された公認心理師の制度や養成教育について話題提供と意見交換が行われました.

 新たに複数の大学院生が参加し,新しい風が吹き入れられました.
 参加者は他の研究会では得られない刺激を得られたことでしょう.


 次回の批判心理学セッションは12月23日(日曜)の午後2時から,同じ会場で開かれます.

 発表を希望される方は,当ブログ開設者にお知らせください.批判心理学にかかる様々な問題を自由に,前向きに討議しましょう!


2018年9月17日 (月)

10月20日に批判心理学セッションが開かれます

 7回目の批判心理学セッションが10月20日(土曜)に開かれます.
 会場は前回と同じ静岡大学東京事務所です.

 話題提供の主題はレオンチェフの心理学の哲学,心理学史と批判心理学の立場から見た自己実現,公認心理師の養成制度と多岐に渡ります.
 きっと面白い発表と討議が行われることでしょう!

 批判心理学に関心をお持ちの方は,どなたでも参加できます.参加費は無料です.


批判心理学セッション7

日時:10月20日(土),午後2時から

会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)

話題提供1:百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所) 「ア・エヌ・レオンチエフ『心理学の哲学』所収、第三部 方法論ノート(А.Н.Леонтьев,Методологические тетради,"Философия психологии(Раздел III) " Москва,1940)を読む 」

話題提供2:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「『自己実現』とは何だろうか』:心理学史と批判心理学の視点から」

話題提供3:田辺 肇(静岡大学)「公認心理師養成制度の概要:第1回公認心理師試験を終えて」

主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会

参加費:無料

アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)
所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.

※当日,建物玄関ロビー等に開催案内は掲示されません.6階の612号室までお越し下さい.



2018年8月31日 (金)

アメリカ心理学会と軍事心理学:グアンタナモ収容所における心のケア

「国家安全保障の尋問」が明らかにしたアメリカ心理学会の混迷

 2015年8月,アメリカ心理学会(APA)は「国家安全保障に関する尋問」に同会員が関与することを禁止しました.

 2001年にアメリカを襲った9.11同時多発テロの後,米政府の軍事情報当局がテロ対策のためにテロ容疑者に「過酷尋問」を行いました.
 軍事心理学者やAPA幹部がそれに加担したことが,人権NGOやジャーナリストの調査やホフマン報告によって明らかになりました.
 APAの一般会員や北米社会の世論の批判を受け,2015年7月にAPAの最上級職員が辞職し,翌月,
APA代議員会は倫理指針を改訂して国家安全保障に関する尋問への加担を禁止しました.

 ホフマン報告書は,過酷尋問への加担を隠蔽し批判を抑えるためにAPA執行部が学会内部で各種の工作を行っていた事実も認定しました.
 良くも悪くも世界の心理学を主導しているAPAにおける,苛烈な学会政治の一端が明らかになりました.


APA代議員会にみる苛烈な学会政治

 同じ状況は現在も続いているようです.
 米政府の軍事情報当局における心理学者の役割を維持し拡大しようとするAPA内の勢力,「心理学的拷問」はなかったと主張する勢力と,APA幹部が過酷尋問に加担したことを批判し改革を求める勢力の間の対立や巻き返しを狙う活動が,7月以来,各種のメディアで報道された「グアンタナモの収容者の心のケアのための心理学者の再派遣」をめぐる問題の背景です.

 8月8日にこの問題を審議したアメリカ心理学会代議員会の模様を,バズフィードが報じています.

 「劇的な投票,心理学者がテロ容疑者を対象として仕事を行うプランを否決(In A Dramatic Vote, Psychologists Have Rejected A Plan To Allow Work With Terror Suspects)」
 
https://www.buzzfeednews.com/article/peteraldhous/apa-psychology-guantanamo-vote)

 バズフィードの報道によると代議員会において,国家安全保障に係る収容施設で心理学者が働くことを認める動議を提出した勢力(軍事心理学者とAPA執行部)が,急に採決の延期を求めました.採決せずに新たにこの問題を扱う委員会を設けようと提案しました.
 採決の結果,否決されることを恐れたようです.

 これに対して,
国家安全保障に係る収容施設で心理学者が働くことに反対する勢力が,採決の延期に反対する動議を提出しました.
 採決の延期に反対する動議は95対76で認められました(棄権1).

 その後,問題の動議が審議される段になると,動議の提案者(元APA会長)が会場からジャーナリストなど代議員ではない人を締め出し,秘密会とするよう求めました.(もともと代議員会は公開される予定でした.)
 しかしAPAの顧問弁護士が秘密会とする法的根拠はない,と助言し,審議は公開されることになりました.
 しかし,件の動議に賛成する演説を行うことになっていた軍事心理学者(国防総省所属)が,軍人である自分は公開の場では発言できないと主張し,以後の審議は秘密会となったそうです.


 採決の結果,賛成57,反対105,棄権15の得票により動議は否決されました.



今後も続く分断の影響
 7月に明らかになった今回の問題は,軍事心理学者(おもに国防総省に所属する臨床心理学者)とAPA執行部が,ホフマン報告の後に為された改革に対して巻き返しを図った事例のひとつだと考えられます.

 2015年7月に公開された同報告書とその後のAPA倫理指針の改定に反対する勢力は,一般に考えられている以上に強大なようです.

 否決されたとはいえ3年後に再度,倫理指針を改定する動議がAPA理事会の支持を得て代議員会に付されたことは,この間になされた改革がAPAの有力者たちの本意ではないことを示しているのでしょう.
 この動議は代議員の3分の1の支持を集めました.3年前には軍事心理学部会の代議員を除くと,支持する代議員はいませんでした.
 「グアンタナモの収容者に心のケアを行わないのはジュネーブ条約に違反する」という主張は,相当数の代議員に通じたようです.

 来年か再来年か,あるいは3年後か,今回と同じようにAPA代議員会で倫理指針の変更を目指し,あるいは他の仕方で「国家安全保障に係る収容施設」で心理学者が活動することを認めるよう学会政治が繰り広げられるのではないでしょうか.

 アメリカの心理学者にとって,国防総省は研究資金を支給し多くの雇用をもたらす重要なカウンターパートです.同省も軍事的目的の遂行や組織の維持のために心理学を必要としています.
 国防総省など政府当局の要請に応えれば,さらなる心理学の職業的発展が期待できます.
 こうした事情が「グアンタナモ収容所に拘留されている容疑者に心のケアを提供すべきである」と主張する人たちを動機づける一因だと思われます.

 トランプ政権が成立して以来,グアンタナモ収容所のような米国外の軍事基地でのテロ容疑者の超法規的な拘束や,水責めを含む「過酷尋問」を容認する政治的状勢が強まりました.現在の国務長官は過酷尋問を支持し,CIA長官はブッシュ政権下で過酷尋問を実際に指揮していました.いずれもトランプ大統領が指名しました.
 この米国の政治的状勢がアメリカ心理学会の倫理指針の再改定を求める活動に影響している,という指摘もあります.

 APAの内部での政治的駆け引きも,今後も続きそうですね.


 ホフマン報告書をアメリカ心理学会のウェブサイトから削除する動議は,同報告書をウェブサイト内の独立したページから除き,倫理に関す問題の展開を示すページの中に入れるものとして採決されたようです.
 以前のように外部から直接,ホフマン報告書にアクセスできなくなりました.同報告書に異議を唱える勢力が一定の勝利を収めたのでしょう.
 現在では下記のウェブページをよく探すと,報告書を見いだすことができます.
 Timeline of APA Policies & Actions Related to Detainee Welfare and Professional Ethics in the Context of Interrogation and National Security
(http://www.apa.org/news/press/statements/interrogations.aspx)




 ニューヨークタイムズやサイエンス誌などによる下記の報道もあわせて参照してください.

 ニューヨークタイムズ
  「心理学者は軍の収容施設での活動することを禁止する指針を変更せず(Psychologists’ Group Maintains Ban on Work at Military Detention Facilities)」
 (https://www.nytimes.com/2018/08/09/health/interrogation-psychologists-guantanamo.html?smid=tw-nythealth&smtyp=cur)

 「サイエンス」誌のニュースサイト
 「軍事的抑留者を処遇する規則を変更しようとするアメリカの心理学者たち(U.S. psychology group set to modify rules on interactions with military detainees)」
 (http://www.sciencemag.org/news/2018/07/us-psychology-group-set-modify-rules-interactions-military-detainees)

 バズフィード
 「心理学者たちの拷問報告書に関する汚い争い(Psychologists Are In A Nasty Fight About A Report On Torture)」

 (https://www.buzzfeednews.com/article/peteraldhous/psychology-torture-guantanamo-interrogation)

2018年8月10日 (金)

アメリカ心理学会代議員会がグアンタナモ収容所への心理学者の再派遣を認める動議を否決しました

 8月8日にサンフランシスコで開かれたアメリカ心理学会代議員会において,アメリカの軍事・情報当局が設営する捕虜やテロ容疑者の収容施設で,国防総省やCIAに所属する心理学者が活動することを認める動議が否決されました.

 ニューヨークタイムズも速報しました.

 「心理学者は軍の収容施設での活動することを禁止する指針を変更しない(Psychologists’ Group Maintains Ban on Work at Military Detention Facilities)」
 (https://www.nytimes.com/2018/08/09/health/interrogation-psychologists-guantanamo.html?smid=tw-nythealth&smtyp=cur)


 グアンタナモ収容所など,収容者の虐待や人権侵害が懸念される施設に再び心理学者(APA会員に限られます)を配属する施策(国防総省やAPA軍事心理学部会が求めています)は,多数の賛同を得られなかったようです.
 上の動議に賛成する票が32.9%,反対票は60.7%,棄権票が6.4%だったそうです.

  国際赤十字など米国防総省とは独立した団体が収容者の健康のために心理学者を派遣することは,現在もAPA倫理指針によって認められています.
 アメリカ心理学会(APA)の代議員会は,心理学の諸領域を探究する専門部会と北米と近隣の諸地域を代表する地域部会,APA理事会メンバーによって構成されます.同学会の運営を司る最高決定機関です.

 7月初旬に私が今回の問題を初めて聞いたときには,この動議がAPA代議員会によって採択されるかもしれない,という声を耳にしました.
 代議員会は理事会など執行部が主導する運営チームによって司会進行されます.代議員会に提出される動議はすでに理事会の承認を得ています.
 その動議はAPA内の各種の委員会で専門家が時間をかけて討議し,そうするのが妥当だという資料を添えて提議されます.

 APA代議員会の代議員を務めた経験をもつ知人の話では,執行部が提出した動議に反対するのは容易ではないそうです.
 専門家が正しいと認め,証拠とともに提議している事案に,非専門家が反対するのは困難なことです.
「専門家でないくせに反対するのは,専門家の倫理に反している」という非難を招くおそれもあります.
 
1,2日の短い会期の間に多数の議事が組まれているため,よく考えて討議する時間もありません.
 こうしたことからAPA理事会が承認した事案は通常,APA代議員会でも承認されます.

 今回,APA理事会が採択した動議が代議員会で否決されたのは,「心理学的拷問」が再び行われる危険性に多くの代議員たちが懸念を抱いていることを示しているのでしょう.

 この数週間,アメリカ自由人権協会(ACLU)やアムネスティ・インターナショナル,人権のための医師団,ヒューマン・ライツ・ウォッチなどの人権団体や拷問被害者の治療にあたる専門家が声明や公開書簡を発表し,APAとAPA代議員に上記の動議を承認しないように働きかけてきました.
 拷問に反対するAPA会員も懸命に活動していました.

 こうした声が代議員たちを動かしたようです.



2018年7月20日 (金)

アメリカ心理学会とグアンタナモ収容所への心理学者の再配属

アメリカ心理学会の理事会,代議員会と国家安全保障の尋問

 対テロ戦争と心理学の関係をめぐって,アメリカ心理学会の運営を担う執行部や代議員会で新しい動きが起きています.
 アメリカ心理学会(APA)の理事会が,米国防省総省やCIAに所属する心理学者(APA会員)が軍やCIAなどが設営した収容施設で,戦争捕虜やテロ容疑者の処遇に再び関与できるように倫理指針を改定する動議を承認しました.

 また同理事会は,ホフマン報告書をAPAのウェブサイトから取り除くことを求める動議も,承認しました.
 ホフマン報告書は9.11同時多発テロの後に,APA幹部が国防総省やCIAなど軍事・情報当局と連携してテロ容疑者への「過酷尋問」に加担した問題を,同理事会が委嘱した独立調査委員会が調査した結果をまとめたものです.

 この報告書は2015年7月にAPAのウェブサイトで一般に公開されました.
 テロ容疑者への「強化尋問技法」を用いた「心理学的拷問」に一部のアメリカの心理学者とアメリカ心理学会執行部が加担した問題を考えるうえで,ホフマン報告書はもっとも重要な資料とされています.
 同報告書がAPAのウェブサイトで閲覧できなくなれば,APAとアメリカ心理学が抱える問題を知る契機が失われかねません.
 
 現時点ではホフマン報告書を下記のサイトからダウンロードできます.
 Report of the Independent Reviewer and Related Materials
(http://www.apa.org/independent-review/)


 APA理事会が承認した2つの動議は来月,サンフランシスコで開かれるAPA年次大会に合わせて開催される代議員会で審議されます.
 APA代議員会が承認すれば,上記が実際に行われることになります.

 アメリカで「心理学的拷問」に反対する活動に取り組んでいる友人たちが,知らせてくれました.




APA代議員会は賛成するでしょうか?
 2015年7月にホフマン報告書が公開されると,APAの会員たちも北米社会の一般の世論と同様に,
・CIAや米軍の心理学者が自らテロ容疑者に「過酷尋問」を行ったこと,
・APA執行部が軍事・情報当局の求めに応じて「過酷尋問」を実施する体制(いわゆる「政府が認可した拷問のレジーム」)を支えていたこと,
・APA執行部がそれらの事実を認めず,APAは「過酷尋問」に関与していないと虚偽の説明をして10年ほどの間,一般のAPA会員や公衆を欺いてきたこと,等に強く抗議しました.

 ホフマン報告書を受けて長年,APAの運営を担っていた幹部職員(CEO,副CEO,倫理局長,広報局長など)が辞職しました.

 同年8月に代議員会は,アメリカ心理学会会員が「国家安全保障に関する尋問」に関与することを禁止する動議を157対1の圧倒的多数で採択しました.(反対した1名は軍事心理学部会の代議員です.)
 これによりAPA会員は軍やCIAの収容施設で尋問に関与できなくなりました.アメリカ精神医学会やアメリカ医学会は,すでに10年前に禁止していました.「ヒポクラテスの誓い」が重んじられる医療界では当然のことでしょう.
 以前,当ブログでこのAPA代議員会について報告しました.

 「心理学的拷問を禁止したAPA代議員会:デモクラシー・ナウ!で視聴しましょう(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2015/08/post-2fe3.html)

 アメリカの非営利ニュースメディア,「デモクラシー・ナウ!」のウェブサイトで,倫理指針を改定したAPA代議員会の審議の模様を報道した動画が公開されています.(お薦めです!)

 「No More Torture: World’s Largest Group of Psychologists Bans Role in National Security Interrogations」(http://www.democracynow.org/2015/8/10/no_more_torture_world_s_largest)

 APA代議員会は専門部会や地域部会の代表,APA理事会メンバーで構成されます.アメリカ心理学会の最高意思決定機関です.
 3週間後に迫った代議員会へ向けて,上の動議に賛成する側も反対する側もそれぞれの意図を実現するために今,活発に動いているのでしょう.




なぜ再び,軍事心理学者をテロ容疑者の処遇に関与させるのでしょうか?
 再度,グアンタナモ収容所のような収容施設で米軍やCIAの心理学者が捕虜や容疑者の処遇に関与できるように倫理指針を改定するという提案をAPA理事会が採択したと聞き,私は驚きました.

 この提案は第19部会(軍事心理学)に所属する軍事心理学者が中心になり,提議されました.
 軍やCIAの施設で心理学者は捕虜や容疑者の健康や福祉のために働くのであって,尋問を行うのではない,容疑者たちが心理学的ケアを受ける権利を奪ってはならない,心理学者は心身の健康に関するケアを行う義務を果たすべきである,といった主張をしています.
 9.11同時多発テロの後に心理学者が「過酷尋問」に加担したような事態は,再び起きないという意見です.(第19部会は元来,米軍の心理学者は拷問などの倫理に反する行為をしてはいない,と主張してきました.)

 この動議に反対する人たちは,軍やCIAに所属する心理学者は中立的立場で捕虜や容疑者に接するわけではない,テロ対策のために情報が求められる戦時下の緊迫した状況では容疑者に「過酷尋問」が行われやすい,軍やCIAの心理学者はこうした状況で「過酷尋問」に加担するおそれがある,国際赤十字など軍やCIAとは独立した組織で容疑者の健康や福祉のために心理学者が働くことは現在も認められている,といった主張をしています.

 私は前者よりも後者の方が説得力がある,と考えます.
 軍事・情報当局とその収容施設に拘束された容疑者の間には,圧倒的な力の格差があります.
 軍やCIAに所属する心理学者は組織の一員として,上位者の命令や指示に従うよう求められます.「専門的な知識や技術を用いて人に害を為してはならない(Do no harm)」という健康専門職者の倫理規範を守れない事態に直面することもあるでしょう.

 米軍とCIAの心理学者はテロ容疑者への「心理学的拷問」に加担しました.CIAに雇用された米軍出身の臨床心理学者は自ら「強化尋問技法」を作り,アルカイダ幹部に「過酷尋問」を行いました.
 もう一度,敢えて彼(女)を軍やCIAの収容施設に配置する必要があるとは思いません.

 また,ホフマン報告書をAPAのウェブサイトから取り除く動議が採択されれば,APA執行部がごく最近に犯した重大な過誤を公衆が知るすべが失われます.
 その過誤はアメリカ史に記録される歴史的事件の一部です.人権や自由を重んじてきた建国以来の「アメリカの理想」が政・官・学界で共有されなくなった新しい時代を標した倫理上の惨事として,広くマスコミで報道されました.

 3年前に同報告書が公開されると,その中で責任を問われた心理学者を中心に報告書が認定した事実に異をとなえる声が上がりました.同報告書は間違っているので,もう一度,独立調査を行うべきだ,と主張する人も現れました.
 今,APA理事会がホフマン報告書を公衆の目から見えにくくしようとするのは,こうした過去の連続線上で起きた出来事のようです.
 その意味で意外ではありません.

 以前,当ブログに掲載した下記の記事をご参照ください.
 アメリカ心理学会元会長の書簡Ⅱ:「心理学的拷問」とホフマン報告の後の倫理
(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2016/06/post-6ab7.html)


 漏れ聞くところでは,APA代議員会は同理事会などの執行部が主導して司会進行され,2日ほどの会議の間に数多くの議題が審議されるそうです.
 1事案につき短時間の説明と討議の後に採決されることが多く,たいていは提出された動議が採択されるそうです.じっくり考えて問題をよく理解し,議論する時間はありません.

 APA理事会が上記の2つの動議を承認した今,代議員会もそれを採択することが期待されているのでしょう.
 3年前にAPA代議員会が「国家安全保障に関する尋問」にAPA会員が関与することを圧倒的な多数決で禁止した知らせを聞いて,私は「いよいよアメリカの心理学者の良識が発揮されたな」と感じ,安堵しました.
 アメリカの心理学者たちも「心理学的拷問」の悲惨な実態を知れば,これを許すはずはない,と考えていたからです.

 3年の月日が過ぎ,APA代議員の顔ぶれも変わりました.この問題の詳細を知らない代議員も多くなったため,APA理事会が承認した2つの動議を代議員会も採択するのではないか,という観測もあります.
 しかしたった3年で倫理指針の再改定が行われようとしていることに,驚きを禁じえません.
 それほど国防総省などの軍事・情報当局はAPAに大きな影響を与えているのでしょう.当局はかねて心理学者を戦争や諜報のために活用してきました.

 ホフマン報告書はアメリカ心理学会の運営を担う人たちが,雇用や研究資金の獲得や政官界での心理学者の地位の向上を目指して,「ブッシュ政権が認可したテロ容疑者への拷問」に加担した事実を認定しました.

 APAの内部でそうした状況は現在も,変わっていないのかも知れません.
 9.11の後に「心理学的拷問」に加担したのも,今,倫理指針を再改定してホフマン報告書を隠そうとするもの,根っこにあるのは同じ動機のようにみえます.

 代議員の皆さん,事前配布された資料を読み込む作業など大変だと思いますが,がんばってください!
 


 
〔追記〕
 この問題を考えるうえで,「サイコロジー・トゥデイ」に掲載された下の記事が参考になります.
 ロイ・エイデルソン 「再び岐路に立つAPA:来月に開かれる代議員会の投票は専門家として贖罪を続けることを選ぶか?」
 
Roy Eidelson, Another Crossroads for the APA :Will votes next month mean continued progress toward redeeming the profession?
(https://www.psychologytoday.com/us/blog/dangerous-ideas/201807/another-crossroads-the-apa)

 2005年の夏,APA会員の中から対テロ戦争における「心理学的拷問」に反対する運動が本格的に始まりました.上の記事を書いたエイデルソンはそこで大きな役割を担ったひとりです.


 サイエンス誌も取り上げています.APAの理事会,倫理や公共政策,法などに関する各種の委員会の動向を報じています.
 「軍事的抑留者を処遇する規則を変更しようとするアメリカの心理学者たち(U.S. psychology group set to modify rules on interactions with military detainees)」
 (http://www.sciencemag.org/news/2018/07/us-psychology-group-set-modify-rules-interactions-military-detainees)


 ネットメディアの「バズフィード」も,26日にこの問題を報道しました.
 「心理学者たちの拷問報告書に関する汚い争い(Psychologists Are In A Nasty Fight About A Report On Torture)」
(https://www.buzzfeednews.com/article/peteraldhous/psychology-torture-guantanamo-interrogation)
 APAの内部と一般社会の見方の落差がここにも表れています.


 APAの有力者たちが「国家安全保障に関する尋問」をめぐって,逆コースへの歩みを早めている背景として,トランプ政権において大統領や国務長官やCIA長官が「過酷尋問」を容認する立場をとる政治情勢の影響も考える必要があります.

 当ブログに以前,下記の記事を掲載しました.
 トランプ米大統領がテロ対策で水責めなどの拷問は有効だ,と述べました:心理学的拷問
(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2017/01/post-edf3.html)


 トランプ大統領が「水責めの女王」をCIA長官に指名しました:対テロ戦争における「心理学的拷問」
(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2018/03/cia-60a1.html)




2018年7月16日 (月)

次回の批判心理学セッションは10月20日です

 6回目の批判心理学セッションが,7月15日に開かれました.
 発表テーマは下記のとおりです.

  話題提供1:鈴木  聡志(東京農業大学) 「戦時体制下日本の臨床心理学:教育相談,知能検査,ゲシュタルト心理学」
  話題提供2:百合草  禎二(主体科学としての心理学研究所) 「心理学における弁証法の問題(2):矛盾の適用例」
  話題提供3:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「『心理学とは何だろうか』という問題を考える:批判心理学と理論心理学の立場から」
  話題提供4:田辺 肇(静岡大学) 「薬物依存と性非行:解決を阻むものは何か」

 話題提供から私は多くのことを新たに学びました.
 このセッションでしか知りえないことを,知ることができました.発表者と質問者の討議が活発に行われ,今後の研究につながる推進力が得られたと実感しています.

 次回の批判心理学セッションは10月20(土)に,同じ会場(静岡大学東京事務所)で開かれます.
 発表を希望される方は当ブログ開設者にお知らせください.心理学の各種の研究主題や方法,社会諸セクターでの心理学の適用,歴史や哲学,心理学教育,その他についての発表を歓迎します.

 批判心理学に関心をお持ちの方は,どなたでも参加できます.(参加費は無料です.)



2018年7月14日 (土)

アメリカ心理学ミュージアムの展示施設がオープンしました

 アメリカ心理学ミュージアム(National Museum of Psychology)が,6月27日にグランドオープンしました.(https://www.uakron.edu/chp/museum/)

 
アクロン大学(オハイオ州アクロン市)のカミングス心理学史センターの1階に,大規模な展示施設が新しく作られました.
 心理学の歩みや人々の生活との関係などを,同センターの数多い収蔵品の中から選りすぐりのコレクションを用いて,分かりやすく説明しています.アメリカで初めての,おそらく他国にも類例のない心理学を専門とする博物館です.

 「人間であるとはどのようなことか」というメイン・テーマを掲げ,1.職業としての心理学,2.科学としての心理学,3.心理学と社会変革,という3つの領域で心理学の歴史を提示しています.

 教科書でおなじみの研究が実物を用いて展示されています.たとえば,次のようなものです.
・ジンバルドの刑務所実験:囚人や看守の衣服や装備,両者の役割に応じた日ごとの行動の変化など,
・バンデューラの観察学習:子どもに与えられたボボ人形.人形に対する子どもの反応など,
・エレノア・ギブソンの視覚的断崖:実際に歩いて渡れる断崖です,
クラーク夫妻が実験で用いた白人と黒人の人形:アメリカの公民権運動の歴史を画したブラウン判決で証拠として採用された研究の詳細,
・1910年代から移民や新兵に課された知能検査:検査の設問に答え,その場で診断が下されます,
・フロイトのクリニックの長椅子:患者用の長椅子に横たわって,自由に記念撮影できます.

 分離脳の研究で1981年にノーベル医学・生理学賞を受賞したロジャー・スペリーに授与されたノーベル・メダルも展示されています.(レプリカではなく,本物です).

 幸運なことに先月,一般公開される直前にミュージアムを内覧する機会を得ました.時間のたつのを忘れて楽しみました.
 展示を通してミュージアムを運営する心理学史研究者の考え方を知ることも,同業の研究者としては楽しいことです.

 英語での展示ですが,心理学に関心をお持ちの方はアメリカ旅行のついでにミュージアムを訪問されると,日本では味わえない経験ができます!


 オハイオ州のテレビ局がミュージアムを紹介した動画です.

University of Akron debuts the country’s first Museum of Psychology - WKYC Channel 3(https://www.wkyc.com/article/news/local/akron/university-of-akron-debuts-the-countrys-first-museum-of-psychology/95-567204752)


CHPsychMuseum-web

                              (https://www.uakron.edu/chp/museum/)

2018年6月12日 (火)

7月15日に批判心理学セッションが開かれます

 7月15日(日曜)に,6回目の批判心理学セッションが開かれます.

 今回のセッションでは,第2次大戦時の日本心理学の歴史研究,弁証法的心理学に関する理論的考察,「心理学とは何だろうか」という古くて新しい問題の批判心理学・理論心理学の立場からの考察が報告される予定です.

 批判心理学に関心をお持ちの方は,どなたでも参加できます.
 参加費は無料です.


批判心理学セッション6

日時:7月15日(日),午後2時から
会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)
話題提供1:鈴木 聡志(東京農業大学) 「戦時体制下日本の臨床心理学:教育相談,知能検査,ゲシュタルト心理学」
話題提供2:百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所) 「心理学における弁証法の問題(2):矛盾の適用例」
話題提供3:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「『心理学とは何だろうか』という問題を考える:批判心理学と理論心理学の立場から」
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会
参加費:無料
アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)

所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありませんので6階612号室までお越し下さい.



2018年6月10日 (日)

トールマンと上代晃を再評価する機会:「目的と認知:エドワード・トールマンとアメリカ心理学の転換」,キャロル著,2017,ケンブリッジ大学出版局

新行動主義の立役者としてのトールマン像

 今日,西洋に由来するアカデミックな心理学や科学的心理学の方法論として流布している認知行動主義は,1930年代に北米の心理学者たちが確立したS-O-R図式や変数概念,心的概念の操作的定義など,新行動主義が生み出した道具立てに依拠しています.

 エドワード・トールマン(1886-1959)は1920年代から30年代をとおして,新行動主義が生まれ精緻化される過程で大きな役割を果たした立役者として,心理学教科書に記載されています.
 目的的行動主義や「サイン‐ゲシュタルト」に加えて,認知地図の概念を考案し認知心理学の発展の道を開いた理論家として位置づけられているようです.

 トールマンの仕事の全体を考えるうえで役立つ歴史研究書が刊行されました.

デビッド・キャロル著 「目的と認知:エドワード・トールマンとアメリカ心理学の転換」,2017,ケンブリッジ大学出版局
David W. Carroll,  Purpose and Cognition: Edward Tolman and the Transformation of American Psychology. 2017. Cambridge University Press)

 心理学者として形成される時代から1930年代の論理実証主義者との交流,目的的行動主義の模索と確立,反戦や経済恐慌などの社会的課題への取り組み,第2次大戦時の軍事心理学への参加,戦後にアメリカ社会を席巻したマッカーサー主義(赤狩り)との対決など,トールマンの知的活動と社会的活動の双方をこの本から知ることができます.
 大
戦後に日本心理学に絶大な影響を与えてきたアメリカ心理学の成り立ちを考えるうえで有用な歴史書です.

 心理学史研究者の一人として学ぶところが多く,さまざまな知的刺激を得られ研究へのモチベーションを高めてくれます.
 (同書の著者は心理学史研究の専門的訓練を受けたエキスパートではありませんが,良い本を書いてくれました!)

 

日本の理論心理学者,上代晃とトールマン

 アメリカのアクロン大学(オハイオ州)は1960年代半ばからアメリカ心理学の歴史に係る各種の資料を収集し公開しています.北米における心理学史研究の拠点として多くの研究者を支えてきました.

 今から十数年前,私は同大学のアメリカ心理学史アーカイブを訪れ,日本の心理学に大きな影響を与えたトールマンの資料を調べていました.
 すると,彼が上代晃(じょうだい・こう)の渡米とデューク大学心理学科での研究を実現するために関係者と交わした書簡を見いだしました.

 上代晃(1915-1958)は戦後の復興期に理論心理学者,学習心理学者として活躍しました.広島大学教育学部の学習心理学講座の教授を務めていた1958年に,胃がんのため42歳の若さで亡くなりました.
 トールマンらアメリカの心理学者が彼のために尽力したデューク大学での研究は,叶わないまま終わりました.

 上代はアメリカの行動主義的学習心理学の影響のもと,独自の理論心理学を探究しました.彼の没後,その理論心理学が継承されることはありませんでした.
 デューク大学心理学科には当時,北米で理論心理学を主導していたシグムンド・コッチが在職し,活発な研究活動を行っていました.
 上代が病に倒れることなくデューク大学で研究に取り組んでいたら,両者の間で建設的な知的交流が生まれたかもしれません.
 もし彼が広島で大学教員が定年を迎える歳まで研究活動を行っていたなら,理論心理学の立場から国際的規模で心理学に新しい潮流を生み出していたのでは,と夢想しています.

 今月下旬にオハイオ州立アクロン大学心理学史研究センター(www.uakron.edu/chp)で,国際行動社会科学史学会(カイロンの愛称で知られています)の創設50周年記念大会が開かれます.

 同大学の心理学史アーカイブが私に,上代とトールマンの交流を知る機会を与えてくれました.
 今日,日本で上代を知る人は稀です.その理論心理学研究の意義を理解する人はもう,いないのかもしれません.
 上代が(おそらく,命がけで)研究活動を行っていた広島の地でも,彼の事績が記された記録や資料はほとんど失われてしまいました.

 私も以前から,上代が理論心理学と題する著書を刊行したことや広島大学の学習心理学を担っていたことは聞いていました.が,彼の学問の詳細を知るに至りませんでした.
 アメリカ心理学史アーカイブがそれを可能にしてくれました.

 かねてアクロン大学の心理学史部門に感謝の思いを伝えたいと考えていたところ,同大学心理学史研究センターがカイロンの年次大会を開くことになりました.
 そこでこの大会で,上代の仕事と心理学者としての在り方を事例として,理論心理学や心理学史研究の立場から「心理学とは何だろうか」という19世紀以来,心理学が直面している課題について研究発表を行う予定です.
 (上代の没後,60周年にあたる2018年にこうした機会が訪れました.)
 下記のサイトにこの発表のアブストラクトが掲載されています.
 Koh Johdai (1915-1958) and his Pioneering Project of Theoretical Psychology: The Importance of E.C.Tolman in a Theory of Behavior (Yasuhiro Igarashi)
 (https://www.academia.edu/38853852/Koh_Johdai_1915-1958_and_his_Pioneering_Project_of_Theoretical_Psychology_The_Importance_of_E.C.Tolman_in_a_Theory_of_Behavior

 なぜ,トールマンは上代のアメリカでの研究を実現するために努力したのでしょうか.
 その理由や背景をキャロルの著書「
目的と認知:エドワード・トールマンとアメリカ心理学の転換」から,うかがうことができます.
 同書の著者はおそらく,上代の存在やトールマンが彼のために尽力したことを知らないかもしれません.
 しかし,トールマンが学問に取り組む姿勢から,両者の交流が生まれた文脈がわかります.

 下に目次をお示しします.

目次
Preface
Introduction
1. Growing up in New England
2. The Harvard milieu
3. Out West
4. A new formula for behaviorism
5. Purposive behaviorism
6. The turn toward operationism
7. 'A concern for social events'
8. Cognitive maps
9. The loyalty oath
10. The legacy of Edward Chace Tolman

 

「Purpose and Cognition: Edward Tolman and the Transformation of American Psychology」の画像検索結果

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018年5月24日 (木)

「国際批判ポジティブ心理学ハンドブック」のおもしろさ:批判的なポジティブ心理学とは?

 このところ,本を紹介する記事が続いていますが,批判心理学のハンドブックをもう一冊,取り上げます.

 「国際批判的ジティブ心理学ハンドブック」(ブラウン,ロマ,エロア‐オロサ編,ラウトレジ,2018)
 The Routledge International Handbook of Critical Positive Psychology (Nicholas J. L. Brown, Tim Lomas, and Francisco Jose Eiroa-Orosa (Eds.),
2018, Routledge)

  ゼロ年代以降に日本でも,ポジティブ心理学に注目が集まっています.
 ビジネスや学校教育などの領域で,個人のパフォーマンスを向上させる心理学の知識やスキルのひとつとして受け入れられつつあります.

 仕事や勉強で私たちがより良い成績をあげられるなら,望ましいことでしょう.
 心理学の応用はこうした実用的な目的のために,大学の中で制度的学問として心理学が登場した19世紀後半以来,様々な社会セクターで行われてきました.
(知能など個人の能力や性質の研究は,制度的心理学の発展を待たずに独自の発展を遂げました.)

 ポジティブ心理学はポジティブにものごとを考える人は仕事や勉強や人間関係もポジティブに進む,という分かりやすい枠組みを与えてくれます.
 こうしたことから今日の日本社会でも普及し始めました.おそらく今後,この心理学の理論と応用がいっそう広まると予想されます.

 ポジティブ心理学と「批判」という言葉を取り合わせた同書のタイトルは,一見すると矛盾したものようにもみえます.
 しかし,科学の装いを活用した特定のイデオロギーの自然化,メリトクラシーとの親和性,過度の個人主義など,批判心理学者が取り組んできた主題がその中に見出だされます.
 

 ポジティブ心理学は個人の心のあり方(認知)によって,その人の仕事や勉学など日常生活のパフォーマンスがより効率的なよいものに変わる,という考えを理論の基礎に含みます.
 そのため,産業・ビジネスや教育,組織論など人を対象とする様々な社会セクターで歓迎されます.
 対象者の心的な能力や業績をマネージメントするツールとして,すぐに活用できるからです.

 管理者や経営者など「統治」する側ではなく,対象者の心がその人が行う活動(仕事や勉強など)の成否を決める鍵になると考えられています.望ましい成果を得られなかった場合,管理者の責任は問われず,対象者にそれが帰属される傾向が認められます.
 人はポジティブな認知スタイルやレジリエンスを自ら備えるよう求められ,学校教育でもそのための介入が取り入れられようとしています.


 しかし上記の考え方は,欧米の批判心理学者がしばしば取り上げる「個人化」のありがちな事例です.
 環境や社会ではなく個人の心に焦点が置かれ,もし不都合な問題が生じたら,その人の心を変えることによって問題を解決するという発想が,自明な正しいものとされがちです.

 ある人のパフォーマンスは当人の認知によって変わる,そのためにポジティブな認知の仕方やレジリエンスをもつべきだ,という考え方をあなたはどう思いますか?


 ポジティブ心理学の創始者の一人であるマーティン・セリグマンは,1960年代後半に自ら行った動物実験による学習性絶望の研究から出発し,やがて学習性の希望へ,さらにポジティブ心理学へと研究を発展させました.
 学習心理学の枠組みの中でこれらが理論化され,絶望も希望やレジリエンスも当事者が経験や訓練によって習得できる心的性質のひとつとなりました.
 セリグマンは現在,北米で最も有名な心理学者のひとりです.(存命する心理学者では一般の人々の間で,最もよく知られていると言えるかも知れません.)

 学習性絶望は21世紀に米国が戦う「テロとの戦い」において,テロ容疑者や戦争捕虜に米国の軍事・情報当局が行った「心理学的拷問」の理論モデルになりました.
 ポジティブ心理学が推進するレジリエンス研究から得られた知見は,米軍兵士の心的健康を維持・増進するプログラムに活用されています.
 セリグマンが主宰するペンシルバニア大学ポジティブ心理学研究所は米軍から巨額の研究費を支給されました.

 このようにポジティブ心理学はツッコミどころが多く,これが盛んな国・地域の批判心理学者が関心をもつのは,ある意味では当然です.
 批判的な視点から検討した多くの論考を集めてハンドブックが刊行されるほど,欧米でポジティブ心理学が発展し普及している点も,注目に値します.

 ハンドブックにジーン・マルチェク(第6章「ポジティブ心理学は土着心理学なのだろうか?」)や,トッド・スローン(第25章「解放的実践としての快楽」)など北米の著名な批判心理学者も寄稿しています.


 下に目次をお示しします.
The Routledge International Handbook of Critical Positive Psychology
(Edited by Nicholas J. L. Brown, Tim Lomas, Francisco Jose Eiroa-Orosa)
Foreword: Interiorizing and Interrogating Well-Being  (Isaac Prilleltensky)
Chapter 1 Critical Positive Psychology: A Creative Convergence of Two Disciplines  (Piers Worth and Matthew Smith)

Section 1: Criticism of Positive Psychology
Introduction  (Nicholas J. L. Brown)
Chapter 2  The Unavoidable Role of Values in Positive Psychology: Reflections in Light of Psychology’s Replicability Crisis  (Brent Dean Robbins and Harris L. Friedman)
Chapter 3  Taking a Closer Look at Well-Being as a Scientific Construct: Delineating its Conceptual Nature and Boundaries in Relation to Spirituality and Existential Functioning  (Douglas A. MacDonald)
Chapter 4  The Meaning and Valence of Gratitude in Positive Psychology  (Liz Gulliford and Blaire Morgan)
Chapter 5  Positive Psychology, Mental Health, and the False Promise of the Medical Model  (Sam Thompson)
Chapter 6  Is Positive Psychology an Indigenous Psychology?  (Jeanne Marecek and John Chambers Christopher)
Chapter 7  Community Psychology’s Contributions on Happiness and Well-being: Including the Role of Context, Social Justice, and Values in Our Understanding of the Good Life.  (Salvatore Di Martino, Francisco José Eiroa-Orosa, and Caterina Arcidiacono)
Chapter 8  Positive Psychology: Intellectual, Scientific, or Ideological Movement?  (Bernardo Moreno-Jiménez and Aldo Aguirre-Camacho)
Chapter 9  Is Positive Psychology Compatible With Freedom?  (Digby Tantam)
Chapter 10  Critique of Positive Psychology and Positive Interventions  (Paul T. P. Wong and Sandip Roy)
Chapter 11  Toward a Well-Spoken Explanatory Style  (Paul Kalkin)
Chapter 12  An Introduction to Criticality for Students of Positive Psychology  (Nicholas J. L. Brown)
Interlude 1
Chapter 13  Five Historic Philosophers Discuss Human Flourishing and Happiness in Positive Psychology: A Speculative Dialogue in Three Acts  (Liz Gulliford and Kristján Kristjánsson)

Section 2: Doing Positive Psychology Critically
Introduction  (Tim Lomas)
Chapter 14  A Re-appraisal of Boredom: A Case Study in Second Wave Positive Psychology  (Tim Lomas)
Chapter 15  Affirming the Positive in Anomalous Experiences: A Challenge to Dominant Accounts of Reality, Life, and Death  (Edith Steffen, David J. Wilde, and Callum E. Cooper)
Chapter 16  Uncovering the Good in Positive Psychology: Toward a Worldview Conception That Can Help Positive Psychology Flourish  (Peter C. Hill and M. Elizabeth Lewis Hall)
Chapter 17  Toward a Culturally Competent Positive Psychology  (Adil Qureshi and Stella Evangelidou)
Chapter 18  Cultural and Racial Perspectives on Positive Psychologies of Humility  (David R. Paine, Sarah H. Moon, Daniel J. Hauge, and Steven J. Sandage)
Chapter 19  Positive Psychology’s Religious Imperative  (Daniel K. Brown and David G. George)
Chapter 20  @@@@Character Strengths as Critique: The Power of Positive Psychology to Humanise the Workplace  (Roger Bretherton and Ryan M. Niemiec)
Chapter 21  Toward an Integrative Applied Positive Psychology  (Byron Lee)
Chapter 22  Positive Politics: Left-wing Versus Right-wing Policies, and Their Impact on the Determinants of Wellbeing  (Tim Lomas)
Chapter 23  A Proposed Enquiry Into the Effect of Sociocultural Changes on Well-Being  (Francisco Jose Eiroa-Orosa)
Chapter 24  Complexity: Towards a New Measure of Societal Well-being  (Daniel T. Gruner and Mihaly Csikszentmihalyi)
Interlude 2
Chapter 25  Pleasure as a Form of Liberatory Practice  (Tod Sloan and Marisol Garcia)

Section 3: Applied Perspectives
Introduction  (Francisco Jose Eiroa-Orosa)
Chapter 26  Community Social Psychology and Positive Psychology: Learning From the Experience of @@@@Latin America  (Ramón Soto Martínez and Salvatore Di Martino)
Chapter 27  Positive, Necessary, and Possible Lives: Experience and Practice from the Struggle for a Dignified Life  (José Eduardo Viera and Lauren Languido)
Chapter 28  Exploring the Role of Engagement on Well-Being and Personal Development: A Review of Adolescent and Mental Health Activism  (Anne C. Montague and Francisco Jose Eiroa-Orosa)
Chapter 29  Citizenship, Mental Health, and Positive Psychology  (Jean-François Pelletier, Chyrell Bellamy, Maria O’Connell, Michaella Baker, and Michael Rowe)Chapter 30  The Brutality of Reality  (Chris Beales)
Chapter 31  Philotimo: Vices and Virtues of a Moral Archetype  (Manos Rhodes Hatzimalonas)
Chapter 32  Evaluating Positive Education: A Framework and Case Study  (Dianne A. Vella-Brodrick, Nikki S. Rickard, and Tan-Chyuan Chin)
Chapter 33  Shaping Positive Education Research to Influence Public Policy  (Charlie Simson, Lauren Rosewarne, and Lea Waters)
Chapter 34  Positive Psychology at a City Scale  (Mike Zeidler, Liz Zeidler, and Byron Lee)
Chapter 35  Judging the Efficacy and Ethics of Positive Psychology for Government Policymaking  (Mark D. White)
Chapter 36  Feel Good or Be Happy. Distinctions Between Emotions and Development in the Environmental Psychology Research of Wellbeing  (Pablo Olivos and Ricardo Ernst)

The Routledge International Handbook of Critical Positive Psychology (Hardback) book cover

2018年5月18日 (金)

「批判社会心理学ハンドブック」(ゴフ編,2017,パルグレーブ社)

 批判心理学に関心をおもちの方,これから批判心理学を学ぼうという方におすすめの本です.

 ブレンダン・ゴフ編 「批判社会心理学ハンドブック」(パルグレーブ社編,2017)
(Brendan Gough(Ed). 2017. The Palgrave Handbook of Critical Social Psychology. 2017)

 パルグレーブ社のハンドブックシリーズの一冊として刊行されました.
 平易な説明で読みやすく,1章ごとにコンパクトにまとめられています.

 私は批判心理学や理論心理学を専門としているのですが,社会心理学の領域で他の研究者がこれらをどのように考えているかが分かります.
 読んでいて楽しく,新しい知識を得られ,知的喜びを感じられます.

 社会心理学の基礎を学んだ後,批判心理学を知ろうとする方はこの本から始められるのもよいでしょう.


 下に目次をお示しします.

目次

PART I. Introduction
Chapter 1. Critical Social Psychologies: Mapping the Terrain; Brendan Gough

PART II. Critical Perspectives
Chapter 2. Feminisms, Psychologies, and the Study of Social Life; Eva Magnusson & Jean Marecek.
Chapter 3. Marxism as a Foundation for Critical Social Psychology; Michael Arfken
Chapter 4. Social Constructionism; Viv Burr & Penny Dick.
Chapter 5. The Radical Implications of Psychoanalysis for a Critical Social Psychology; Tom Goodwin.
Chapter 6. Queer Theory; Damien Riggs & Gareth Treharne.
Chapter 7. Critical Race Studies in Psychology; Phia S. Salter & Andrea D. Haugen.
Chapter 8. Psychology of Liberation Revised (A Critique of Critique); Maritza Montero.

PART III. Critical Methodologies
Chapter 9. Phenomenology; Darren Langdridge.
Chapter 10. Narrative Social Psychology; Michael Murray.
Chapter 11. Discourse Analysis; Martha Augoustinos
Chapter 12. Psychosocial Research; Stephanie Taylor
Chapter 13. Innovations in Qualitative Methods; Virginia Braun, Victoria Clarke & Debra Gray

PART IV. Rethinking Social Cognition
Chapter 14. Attitudes and Attributions; Andy MacKinlay & Chris McVittie.
Chapter 15. Social Influence; Stephen Gibson & Cordet Smart.
Chapter 16. Prejudice; Keith Tuffin
Chapter 17. Prosocial Behaviour; Irene Bruna Seu
Chapter 18. Relationships: From Social Cognition to Critical Social; Simon Watts.

PART V. Social Identities/Relations/Conflicts.
Chapter 19. The Self; Chris McVittie & Andy MacKinlay.
Chapter 20. Gender; Sarah Riley & Adrienne Evans.
Chapter 21. Sexual Identities and Practices; Majella McFadden.
Chapter 22. Critical Approaches to Race; Simon Goodman
Chapter 23. Towards a Critical Social Psychology of Social Class; Katy Day, Bridgette Rickett & Maxine Woolhouse.
Chapter 24. Critical Disability Studies; Dan Goodley, Rebecca Lawthom, Kirsty Liddiard & Katherine Runswick-Cole.
Chapter 25. Intersectionality: An Underused but Essential Theoretical Framework for Social Psychology; Lisa Bowleg.

PART VI. Critical Applications.
Chapter 26. Critical Health Psychology; Antonia C. Lyons & Kerry Chamberlain.
Chapter 27. Critical Clinical Psychology; Steven Coles & Aisling Mannion.
Chapter 28. Educational Psychology in (times of) Crisis: Psycho-Politics and the Goovernance of Poverty; China Mills.
Chapter 29. Critical Organisational Psychology; Matthew McDonald & David Bubna-Litic.
Chapter 30. Environment: Critical Social Psychology in the Anthropocene; Matthew Adams.

2018年5月16日 (水)

「批判心理学を教育する:国際的視点」(ニューンズ&ゴールディング編,2017,ラウトレッジ)

 ゼロ年代以降,世界の心理学の新動向を見わたしていた心理学者の間で,批判心理学の発展が注目を集めるようになりました.
 北側諸国でも南側諸国でも,専門領域の垣根を越えて「批判心理学(critical psychology)」の名のもとで研究や心理臨床や社会的実践や教育に取り組む心理学者が登場しました.
 多くの国・地域の研究者が集う国際的なネットワークが築かれたことが知られると,心理学界に新たな潮流が生まれたという認識が広がりました.

 批判心理学は各々の心理学者の研究関心や専門領域,方法論の差異に応じて実際には多様なかたちで実践されています.
 しかし,研究主題や方法の多様性にもかかわらず現在,心理学が直面している課題に取り組み,心理学の内部から改革しようと試みる姿勢を批判心理学者は共有しています.

 研究であれ,心理臨床であれ社会的活動であれ,変革するには自分が行っている批判心理学的実践を次世代に伝える教育が重要です.

 イギリスの批判心理学者が中心になり批判心理学の教育を考察した論集が刊行されました.

 ニューンズ ,ゴールディング編 「批判心理学を教育する:国際的視点」 ラウトレッジ 2017 (Craig Newnes & Laura Golding (Eds.), 2017. Teaching Critical Psychology: International Perspective. Routledge)

 私は心理学概論や心理学史,心理学の哲学などの授業で批判心理学の立場から心理学教育に取り組んでいます.
 他の国・地域の批判心理学者が心理学教育をどのように考えているか,この本から知ることができて
参考になります. 

 批判心理学と心理学教育を主題とする良い本です.
 しかし,私が知る範囲ではなぜか,その存在があまり知られていないようです.
 昨年の夏,イギリスで開かれた学会に参加した時に,たまたまこの本の編者の一人に紹介され,同書を知りました.

 批判心理学に関心をおもちの方にお薦めします.
 特に第2章「批判的教育のための10の提案」(ジョン・クロンビー著)が,批判心理学の教育へのイントロダクションとして役立ちます.


 下に目次をお示しします.

Preface: On critical pedagogy  (Peter McLaren)

Chapter One: Teaching psychology critically  (David Fryer & Rachael Fox)

Chapter Two: Ten suggestions for critical teaching  (John Cromby)

Chapter Three: Towards coherence in teaching critical Psy  (Craig Newnes)

Chapter Four: Teaching disability, teaching critical disability studies  (Dan Goodley, Katherine Runswick-Cole and Michael Miller)

Chapter Five: Fear and loathing in the education system  (Robbie Piper)

Chapter Six: What can teachers of critical and community psychology learn from their learners?  (Olivia Fakoussa, Gemma Budge, Mandeep Singh Kallu, Annie Mitchell and Rachel Purtell)

Chapter Seven: Teaching indigenous psychology: A conscientisation, de-colonisation, and psychological literacy approach to curriculum  (Pat Dudgeon, Dawn Darlaston-Jones, & Abigail Bray)

Chapter Eight: Psy and the law: The Law Project for Psychiatric Rights' public education approach  (Jim Gottstein)

Chapter Nine: Teaching withdrawal of antipsychotics and antidepressants to professionals and recipients  (Peter Lehmann)

Chapter Ten: Human rights and critical psychology  (Beth Greenhill & Laura Golding)

Chapter Eleven: Children’s experiences of domestic violence: A teaching and training challenge  (Jane Callaghan, Lisa Fellin & Joanne Alexander)

Chapter Twelve: Supervision: A principles based approach  (Sara Tai)

2018年5月 7日 (月)

5月26日の批判心理学セッション:平和心理学と平和教育,心理学教育,弁証法的心理学,ディスコース分析

 5月26日(土)に開かれる批判心理学セッションのプログラムが決まりました.

 5回目のセッションでは,対テロ戦争と心理学の関係を例示する批判心理学の立場からの心理学教育,平和心理学と平和教育,クラウス・リーゲルの弁証法的心理学,原子力発電所事故のディスコース分析などを主題とする話題提供が予定されています.

 話題提供も討論も,形式にとらわれず自由に,かつ前向きな姿勢で行われます.

 批判心理学に関心をお持ちの方は,どなたでも参加できます.
 参加費は無料です.
 


批判心理学セッション5
日時:5月26日(土),午後2時から
会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)
話題提供1:いとう たけひこ(和光大学) 「一般心理学講義における批判心理学の位置づけ:和光大学での五十嵐靖博さん特別授業を手がかりに」
話題提供2:百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所) 「心理学における弁証法の適用:矛盾を手がかりに」
話題提供3:杉田 明宏(大東文化大学) 「平和心理学から見る平和教育の課題」
話題提供4:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「原子力発電所事故のディスコース分析(3):復興大臣の記者会見をめぐって」
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会
参加費:無料
アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)
所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありません.6階612号室までお越し下さい.



2018年4月26日 (木)

批判心理学セッションが5月26日(土)に開かれます

 第5回批判心理学セッションが,5月26日(土)に開かれます.

 原子力発電所事故のディスコース分析,心理学教育と対テロ戦争における「心理学的拷問」,クラウス・リーゲルの弁証法的心理学やその他の主題について話題提供が行われる予定です.

 会場は前回と同様に,静岡大学東京事務所です.(東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内.JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分
 午後2時,開始です.


 話題提供者を募集しています.当ブログ開設者にお知らせください.
 参加費は無料です.

 批判心理学に関心をおもちの方なら,どなたでも参加できます.
 気軽にご参集ください.



2018年4月19日 (木)

アメリカ質的心理学会大会のプログラム

 アメリカ質的心理学会(Society for Qualitative Inquiry in Psychology)の年次大会が5月21,22日にピッツバーグのデュケイン大学で開催されます.
 大会
プログラムが同学会のウェブサイトで公開されました(http://qualpsy.org/)

 プログラムをみると,質的心理学のさまざまな研究方法やそれを支える哲学,コミュニティがかかえる実生活の諸問題への取り組み,心理臨床や福祉,心理学教育,諸国の研究動向など,心理学における質的研究にかかわる主題が幅広く論じられるようです.

 1年前に2017年の大会のプログラムをみたときは特に関心をもたなかったのですが,今年のそれは一見しておもしろそうです.

 大会は
デュケイン大学で開催されます.
 同大学でアメディオ・ジオルジ
1960年代後半から現象学的心理学の研究と教育に取り組み,多くの研究者を養成しました.北米における質的心理学の最重要拠点のひとつです.

 現象学的心理学に関する発表もプログラムに多く記載されています.同大学ではコミュニティの諸問題の実践的研究も盛んなようです.
 50年前にジオルジが始めた質的心理学の研究・教育プロジェクトが実を結びました.質的心理学に関する学術会議の開催校にふさわしい大学ですね.
 (ジオルジ先生,おめでとうございます!長い間,ありがとうございました.)

 1980年代から2010年代まで,ジオルジの邦訳書が3冊,刊行されています.
 1980-90年代に主流のアメリカ心理学とは異なる心理学を模索していた日本の心理学者に,貴重な示唆を与えてくれました.
 私もそのひとりです.ゼロ年代に数度,国際学会でお目にかかる機会があり,ひたむきに現象学的心理学に取り組む姿を瞥見して強い印象を受けました.

  アメディオ・ジオルジ 「現象学的心理学の系譜:人間科学としての心理学」(早坂泰次郎訳 勁草書房 1981)
  アメディオ・ジオルジ 「心理学の転換:行動の科学から人間科学へ」(早坂泰次郎訳 勁草書房 1981) 
  アメディオ・ジオルジ 「心理学における現象学的アプローチ:理論・歴史・方法・実践」(吉田章宏訳 新曜社 2013)



 アメリカ質的心理学会は2011年にアメリカ心理学会の第5部会(量的方法と質的方法)のサブ部会となりました.

 学会の公式ジャーナル「Qualitative Psychology」もお薦めです.面白い研究がたくさん掲載されています.(http://www.apa.org/pubs/journals/qua/ )

 5月にアメリカ質的心理学会の大会の他に,国際質的研究学会の年次大会もイリノイ州で開かれます(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2017/11/14-6800.html)

 質的心理学者がウキウキする季節になりました.



2018年4月15日 (日)

アメリカ心理学会の質的論文ガイドライン

 先日,イギリス心理学会が学術雑誌における質的研究の重要性をあらためて提起する声明を発表した,と当ブログでお知らせしました.

 大西洋を挟んで北米では,アメリカ心理学会(APA)の研究論文の刊行に関するタスクフォースが,質的研究法や混合研究法を用いて行われた研究を論文化する上で参照すべき基準をまとめました.
 アメリカン・サイコロジスト誌で発表されました.


報告書のタイトル:
 「質的研究,質的メタ分析と混合法による心理学研究を報告するジャーナル論文の標準:APA論文刊行とコミュニケーション委員会タスクフォースの報告(Journal Article Reporting Standards for Qualitative Primary, Qualitative Meta-Analytic, and Mixed Methods Research in Psychology: The APA Publications and Communications Board Task Force Report)」

著者:
 Levitt,H.,Bamberg,M.,Creswell,J.,Frost,D.,Josselson,R.,& & Suárez-Orozco,C.

発表誌:

 American Psychologist, 2018, Vol.73, No.1, Pp.26–46



 心理学だけでなく社会科学の多くの領域で,アメリカ心理学会の論文記述様式(APAスタイル)が定番になっています.

 量的心理学の一部が科学主義の傾向を強め心理学研究が阻害されたことへの反省から,質的心理学者の中には過度に形式化された論文の記述スタイルを避ける傾向がみられます.

 しかし質的研究が普及すると,論文の質を保つために記述様式の基準を求めるニーズも強まります.
 研究の目的や方法,研究資料の分析,考察など,論文の各節で何をどのように述べたらよいか,留意すべき諸点が明確に示されれば,論文を書く人にも論文を査読する人にも便利です.
 アメリカン・サイコロジスト誌に発表された上記の報告は,質的研究による論文の執筆者と査読者のニーズに応えるものです.

 この報告の「研究の目的」の節をみると,
 「研究に用いるアプローチを説明しなさい.例)記述的方法,解釈的方法,フェミニスト研究,精神分析,ポスト構造主義,構成主義,批判的方法,ポストモダン,プラグマティックなアプローチ」,
 といった説明がみられます.

 アメリカ心理学会の会員が同学会の旗艦誌である「アメリカン・サイコロジスト」に掲載された同学会のタスクフォースの報告書で,フェミニスト心理学や批判心理学,ポスト構造主義的心理学などを推奨される時代が訪れたようです.

 アメリカの心理学者の間で質的研究がある程度まで受け入れられ,その中に批判的研究が含まれていることが伺われます.


2018年4月 3日 (火)

イギリス心理学会の声明:学術雑誌における質的研究の重要性

 イギリス心理学会が3月27日に声明を発表し,学術雑誌における質的研究の重要性を強調しました.

 「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」や「ジャーナル・オブ・チャイルド・アンド・ファミリースタディーズ」などが編集指針を改訂し,質的研究を受け入れない方針を示したことに反対を唱えています.

 上記の学術雑誌が質的方法を用いて行われた研究の掲載を止める理由として,
「優先度が低い」,「他の研究者によって引用されない」,「実用的な価値が低い」といったことが挙げられています.
 
 これらは良い研究かどうかを判断する基準の一部でしょう.
 しかし質的研究だから上記を満たさない,というわけではありません.量的研究など質的研究とは異なる方法を用いて行われる研究も,それらを満たさない場合もあります.
 良い研究もあれば悪い研究もあるのは,質的研究も量的研究も同じことです.

 上記の学術雑誌の編集委員会がもしも,質的研究だから悪い研究だ,と考えているなら,科学ではなく「科学主義」の悪しき例の一つです.
 研究対象の質を観察し記述して詳細に分析する研究方法が,科学研究において重要なことは明らかではないでしょうか.


 下記のサイトでイギリス心理学会の声明文が公開されています.
 https://www.bps.org.uk/news-and-policy/statement-qualitative-research-journals

 下に全文を引用します

「Statement on qualitative research in journals

                       27 March 2018

 As the learned society and professional body for psychology in the UK, the British Psychological Society is concerned in relation to the adoption of a revised editorial policy by some journals (including the Journal of Child and Family Studies and the British Medical Journal) to stop accepting submissions of qualitative research.

 We are particularly concerned at the claims that such studies are “low priority”, “unlikely to be highly cited”, “lacking practical value”, or “not of interest to our readers”.

 Qualitative research is now widely recognised as an important aspect of scientific work.  Whilst some research may be considered of “lacking practical value” or of “low quality”, the same argument can be made for research utilising other methodological approaches and techniques, and are not issues that are restricted to qualitative research alone.

 There is a risk that editorial decisions of this nature will begin to shape the discipline, instead of the discipline being shaped by the activity of the broader community of researchers.

 We wish to reiterate that the Society’s editorial policy across our portfolio of journals (published in partnership with Wiley) remains open to submissions of high quality research from all methodological approaches.


  Professor Daryl O'Connor (Chair, Research Board)
  Professor Andy Tolmie (Chair, Editorial Advisory Group)  」




  



2018年3月24日 (土)

フェイスブックの「いいね!」と心理学:ビッグデータを活用したトランプ陣営の選挙キャンペーン

 2016年に行われたアメリカの大統領選挙でトランプ候補が対立候補のクリントン氏を破った選挙キャンペーンにおいて,フェイスブックなどのSNSが活用されたことは以前から知られていました.そこで自陣営に都合のよい偽のニュースが大量に発信されました.
 フェイクニースは流行語になりました.

 最近のマスメディアの報道で,心理学者の関与が指摘されています.


 下記の東京新聞の記事(「米大統領選で不正利用か FBから5000万人分情報流出」,3月23日朝刊)によれば,心理学者が重要な役割を果たしたそうです.

「...米交流サイトのフェイスブック(FB)が大量の個人データの流出に揺れている。五千万人分もの情報が不正に第三者に渡ったことが発覚。二〇一六年の米大統領選でトランプ陣営の選挙運動に使われた可能性もある。米当局が調査に着手し、集団訴訟を起こされる事態にもなっている。

 米紙ニューヨーク・タイムズなどによると、FBは英ケンブリッジ大心理学者と学術目的で、ユーザー情報を提供する契約を結んだ。心理学者はユーザーの性格などを分析するアプリを開発し、個人情報の提供に同意した二十七万人がアプリをダウンロードした。

 その後、心理学者はFBの許可を得ず、提携関係にあった英国のデータ分析企業ケンブリッジ・アナリティカ(CA)に情報を流した。ユーザー本人だけでなく、FB上の「友人」を含め五千万人を超える情報が流出したとみられる....」

 他の報道とあわせて考えると,フェイスブックのユーザーの「いいね!」のような利用行動やプロファイル情報を多数収集し,そのビッグデータの計量心理学的解析によって明らかになった各ユーザーの心的特性に応じて個別にマイクロ広告を送り,トランプ陣営に有利な投票行動を促した,ということのようです.

 選挙キャンペーンにおける心理学の有用性を知悉したIT情報コンサル企業,ケンブリッジ・アナリティカ社が心理学者を雇用して必要な情報を取得し,SNSを活用したキャンペーン手法を助言してトランプ陣営に勝利をもたらした,と報じられています.

  写真

  (東京新聞,3月23日朝刊より


 個人のネット上の行動情報が当人が知らないうちに収集され,心理学的手法を用いて特定の経済的,政治的目的のために利用される可能性について,以前から私も懸念を感じていました.批判心理学や理論心理学にとって,重要な問題です.

 しかし既に2016年のアメリカの大統領選挙やブレグジットを選んだイギリスの国民投票で,結果を左右する効果をもたらしていたとのこと.
 私が予想していたより,現実の方が進んでいました.

 上で述べたフェイスブックの問題では利用者の「いいね!」などを性格のビッグ・ファイブ理論を用いて分類していたそうです.
 教科書でお馴染みのよく知られた性格理論です.理論的には新しい発展はみられません.

 しかし,ビッグデータを効率的に収集する技術が実現し,多くの利用者の情報を心理統計学的に分析して各利用者の心的性質や行動傾向を推測する技術が向上しました.
 その知見を個々のSNSユーザの心的性質に応じてアレンジし,行動を変容するために適宜,提示するIT技術を利用できる時代になりました.

 この傾向は今後,いっそう強まっていくことでしょう.
 心理学化が深化する新しい時代のただ中で,私も皆さんも日々の生活を送っているのです.
 私たちの主観性や行為の選択が,自分でも気づかないうちに心理学を適用したテクノロジーの作用によって影響を受けているかもしれません.

 上で引用した東京新聞の記事のほかに,次の記事をお薦めします.

 日経ビジネス 「トランプ勝利の影にあった『心理広告戦略』:続く選挙を前に欧米メディアが懸念する「CA社」の動き」,2017年1月25日(http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/012000544/)

 フォーブス 「
トランプを勝利させた『謎のビッグデータ企業』CEOの激白」,2017年11月15日(https://forbesjapan.com/articles/detail/20267)

 

2018年3月19日 (月)

トランプ大統領が「水責めの女王」をCIA長官に指名しました:対テロ戦争における「心理学的拷問」

 3月14日にトランプ米大統領が国務長官を解任し,後任にCIA長官を指名したニュースが大きく報道されました.
 同大統領は同時に,新しいCIA長官にジーナ・ハスペル氏を指名しました.このニュースは日本のマスメディアの注目を集めていないようです.
 しかし今日の「テロとの戦い」を考える上で.重要な出来事のひとつです.


 ハスペル氏は9.11同時多発テロの後,CIAがテロ情報を得るためにテロ容疑者に対して国外の秘密拘禁施設で「強化尋問技法」を用いて「過酷尋問」を行った作戦を指揮した,と報道されています.
 この尋問では水責めなど,心身の健康に重大な悪影響を与える技法が米政府の認可の下で実施されました.
 「アメリカ政府が認めた拷問」がハスペル氏の関与の下で始まりました.

 過酷尋問に対してアメリカ内外で批判が高まり,連邦上院が調査を始めると,尋問を記録した多数の録画テープが破壊されました.
 ハスペル氏が破壊を指示した,と報道されています.もし過酷尋問の実態が映像で公開されれば,当時のブッシュ政権や米政府は重大なダメージを受けたことでしょう.

 当ブログで以前に数度,サウジアラビア人のアブ・ズベイダ容疑者が2002年にパキスタンでCIAに捕捉され,タイの秘密拘禁施設に移送されて,2名の軍事心理学者によって水責めを含む強化尋問技法を用いた過酷尋問を受けた問題を取り上げました.
 この作戦を指揮したのはハスペル氏です.

 CIAによるテロ容疑者への過酷尋問は,「自由の国」,「人権を重んじる国」を理想として掲げてきたアメリカの変化を示す歴史的な事件のひとつだと言われています.
 その責任者がアメリカ政府を代表する情報機関のトップに指名されるとは,トランプ氏が米大統領に選出される前には想像できなかったことです.

 昨年,トランプ米大統領によってCIA副長官に指名されるまで,ハスペル氏の名前も写真も公表されることはありませんでした.同氏がCIAの秘密工作部門の要員だったためです.


 今後,「過酷尋問は拷問ではない.テロ対策の一環として必要である」という意見がトランプ政権のもとで,再び強まる可能性があります.

 ただし,上院が上記の問題を理由としてハスペル氏のCIA長官への就任を認めないのでは,という指摘もあります.
 また,同氏がドイツなどに入国した場合は,人道に対する犯罪の嫌疑のために身柄を拘束される可能性がある,という報道もあります.拷問は国連拷問禁止条約や戦争捕虜の保護を定めたジュネーブ条約に違反する重大な犯罪だと考えられています.

 この問題に関心をおもちの方は,下記の報道をご参照ください.

AFP通信(3月14日) 「拷問関与を議員ら批判,米CIA長官指名のハスペル氏」http://www.afpbb.com/articles/-/3167299

中日新聞(3月14日) 「史上初の女性CIA長官に ベテラン捜査官ハスペル氏」http://www.chunichi.co.jp/s/article/2018031401000687.html

ブルームバーグ(3月14日) 「次期CIA長官指名のハスペル氏,拷問関与疑惑を問題視される可能性」 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles



2018年3月13日 (火)

4月8日に批判心理学セッションが開かれます

 4月8日に批判心理学セッションが開かれます.

 昨年10月に1回目のセッションが開かれてから,4度目となります.
 批判心理学に関心をおもちの方なら,どなたでも参加できます.参加費は無料です.

 ドイツ批判心理学やコミュニケーション学からみた心理学の特徴や問題点,批判心理学的実践としての心理学教育,対テロ戦争における「心理学的拷問」について話題提供が行われます.
 自由に,前向きな姿勢で心理学とその歴史や哲学,社会とのかかわりなどについて討議しましょう.

 
批判心理学セッション4
日時:4月8日(日),午後2時から
会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)
話題提供1:百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所) 「Individual subjectivity and its development,in Tolman, C. W. (1994). Psychology,society,and subjectivity: An introduction to German Critical Psychologyを読む」(2)
話題提供2:田辺 肇(静岡大学) 「批判心理学を教育に活かすには?:精神保健福祉史,心理学史,心理学論における(4) “心のモデル”の伝え方(2)」
話題提供3:増田 匡裕(和歌山県立医科大学) 「コミュニケーション学でもらった“玉手箱”を心理学の“浜辺”で開けてみると(その2):【対話論の続編】『対人関係の弁証法理論』の応用研究は心理学者にも魅力的か?」
話題提供4:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「アメリカ心理学と対テロ戦争におけるテロ容疑者への拷問:最近の展開」
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会
参加費:無料
アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)
所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありませんので6階612号室までお越し下さい.

2018年3月10日 (土)

アメリカ心理学を変えた5名の非白人の女性心理学者

 3月8日の世界女性デーが過ぎたところです.
 アメリカ心理学会の女性による心理学実践を促進する試みをご紹介します.

 アメリカ心理学会(APA)で心理学教育の促進を担うAPA教育局(APA’s Education Directorate)がウェブサイトに,「注目すべき5人の非白人の女性心理学者:心理学を永遠に変え,これからもあなたたちを鼓舞しづける先人たち」(5 Phenomenal Women of Color Who Changed Psychology Forever and Will Inspire You to Do the Same)と題する記事を公開しています.
 下記のURLを参照ください.

(http://psychlearningcurve.org/women-of-color-who-changed-psychology/?utm_content=buffer145bf&utm_medium=social&utm_source=twitter.com&utm_campaign=buffer)


 5人の女性心理学者とは下記の先人たちです.残念ですが,英語のままお示しします.
 4番目のリエコ・トゥルー博士は新潟出身の日本人です.

1. Inez Beverly Prosser (1895-1934)
 The first African American woman to complete a PhD in psychology in 1933, she had to leave Texas to pursue her degree because no graduate schools there accepted African Americans. She studied how racially integrated and racially segregated schools impact African American youth.


2. Martha Bernal (1931-2001)
   The first Latina to earn a PhD in psychology in the United States, she studied ethnic identity and made clinical training more relevant for minorities. She also mentored Latino/a psychologists and founded the National Hispanic Psychology Association.


3. Mamie Phipps Clark (1917-1983)
    She and her husband, Kenneth Clark, studied racial preferences and identity in Black children in integrated schools compared to segregated schools. In the famous Doll Studies, children were presented with four dolls, two black and two white. They were asked which doll they liked best. More than 65% of the kids chose a white doll. These findings were used in the Brown v. Board of Education Supreme Court case that dismantled school segregation.


4. Reiko True    
 Born in Japan, she attended university in Tokyo, one of only 3 women in a class of 80. She remains passionate about equal access to mental health care and lobbied to create the first mental health center in California to serve Asian Americans. She then led the center, ensuring staff were trained in Asian languages and culture.


5. Jennifer Eberhardt
 2014 MacArthur Award Winner Jennifer Eberhardt, Stanford University.    
Her research shows how subliminal images activate racial stereotypes, changing what and how people see. She investigates the largely unconscious yet deeply ingrained ways that individuals racially code and categorize people, with a particular focus on associations between race and crime. She uses these findings to raise awareness about stereotypes in the criminal justice system and in education. In 2014, she received a MacArthur Foundation award for her groundbreaking work.


 対テロ戦争におけるテロ容疑者への「心理学的拷問」に関する問題では,アメリカ心理学会はアメリカ精神医学会やアメリカ医学会などに比べて,倫理的な後進性を露呈しました.
 精神科医や医師がテロ容疑者の心身に重大な悪影響を与える尋問を拒んだのに対して,心理学者は国防総省やCIAの求めに応じて「強化尋問技法」を考案して「過酷尋問」を自ら行い,またそれを施行する制度を支えました.

 しかし,非白人女性の心理学者の再評価や教育・研究環境の改善の面では前向きに取り組んでいるようです.

 「国家安全保障に関する尋問」はアメリカの心理学者にとって,政府や軍事・情報当局,連邦議会などとの関係を深めて心理学の地位を向上させるため,また雇用や研究資金の獲得などのため,批判的な取り組みを容易に行いえないようにみえます.

 この点ではアメリカ心理学会のあり方に同意することはできません.
 しかし女性心理学者の,特に非白人の女性心理学者の活動を支援する施策には賛同します.

 私のジェンダーは男性ですが,フェミニスト心理学や女性によるジェンダー心理学の重要性を批判心理学や理論心理学の立場から痛感し,日本で少しでもこれらを推進できないかと願ってこの10数年ほどの間,微力を尽くしてきました.
 しかし,変化をもたらしえない自分の力不足を,改めて感じています.

 とはいえフェミニスト心理学の重要性は変わりません.後に続く人がきっと,いることでしょう.ご健闘とご多幸をお祈りします.




2018年3月 9日 (金)

イアン・パーカーの「サイ・コンプレックスを考える:心理学と精神分析と社会理論の批判的検討」(ゼロブックス,2018)

 批判心理学に関心をおもちの方なら,一度はイアン・パーカーの論文や著書を読まれたか,その評判を聞いたことがあるのではないでしょうか.

 パーカーはイギリスのマンチェスターでフェミニスト心理学者のエリカ・バーマンとともに設立したディスコース・ユニットを拠点として,この30年ほどの間,批判心理学を展開してきました.

 数多い彼の著書の最新刊が「サイ・コンプレックスを考える:心理学と精神分析と社会理論の批判的検討」(ゼロブックス,2018)です.

 Ian Parker (2018)  Psy-Complex in Question :Critical Review in Psychology,Psychoanalysis and Social Theory. Zero Books


  この本は1990年代初めからパーカーが発表した書評を,サイ・コンプレックスの観点から集成したものです.
 サイ・コンプレックスは心理学(psychology)や精神分析(psychoanalysis)や精神医学(psychiatry)など,英語表記で接頭辞の「psy」を語頭にもつ心に関する諸学問が,社会の様々な領域のニーズを背景として生み出してきた心を説明する理論や用語や検査,セラピー等が実生活の中で適用され,人々の主観性や行為に影響を与えている情況を説明する概念です.

 心理学などの学問を,社会や政治経済,諸制度,文化などとの関わりの中で捉える視点が,サイ・コンプレックスという概念の眼目です.
 コンプレックスというと「劣等感(インフェリオリティ・コンプレックス)」を考えがちですが,それではありません.
 サイ・コンプレックスをあえて漢字を用いて訳すと「心理的複合体」といった表記になりそうですね.

 パーカーの新刊は心に関する他の研究者の仕事を,彼がサイ・コンプレックスの観点からどう考えたか,読者に教えてくれます.
 ひとつの論考が数ページと短く,簡潔で分かりやすい書き方で論じられています.百数十ページほどの手軽に読める便利な本です.

 批判心理学者は制度的学問としての心理学に止まらず,現代社会や社会の構造的問題と心理学的文化の関係を問うなど,より広い視座をもつに至る例が多いようです.
 パーカーの場合は個別学問としての心理学を超えて,ラカン派精神分析やジジェクの精神分析的研究,さらにそれらと社会理論の関係へと知的関心と社会的実践が拡張していった軌跡を,同書に収められた書評が示しています.

 下に目次をお示しします.

 イアン・パーカー 
「サイ・コンプレックスを考える:心理学と精神分析と社会理論の批判的検討」(ゼロブックス,2018)
1.イントロダクション:サイ・コンプレックスのレビューと批判
2.心理学と心理療法
3.精神分析,ラカン
4.社会理論,ジジェク

  Psy-Complex in Question   

2018年3月 1日 (木)

シンポジウム 「対テロ戦争における『過酷尋問』と心理学:ホフマン報告書を読む」

 「テロとの戦い」におけるテロ容疑者への「過酷尋問」にアメリカ心理学会とアメリカの心理学者が加担した問題をめぐって,3月19日に下記のシンポジウムが開かれます.
 この問題に関心をお持ちの方はどなたでも参加できます.参加費は無料です.

 2016年のシンポジウム「心理学と対テロ戦争と『国家安全保障の尋問』」(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2016/01/post-c778.html),2017年のシンポジウム「対テロ戦争における『心理学的拷問』を考える:ホフマン報告の後の心理学」(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2017/02/post-dc2e.html)に続いて,3回目となります.

 今回のシンポジウムはホフマン報告書の原文にもとづき,「心理学的拷問」を検討します.



シンポジウム 「対テロ戦争における『過酷尋問』と心理学:ホフマン報告書を読む」

 2011年にアメリカを襲った9.11同時多発テロの後,テロ対策のためアメリカ政府の施策の一環として軍事・情報当局によってテロ容疑者に「過酷尋問」が行われました.
 過酷尋問は被尋問者に著しい苦痛を与え心身の健康を損なう拷問だとアメリカ国内でも,国際社会でも非難の声があがりました.アメリカの心理学者とアメリカ心理学会が当局の求めに応じて過酷尋問に加担した事実が明らかになると,北米社会において心理学への信頼が揺るがされる事態を招きました.

 本シンポジウムではアメリカ心理学会の関与を検証したホフマン報告書を読み,アメリカの心理学者がなぜ「心理学的拷問」に加担したのか考察します.

日時:3月19日(月),14:30-16:45
話題提供:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「ホフマン報告書にみるアメリカ心理学会と心理学者の行動の論理と倫理:批判心理学の立場から」
指定討論1:いとう たけひこ(和光大学)
指定討論2:杉田 明宏(大東文化大学)
会場:和光大学A棟9階心理教育学科資料室
(https://www.wako.ac.jp/access/campus.html)
参加費:無料
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会
共催:平和のための心理学者懇談会,心理科学研究会平和心理学部会


 このシンポジウムに続いて同じ会場で,平和のための心理学者懇談会・心理科学研究会平和心理学部会 2017年度第4回合同研究会が開かれます.

2018年2月 6日 (火)

次回の批判心理学セッションは4月8日です.

 2月4日に3回目の批判心理学セッションが開かれました.
 心理学の方法論や理論や概念,心理学教育や心理学史,心理学の科学性,福島原子力発電所事故の心理学などをめぐって活発な討議が行われました.

 午後から夜まで5時間半ほど,テーブルを囲んで意見を交わしました.年配の参加者から「何十年ぶりに院生時代に戻ったようだ」,「この研究会では自由に何でも言える」といった声が聞かれました.
 批判心理学セッションの良い特徴を示す発言でしょう.

 前回に続いて3度目のセッションでも,私は発表を聴いて多くを学び,自由な意見交換から新しい刺激を得ました.
 下記は発表テーマの一覧です.

 ・話題提供1:増田 匡裕(和歌山県立医科大学) 「コミュニケーション学でもらった“玉手箱”を心理学の“浜辺”で開けてみると(その1):バフチンの対話論に基づく「対人関係の弁証法理論」が知られていない。」
・ 話題提供2:百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所) 「Tolman, C. W. (1994). Psychology, society, and subjectivity: An introduction to German Critical Psychology London,UK: Routledge を読む」
  ・話題提供3:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「原子力発電所事故のディスコース分析(2):猪苗代湖ズの『プライド。祈るように叫んだ歌』をめぐって」
  ・話題提供4:小田 友理恵(法政大学大学院) 「心理学の『科学性』について:科学史と心理学史を踏まえた,主観性と客観性に関する考察」
  ・話題提供5:田辺 肇(静岡大学) 「批判心理学を教育に活かすには?:精神保健福祉史,心理学史,心理学論における(3)“心のモデル”の伝え方」


 次回の批判心理学セッションは,4月8日に静岡大学東京事務所で開かれます.
 批判心理学に関心をおもちの方はどなたでも参加できます.温かい雰囲気の中で
前向きに心理学が抱えている諸問題や心理学の哲学や歴史,社会学,新しい心理学のあり方などを討議しましょう.

 発表を希望される方は,当ブログ開設者にお知らせください.



2018年2月 2日 (金)

2018年のアメリカ心理学の10大トレンド:心理学モニター誌の特集

 アメリカ心理学会の「心理学モニター」誌は,幅広い層の読者に向けて心理学を紹介する雑誌です.
 同学会はたくさん雑誌を刊行していますが,
「心理学モニター」誌はもっともよく読まれているもののひとつです.心理学の「科学」としての側面と,心理臨床や社会諸領域での心理学の応用の双方にかんするトピックを取り上げています.

 2018年のアメリカ心理学の10大トレンドを同誌が予想し特集号を組みました.(2017年11月号です.)

「注目すべき心理学の10の新トレンド:2018年に心理学に起こること (10 trends to watch in psychology :What's ahead in 2018)」. (Monitor on Psychology, November 2017, Vol 48, No. 10)

 次のウェブサイトで公開されていす.
 http://www.apa.org/monitor/2017/11/cover-trends.aspx



 10大トレンドのうちわけは,
・アメリカで心理学はいっそう人気を集め発展する,
・産業における応用心理学もいっそう重要になる,
・貧困や住環境などと健康の関係が注目を集める,
・科学政策など科学振興のために心理学が寄与する,
・神経遺伝学やエピジェネティクスで心理学が役立つ,
・不健康な職場と経済的コストの関係の理解が進む,
・健康専門職者の教育において心理学の重要性が増す,
・VR技術やITのアプリなどの新技術が心理学的サービスの利用可能性を高める,
・心理学界における女性の地位の向上が急務である,
・心理学界でもデータの共有やオープン・サイエンスが進む,
 というものです.

 いささか楽観的に過ぎるでしょうか?
 「テロとの戦い」におけるテロ容疑者への「過酷尋問」にアメリカの心理学者とアメリカ心理学会が加担した事実はマスコミ報道などで広く知られ,公衆の心理学への信頼を揺るがしました.

 しかし,北米社会はすでに高度に心理学化された社会になりました.ビジネスや教育や健康や司法や軍事など多くの社会セクターで心理学が求められています.
 だからこうした追い風を受けて,2018年も心理学はさらに進んでいくのでしょうね.

 「心理学モニター」誌があげた10大トレンドをそれぞれ説明する記事とそのリード文を下にお示しします.(英語のままです.お許しください.)

1.Psychology is more popular than ever.
    In a trend that bodes well for the discipline’s future and the nation’s health, the demand for psychologists—and psychology education—is robust.

2.Applied psychology is hot, and it's only getting hotter.
    Corporate America is increasingly in search of applied psychologists' skills.

3.Targeting social factors that undermine health.
    Psychologists are playing expanded roles in addressing how poverty, lack of decent housing and other environmental factors influence health outcomes.

4.Psychologists are standing up for science.
    The field is redoubling its efforts in the face of increased threats to science and science policy. Grassroots advocacy is springing up in cities and on campuses nationwide.

5.Epigenetics offers the promise of more precise treatments.
    Psychologists are helping to pioneer the fields of neurogenetics and epigenetics—work that could further illuminate problems in the brain and foster better therapies.

6.Research zeroes in on the costs of unhealthy workplaces.
    Psychologists are documenting the financial losses companies suffer when they fail to provide workplaces that offer psychosocial safety.

7.Integrated health training is on the rise.
    Expanded interprofessional education and training is boosting psychologists' skills and highlighting the critical role they can play on care teams.

8.Technology is revolutionizing practice.
    Apps and virtual help agents are forever changing the way psychological services are delivered.

9.Equality for women psychologists takes on new urgency.
    Women outnumber men in the psychology workforce, yet still aren't equally represented in the field's top positions or paid as much as men.

10.Psychologists embrace open science.
    The field is working to change cultural norms to encourage more data sharing and open science.


   

2018年1月11日 (木)

2月4日に批判心理学セッションが開かれます.

 2月4日に3回目の批判心理学セッションが開かれます.
 
批判心理学について自由に気軽に討議する場として,批判心理学研究会が隔月で開催しています.

 批判心理学に関心をおもちの方は,どなたでも参加できます.
 気軽にご参集ください.

 3回目のセッションでは心理学の研究方法論や歴史,心理学の科学性,ドイツ批判心理学,原子力発電所事故,精神保健福祉,バフチン,ディスコース分析など多様な主題が取り上げられます.


批判心理学セッション3
日時:2月4日(日),午後2時から
会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)
話題提供1:増田 匡裕(和歌山県立医科大学) 「コミュニケーション学でもらった“玉手箱”を心理学の“浜辺”で開けてみると(その1):バフチンの対話論に基づく『対人関係の弁証法理論』が知られていない。」
話題提供2:百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所) 「Tolman, C. W. (1994). Psychology, society, and subjectivity: An introduction to German Critical Psychology London,UK: Routledgeを読む」
話題提供3:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「原子力発電所事故のディスコース分析(2):猪苗代湖ズの『プライド。祈るように叫んだ歌』をめぐって」
話題提供4:小田 友理恵(法政大学大学院) 「心理学の『科学性』について:科学史と心理学史を踏まえた,主観性と客観性に関する考察」
話題提供5:田辺 肇(静岡大学) 「批判心理学を教育に活かすには?:精神保健福祉史,心理学史,心理学論における(3) “心のモデル”の伝え方」
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会
参加費:無料
アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分
(http://www.cictokyo.jp/access.html)
所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.
※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありませんので6階612号室までお越し下さい.




2018年1月 9日 (火)

国際行動社会科学史学会の50周年記念大会

 国際行動社会科学史学会の2018年の大会が6月21日から24日まで,アメリカのアクロン大学(オハイオ州)で開催されます.
 同学会はカイロン(ギリシア神話の半人半馬神,叡智のシンボル)の愛称で知られ,世界各地から心理学史研究者が集います.

 2018年の年次大会は学会の創設50周年を祝祭する記念大会です.
 詳細な開催情報については,同学会のウェブサイトをご参照ください(https://www.uakron.edu/cheiron/annual-meeting/2018.dot).


 アクロン大学はカミングス心理学史センター(http://www.uakron.edu/chp/)を備え,世界の心理学史研究の最重要拠点のひとつです.50周年記念大会にふさわしい会場ですね.

 同センターにはアメリカ心理学史アーカイブと心理学博物館が含まれ,アメリカ心理学の歴史に関する数多くの資料を収集・展示しています.
 多くの学会がアメリカで開かれていますが,アメリカ出張の折には同センターを訪問されるようお薦めします.心理学の歴史に関心をおもちなら,きっと新しい発見をされることでしょう.

 2016年7月にNHK・BSの『フランケンシュタインの誘惑:科学史の事件簿』でジンバルドの刑務所実験が取り上げられました.この研究で用いられた資材や備品などの各種の資料もアクロン大学心理学史センターが収蔵しています.
 番組の中で同大学の心理学史研究者であるデイビッド・ベイカー教授が刑務所実験の歴史的意義を説明しました.かたわらに囚人服や看守の制服や鉄格子のついたドアが展示されていました.アクロン大学心理学史センターの豊富なコレクションの一例です.

 今年のカイロン大会は学会の設立50周年を記念して,心理学の歴史を再考する特別プログラムが計画されている,と聞いています.
 心理学史研究のあり方を問うシンポジウムが開かれるといいですね.これから生み出される新しい研究を刺激する大会になるよう願っています.







2017年12月13日 (水)

Critical psychology seminar in Hong Kong, December 22nd

  Are you interested in critical psychology?
  Are you in Hong Kong on 22nd, December?  (The date is changed form 20th to 22nd!!!)

  If so, why don't you come to the round-table seminar on critical psychology organized by Dr Fu Wai (Shue Yan University)?
  The seminar is part of Inter-Institutional Development Scheme Project titled
'Phenomenology : A Multidisciplinary Dialogue (UGC/IIDS15/H01/16)'. It is the final of 10 lectures.

IIDS Seminar Series Phenomenology: A multidisciplinary Dialogue (UGC/IIDS15/H01/16)
Date : December 22nd, 14:00
Place : Seminar room 610, Open University of Hong Kong

Presenter : Yasuhiro Igarashi (Yamano College of Aesthetics, Japan)
Title : What is critical psychology? : A view from Japan

  I will talk about critical psychologies and the problem of 'what is psychology actually?' based on my experience in Japan since 1990s, mentioning to philosophy, history, sociology of psychology, cultural issues and issues related to power disparities in psychology and in society among others.

  Let's share views and ideas on psychology between Japan and Hong Kong and start research together to build new ways of doing psychology critically!




2017年12月10日 (日)

トランプ米大統領のメンタルヘルス:バンディ・リー編,「ドナルド・トランプの危険な症状:27人の精神科医とメンタルヘルス専門家が大統領を査定する」

 当ブログでこれまで数度,トランプ米大統領が論敵や批判者に対して「IQが低い」といった発言を繰り返した例を記しました.

 IQは心理学が産出した「心理学知識」のひとつです.これが社会に広く普及して自然な存在になる「心理学化」の事例を,トランプ大統領の発言に見ることができます.
 この例では「自分はIQが高い」と考えるトランプ氏が,相手を非難するためにIQやIQテストという心理学知識を用いています.
 それらは誰にでも通用する自明の存在として自然化されています.

 高度に心理学化が進んだアメリカ社会では,トランプ氏も心理学や精神医学などの「サイ学問」による吟味の対象になります.
 10月に刊行された下記の本が,アメリカでベストセラーになっているそうです.

 Bandy Lee (編)「ドナルド・トランプの危険な症状:27人の精神科医とメンタルヘルス専門家が大統領を査定する」 (
Bandy X. Lee(Ed.), The Dangerous Case of Donald Trump :27 Psychiatrists and Mental Health Experts Assess a President, Thomas Dunne Books)

 ロバート・リフトン(精神医学)やフリップ・ジンバルド(社会心理学・パーソナリティ心理学)など,日本でもよく知られた研究者が同書に寄稿しています.

 昨年,米大統領選挙においてトランプ氏が有力候補に浮上したころから,同氏の言動やパーソナリティやメンタルヘルスについて「心の専門家」が発言し始めました.
 心理学知識を用いて特定の人物を「病理化」したり「異常化」することは,心理学化を推し進める結果を招きます.
 そのため当ブログでは,この問題を取り上げませんでした.

 しかし,このところのトランプ氏の振る舞いを報道をとおして見聞きしていると,精神医学者や心理学者が専門的知識やスキルを用いて同氏をどのように説明するか,知りたくなります.



 アメリカでは主要メディアがこの問題を繰り返し取り上げています.今のところ,日本語で読める記事はわずかです.
 非営利ニュースメディア,「デモクラシー・ナウ!」が12月8日に同書を詳しく報道しました.

 「ドナルド・トランプの危険な症状」精神科医バンディ・リー 大統領の精神状態への危惧を語る(http://democracynow.jp/)

 上記のニュース・サイトの説明文を転記します.
 「ドナルド・トランプ大統領が6日に行われたイスラエルに関するスピーチで,ろれつが回らず言葉を誤って発音した後,彼の精神状態に対する疑念が広がり続けています.ホワイトハウス報道官サラ・ハッカビー・サンダースは7日,高まる懸念を受けて,トランプは健康診断を受ける予定になっていると発表しました.
 一方,国防総省幹部は先月,トランプが核兵器を発射せよとの非合法な命令を出しても無視すると,上院委員会に伝えています.この証言は,核戦争を開始する大統領の権限に関して40年余りを経て初めて開かれた議会聴聞会で出てきました.
 イェール大学医学部で教える司法精神医学者で,暴力の専門家として世界的に有名なバンディ・リー医師に話を聞きます.彼女はベストセラーとなったThe Dangerous Case of Donald Trump: 27 Psychiatrists and Mental Health Experts Assess a President(『ドナルド・トランプの危険な症状:27人の精神科医とメンタルヘルス専門家が大統領を査定』)を編集しました,...」

  
   The Dangerous Case of Donald Trump

 上の番組の逐語録が,デモクラシー・ナウ!のウェブサイトで公開されています.(英語です.)(https://www.democracynow.org/2017/12/8/the_dangerous_case_of_donald_trump#transcript)
 精神医学者がトランプ氏が患っているかもしれない心の健康の問題を詳説しています.(あまりの深刻さに目まいがしそうです.)

 大統領など重職にある公人のメンタルヘルスを専門家が論じることは,今までもありました.
 デモクラシー・ナウ!などの報道の論調は,これほど多くのメンタルヘルス専門家が一致して重大な懸念を表した政治的指導者はトランプ氏が初めてだ,健康上の問題のため誤った判断(戦争など)を下す可能性がある,というものです.

 「心の健康」や「心の異常」という概念は,時代や文化や社会が異なれば,異なった仕方で概念化されうる「社会構成物」です.
 しかし心が身体,特に中枢神経系と密接に関連していることは明らかです.身体や中枢神経系は社会や文化の差違にかかわらない「自然の事物」です.
 アメリカの心の専門家がアセスしたトランプ氏の心の健康は,どこまで社会構成物もしくは自然の事物なのでしょうか.

2017年12月 7日 (木)

次回の批判心理学セッションは2月4日です

 2回目の批判心理学セッションが,12月3日に開かれました.
 下記は以前,当ブログに掲載したお知らせです.

 批判心理学セッションのお知らせ:ディスコース分析,心理学教育,イギリス批判心理学,心理学観,アメリカ心理学と対テロ戦争
(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2017/11/post-5d2a.html)


 このセッションでは心理学の歴史や哲学,心理学の用語・概念のメタ学問的検討,心理学者と心理学界に影響を与える諸要因,心理臨床家やアカデミックな心理学者の心理学観,原子力発電所事故や低線量被ばくの問題と心理学など,多様なテーマをめぐって自由に活発な討議が行われました.

 現在の制度的学問としての心理学や,その背景としての心への知的関心,「科学的心理学」の基礎といった心理学者が普段,正面から考えることの少ないテーマにあれこれと思いをめぐらす貴重な機会になりました.
 私は討議を大いに楽しみました.他の参加者もそれぞれ,刺激を得られたようです.


 次回の批判心理学セッションは2月4日(日)に開かれます.詳細が決まり次第,お知らせします.
 批判心理学に関心をおもちの方のご参加を歓迎いたします.

 話題提供者も募集しています.
 心理学の研究や理論,心理臨床,教育,社会的活動,諸領域での心理学の適用など,現行の心理学に問題を見いだした方,問題意識をシェアして新しい取り組みを探究しませんか?
 発表をご希望の方は,当ブログ開設者にお知らせください.

2017年11月29日 (水)

マーク・ファロン著「不正な手段:CIAと国防総省とアメリカ政府が共謀した拷問の内幕話」

 グアンタナモ収容所やCIAの秘密収容施設(ブラックサイト)におけるテロ容疑者への「過酷尋問」をめぐって,現在も活発な議論が続いています.

 拷問の再発防止や被害者・遺族への補償,真相の解明と責任の追究など,重要な問題が目白押しです.
 CIAによる「強化尋問技法」を用いた尋問(拷問)を担った心理学者の責任を問う裁判も始まりました.

 長年,アメリカ海軍犯罪捜査局に勤務し,1990年代から最前線でテロ対策に取り組んできた専門家がこの問題を論じた著書が10月に刊行され,話題を集めています.

 マーク・ファロン著「不正な手段:CIAと国防総省とアメリカ政府が共謀した拷問の内幕話」

Mark Fallon, Unjustifiable Means: The Inside Story of How the CIA, Pentagon, and US Government Conspired to Torture.Regan Arts, 2017)


 9.11同時多発テロの後,ホワイトハウスや国防総省,CIAはテロ情報を求めて容疑者に「過酷尋問」を行う政策を採用しました.
 著者のファロン氏はその政策が生まれ,設計され実施される過程を,内側から見てきました.「強化尋問技法」による尋問がグアンタナモや他のアメリカ国外の秘密収容施設で行われるに至った状況を,この本が教えてくれます.

 ページをめくると,ところどころ単語や語句が黒塗りにされています.ファロン氏は国防総省でテロ対策の要職に就いていたため,本書を刊行するには国防総省のチェックを受け許可を得る必要がありました.
 黒塗りされ隠された氏名などは,著者が取り組んだ仕事の重要性を示しています.

 強化尋問技法を開発しアルカイダ幹部に自ら過酷尋問を行った心理学者や,国防総省やCIAやホワイトハウスと協働して過酷尋問を実施する体制を支えたアメリカ心理学会も,同書に登場します.

 ファロン氏はテロ対策のために過酷尋問が有効だ,という主張は誤りだと言います.
 「心理学的拷問」を採用しなかったアメリカのテロ対策担当官の考えを,この本から知ることができます.

   

2017年11月26日 (日)

国際質的研究学会が5月に開かれます

 国際質的研究学会の第14回大会が来年5月16日から18日まで,アメリカのイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で開催されます.

 今次大会のテーマは「困難な時代における質的研究(Qualitative  Inquiry  In Troubled Times)」です.

 大会案内をみると,ブレグジット(イギリスのEUからの離脱)やトランプ米大統領の登場,それに対するグローバルな抗議,異論の抑圧,民主主義の倫理的基盤への攻撃など,解決の容易でない問題に直面している困難な時代における質的研究を問う,といった企画趣旨が記されています.

 大会の詳細は次のウェブサイトをご覧ください. http://icqi.org/
  

 国際質的研究学会は心理学を含む人文社会科学の様々な領域の質的研究者が集う学会です.質的研究に関する最も規模の大きな学会のひとつです.

 質的研究の目的も主題も方法も,理論的リソースも多様です.

 研究関心の多様さに応じて,13の「スペシャル・インタレスト・グループ」が設けられ,グループごとにまとめてプログラムが組まれ発表が行われます.

 13のうち,「批判心理学とポスト構造主義心理学(Critical and Poststructural Psychology)」と「批判的な質的研究(Critical Qualitative Inquiry)」のグループが,私のような批判心理学と質的心理学に関心をもつ研究者が集まるグループです.

 質的研究における批判心理学の位置をこの学会が例示している,と言えるでしょう.日本の質的心理学者の間で批判心理学があまり理解されていないのは残念なことです.






2017年11月25日 (土)

批判心理学の新シリーズ「セラピーの文化」(ラウトレッジ社)

 臨床心理学が生み出した各種の心理療法など,多くのセラピーが身近なものになりました.
 今日の日本社会で生きる私たちの周りには,臨床心理士が提供する治療的サービスを始め,さまざまな「いやし」が日常生活に普及しています.
 欧米の批判心理学者はこうしたセラピーがセラピーの利用者や社会にもたらすものに,かねて注目していました.

 その文化を問う新しいシリーズがラウトレッジ社から刊行されることになりました.

 叢書「セラピーの文化(Therapeutic Cultures)」(https://www.routledge.com/Therapeutic-Cultures/book-series/TC)

 イギリスとノルウェイ,スペイン,トリニダード・トバゴで活動する若手の批判心理学者を中心とする編集委員が今,この叢書の企画を練っています.

 シリーズの1冊として刊行される研究を募集中です.
 関心をおもちの方は上記のウェブ・サイトに記載されている編集委員にメールで相談できます.

 日本社会でも今,さまざまなかたちの「いやし」をもたらすセラピー文化が花開いています.欧米で発展したセラピーもあれば,日本で生まれたものもあります.
 日本の文化や社会の諸条件,他国の影響などのもとでセラピー文化が私たちに何をもたらしているか,どのような社会的機能をもっているかなど,興味深い主題でしょう.
 私たちの日々の経験の中から,面白い研究を発信できそうです.

2017年11月 5日 (日)

トランプ大統領 「容疑者をグアンタナモに送る」:TBSニュースの報道

 ニューヨークで起きたピックアップトラックの暴走によって8名が死亡したテロ事件を受けて,トランプ米大統領が「容疑者をグアンタナモ」に送る,と発言しました.
 TBSテレビが報道しました.


 トランプ大統領「容疑者をグアンタナモに送る」
(http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3200570.html)

 この報道によると「ニューヨークのテロ事件で拘束されたサイポフ容疑者について,トランプ大統領はキューバのアメリカ軍グアンタナモ基地にあるテロ容疑者の収容施設に送ることを「検討する」と述べ,「容疑者をグアンタナモに送ることを必ず検討する.そして,現在の刑罰より迅速で厳しいものを考え出さなければならない」と述べたそうです.
 また大統領は「サイポフ容疑者がアメリカに入国する際に利用した「移民多様化ビザ抽選プログラム」について,「悪い人たちが入ってくる抽選制度は要らない」と述べて,廃止すべきとの考えを示し」たとのことです.

 
11月2日付けで中日新聞も報道しました.
 トランプ氏,反移民鮮明 「野獣はグアンタナモに」
 (http://www.chunichi.co.jp/s/article/2017110201000638.html)

 2001年に9.11同時多発テロが起き,アメリカが主導する「テロとの戦い」が始まりました.
 ブッシュ政権はキューバにあるグアンタナモ米軍基地内にテロ容疑者を収容する施設を設置し,テロ情報を求めて捕虜や容疑者に「過酷尋問」を行いました.
 この尋問が被尋問者の心身に重大な悪影響を与えていることが,人権NGOの調査やマスコミ報道によって明らかになり,国際社会から厳しい批判を受けました. (「過酷尋問」は拷問の言い替えです.)
 人権や自由を重んじる民主的な国だと自認してきたアメリカの倫理的正当性に,疑いの目が向けられるようになりました.

 グアンタナモ収容所でのテロ容疑者への尋問の計画と実施に当たって米軍の臨床心理学者が重要な役割を果たしました.
 また,アメリカ心理学会幹部が国防総省やホワイトハウスの担当官と協力し,同学会の倫理指針を改定するなどして政府が求めた過酷尋問を可能にしました.

 2009年にオバマ前大統領が就任すると,過酷尋問を拷問と認めて禁止しました.その舞台になったグアンタナモ収容所を廃止しようと試みました.が,果たせないまま今年1月,トランプ政権が始まりました.

 トランプ大統領は選挙キャンペーン中からテロ容疑者への過酷尋問は必要だ,と繰り返し発言してきました.大統領職に就くと,CIA副長官にかつて過酷尋問を担った職員を登用しました.

 グアンタナモ収容所における過酷尋問をめぐる論争は今後も続きそうです.
 ニューヨークのテロ事件の容疑者は既に連邦裁判所が統括する米国の司法制度のもとで裁かれています.その容疑者を国外の軍事施設に移送する,という同大統領の発言は異例です.

 同収容所とそこで行われた(現在も一部,行われているかもしれない)過酷尋問,またアメリカの心理学者が過酷尋問に加担した事実は,長く歴史に刻まれることでしょう.

  アメリカやカナダではテレビや新聞,インターネットなどでのマスコミ報道により,グアンタナモにおけるテロ容疑者への拷問と,米軍やCIAの心理学者が「過酷尋問」を行ったこと,アメリカ心理学会がそれに加担した事実は一般に広く知られています.

 トランプ米大統領が「テロ容疑者をグアンタナモへ移送する」と述べた報道を聞いて,北米ではテロ容疑者への「心理学的拷問」を思い出した人が少なからずいたことでしょう.





2017年11月 4日 (土)

批判心理学セッションのお知らせ:ディスコース分析,心理学教育,イギリス批判心理学,心理学観,アメリカ心理学と対テロ戦争

 批判心理学セッションが12月3日(日),午後2時から開かれます.
 2回目のセッションでは原発事故のディスコース分析やメンタルヘルスに関する心理学教育,イギリス批判心理学,心理学者の心理学観,アメリカ心理学と対テロ戦争における尋問などについて話題提供が行われます.

 批判心理学に関心をおもちの方なら,どなたでも参加できます.
 気軽にお運びください.



批判心理学セッション(2) 
日時:12月3日(日),午後2時から
会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)です
話題提供1:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「原子力発電所事故のディスコース分析:「ただちに健康に影響はありません」をめぐって」
話題提供2:田辺 肇(静岡大学)「批判心理学を教育に活かすには?:精神保健福祉史,心理学史,心理学論における(2)」
話題提供3:百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所) 「Ian Parker.ed.
Critical Psychology: Critical Concepts in Psychologyを読む(2)」
話題提供4:小田 友理恵(法政大学大学院)「心理学観測定の試み」
話題提供5:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学)「アメリカ心理学と対テロ戦争における拷問:最近の展開」ncepts in Psychologyを読む(2)」
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会
参加費:無料
アクセス:JR山手線・京浜東北線 田町駅下車 芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)
所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6
※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありません.6階612号室までお越し下さい.


2017年10月25日 (水)

マセイ大学(ニュージーランド)が批判健康心理学者を公募しています

 マセイ大学心理学部(ニュージーランド)が,批判健康心理学者を公募しています.

 批判健康心理学に関心をおもちの方なら,同大学に所属する心理学者が刊行した研究論文や教科書などを一度は読んだことがあるのではないでしょうか.多くの研究成果が同大学の名の下で発表されています.

 ニュージーランドは認知行動主義的心理学が生まれ発展した英語圏の一角です.が,「客観的で科学的な人間一般」の科学(主義的)心理学だけでなく,批判心理学的な健康へのアプローチが発展しました.マオリなどのエスニック・マイノリティを植民者である白人が抑圧してきた歴史への反省が,心理学においてマイノリティの視点や権利を重んじるアプローチの背景となっています.


 
マセイ大学(Massey University)は批判健康心理学の大学院プログラムを開設しています.この領域の研究と教育で国際的に高い評価を得ています.
 プログラムの詳細については,同大学の下記のウェブサイトをご覧ください.

  マセイ大学における健康心理学(Health psychology at Massey)
  (http://www.massey.ac.nz/massey/learning/departments/school-of-psychology/postgraduate-study/general-degrees/specialisations/health-psychology/health-psychology_home.cfm)

 今回の公募ではこの教育プログラムの中心となる研究者を求めています.雇用期限のつかない終身職です.
 これから同大学で批判健康心理学の研究と教育を担っていく心理学者を採用しようとしているようです.


 公募情報の一部を下にお示します.
 詳細は次のサイトに記載されています
http://massey-careers.massey.ac.nz/9953/professor-associate-professor-in-critical-health-psychology

職位:
 教授もしくは准教授.批判健康心理学を専攻.終身職.

勤務地:
 マセイ大学の各キャンパス(
Albany,Wellington,Palmerston Northの各キャンパス

給与:
 (追って知らせるとのことです.)

応募の締め切り:
 12月1日.


 8月にアジア社会心理学会大会がオークランド近郊のマセイ大学オールバニー・キャンパスで開催されました.同大学の批判健康心理学者も研究発表を行いました.
 この学会に私も参加したのですが,同大における活発な研究の一端をかいま見ることができました.

2017年10月16日 (月)

トランプ米大統領のIQテスト:心理学化

 トランプ米大統領が「IQ」や「IQテスト」という言葉を用いた発言が,マスコミで報道されました.


 「トランプ氏,「IQ比べ」を提案 長官の「バカ」発言に」 朝日新聞電子版,10月11日

 記事によると,「米NBCは4日,(国防長官の)ティラーソン氏はイラン核合意などをめぐるトランプ氏の対応に不満を募らせ辞任を検討し,7月に国防総省内で開かれた会議ではトランプ氏を「バカ」と呼んで批判したと報じた.報道直後,ティラーソン氏は緊急会見を開いて辞任を否定したが,発言自体については明確に否定しなかった」とのことです.

 この報道に対して,トランプ米大統領は「もし本当にそう言ったのなら,知能指数(IQ)テストで比べなければ」と述べ,「米国のティラーソン国務長官がトランプ大統領を「バカ」と呼んだという報道を受けて,トランプ米大統領は10日配信の米経済誌フォーブスのインタビューで「IQ比べ」を提案し,トランプ氏は「どちらが勝つかはわかっている」と語り,自信を見せた」と朝日新聞が報じています.


 私が知る範囲では,昨年のアメリカ大統領選挙のときからトランプ氏がIQやIQテストを語った発言が報道されるのは,今回で3度目です.(当ブログで取り上げるのも3度目です.)
 IQやIQテストという用語とそれらが前提とする人間の「知能」に関する考えは,トランプ氏にとって自然化され,疑いの余地のない自明のものになっているようです.

 トランプ氏のように自分は「頭がいい」と考える人が,「頭が悪い」とされる人をこれらの言葉で非難したり侮蔑することは珍しくありません.

 心理学が生み出した用語や理論,検査,セラピーなどが人間を不幸にするために適用される例です.

 アメリカや日本など多くの国でトランプ氏の発言が報道されました.「IQ」や「IQテスト」という言葉と心観がマスコミ報道によっていっそう普及し浸透しています.
 心理学化が進行する事例です.






2017年10月 7日 (土)

「国際応用精神分析スタディーズ」誌の特集号:アメリカ心理学会と対テロ戦争における拷問

 2001年にアメリカを襲った9.11同時多発テロの後,アメリカ政府は「テロとの戦い」を開始しました.
 テロを防ぐためにCIAなどの情報機関は,テロ情報を知っていると考えられた容疑者への尋問をいっそう重んじるようになりました.
 通常の尋問で許されない,心身に激しい苦痛を与える「強化尋問技法」を用いた「過酷尋問」が行われました.

 CIAがアメリカ国外に設置した「秘密収容施設(ブラック・サイト)」に,テロ容疑者が国境を越えて「超法規的移送プログラム」によって秘密裡に送られ,CIAが雇用した軍事心理学者が過酷尋問を行いました.
 戦争捕虜の人道的処遇を定めたジュネーブ条約や国連拷問禁止条約に違反する「アメリカ史の汚点」だ,と人権NGOやジャーナリストが批判の声をあげました.
 第2次大戦で捕虜になった日本兵やドイツ兵を人道的に処遇するなど従来,アメリカは戦争捕虜の人権を擁護する国として知られていました.

 しかし対テロ戦争において,CIAや国防総省によって組織的に過酷尋問が行われました.チェイニー米副大統領(当時)らホワイトハウス指導部が,テロ容疑者への過酷尋問によってテロ情報を収集し,テロを防止する施策を求めていました.
 このため心理学者が開発した強化尋問技法による過酷尋問は,「アメリカ政府が認可した拷問」と呼ばれるようになりました.
 長年,自由や人権を重んじてきた「アメリカの建国の理念」が,国際社会で疑われる事態を招きました.

 CIAや国防総省などアメリカの軍事・情報当局がテロ容疑者への過酷尋問を立案し実施する過程で,アメリカ心理学会が重要な役割を果たしました.
 2003年3月にイラク戦争が始まりました.同年11月,キューバに米軍が設営するグアンタナモ基地内の収容施設で,捕虜やテロ容疑者が過酷な処遇(拷問)を受けている,という国際赤十字の調査報告書についてニューヨーク・タイムズが報道しました.
 臨床心理学者や精神科医などを構成員とする「行動科学コンサルテーションチーム(BSCT)」が,グアンタナモ収容所における過酷尋問に関与している,と報道されました.

 捕虜や容疑者への拷問に対する批判が高まると,アメリカ医学会やアメリカ精神医学会は拷問を拒否する方針を明確に示しました.
 一方,アメリカ心理学会幹部が国防総省やCIAに協力して「国家安全保障に関する尋問」に加担した事実が,マスコミ報道によって次第に明らかになりました.
 北米社会において心理学者とアメリカ心理学会への信頼が揺るがされることになりました.

 「国際応用精神分析スタディーズ」誌(International Journal of Applied Psychoanalytic Studies)が,この問題を論じた特集「アメリカ心理学会と対テロ戦争」(Special Issue: The American Psychological Association and the War on Terror)を刊行しました.

 下記のサイトで公開されています.12月末までオープンアクセス期間です.
  http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/aps.v14.2/issuetoc

国際応用精神分析スタディーズ誌(International Journal of Applied Psychoanalytic Studies)
特集「アメリカ心理学会と対テロ戦争」(Special Issue: The American Psychological Association and the War on Terror) 2017年6月

 特集号が収録する論文のタイトルを下にお示しします.
1.アメリカ心理学会:罪の免責から恥辱へ    (Ghislaine Boulanger)
2.アメリカ心理学会と拷問:どのようにして拷問が行われたのか? (Bryant Welch)
3.虚偽情報による攪乱,裏切り,子取り鬼(boogeyman):アメリカ心理学会と「心理学の倫理と国家安全保障
(PENS)に関する会長特命委員会」と拷問に加担した心理学者についての個人的考察     (Nina K. Thomas)
4.尋問の文化:グアンタナモ収容所の抑留者の監察評価    (Sarah Schoen)
5.クローゼットの中の骸骨:アメリカ心理学会の批判的検討    (Jeanne Wolff Bernstein)
6.反革命    (Frank Summers)

2017年10月 4日 (水)

批判心理学セッションと「批判心理学ハンドブック」(パーカー編,2015)

  (公社)日本心理学会 批判心理学研究会が企画した批判心理学セッションが1日,開かれました.

 世界の心理学ワールドの中での批判心理学の位置づけや,相模原事件とヘイトスピーチ,日本の精神科医療と福祉,ドイツ批判心理学などを主題とする話題提供に続いて,自由に意見交換を行いました.
 関西や東海地方からの参加者も加わり,大学院のゼミのように少人数での熱心な討論の場となりました.
 (批判心理学「セッション」はシンポジウムのようなフォーマルなかたちではなく,ジャズのセッションのように自由に討議し知的刺激を与え合う場を目指しています.)

 次回の批判心理学セッションは12月に開かれる予定です.詳細が決まり次第,お知らせします.


 日本でも批判心理学への関心が高まりつつあります.
 心理学研究が発展し,心理学と心理学の産物である心理検査やセラピー,心と行動を説明する用語や理論などの心理学知識が社会の諸領域に浸透すると,心理学が抱えている問題も次第に明らかになります.

 そこから既存の心理学の研究や心理臨床,教育,社会的活動,学会活動,社会諸セクターでの応用などへの「批判」的取り組みが始まるのは,日本でも他の国・地域でも同じです.

  もし心理学が今日の日本で重要でないなら,たとえ深刻な問題を見いだしたとしても,わざわざ「批判」的な心理学を始める必要はありません.
 声をあげることなく,ただ心理学から立ち去ればよいでしょう.

 批判心理学者が心理学にあえて「批判的に取組む」のは現在,日本社会で生きる私たちにとって,心理学があまりに重要なものになったからです.
 こうした立場から批判心理学に取り組む心理学者が世界各地で,自分が見出した問題を解決するために活動しています.


 批判心理学の全体像を手軽に知りたい,という方に下記のハンドブックを推薦します.


 イアン・パーカー編 批判心理学ハンドブック ラウトレッジ社 2015
 (Parker, I. (ed.). Handbook of Critical Psychology, 2015, Routledge)

 主流心理学の諸領域への批判的アプローチや,批判心理学の新しい理論と方法,多様な批判心理学的実践の実際,世界の各地域における展開を手際よくレビューする諸章を収録しています.
 1章あたり10ページから10数ページと短く,読みやすいフォーマットで編集されています.
 初めて批判心理学を学ぶ方にお薦めです.北米やイギリス,ドイツなど特定の国・地域に偏った視点ではなく,幅広い視界を提示しています.執筆者は欧米とラテンアメリカ,アフリカ,アジアの各地の批判心理学者です.

 できれば日本語で読みたいですね.
 どなたか,日本語に翻訳しませんか?


 下に各章のタイトルをお示しします.邦題は当ブログ開設者による試訳です.

イアン・パーカー編 批判心理学ハンドブック 2015
1. イントロダクション  Ian Parker
第1部: 心理学とその批判の多様性
第1部a: 主流
2. 量的方法:科学の方法と目的  Lisa Cosgrove, Emily E. Wheeler & Elena Kosterina
3. 認知心理学:中産階級の個人から階級闘争へ  Michael Arfken
4. 行動主義:徹底的行動主義と批判的探究  Maria R. Ruiz
5. 感情:主流心理学を越えて  Paul Stenner
6. 生物学的心理学と進化心理学:批判心理学の極限  John Cromby
7. パーソナリティ:テクノロジー,商品,病理学  China Mills
8. 発達心理学:脱構築への転回  Erica Burman
9. 社会心理学:組織研究を論評する  Parisa Dashtipour
10. 異常心理学:さまざまな障害の心理学  Susana Seidmann & Jorgelina Di Iorio
11. 犯罪心理学:臨床的,批判的視点  Sam Warner

第1部b: 主流心理学を問うラディカルな試み
12. 質的方法:批判的実践と多様な領域の展望
13. 理論心理学:核心的問題の批判的哲学概説  Thomas Teo
14. 人間性心理学:批判的対抗文化  Keith Tudor
15. 政治心理学:権力への批判的アプローチ  Maritza Montero
16. コミュニティ心理学:主観性と権力と集団性  David Fryer & Rachael Fox
17. 組織心理学と社会問題:場所が位置づけられる地点  Mary Jane Paris Spink & Peter Kevin Spink
18. カウンセリング心理学:重要な成果と可能性と限界  Richard House & Colin Feltham
19. 健康心理学:ウェルビーイングと社会正義のための心理学を目指して  Yasuhiro Igarashi
20. ブラックサイコロジー:抵抗と再生と再定義   Garth Stevens
21. 女性心理学:ポリティクスと実践の諸問題   Rose Capdevila & Lisa Lazard
22. 「レズビアンとゲイの心理学」から「セクシュアリティの批判心理学」へ  Pam Alldred & Nick Fox

第1部C: サイ-コンプレックスの隣接領域 
23. 精神鑑定医と疎外:自分探しをする批判的精神医学  Janice Haaken
24. 心理療法:改革のエージェントか,修理屋か  Ole Jacob Madsen
25. 教育と心理学: ついに変化がおとずれるのだろうか?  Tom Billington & Tony Williams
26. ソーシャルワーク:抑圧と抵抗  Suryia Nayak
27. セルフ・ヘルプ: ポップ・サイコロジーとともに    Jan De Vos

第2部: さまざまな批判心理学
28. 活動理論:理論と実践  Manolis Dafermos
29. マルクス主義心理学と弁証法的方法  Mohamed Elhammoumi
30. ドイツ批判心理学:主体の立場からの心理学  Johanna Motzkau & Ernst Schraube
31. 精神分析が批判心理学に言うべきことは?  Kareen Ror Malone with Emaline Friedman
32. 脱構築:批判心理学の基礎  Andrew Clark & Alexa Hepburn
33. ドゥルーズ的視点:スキゾ分析と欲望のポリティクス  Hans Skott-Myhre
34. ディスコース心理学: おもな見解,いくつかの対立と2つの事例  Margaret Wetherell

第3部: 心理学と批判心理学に関するさまざまな立脚点と視座 
第3部a: さまざまな視座
35. フェミニスト心理学:研究,介入,課題  Amana Mattos
36. クイア理論:批判心理学を解体する  Miguel Rosell Pealoza & Teresa Cabruja Ubach
37. 解放の心理学:もうひとつの批判心理学  Mark Burton & Luis Gmez
38. 土地固有の心理学と批判的な抑圧から解放する心理学  Narcisa Paredes-Canilao, Ma. Ana Babaran-Diaz, Ma. Nancy B. Florendo & Tala Salinas-Ramos with S. Lily Mendoza
39. ポストコロニアル理論:批判心理学の世界へ向けて  Desmond Painter
40. 批判的ディザビリティ・スタディーズから批判的でグローバルなディザビリティ・スタディーズへ  Shaun Grech
41. 批判心理学のための政治的見識を備えた内在的スピリチュアリティ     Kathleen S. G. Skott-Myhre

第3部b:様々な地点
42. アフリカの批判心理学:不可能な課題  Ingrid Palmary & Brendon Barnes
43. 政治心理学とアメリカ大陸:植民地化と支配から解放へ  Raquel S. L. Guzzo
44. アラブ世界の批判心理学:パレスティナの植民地の文脈における批判コミュニティ心理学からの考察  Ibrahim Makkawi
45. アジアの批判心理学:4つの基本的概念  Anup Dhar
46.ヨーロッパの批判心理学の動向:心理学の常習的悪行への道  Angel J. Gordo Lopez & Roberto Rodrguez Lpez
47. 南太平洋:私たちの居場所の中にある空間の緊張  Leigh Coombes & Mandy Morgan

2017年9月14日 (木)

カリフォルニア大学サンタクルーズ校が社会正義を研究する社会心理学者を2名,公募しています

 カリフォルニア大学サンタクルーズ校の心理学科が,社会正義を研究する社会心理学者を2名,公募しています.テニュア・トラックの職種です.
 
 ・職種:助教授(2名).終身雇用も可
 ・専門領域:社会正義に関する社会心理学
 ・給与:経験や資格等に応じて決定
 ・応募期限:10月2日


 カリフォルニア大学サンタクルーズ校には,低所得層出身のヒスパニック系学生が多く学んでいるそうです.
 同大心理学科が社会正義を主題とする社会心理学プログラムを設けているのは,学生や地域社会のニーズを反映しているのでしょう.

 こうした社会心理学を実践する研究者は,本人が自称するかはどうかは別として,おそらく「批判心理学者」です.

 もう
十数年前のことですが,アメリカの心理学ワールドでは「批判的(critical)」という言葉は「コミュニスト」を連想させ,強すぎるという話をアメリカの心理学者から聞いたことがあります.
 (つまり,批判心理学者を自称する若手研究者がアメリカの大学で職を得るのは難しい,ということです.同じ北米でもカナダではそれほど困難ではなかったようです.)

 アメリカは「客観的な科学的心理学」が生まれ発展した土地柄です.また歴史的に共和党と民主党の2大政党の他に政権政党を批判する野党の存在感に乏しく,「批判」という言葉が過度にラディカルに響くようです.

 元来,科学や学問は既存の研究成果を批判的に検討するところから,次の新しい研究が始まります.
 「批判」がネガティブな含意を帯びている現状は不幸なことですね.

 しかし2010年代後半の今日では,アメリカの心理学者が「社会正義」や「フェミニズム」について語ることは,タブーではなくなりました.


 公募情報の詳細は次のサイトに記載されています.

   https://apo.ucsc.edu/academic_employment/jobs/JPF00464-18.pdf

 これをみると,社会正義の社会心理学の主題や観点として,下記が例として挙げられています.
  ・社会正義と構造的問題
  
種やエスニシティと不平等
  
抑圧と特権
  
偏見やステレオタイプ,差別への領域横断的アプローチ
  
社会的経済的正義を目指すさまざまな運動
  
犯罪と正義の制度の社会心理学
  
教育にまつわる諸問題
  
新自由主義的な政策と実践の社会心理学
  
移民の諸問題
  
コロニアリズムと脱植民地化
  
健康と健康格差の社会心理学
  
政治心理学
  
環境問題と正義
  
女性やマイノリティが高等教育において直面する諸問題

2017年9月12日 (火)

ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ソーシャルサイコロジーの特集「急激な社会変動を理解する」

 ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ソーシャルサイコロジーが,特集「急激な社会変動を理解する:新しい視点と方法」に掲載する論文を募集しています.
 同誌編集委員会から,論文の投稿を促すメールが届きました.

 この特集では特に,下記の3つの主題に関する研究が重んじられています.
・分離主義的事象(ブレクジットやスコットランドの独立問題など)と個人の心理学的転換と社会変動
・極端へと振れること(polarization)をどう説明するか
・どのようにして個人の内部の変化が社会変動へと結びつくか


 同誌はバリバリの主流心理学(客観的な科学的心理学)のジャーナルです.
 しかし,ときに実生活における重要な社会的問題・課題を取り上げています.

 EUからのイギリスの離脱や移民の増加に伴う諸問題,スコットランドの独立問題,トランプ現象の影響など,イギリスの社会心理学者にとって本来,重要な問題です.
 科学的心理学は社会問題や政治的問題から距離をおくべきだ,こうした問題に係れば,客観性や価値中立性が侵されることになる,という声も聞こえそうです.

 しかし,社会と個人の心や生活に大きな影響を与えている社会的事象を社会心理学が研究しないなら,その方が不自然です.
 同誌がこうした特集を企画するのは,主流心理学の変化を示すよい兆しといえるでしょう.

 論文の投稿を検討している場合は今月末までに,500語のアブストラクトを編集委員会に提出する必要があります.アブストラクトが審査され,投稿の可否が決められます.
 詳細は下記のサイトをご参照ください.
  
「急激な社会変動を理解する:新しい視点と方法(Understanding rapid societal change: Emerging perspectives and methods)」
  (http://onlinelibrary.wiley.com/journal/10.1111/(ISSN)2044-8309)

 現在,進行している急激な社会の変化を主題として,どのような新しい視点と研究方法が提示されるか,ワクワクします.
 日本社会で生活を送る私たちも近年,政治経済や外交問題など,様々な変化を経験しています.
 近い将来,これらを対象として社会心理学や心理学の専門誌が特集号を企画するようになるでしょうか?



2017年9月11日 (月)

BBCラジオの番組『良い心理学者,悪い心理学者』:テロ容疑者への「心理学的拷問」

 BBCのラジオ4が9.11同時多発テロの後,アメリカが戦う「テロとの戦争」において,心理学者が加担してテロ容疑者に行われた「過酷尋問(心理学的拷問)」を問う番組を放送しました.

 「良い心理学者,悪い心理学者(Good Psychologist, Bad Psychologist)」
 BBC Radio 4.8月30日に放送.
 この番組は下記のサイトで公開されています.
  
http://www.bbc.co.uk/programmes/b092fwzr

 2009年にオバマ米大統領(当時)が「我々は拷問を行った」と記者会見で述べた音声や,パキスタンでアルカイダ幹部を捕捉する作戦を指揮したCIA要員へのインタビュー,拷問を受けた被害者の肉声などが取り上げられています.

 「強化尋問技法」を開発してテロ容疑者に自ら過酷尋問を行ったアメリカの軍事心理学者も登場します.アメリカの法律家がこの技法による尋問は拷問ではないと認定した,だから自分は罪を問われない,と主張しています.

  強化尋問技法を支える理論になった「学習性無気力」と,この現象をイヌを被験体とする学習心理学実験を行って見いだし,理論化したアメリカの心理学者マーティン・セリグマンも取り上げられています.
 ポジティブ心理学の創始者として日本でも有名になりました.アメリカ心理学会会長を務め,存命する北米の心理学者の中ではもっとも著名なひとりです.

 また,アメリカ心理学会とアメリカの心理学者がテロ容疑者への過酷尋問に加担した実態を解明し,同学会会員が「国家安全保障に係わる尋問」に関与しないよう同学会の倫理指針を改訂する活動を行ったアメリカの心理学者も,インタビューに答えています.

 番組のタイトルに含まれる「良い心理学者」は彼(女)らを指しているのでしょう.「悪い心理学者」はもちろん,強化尋問技法を開発して尋問を行った軍事心理学者や,彼らに助言しサポートした心理学者たちです.

 30分足らずの短い番組ですが,対テロ戦争における心理学的拷問の争点を手際よく説明しています. (英語音声のみ)



2017年8月15日 (火)

批判心理学セッションのお知らせ

 批判心理学について気楽に,自由に討議する場を設けるため,「批判心理学セッション」を始めます.
 このセッションでは話題提供者の報告に続いて,参加者がテーブルを囲んで討論します.
 シンポジウムのようなフォーマルな仕方ではなく,より自由に語り合うという意味で「セッション」と名づけました.

 10月1日(日)に第1回のセッションを開きます.
 批判心理学に関心をおもちの方は気軽にご参集ください.


批判心理学セッション①  「批判心理学をはじめよう!」
日時:10月1日(日),午後5時から
会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室です.(エレベータを出て左側正面)
話題提供1:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「世界の心理学の中の現代批判心理学運動」
話題提供2:いとう たけひこ(和光大学) 「相模原事件と批判心理学:向谷地生良の思想を手がかりに」
話題提供3:田辺 肇(静岡大学) 「批判心理学を教育に活かすには?:精神保健福祉史,心理学史,心理学論における」
話題提供4:百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所) 「Ian Parker.ed., Critical Psychology: Critical Concepts in Psychologyを読む(その1)」
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会
アクセス:JR山手線・京浜東北線 田町駅下車 芝浦口徒歩1分
(http://www.cictokyo.jp/access.html).所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありませんので6階612号室までお越し下さい.


 批判心理学研究会はこれまで,日本心理学会大会や発達心理学会大会,国際心理学会議(ICP)などでシンポジウムを開いてきました.
 今世紀に入り世界の心理学界で批判心理学に対する関心が高まっています.気楽に発表して議論できる場が必要と考え,批判心理学研究会がこのセッションを設けます.
 今後,隔月で開く予定です.ふるってご参加ください.

 

2017年8月11日 (金)

カナダ批判心理学ネットワーク

 カナダの各地で批判心理学に取り組む心理学者がネットワークを築き,ウェブページを立ち上げました.

 カナダ批判心理学ネットワーク
 
(http://criticalpsychnetwork.blog.ryerson.ca/)

 同国で活動する批判心理学者をカナダ全土にわたって多数,紹介しています.
 批判心理学に関心をもつ学生がコンタクトできるよう,必要な情報を提供することを主たる目的としています.

 今世紀に入り世界的な心理学の新潮流として知られるようになった批判心理学は多様です.同ネットワークはカナダの今日の状況に応じた批判心理学を実践しているといえるでしょう.

 同じ北米でもアメリカ合衆国ではこうした批判心理学者のネットワークが築かれることは,おそらく近い将来には期待できそうにありません.
 米国は認知行動主義に依拠する「科学(主義)的心理学」が生まれ発展した場所柄です.ニューヨーク市立大学など批判心理学による研究と教育を重んじる大学もありますが,いまだに少数にとどまっています.

 米国に比べるとカナダにはもっと多くの批判心理学者が活動しています.米国の大学で批判心理学的研究によって学位を取得した同国出身の心理学者が,米国内で職を得られず,カナダの大学に就職する例もあります.
 カナダでは臨床心理学や社会心理学から理論心理学や心理学史研究まで,幅広い領域で批判心理学的実践が発展しています.

 同ネットワークは始まったばかりですが,次代を担う大学院学生に有意義なサポートや刺激を与えられるといいですね.
 近い将来に成果が生まれると確信しています.

 カナダで批判心理学に取り組んでいる友人たちにエールを送ります.

2017年7月25日 (火)

『美女と野獣』と病理化,心理学化

『美女と野獣』と心を病む人のディスコース

 大ヒットした話題のディズニー映画『美女と野獣』(ビル・コンドン監督,エマ・ワトソン主演)を観ました.
 よくできたエンターテインメントですね.時間のたつのを忘れて楽しみました.

 以下,ネタばらしになるのですが,心理学史研究者や批判心理学者からみて興味深い場面がありました.
 ストーリーの展開のうえで重要なシーンで,主人公の美女が群衆によって「実在しない野獣をみたと主張する異常な人」と位置づけられ,「マッド・ハウス」に送られそうになります.
 大勢の人がいる街中で,無理やり外から鍵のかかる馬車に押し込められ,自分の意思に反して心の病を治療する施設に送られそうになるのです.

 
『美女と野獣』の原作は18世紀半ばにフランスで発表されたそうです.現代の心理学はもちろん,精神医学が登場する前の時代です.

 詳しい時代考証は他にゆずります.フーコーの『監獄の誕生:監視と処罰』(1975/1977)がこの問題を扱っています.
 上のシーンには「正常性の基準を逸脱した人(野獣という幻覚をみる人)は専用の施設で治療を受ける必要がある.本人のためにそうすべきである」,「当事者ではなく,社会や公衆がそれを決めることができる」というディスコースが現れています.
 それが社会に受け入れられ,「異常な人」を「マッド・ハウス」に移送する公的制度(鍵のかかる拘禁用馬車や御者兼看守)も整備されています.

 19世紀半ば以降,国民国家が形成され社会の近代化が強力に推し進められました.医療や教育や産業や司法,軍事,福祉などの諸領域で個人の心的な性質や能力を把握し管理しようとする動勢が強まりました.
 集団としての人間の平均的な性質が知られるようになると,平均から逸脱した人が「異常な人」として病理化されるようになりました.

 心理学化が始まった20世紀には,こうした病理化や異常化のツールとして心理学が生み出した検査や説明理論,専門用語が大きな役割を演じるようになりました.


心理学化と知能検査,異常化

 知能検査とIQはその代表的なものです.
 
トランプ米大統領が論敵や批判者を「IQが低い」と非難した発言がニュースになりましたが,この発言はIQが濫用されている一例です.

 日本でも戦後,障害児教育において通常の学校教育を受けるか「特殊教育」を受けるか,子どもを選別するツールとしてこれらが用いられ,関係者の間で悪名を馳せました.関心をおもちの方に下記の本をお薦めします.

  
日本臨床心理学会編 『心理テスト―その虚構と現実』 現代書館 1979
 

 もし映画の主人公の美女が20世紀以降の西洋型社会で生きていたなら,心理学者によって知能検査など,心的性質・能力を測定する各種の検査を受け,心理療法の介入対象になったかもしれませんね.

 20世紀初めにフランスで「精神年齢」という概念を考案し,測定する実用的な知能検査を世界で初めて作成したのは,アルフレッド・ビネ(1857-1911)です.
 精神年齢と生活年齢(実際の年齢)の比をとって知能指数として表示する方法を提唱したのは,ドイツのウィリアム・シュテルン(1871-1938)です.
 彼らはおそらく,知能検査やIQを被検査者を差別したり抑圧するために用いようとは,考えもしなかったことでしょう.
 彼らの後,アメリカで集団式知能検査が発展し,IQによって個人や特定の属性をもつ人の集団(民族や人種,ジェンダーなど)の知能を表示する研究が行われるようになりました.
 第2次大戦の後,日本でも学校教育において知能検査の結果,算出されたIQが子どもの「教育可能性」を科学的に表示するものとして用いられてきました.


 おそらく大多数の心理学者は社会の一員として善意や研究者の良識にもとづいて,研究や心理臨床や教育などの心理学実践を行ってきたのだと考えられます.

 しかし心理学者が行った研究実践によって,個人の心的な性質や能力を測定し表示する便利なツールが生み出されると,社会の様々な領域において人間を管理し統治するニーズに応えるために,それが適用されるようになります.

 心理学化を推進する主な要因は,こうした社会構造の中に含まれています.
 また,そうした社会の中で専門家として教育を受け研究などの心理学実践を行う心理学者は,疑いの余地のない与件として社会構造を自明視するようになりがちです.



 

2017年7月21日 (金)

原子力規制委員会と東電新経営陣の会議:ディスコース分析心理学者の視点

東電新経営陣の考えを聴いた規制委員会

 7月10日に原子力規制委員会が新たに先月,東京電力の会長や社長に選任された経営者を招いて,会議を行いました.
 同委員会の委員たちが東電の新経営陣に,
福島原発事故の賠償や廃炉,トリチウム汚染水の処理方法,柏崎刈羽原発の再稼働など喫緊の課題について,経営責任者の考えを問いました.
 その模様を新聞各紙が報道しました.


 「東電は福島と向き合ってない」 規制委長、新経営陣を批判」 朝日新聞
 http://digital.asahi.com/articles/DA3S13029559.html


 「「福島が原点、口先だけ」=東電新経営陣に批判続出-原子力規制委」」 時事通信
 http://www.jiji.com/jc/article?k=2017071000479&g=eqa


 「東電新経営陣 あきれ果てた発言」 福島民報
 
https://www.minpo.jp/news/detail/2017071343283

 「原発最前線 規制委vs東電新経営陣 意見交換初戦は東電惨敗 柏崎刈羽再稼働にも暗雲か」 産経新聞
 http://www.sankei.com/premium/print/170718/prm1707180002-c.html




 同委員会はこの会議をインターネットで公開しています.1時間30分ほどの動画です.

 第22回原子力規制委員会 臨時会議(平成29年07月10日)
 
https://www.youtube.com/watch?v=BN3ue81LrYM



ディスコース分析による原発事故の心理学的研究


 原子力規制委員会委員と東電経営者の対話や交渉は,ディスコース分析の立場から福島原発事故の問題に取り組む心理学者にとって,興味深い主題です.
 福島第一原子力発電所事故の損害賠償や廃炉の取り組み,トリチウム汚染水の処理(海への放出),柏崎刈羽原発の再稼働,「福島への責任」など重大な問題が,立場を異にする主体によって深刻な利害関心の影響下で交渉されています.

 ディスコース分析研究者からみると,
「原子力規制委員会」や「東電の新経営陣」,「国」,「福島県民」,「東電の現場社員」などの主体が各種の言語的,政治経済的,文化的リソースを用いてある特定のバージョンで措定され,位置づけられる(あるいは,位置づけようとする試みを妨げられる)プロセスが時系列的に提示されています.

トリチウム汚染水をめぐるせめぎ合い

 YouTubeで公開されている会議の動画をみると,福島第一原発で日々,たまり続けているトリチウム汚染水を海へ放出するよう同委員会委員が東電経営者に求めています.
 トリチウムにより深刻な環境汚染を招くという意見と,そうではないという意見が対立しています.また海が汚染され「風評被害」を悪化させる,と漁業者などが反対しています.
 この問題には主体や対象事物や言語によるそれらの諸バージョンによる位置づけ,その結果としての権利や義務の配分など,ディスコース分析が主題とする諸テーマが係わっています.

 トリチウム汚染水の処理方法について,東電会長らは国の判断を待っている,と応答します.
 規制委員会委員は,東電は「厳しい事実」に向き合っていないのではないか,福島県民にトリチウム汚染水を海へ捨てる以外に処理法がないことを伝えていないではないか,事故で生じた膨大な量の放射能汚染廃棄物をいずれ県外へ移送するというが,本当にそうできると考えているのか,とただします.
 東電の経営者たちは黙って聞くだけです.

 トリチウム汚染水をどのように処理するかは,福島原発事故の収束や廃炉のための作業において,最も切迫した重要課題のひとつです.同委員会委員たちはこの問題を東電が主体的に解決するべきだ,と迫ります.国の判断を待ち,それを理由としてトリチウム汚染水を海へ放出するのでは遅すぎる,と主張しています.
 規制委員会と東電,国,福島県民などの主体は利害や立場を異にしており,汚染水の処理という対象事物について異なった立場を取っています.
 それぞれの主体が自分や他者をある特定の仕方で位置づけようと試みる過程を,同委員会委員と東電経営者たちのやりとりに見ることができます.特定の仕方で位置づけられると,主体はそれに応じた義務や権利を配分され,実生活が変わることになるのです.

 福島事故の賠償費用を捻出するなど,「福島への責任」を果たすために柏崎刈羽原発を再稼働する必要がある,と東電が主張します.「福島事故を起こした東電が,新たな体制の下で原発を稼働できることを示す必要がある,そうすることで福島事故のために原子力発電に向けられた不安に応えることができる」といった趣旨の発言を東電会長が行います.(同会長は日立製作所名誉会長から転出しました.)
 同委員会委員は被災県民が再稼働を望んでいるとは考えられない,被災地の声を聞いているのか,と応じます.
 (この日の会議の後,東電会長はトリチウム汚染水の海洋への廃棄を行う,と発言しました.大きく報道され,福島の地方自治体関係者や原子力規制員会などが東電会長の発言にそれそれの立場から応答しました.)


 主体や対象事物,現実の集合的構成,主観性や実生活における行為の選択への作用など,心理学が取り組むべき研究主題をここにみることができます.

  原子力規制委員会と東電経営者が行なったこの会議に,福島原発事故や原発の再稼働に関する現在の最前線の問題(の少なくとも一部)が現れています.

 心理学でもディスコース分析は多様なしかたで実践されています.
 私が採用しているディスコース分析の方法論は,下記に述べられています.

 イアン・パーカー著 第6章 ディスコース分析 『質的心理学研究法入門:リフレキシビティの視点』,新曜社,2008

2017年7月18日 (火)

批判社会心理学とディスコース分析を紹介するYoutube動画

 イギリスのオープン・ユニバーシティが,批判社会心理学とディスコース分析の基礎を説明する動画をYoutubeで公開しています.

 英語音声のみで日本語の字幕のない動画です.
 イギリスの街中や郊外の日常生活を背景として,批判心理学の考え方やディスコースの視点から社会生活を検討するアプローチが分かりやすく説明されています.

 批判心理学やディスコース分析に関心をお持ちの方におすすめです.

 批判心理学もディスコース分析も多様です.国・地域や研究領域の違いに応じて,心理学者がいだく研究関心の多様性に応じて,さまざまなかたちで営まれています.

 この動画はイギリス批判心理学,社会心理学における批判的研究やディスコース研究の一側面を,エンターテイメントのような親しみやすい仕方で教えてくれます.


  Critical Social Psychology
  (https://www.youtube.com/watch?v=ozQ8t82RSbA&list=PL528A6A714B6796B6)


 社会心理学の領域で批判心理学的研究に取り組む著名研究者が登場します.
 フェミニスト心理学やLGBT心理学,エスニック・マイノリティの心理学に関心をおもちの方も,きっと楽しまれるでしょう.(私の友人も登場します.)

 1本,数分程度の動画が一つの主題を説明しています.全部で30本の動画のシリーズです.

 日本語で批判心理学やディスコース分析を説明する,親しみやすい教育用の動画を作って公開できるといいですね.




2017年7月 1日 (土)

トランプ大統領が「IQが低い」と女性TVキャスターを非難しました

 アメリカのトランプ大統領がTwitterで女性TVキャスターを非難しました.

 MSNBCの朝の人気番組『モーニング・ジョー』のキャスターを務めるミカ・ブレジンスキー氏について,
  「IQが低くて頭がおかしい」,
  「美容整形のシワ取りで顔から血を流していた」,
  「視聴率の悪いモーニング・ジョーが,私を批判しているようだ(もう見ていないが).なぜならIQが低くて頭がおかしいなミカが,サイコパスのジョーと一緒に」,
などと,続けてツイートしました.

 ハフィントンポストが報道しました.
  トランプ大統領が女性キャスターを罵倒「IQが低くて頭おかしい」(ハフポスト日本版,6月30日)
  (http://www.huffingtonpost.jp/2017/06/30/trump-tweets-sexist-attack-morning-joe-host_n_17341082.html)
 
 この記事によると,「トランプ氏のTwitter攻撃は,番組の共同司会者であるジョー・スカーボロ氏が,レックス・ティラーソン国務長官に対するホワイトハウスの姿勢を非難したことに端を発している」とのことです.
 当ブログで以前,トランプ大統領が特定の個人を非難するときに「IQが低い」という表現を用いている例を記しました.
  トランプ米大統領のIQとIQテスト:理論心理学の視点
  (http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2017/01/iqiq-a72a.html)
 
 今回も同じ言い方です.
 トランプ氏にとって「IQ」という心理学的所産は日常的に用いる「自然な存在」になっているようです.
 「IQ」も「サイコパス」も心理学を代表とする「心の学問」が生み出した心理学知識です.
 この二つの言葉・概念が政治的,経済的に強者の立場にあるトランプ氏が特定の個人を攻撃するために用いられていることに,批判心理学や理論心理学の立場から,強い懸念を覚えます.
 心理学が幸福や福祉の増進のためではなく,統治や管理のために用いられる一例です.

 今,イギリスに滞在しているのですが,BBCテレビの情報番組が繰り返し報道しています.
 こうした報道によって「IQ」という心理学知識が,いっそう広く普及していくのでしょう.
 心理学化がもたらすものと,その進行の過程をここにみることができます.

  下記の毎日新聞の記事も,この問題を報道しています.
  女性差別発言に非難の嵐、与党も反発
  
(https://mainichi.jp/articles/20170630/k00/00e/030/241000c)
 
  大統領に懇願、キャスターに要求 醜聞記事で
  
(https://mainichi.jp/articles/20170702/k00/00m/030/076000c)
 
 

2017年6月26日 (月)

心理学的拷問を行った心理学者と被害者,CIA高官の宣誓供述ビデオ

 9.11同時多発テロの後,アメリカが主導する「テロとの戦争」において,テロ容疑者に「過酷尋問」を行った米空軍出身の2名の心理学者を対象として,拷問を受けた被害者と遺族が被害の賠償を求めて裁判を起こしました. 

 ニューヨークタイムズ紙が6月23日の社説でこの問題を取り上げています.
 「拷問者は語る(The Torturers Speak)」

(https://www.nytimes.com/2017/06/23/opinion/cia-torture-enhanced-interrogation.html?action=click&pgtype=Homepage&clickSource=story-heading&module=opinion-c-col-left-region&region=opinion-c-col-left-region&WT.nav=opinion-c-col-left-region&_r=0)

 上記のサイトでCIAに雇用されて「強化尋問技法」を開発し,アルカイダ幹部に自ら拷問を行ったブルース・ジェッセン博士とジェームズ・ミッチェル博士のビデオによる宣誓供述が公開されています.二人はアメリカ空軍でパイロットなどが敵軍に補足され尋問を受けた場合に備えて対策を教えるSEREプログラムの教官を務めた臨床心理学者です.
 ジェッセン博士が公の場で心理学的拷問について発言するのは初めてだと言われています.

 拷問を受けた被害者と拷問により死亡した被害者の遺族の宣誓,2名の心理学者の上司だったCIA高官(元CIA尋問センター長)の宣誓も見ることができます.
 
 2名の心理学者は彼らが行った「強化尋問」は被尋問者に深刻な被害を生じなかった,アメリカで核爆弾によるテロが起こるのを防ぐためにテロ情報が必要だった,などの主張を展開しています.
 被害者のひとりが,尋問とその被害の実態を証言している途中で当時を思い出したのか,急に泣き崩れる場面が記録されています.
 
 対テロ戦争におけるテロ容疑者への拷問は,アメリカ史に残る汚点だ,とニューヨークタイムズ紙の論説記事が指摘しています.
 この問題にかかわる多くの人物の中で,裁判で責任を問われているのは2名の心理学者だけです.


 今後,裁判のゆくえが注目されています.

2017年6月 7日 (水)

ホノルル空港がイノウエ空港に名称変更されました:イノウエ米上院仮議長と「アメリカ心理学会拷問問題」

 ハワイのホノルル国際空港が「イノウエ国際空港」に名称変更されたニュースを,テレビや新聞やネットの報道で知られた方も多いことでしょう.
 故ダニエル・K・イノウエ米連邦上院議(1924-2012)の功績を讃えて,出身地であるハワイのホノルル国際空港の名称が変更されました.
 産経新聞の記事です(5月31日).

  「イノウエ」空港で式典、ホノルル 改名祝い看板も変更
(http://www.sankei.com/photo/story/news/170531/sty1705310007-n1.html)


 
イノウエ議員(民主党)は福岡からハワイに移民した両親をもつ日系2世です.第2次大戦で日系人部隊の一員としてヨーロッパ戦線の激戦地で活躍し,ドイツ兵の砲撃を受けて右腕を失いながら戦功をあげました.全米に知られる大戦の英雄になりました.
 1959年に日系米国人で初めてアメリカ連邦下院議員に選出され,後に上院議員に転じて9期にわたって議席を守りました.
 アメリカの政界で国家安全保障の領域の重鎮として長年,大きな役割を果たしました.ウォータゲート事件やイラン・コントラ事件の調査でも勇名をはせました.

 ハワイで少年時代を過ごしたオバマ前米大統領が,イノウエ議員の活躍ぶりを知って政治家を志した逸話は有名です.日系アメリカ人が連邦議会で活躍できるなら,アフリカ出身の父をもつ自分にもできるはずだ,と考えたそうです.

 イノウエ議員は晩年,アメリカ大統領職の継承順位3位(副大統領,下院議長に次ぐ)の上院仮議長に選出されました.
 亡くなった後,米連邦議会のロタンダ(円形会堂)に棺が安置されました.アメリカの歴史上,数えるほど少数の愛国の勇者に捧げられる栄誉とされています.
 おそらくオバマ前大統領も,ブッシュ元大統領(父子)も,クリントン元大統領もこの栄誉に浴することはないでしょう.

 そのアメリカン・ドリームを体現した偉人が,アメリカ心理学会が9.11後の「テロとの戦い」において加担したテロ容疑者への心理学的拷問に深く関与していた,と報道されています.

 私はイノウエ議員が生涯をかけて為し遂げた偉大な仕事に,心から敬意を抱いています.
 アメリカ社会の周縁で疎外されていたハワイの日系人のコミュニティから起って,マイノリティの福祉や健康を向上させる政策に取り組みました.医療とともに臨床心理学・心理療法もそのための政策に含まれていました.

 しかし研究や臨床実践の倫理を重んじ幸福に寄与する心理学を目指す研究者(批判心理学者)のひとりとして,イノウエ議員と「アメリカ心理学会拷問問題」の関係から目を逸らすことはできません.
 下記はハフィントンポストに2009年に掲載された記事です.

 拷問と心理学とダニエル・イノウエ:拷問で心理学が果たした役割の真実の物語(Torture, Psychology, and Daniel Inouye: The True Story Behind Psychology’s Role in Torture )
 
 (http://www.huffingtonpost.com/bryant-welch/torture-psychology-and-da_b_215612.html)

 詳細は以前,当ブログに記しました.
  『442日系部隊:アメリカ史上最強の陸軍』- イノウエ上院議員から対テロ戦争における「心理学的拷問」までの距離

 (http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2016/12/442-935b.html)

 テレビなどでハワイの空港のニュースを聞くと,イノウエ議員を,さらに9.11後にアメリカ心理学会がテロ容疑者の拷問に加担するに至った一連の出来事を連想してしまいそうです.



2017年5月27日 (土)

「繰り返し水責めを受け,小さな木箱に入れられたズベイダ容疑者はテロ情報を知らなかった」:CIA機密文書にみるテロ容疑者への心理学的拷問

 2002年3月にCIAはパキスタンでアブ・ズベイダ容疑者を捕捉しました.
 9.11同時多発テロの後にアメリカが始めた「テロとの戦い」において,アメリカの軍事・情報当局が最初にあげた大てがらだ,と喧伝されました.

 ブッシュ大統領(当時)が記者会見をひらき,我々はアルカイダ幹部を捕まえた,もう彼がテロを起こすことはない,と述べた場面がこのとき,繰り返し放映されました.(しかし,その後の捜査で同容疑者はアルカイダ幹部ではないことが明らかになりました.)

 ズベイダ容疑者は「CIA秘密航空便」でパキスタンからタイの秘密拘禁施設に移送されました.CIAは情報収集を主務とする機関ですので,テロ容疑者を収容して尋問する施設を備えていませんでした.
 そこで,アジアやアフリカやヨーロッパの各地に現地の軍事・情報当局との連携のもと,テロ容疑者の収容所を設営しました.隠密の施設のため,公的文書や地図に載ることのない「CIAブラックサイト」です.
 この拘禁施設で戦争捕虜の人道的処遇を定めたジュネーブ条約国連拷問禁止条約に違反する「過酷尋問」が行われました.ズベイダ容疑者がその第1号になりました.


 同容疑者に過酷尋問を行ったのが,アメリカ空軍出身の2名の軍事心理学者です.彼らは過酷さの程度を異にする各種の尋問技法を組合わせて「強化尋問技法」を開発し,自らアルカイダ幹部らに尋問を行いました.
 「強化」された尋問技法とは通常,捜査機関に認められている尋問技法の範疇を超えて被尋問者の心身にダメージを与える尋問技法だ,という意味です.

 拷問に相当する過酷な尋問技法として悪名をはせている「水責め(water-boarding)」も彼らが「強化尋問技法」の一つとして採用し,ズベイダ容疑者に初めて行いました.

 同容疑者はその後,米軍がキューバに設営したグアンタナモ収容所に移送され,現在もそこに囚われています.同容疑者を含め,テロ容疑を審理する裁判は遅々として進んでいません.
 最近,同容疑者の弁護団がCIAに尋問に関する機密文書の開示を求め,裁判所の審理をへて公開されました.
 機密文書によって彼への尋問が,従前から知られていたよりもいっそう過酷なものだったことが明らかになりました.

 パキスタンで拘束されたズベイダ容疑者はFBIの尋問官によって,通常のラポートを重んじる技法を用いて尋問され,彼が知っていた情報を供述していたそうです.
 しかし,その後,CIAによってタイの秘密拘禁施設に移され,軍事心理学者によって強化尋問技法を用いて過酷尋問を受けました.
 水責めを受け,棺桶のような木箱に長時間拘禁され,次に棺桶の半分ほどの大きさ(!)の木箱に長時間,入れられたそうです.こうした尋問を繰り返し受けたのですが,前にFBIの尋問官に開示した以上の情報を彼は知らなかった,と弁護団は指摘しています.


 この問題に関心をお持ちの方は,下記をご参照ください
グアンタナモ収容所でもっとも有名なズベイダ容疑者は繰り返し水責めを受け,小箱に拘禁された.しかしこの拷問技法はテロ対策に役立つ情報をもたらさなかった (Failed Torture Methods Used on Guantanamo's Most Famous Detainee
Repeatedly waterboarded and confined in a small box, Zubaydah failed to provide any information of value.By Ken Klippenstein, Joseph Hickman / AlterNet.May 15, 2017)
(http://www.alternet.org/grayzone-project/failed-torture-guantanamo)


 CIAの機密文書も,上のサイトで公開されています.尋問の生々しい詳細が記録されています.

  対テロ戦争における容疑者の尋問はこのように詳細に記録されました.
 ビデオも撮影されました.2004年ころからアメリカでテロ容疑者や捕虜への虐待が問題になり,CIAによる過酷尋問にも疑いが向けられるようになりました.

 ズベイダ容疑者への尋問を記録したビデオなど,多数のビデオテープが破壊されました.あまりに過酷な映像が人目に触れるのを恐れたのでは,と指摘されています.

 トランプ政権がCIA副長官に指名したジナ・ハスペル氏は,9.11後に過酷尋問を伴う作戦を指揮した,と報道されています.同氏はこの問題の詳細を熟知しているのでしょう.





2017年4月13日 (木)

CIAによるテロ容疑者への「過酷尋問」を担った心理学者の回想録:『強化尋問:アメリカを破壊しようとするイスラムテロリストの心理と動機』

 9.11同時多発テロの後,CIAはテロ容疑者に「過酷尋問」を行うようになりました.尋問を現場で担った心理学者の回想録が刊行されました.

  ジェームズ・ミッチェル(
James E. Mitchell)著
  「強化尋問:アメリカを破壊しようとするイスラムテロリストの心理と動機(Enhanced Interrogation: Inside the Minds and Motives of the Islamic Terrorists Trying To Destroy America )」 Crown Forum社,2016年11月.


 
2001年にアメリカを襲った9.11同時多発テロの後,CIAはテロ対策のためにテロに係わる情報の収集にいっそう力を入れるようになりました.
 テロの容疑をかけられた人を尋問して情報を得ることが,さらなるテロを防ぐために決定的に重要だと考えられました.

 CIAには尋問の専門家がいなかったため,当初はFBIの尋問官がCIAがパキスタンなどで捕捉したテロ容疑者への尋問を行いました.FBIの尋問官は通常の尋問技法(尋問者が被尋問者とラポールを築き,尋問を行う技法)を用いました.
 しかしブッシュ政権や軍事・情報当局の中枢では,被尋問者に苦痛を与える過酷な尋問技法を用いれば,もっと多くのテロ情報を得られるという考えが採用されました.

 そこでCIAはアメリカ空軍出身の2名の心理学者,ジェームズ・ミッチェルとブルース・ジェッセンを雇用しました.彼らは過酷さの程度の異なる既存の各種の尋問技法を組み合わせてパッケージ化して「強化尋問技法」を開発しました.水責めや数日間にわたる睡眠の剥奪,ストレス姿勢の強要など被尋問者に身体的,心理的に苦痛を与える技法が採用されました.

 CIAがアジアやヨーロッパやアフリカの各地に設営した秘密拘禁施設(CIAブラック・サイト)で,2名の心理学者はCIA要員らとともに自らアルカイダ幹部に「過酷尋問」を行いました.
 2名の心理学者は軍事コンサルテーション会社を設立して
CIAからテロ容疑者の尋問を請け負い,8000万ドル以上の報酬を得ました.
 2015年12月にアメリカ連邦上院のインテリジェンス委員会がCIAによるテロ容疑者への拷問に関する報告書(ファインスタイン報告書)を公開しました.そこで2名の心理学者が行った活動が詳細に記述されました.

 ミッチェルの回想録『強化尋問:アメリカを破壊しようとするイスラムテロリストの心理と動機』は,「CIA拷問問題」を
当事者の立場から記述しています.
 CIAに見いだされて雇用契約を結ぶ経緯や,アルカイダ幹部への尋問の実際,「強化尋問技法による過酷尋問は拷問ではない」という見解の背景,この尋問がテロ対策のために有用だとする心理学者の考え方を知ることができます.

 対テロ戦争における「心理学的拷問」はおそらく後世の歴史家によって,第2次大戦後に起きた人道への犯罪の事例として記述される重大な事件です.

 拷問に反対したジャーナリストや人権活動家や心理学者の考えを理解するとともに,拷問を行った心理学者の考え方を知ることも今後,心理学的拷問を防止するために必要です

2017年2月 7日 (火)

トランプ米大統領がCIA副長官に過酷尋問の責任者を指名しました

 トランプ米大統領が就任後の最初のテレビインタビューで,テロ対策では水責めを含む拷問が有効だ,と述べたニュースが話題になりました.
 新聞やテレビなどで,このニュースに触れた方も多いことでしょう.

 その後,マティス国防長官が拷問の有効性を否定した,と報道されました.
 大統領もテロ対策は国防長官に任せていると述べ,「過酷尋問」が再び行われることはない,という見方が大勢を占めているようです.

 先週,トランプ大統領がCIAのナンバー2である副長官にG.W.ブッシュ政権の時代に過酷尋問を主導したジナ・ハスペル(Gina Haspel)氏を指名した,とアメリカの各種メデイアが報道しました.
 日本のマスコミではまだ,取り上げられていないようです.

 ニューヨクタイムズの記事です(2月2日).
 新任のCIA副長官,ジナ・ハスペルは拷問を主導していた(New C.I.A. Deputy Director, Gina Haspel, Had Leading Role in Torture)

(https://www.nytimes.com/2017/02/02/us/politics/cia-deputy-director-gina-haspel-torture-thailand.html?_r=0)

 独立系ニュースメディア,インターセプトによる報道です(2月3日.『暴露:スノーデンが私に託したファイル』の著者,グレン・グリーンウォルドの記事です.).
 新しいCIA副長官は拷問の舞台になった秘密拘禁施設を運営していた(The CIA’s New Deputy Director Ran a Black Site for Torture)

(https://theintercept.com/2017/02/02/trumps-cia-chief-selects-major-torture-operative-to-be-agencys-deputy-director/)

 ハスペル氏は9.11同時多発テロの後にCIAがタイに設営した秘密拘禁施設の責任者で,テロ容疑を掛けられた人に過酷尋問を実施するプログラムにおいて中心的な役割を担ったそうです.

 法執行機関ではないCIAはテロ容疑者を収容する施設をもたなかったため,9.11後にアジアやアフリカ,ヨーロッパの各地に新たに設営されました.拷問を禁止しているアメリカの国内法の適用を免れるために米国外に秘密裡に設置された「ブラック・サイト」です.
 同氏はテロ容疑者を米国外のブラック・サイトに移送して,アメリカ国内法が適用されない条件の下で過酷な尋問が行われた「超法規的移送」プログラムの責任者でした.

 以前,当ブログでドキュメンタリー映画「強いられた沈黙」を取り上げました.
 この映画に2002年,パキスタンでアルカイダ幹部を捕捉する作戦を指揮していたCIA作戦課員のジョン・キリアコウ氏が,銃撃戦で重傷を負ったアブ・ズベイダ容疑者をCIAの専用ジェット機でパキスタンから移送するシーンが出てきます.
 キリアコウ氏は自分の手を離れて同容疑者がどこに移送されたか,知らされなかったそうです.機密情報を秘匿するためでしょう.
 その後,調査報道によって同容疑者がタイの秘密拘禁施設に送られ,CIAが雇用した2名の軍事心理学者によって,初めて「強化尋問技法」を用いて過酷尋問を受けたことが明らかになりました.
 ハスペル氏がこの作戦でも「活躍」したのでしょう.

 以前,当ブログに記載された記事です.
 強化尋問技法:「強いられた沈黙」(NHK BS世界のドキュメンタリー)

 (http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2015/12/bs-7dea.html)


 「強いられた沈黙」は社会派ドキュメンタリーで知られるジェームズ・スピオーネ監督の作品です.
 原題:Silenced
 監督:James Spione
 制作:Morninglight Films/NakedEdge Films(アメリカ,2014)  
 【トールグラス映画祭 ゴールデンストランド賞】
 【トラバースシティ映画祭 特別賞】


 またハスペル氏は,
CIAによる過酷尋問が人道に反する拷問ではないかと批判が高まると,テロ容疑者の尋問を記録したビデオテープを破壊した,と報道されています.
 尋問の模様を撮影したビデオテープが真相を解明する資料になるはずでしたが,失われました.連邦議会や司法当局が証拠を隠滅し捜査を妨害する行為だ,と非難しました.

 もし,このビデオテープが連邦議員や報道関係者の目に触れていれば当時の政権は大きなダメージを受けただろう,と言われています.

 同氏がCIAの秘密作戦の責任者だったため,今まで同氏の名が公けに報道されることはありませんでした.
 新しい副長官に導かれてCIAは再び,変わるのでしょうか? 



 

2017年2月 4日 (土)

シンポジウム 対テロ戦争における「心理学的拷問」を考える:ホフマン報告の後の心理学

 「テロとの戦い」におけるテロ容疑者への「過酷尋問」に,アメリカの心理学者とアメリカ心理学会が加担した事実を認定したホフマン報告はアメリカだけでなく,多くの国の心理学者に衝撃を与えています.
 この問題をテーマとして,下記のシンポジウムが開催されます.心理学者の倫理や心理学と社会の関係,心理学史など心理学にかかわるメタ学問的問題を討議します.
 こうした主題に関心をおもちの方は,気軽にご参加ください.


シンポジウム
「対テロ戦争における『心理学的拷問』を考える:ホフマン報告の後の心理学」
日時:3月11日(土),午後6時開会
話題提供:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学)  「理論心理学・批判心理学の立場からみた『心理学的拷問』とアメリカ心理学」
指定討論:いとう たけひこ(和光大学)
指定討論:田辺 肇(静岡大学)
会場:和光大学 A棟4階 第2会議室
(https://www.wako.ac.jp/access/campus.html)
参加費:無料
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会
共催:平和のための心理学者懇談会,心理科学研究会平和部会


企画趣旨:
 2014年10月,アメリカ心理学会幹部とアメリカ国防総省やCIAなどの担当官の間で交わされた多数の電子メールにもとづいて,9.11後の「テロとの戦い」においてCIAや米軍がテロ容疑者に行った「過酷尋問」に心理学者が関与していたと報道され,北米社会で大きな反響を呼びました.

 真相の究明を求める声が高まり,アメリカ心理学会(APA)は組織不正の調査にたけたデビッド・ホフマン弁護士に調査を委嘱しました.APAの運営に関する各種文書や電子メール,当事者への聴聞などで得られた資料をもとに調査が行われました.
 翌年7月に同弁護士を長とする独立調査委員会が報告書を公開しました.

 ホフマン報告書は,
1).拷問に反対する人々が10年前から指摘してきた国防総省とAPAの協働関係が概ね事実だったこと,
2).9.11後にAPAがとった行動の動機はおもに,対テロ戦争を担う国防総省の要請に応じることや,社会における心理学のよいイメージを保つこと,心理学の職業的発展をめざすことにあり,拷問の防止や拷問の被害者の救済が考慮されなかったこと,
3).国防・情報当局とAPA指導部が結託して,拷問を含む過酷な尋問を法的に正当化した米政府の政策に合わせてAPAの倫理指針を改定したこと,
4).もしアメリカの心理学者が加担しなければ,国防・情報当局が設営した尋問施設などで心理学者が悪を為す機会は低減した,などの見解を認定しました(Olson,2106).

 同報告を受けて長年,APAの運営を担ってきた同学会の最高執行責任者(CEO)と副CEO,倫理部長,広報部長の辞職が発表されました.
 2015年8月にAPAの最高意志決定機関である代議員会は「国家安全保障に関する尋問」にAPA会員が関与することを禁止する決議を採択し,尋問に関する倫理指針を変更しました.
 その後,今日まで9.11後のAPAの行動を振り返り,改革へ向けて努力が続けられています.

 最近,トランプ米大統領がテロ対策では「水責め(ウォーター・ボーディング)」などの拷問が有効だと述べ,CIAによる過酷尋問を復活させる可能性に言及した,と報道されました.
 CIAが水責めを含む「強化尋問技法」を用いて行った尋問は,アメリカの心理学者が加担した拷問の一つです.2014年12月,アメリカ上院インテリジェンス委員会はCIAによる過酷尋問の効果を否定する報告を公表しました.
 このファインスタイン報告では,CIAが雇用した2名の軍事心理学者が過酷さの程度を異にする技法を組み合わせて強化尋問技法(EIT)としてパッケージ化し,米国外に設営された秘密拘禁施設(ブラック・サイト)でアルカイダ幹部に自ら,過酷尋問を行った経緯が詳述されました.
 各種メディアの報道によって幅広い公衆がこの事実を知り,心理学の倫理的正当性が疑われるようになりました.

 テロ容疑者への拷問は戦争捕虜の人道的な処遇を定めたジュネーブ条約国連拷問等禁止条約に反する「心理学的拷問」と呼ばれ,国際的関心を集めてきました.
 昨年,横浜で開催されたICP2016でも,国際心理科学連合会長の企画によるシンポジウム「心理学者の名のもとで拷問を行わない:ホフマン報告の後の心理学」が開かれました.APA会長や,APAの倫理指針が変更された工作の舞台となった心理学の倫理と国家安全保障に関する特別委員会(PENSタスクフォース)の元委員らが報告を行い,国際心理科学連合会長が拷問に反対する立場を表明しました.

 一般に軍隊では敵兵に尋問を行う技法や,敵軍に捕捉された自軍兵士の尋問への対策が求められます.自衛隊がPKO活動の一環として海外の紛争地で「駆けつけ警護」を行うことになり,日本でも「尋問の心理学」の必要性が高まっていると考えられます.

 本シンポジウムでは話題提供者は理論心理学と批判心理学の立場から,ホフマン報告後の心理学のあり方や戦時下のアメリカ心理学に影響を与えてきた諸要因,心理学と社会の関係,心理学の倫理などをメタ学問的に考察します.
 昨年のシンポジウム「心理学と対テロ戦争と『国家安全保障の尋問』」に続き,ホフマン報告の後の状況を討議します.


参考文献:
 Olson,B. (2016)  Why More of U.S.Psychology Needs to Follow Community and Peace Psychology Principle. ピース・レポート(国際基督教大学平和研究所ニューズレター),11,1,8-9. 

参照ウエブサイト:
1.ホフマン報告とAPAのプレスリリースのアーカイブ
   Report of the Independent Reviewer and Related Materials
   (http://www.apa.org/independent-review/)
2.心理学的拷問に反対する活動を行ってきた「Coalition for an Ethical Psychology」のウェブサイト
   (http://ethicalpsychology.org/index.php)

 

「Hoffman report」の画像検索結果

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2017年2月 3日 (金)

イギリスの大学が批判心理学者を公募しています

 イギリスのリーズ・ベケット大学 社会科学部心理学科が,批判心理学者を公募しています.

 職位:シニア・レクチュラー
 契約の種別:雇用期限のつかない常勤職
 給与:41,709ポンドから48,327ポンド

 詳細については下記のサイトをご参照ください.
  
http://www.jobs.ac.uk/job/AWY470/senior-lecturer-in-critical-psychology/

 大学教員を採用するときに,批判心理学を指定して公募される国・地域は多くありません.
 イギリスはそのひとつです.これまで何度か,批判心理学者を求める公募情報を聞いたことがあります.

 心理学を学ぶ学生の間に主流だけでなく,批判的な研究も知りたい,というニーズがあります.
 そのため,主流心理学者で占められている心理学科・専攻のスタッフの中に,ひとりは批判心理学者がいた方がいいとする意見がイギリスでは一定程度,受け入れられているそうです.イギリスで多くの批判心理学者が活躍している理由の一端はこうした雇用事情にあるのでしょう.
 ドイツなど他国で教育を受けた批判心理学者がイギリスの大学で教職に就く例もあります.

 

 リーズ・ベケット大学の心理学科は,次の3つの研究領域を探究しています(http://www.leedsbeckett.ac.uk/research/research-areas/research-areas/psychology/).
・認知と行動
・健康
・性,ジェンダー,アイデンティティと力

 おもに3番目の領域が,同大学が求めている批判心理学と関連しているのでしょう.

 批判心理学は研究者によって,目的や理論的リソースや方法の差違によって,国・地域の状況の差違によって,多様です.

 下記は同大学の批判心理学者が現在,取り組んでいるおもな研究のテーマです.
・摂食や飲酒に関する批判的な質的フェミニスト研究
・職場における性差別
・若者が経験している性的いじめ
・社会階級とジェンダー
・トランスジェンダーの若者の健康
・コンドーム使用のジェンダー差
・男性性と男性の健康


2017年1月28日 (土)

トランプ米大統領がテロ対策で水責めなどの拷問は有効だ,と述べました:心理学的拷問

 トランプ米大統領が25日,大統領職に就任した後,初めてテレビでのインタビューに応じました.
 移民規制やオバマ前大統領が創設した医療制度の改変など記者の質問に答えるなかで,大統領は米政府の治安・諜報部門の高官からテロ対策では拷問が有効だと説明を受け,自分もそう信じている,と述べました.
 「イスラム国」が人間の首を切っているのだから拷問も必要だ,「水責め(ウォーター・ボーディング)」などの拷問は役に立つと主張しました.

 ABCニュースのインタビューでの出来事です.

 大統領は,テロ容疑者を尋問するためにCIAが米国外に設営していた秘密収容施設を復活させることも検討している,と報道されました(下記のワシントンポストの報道,25日).

 アメリカやイギリスの各種メディアが25日に大統領の発言を速報しました.
 「対テロ戦争」における容疑者への尋問のあり方に対する関心の高さがうかがわれます.拷問はジュネーブ条約国連反拷問条約に反する人道に対する犯罪だと考えられています.

 CNNの報道です.
 Trump on waterboarding: 'We have to fight fire with fire' (http://edition.cnn.com/2017/01/25/politics/donald-trump-waterboarding-torture/)

 ワシントンポストの報道です.
 Trump signals changes to US interrogation, detention policy
 
(https://www.washingtonpost.com/politics/federal_government/trump-says-torture-works-as-his-government-readies-a-review/2017/01/25/72767070-e35b-11e6-a419-eefe8eff0835_story.html?utm_term=.87c96bb189b5)

 BBC日本語サイトの記事です(1月26日)
 トランプ米大統領、水責め拷問は「もちろん効果がある」
 
(http://www.bbc.com/japanese/video-38753504)

 日経新聞も速報しました(1月26日).
 トランプ氏、水責め尋問の復活検討 テロ容疑者らに

 (http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM26H2A_W7A120C1EAF000/)

 NHKの報道です(1月26日).
 トランプ大統領 テロ容疑者への水責め尋問 「効果ある」
 (http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170126/k10010853541000.html?utm_int=detail_contents_news-related-auto_001)

拷問の「ポスト真実」?
 9.11後にCIAがテロ容疑者に行った「過酷尋問」は,米軍出身の心理学者が「学習性絶望感」などを理論モデルとして作成した「強化尋問技法」を用いて行われました.水責めもこの技法の中に含まれました.

 学習性絶望感を発見し理論化したM.セリグマン(1998年にアメリカ心理学会会長)が米軍のSEREプログラムで同理論などについて講演を行い,自宅にCIA上級職員(心理学者)や上記の米軍の心理学者を招いて会議をもったことが,拷問に反対するジャーナリストの調査報道によって明らかになりました.

 またアメリカ心理学会の幹部職員たちがテロ容疑者の尋問を主題とする非公開の会議を,上記の
CIA上級職員や米軍の心理学者,ホワイトハウス科学顧問(心理学者)らとともに開いていたことも,後に明らかになりました.

 こうした事実がマスメディアで広く報道され,北米社会における心理学への信頼が揺らいでいます.

 米上院インテリジェンス委員会は2014年12月に,CIAによる過酷尋問の効果を否定する報告書をまとめました(ファインシュタイン報告).通常の尋問技法によってテロ対策に必要な情報を得られていた,と結論づけました.
 CIAなど米政府の情報部門もかつての過誤を反省して拷問の効果を否定し,同様の立場を取っていると報道されてきました.
 しかし上記のトランプ大統領の発言は,これまでの常識を覆すものです.

 米政府当局の真意はどうなのか,本当はテロ容疑者に拷問を行えばより効果的なテロ対策を行える,と考えているのでしょうか?

 一般に拷問はテロ対策の情報を得る手段としては有効ではない,とされています.
 拷問を受けた人は今,経験している著しい苦痛から逃れるため,虚偽の自白を強いられます.テロとは無関係でテロ情報を知らない人でも,尋問者が望んでいるような供述をしやすくなります.
 また,激しい苦痛や恐怖のために心的機能が阻害され,正しい供述をできなくなると指摘されています.

 しかし,少数の極悪なテロ容疑者を拷問して多数の市民の生命を守る,という「時限
爆弾シナリオ」が政治家を含む多くの人々に受け入れられています.

 意見が対立している問題について,通説とは異なる見解が大統領によって真実だと提示されました.
 これも昨年のアメリカ大統領選挙で話題になった「ポスト真実」のひとつかもしれませんね.

2017年1月26日 (木)

トランプ米大統領のIQとIQテスト:理論心理学の視点

トランプ米大統領にみる心理学化

 1月20日に第45代アメリカ大統領に就任したドナルド・トランプ氏の言動に,世界の注目が集まっています.

 トランプ氏は就任式の前日,共和党幹部が集まった昼食会で自分が選んだ閣僚たちを紹介して「賢い人たちを閣僚に集めた.歴代の政権の中で最もIQが高い」と述べ,会場を沸かせたそうです (「トランプ次期大統領 『懸命に働く』就任式前に決意」
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170120/k10010845991000.html ,1月20日のNHKによる報道).

  同氏は大統領選挙中にテロ対策などのため,イスラム教徒の米国への入国を禁止すると述べていました.
 この主張を知ったイスラム教徒のロンドン市長がトランプ氏は無知だと批判すると,同氏は「IQテストをしよう」と反論した,と報道されました(「『IQテストやろう』 トランプ氏、英市長に「無知」と呼ばれ」(
http://www.bbc.com/japanese/video-36309476 ,2016年05月17日).

 IQやIQテストは心理学における知能研究が生み出した心理学的知識です.
 トランプ氏がそれらを用いているのは,心理学の産物が社会の様々な領域で活用され,心理学者ではない多くの人々が自明視するようになる「心理学化」の一例です.


理論心理学からみたIQと心理学化

 トランプ氏が用いた「IQ(知能指数)」という言葉とそれが表す概念は,IQと名づけられた数字が人間の知的な能力を表示している,という考えを含んでいます.
 さまざまな人の,おそらくは多様な知的能力を一つの指数によって客観的に表すことができる,その能力を「IQテスト」によって科学的に測定できる,と考えられているのです.

 トランプ氏がこれらを用いるようになる前に長い歴史がありました.
 学校教育などの社会的領域におけるニーズを背景として,百数十年前から心理学者が研究を行って知能という概念を生み出し,それを説明する理論や測定する検査を産出しました.
 トランプ氏の発言に至るまで長い時間の流れの中で,役割や目的を異にする多くの人々が関与してきたことでしょう.

 同氏にとってIQやIQテストは,どのような意義をもっているのでしょうか?



2016年12月30日 (金)

『442日系部隊:アメリカ史上最強の陸軍』- イノウエ上院議員から対テロ戦争における「心理学的拷問」までの距離

 2016年も残り二日になりました.
 今年が終わる前に,この一年で印象に残ったドキュメンタリー映画をご紹介します.

 『442日系部隊 アメリカ史上最強の陸軍 WAC-D6322011』
 監督: すずきじゅんいち
 販売元: フイルムヴォイス,2011年発売


 アメリカの軍事史において,また
日系アメリカ人の歴史において,第2次大戦時に日系人によって編成されたアメリカ陸軍442部隊の活躍は,特筆される歴史的事象です.
 部隊員の大半が死傷するほどの犠牲を払ってヨーロッパ戦線で数多くの戦功をあげ,アメリカでは戦史に残る英雄的部隊として記憶されているそうです.
 この活躍のニュースが全米で知られ,日系アメリカ人が長年苦しんだ人種差別を脱して社会に受け入れられる契機になりました.

 ドキュメンタリー映画『442日系部隊 アメリカ史上最強の陸軍 WAC-D6322011』は,真珠湾攻撃から部隊の編成と訓練の過程,ヨーロッパ戦線での激しい戦い,兵士たちの戦後の生活などを元兵士たちに行ったインタビューを交えて描いています.

 日系アメリカ人の苦難の歴史や戦争の悲惨な実相,激しい戦闘が引き起こした重度のPTSDなどを,この映画で知りました.お薦めの一本です.
 DVDで視聴できます.

    「442日系部隊」の画像検索結果


アメリカンドリームを体現したダニエル・イノウエ上院議員


 442部隊で活躍した英雄がハワイ出身の日系2世,ダニエル・イノウエ上院議員(1924-2012)です.
 上記の映画でインタビューに答え,激しい戦闘の模様や戦後の兵士たちの半生を語っています.

 福岡県にルーツをもつイノウエ氏はドイツ兵の砲撃を受けて右腕を失い,医師になる夢を諦めました.
 しかし戦後に故郷ハワイで政治家として頭角を現し,日系人として初めて連邦下院議員(民主党)に当選し,後に上院議員に当選して亡くなるまで50年間,議席を守りました.
 ウォーターゲート事件を究明した上院特別調査委員会で活躍し,イラン-コントラ事件を調査した特別委員会委員長を務めました.上院インテリジェンス委員会委員長や同歳出委員長を務め,アメリカの軍事・諜報政策を担う大立者になりました.

 晩年にアメリカ大統領職継承権第三位の上院仮議長に就任しました.米社会の周縁で疎外されていた日系移民社会から起って,アメリカンドリームを体現した人物です.
 2012年に死去すると,イノウエ議員の遺体は連邦議会議事堂のロタンダ(円形ドーム広間)に安置されました.アメリカ合衆国の建国以来,国家への著しい貢献を認められた稀有な人物にのみ捧げられる栄誉だそうです.

 日系移民2世である彼はアメリカ社会でマイノリティが直面する困難をよく知っていました.そこでマイノリティや社会的弱者を支え,擁護する政策を実現するために活動しました.
 その中には福祉や医療・健康にかかわる政策も含まれました.臨床心理学を専門とするスタッフもそれを支えました.
 


対テロ戦争における心理学的拷問までの距離

 長年,イノウエ議員のスタッフとして働き,後に首席補佐官を務めたのが臨床心理学者のパトリック・デリオンです.

 ハワイで心理臨床の仕事に就いていたデリオンは,イノウエ議員の事務所スタッフに採用され,心理学者としては異色のキャリアを積んでいきます.
 日系2世の苦難の経験を踏まえて福祉や保健などの公的サービスを重んじた同議員の政策の実現のために働き,臨床心理学的ケアの普及に努めました.
 政官界で大きな影響力を振るった有力議員のスタッフであるデリオンも,政官界に人脈を広げ政治的影響力をもつようになりました.

 デリオンは1980年代からアメリカ心理学会(APA)の運営にたずさわり,2000年にAPA会長に選出されました.
 彼がAPA執行部に加わってから,APAは政府や国防総省などとの関係を強めた,と言われています.

 2001年に9.11同時多発テロが起こると,ホワイトハウスや国防総省やCIAはテロ対策に追われました.
 テロ対策の要はテロ容疑者を尋問して,情報を得ることです.そのため当局は通常の尋問の技法を越えた「過酷尋問」の技法を求めました.人権や人道に対する配慮を越えて軍事心理学者が水責めを含む「強化尋問技法」を開発しました.
 対テロ戦争において,国連の拷問等禁止条約や戦争捕虜の人道的な処遇を定めたジュネーブ条約は無力化されました.

 デリオンがAPAと政府や議会の間に築いていたネットワークが,CIAによる「強化尋問技法」を用いた過酷尋問(心理学的拷問)や国防総省がガンタナモ収容所などに派遣した「行動科学コンサルテーションチーム(BSCT)」による過酷尋問を実施する体制を支える役割を果たしました.

 管見では,1892年に設立されたアメリカ心理学会の歴代の会長の中で,おそらく最も大きな政治的影響力を振るったひとりがパトリック・デリオンだと考えられます.

 この問題に関心をお持ちの方は下記をお読みください.

 Torture, Psychology, and Daniel Inouye: The True Story Behind Psychology’s Role in Torture (2009)
 (http://www.huffingtonpost.com/bryant-welch/torture-psychology-and-da_b_215612.html)


 下記のブログエントリーも,デリオンについて記しています.

  アメリカ心理学会元会長の公開書簡Ⅰ:ホフマン報告をめぐる混乱
  (http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2016/06/post-2ecd.html)



 米国立第二次世界大戦博物館(National WWII Museum)が戦争を記録するオーラル・ヒストリープロジェクトの一環として,イノウエ議員にインタビューを行いました.
 歴史研究者のひとりとして(心理学史家も歴史研究者です),20世紀前半から21世紀までアメリカで活躍した日本にルーツをもつ人物の経験と思想に大いに関心をもちました.
 下記のサイトで公開されています.同議員の貴重な経験を知ることができます(日本語字幕は付いていません).

  Oral History: Daniel Inouye
  (https://www.youtube.com/watch?v=rCHQK2SHUsA)

2016年12月28日 (水)

道場親信の社会運動史研究と批判心理学

 年の瀬に2016年を振り返ると,私の心に浮かぶのは何よりも,学生時代からの畏友である道場親信君(社会学者,和光大学教授)を失ったことです.
 胆管がんのため,9月14日に亡くなりました.享年49歳.

 幅広く綿密に収集した資料とその時代に実際に活動していた当事者への詳細なインタビューにもとづき,戦後の社会運動・文化運動の研究に新機軸をもたらしました.
 彼の仕事は,グローバル化の影響の下で社会的統制が強化されつつある今日の日本社会を批判的に展望する視座を提示しました.

 もし病に侵されずに通常,大学教員が定年を迎える年齢まで研究を続けていれば,どれほど多くの仕事を成し遂げたかと考えると,本当に残念でなりません.
 熱心に研究活動に打ち込む姿を知る人は皆,道場君の無念を思い,悲しんでいることでしょう.

 敗戦後60年の2005年に刊行された『占領と平和:“戦後”という経験』(青土社)は当時,戦後史を再検討していた論壇の注目を集めました.

 
      「占領と平和」の画像検索結果


 10月に『下丸子文化集団とその時代:一九五〇年代サークル文化運動の光芒』(みすず書房)が刊行され,読書会などで取り上げられています.

       「下丸子文化集団とその時代」の画像検索結果

 この2年ほどの間,道場君を対話の相手として,「科学としての心理学」や「社会の中の心理学」をメタ学問的に考察するシンポジウムを開きたいと準備してきました.
 現在,世界各地で批判心理学者が取り組んでいるおもな課題のひとつは,心理学と社会の関係を問い,「管理統制のための心理学」を脱構築して「幸福に寄与する心理学」を構築することです.

 シンポジウムを実現できていたなら,きっと心理学者に知的な,また倫理的な刺激を与えてくれたことでしょう.


 道場君の研究関心の一端を,2014年に図書新聞に掲載された下記の対談から知ることができます.

 一人ひとりの心に「広場」を! 対談 大木晴子×道場親信 大木晴子+鈴木一誌編著『1969』

 (http://www1.e-hon.ne.jp/content/toshoshimbun_3169_1-1.html)

▼日本には「広場(の文化)」がないとよく言われる。しかし本当にそうだろうか―。かつて新宿の真ん中に「広場」が存在した。『1969―新宿西口地下広場』(新宿書房)刊行を機に、その広場の「歌姫」と言われた大木晴子氏と、和光大学教員の道場親信氏に対談していただいた。
■新宿西口フォークゲリラを始めるとき.... 
 (続きは,上記のサイトでお読みください.)



 東京新聞に追悼記事が掲載されました.
  力振り絞り著した「社会運動」 道場親信さん遺稿 相次ぎ出版(2016年12月24日)
  
(http://www.tokyo-np.co.jp/article/metropolitan/list/201612/CK2016122402000152.html)



 年明けの1月9日に下記のシンポジウムが開催されます.
  道場親信の思想と仕事『下丸子文化集団とその時代』刊行記念の集い

     (http://www.msz.co.jp/event/08559_ymca20170109/)

 

2016年11月26日 (土)

多様な心へのアプローチ:L.ウォラック , M.ウォラック 著『心の七つの見方』,新曜社

 1990年代半ばから臨床心理士がひろく社会的認知を得るなど,日本でも心理学がいっそう発展しています.
 日本社会で生きる人は日々の生活を送るなかで,心理学が生み出した用語や概念,心理テスト,心理療法などの「心理学知識」に,自然に出会うようになりました.
 人の振る舞いや健康,人間関係,個人の性質や能力などが語られるときに,さまざまな心理学知識が用いられています.

 しかしその一方,心理学の基礎にある「心とは何か」という問題が省みられる機会は稀なようです.
 長年の哲学者による探究や近年の神経科学の発展にもかかわらず,この問題は未解明なままで,論争が続いています.

 脳が頭蓋骨の中に実在するように心という「もの(物理的実体)」が脳の中に(あるいは他のどこかに),実在するわけでありません.
 そのため「心とは何か」という主題をめぐって,様々な説が提出されてきました.
 たとえば「心は脳」,「心は行動」,「心はコンピュータのソフトウェア」,「心は社会構成物」など,異なった見方が可能です.

 心をみる見方が異なれば,心を研究する方法も異なることになります.心理学の研究方法論や心を説明する理論の多様性の背景は,こうした心観の多様性です.

 この問題を考えるときに参考になるのが最近,刊行された下記の邦訳書です.

 L・ウォラック・M・ウォラック (著) 「心の七つの見方」
(岡隆訳,新曜社,2016)

 
      


 以下,同書の目次です.

L・ウォラック・M・ウォラック (著) 「心の七つの見方」
(岡隆訳,新曜社,2016)

はしがき
序:問題
第一章 物理的世界とは異なるものとしての心
・デカルト学派の混同と超常現象
・自由意志はどうか
・創造性はどうか
・機械に意識はあるか
・意識的経験は私的ではないか
・意識的経験は本当に脳の状態か
・簡潔に言うと

第二章 話し方としての心
・心的原因はあるか
・私的で内面的な心的実体はあるか
・心的実体から心的過程へ
・二つの甘い誘惑
・心の謎は消えたか
・簡潔に言うと

第三章 行動としての心
・伝統の誕生
・苦境にある伝統
・スキナーの方法
・不穏な情況
・意識
・条件づけで十分か
・簡潔に言うと

第四章 頭の中のソフトウェアとしての心
・デジタル・コンピュータの定義
・デジタル・コンピュータとしての脳
・意識や感情や意味はどうか
・考えることや問題を解決することはどうか
・簡潔に言うと

第五章 脳としての心
・幻の原因としての意識的意図
・脳は表象することができるか
・ニューラルネットワーク
・意識的経験
・その問題は解消した
・脳の記述は心的な言葉に取って代わりうるか
・簡潔に言うと

第六章 科学的構成概念としての心
・操作的に定義できる理論的構成概念
・本当に科学的な概念か
・法則的原理か
・反証不可能な原理
・反証不可能な導出仮説
・妥当で反証可能か
・法則がすべてとは限らない
・簡潔に言うと

第七章 社会的構成概念としての心
・心性の文化的解釈
・自分自身の心的状態
・行動は曖昧である
・解釈とその仮定
・船とクモの巣について
・簡潔に言うと

終章 心を(完全に)見失うことなく二元論を避ける方法
・七つの見方を要約すると
・問題に戻ると
・二元論なしでやっていく
・締めくくりに

2016年11月24日 (木)

ライゼン記者による報道「米テロ戦争の暗部に沈んだ1人の拷問犠牲者」:心理学的拷問の実際

 2001年にアメリカを襲った9.11同時多発テロの後に,テロ容疑者の尋問のためにブッシュ政権が認可して行われた「心理学的拷問」は,自由と人権を重んじてきたアメリカ社会の歴史を画する衝撃的事件でした.

 たとえ敵であっても,戦争捕虜を人道的に処遇してきたアメリカ的理念が失われてしまった,という印象を世界の多くの人々に与えました.
 第2次大戦で捕虜になった日本兵やドイツ兵を良心的に扱ったことが,戦後に日本や西ドイツが親米国になった一因だったと考えられます.
 しかし,9.11後の「対テロ戦争」では状況が一変しました.心理学者がこの問題に深く関与した事実は今後,長くアメリカ史に記載されることでしょう. 

 精神科医や医師が行わなかったテロ容疑者への過酷な尋問を,当局の求めに応じて心理学者が行ったため,アメリカ心理学の倫理的正当性が疑われるようになりました.

 対テロ戦争における心理学的拷問とアメリカ心理学会(APA)の加担の実態を解明するために,国際赤十字や「社会的責任を果たす医師団」のような人権NGOや新聞記者などのジャーナリスト,拷問に反対してAPAに倫理指針の変更を求める活動を行った心理学者らが,大きな役割を果たしました.

 ニューヨーク・タイムズ紙のジェームズ・ライゼン記者は,最も大きな役割を担ったひとりです.



過酷尋問による心身の障害

 ライゼン記者がこの問題を取材した記事「米テロ戦争の暗部に沈んだ1人の拷問犠牲者」が最近,朝日新聞デジタル版に掲載されました.
 ニューヨーク・タイムズ紙から邦訳され,転載されました.

 CIAに雇用された2名の軍事心理学者が作成した「強化尋問技法」によるテロ容疑者への「過酷尋問」の悲惨さが,濡れ衣を着せられてCIAが米国外に設営した秘密拘禁施設で拷問を受けた被害者の証言にもとづいて報告されています.

 裁判所による逮捕令状など公正な法的手続きを経ずに不意に拘束され,訳の分からないままに国外の秘密施設に送られ,長期にわたって苛烈な尋問(拷問)が行われたことに驚きを禁じ得ません.

 被害者は今も重度のPTSDに苦しみ,生活を破壊されてしまいました.
 

 下記のサイトでこの記事が公開されています.
 「米テロ戦争の暗部に沈んだ1人の拷問犠牲者」
     http://digital.asahi.com/articles/ASJBM3JP5JBMULPT001.html

 記事の中で,国防総省から尋問を請け負った軍事会社を被害者が訴えて裁判が始まった,と報道されています.
 尋問を受託した企業はアメリカ軍出身の2名の軍事心理学者が設立したものです.彼らは「学習性絶望感」をモデルとして「強化尋問技法」を開発し,自ら過酷尋問を行いました.

 2014年12月にアメリカ上院のインテリジェンス特別委員会が公表したCIAによる過酷尋問に関する報告書に,この2名の心理学者の活動が詳細に記述されました(ファインシュタイン報告書).
 日本でも2年前に主要なメディアで,「CIAの拷問は効果なし」といった見出しをつけて報道されました.覚えておられる方もいることでしょう.
 しかし心理学者が尋問の技法を開発して、自らアルカイダ幹部などに尋問を行ったことは,私の知る限りでは,日本のマスコミでは報道されなかったようです.北米ではマスコミによって多くの公衆がこの事実を知りました。

 M.セリグマンやJ.マタラゾらの著名心理学者(元APA会長)やAPA幹部が,過酷尋問が立案・実施される過程で協力したことが,後に明らかになりました(ホフマン報告).
 国防総省がガンタナモ収容所などに配置した「行動科学コンサルテーションチーム」によるテロ容疑者への過酷尋問でも,心理学者が主要な役割を担っていることが,ジャーナリストや人権NGOの調査によって明らかになりました.
 アメリカ心理学の根幹が揺るがされる大問題になったのです.

 ライゼン記者がインタビューした同じ被害者について,AJ+ の下記のサイトが動画を用いて報道しています.心理学的拷問に用いられた技法や,これを開発した軍事心理学者も登場します.
  https://www.facebook.com/ajplusenglish/videos/720211424787034/


「いくらでも支払う:強欲と権力と終わりなき戦争」

 ライゼン記者はイラク戦争とテロ対策に伴う米政府による市民への監視の強化に関する報道でピューリツアー賞を2度受賞した,この領域を代表するジャーナリストです.

  2014年10月,同記者は「Pay Any Price:Greed, Power, and Endless War(いくらでも支払う:強欲と権力と終わりなき戦争), Mariner Books,2014」を刊行しました.
 この本はテロ対策のために米政府が支出した莫大な予算が,私的利益を追い求める人々の「強欲」と結びついて引き起こされた様々な不幸や理不尽を,具体的な事例に即して報道しています.

 同書の一章でライゼン記者は,APA幹部職員とCIAや国防総省,ホワイトハウスの職員の間で交わされた多数の電子メールをもとに,テロ容疑者に対する拷問がブッシュ政権と情報機関と国防総省,アメリカ心理学会の中枢が協働して実施されたことを明らかにしました.

 この後,APA執行部は従前のように対テロ戦争における拷問への加担をただ否定したり,APAを批判する人を逆に非難したり,無視するだけでは済まなくなりました.
 APAはホフマン弁護士にこの問題の調査を委嘱し,今日に至る改革が始まりました.
 昨年7月に公開されたホフマン報告書は,APA執行部がテロ容疑者への過酷な尋問を求める政府に協力してきたことや,その事実を隠ぺいしてきたことを認定しました.

 その後,APAの最高執行責任者(CEO)やCEO代理,倫理部長,広報部長など長年の間,APAの運営を担ってきた幹部職員がAPAを去りました.
 APAは今も改革の途上にあります.


『戦争大統領:CIAとブッシュ政権の秘密』(ライゼン著,毎日新聞社,2006)

 オバマ政権は対テロ戦争を戦う米政府を批判した政府職員などの内部告発者を厳しく処断し,情報漏えい罪やスパイ罪の嫌疑を掛け,告発してきました.

 ライゼン記者がイラク戦争を報道した記事の一部は,政府内の告発者がもたらした情報にもとづいて書かれたものでした.
 このため同記者も内部告発者を訴追した米政府の裁判の過程で,情報源の開示を裁判所から命じられました.

 ジャーナリストが自らニュースソースを明かすなら,ジャーナリストの基本倫理を侵すことになります.ライゼン記者は命令に従わず,オバマ政権によって刑務所に収監される危機に直面しました.

 オバマ政権が,市民の知る権利を守るために果敢な報道を行った記者を刑務所に収監するかどうか,全米の注目を集めるニュースになりました.
 アメリカにおける報道の自由を脅かす重要な係争問題です.
 最終的にオバマ政権はライゼン記者を収監しない決定を下しました.

 この著名ジャーナリストがアメリカ心理学会のスキャンダルを報道し,心理学者の拷問への加担が広く社会に知られるようになりました.
 幅広い公衆が心理学に対して抱いているイメージが悪化してしまいました.

 10年前に刊行されたライゼン記者の著書『戦争大統領:CIAとブッシュ政権の秘密』(毎日新聞社,2006)は,9.11後の米政府機関による情報活動の杜撰な実態を報道しました.当時,各方面に衝撃を与えました.
 (この後,同記者はブッシュ,オバマ両政権によって,情報漏えい罪の嫌疑を掛けられることになりました.)

    表紙画像

2016年11月20日 (日)

トランプ政権でCIAによる「水責め」が復活?:心理学的拷問

 アメリカの次期大統領に選出されたD.トランプ氏の政権の発足へ向け,閣僚など政府高官の人事が進められています.

 トランプ氏は予備選のときから対テロ戦争における容疑者の尋問において,「水責め(waterboarding)」でも,それよりも過酷な尋問技法でも,自国をテロから守るために必要なら実施する,と主張していました.
 当ブログで以前,お伝えしました.
  「水責め」とアメリカ大統領選挙

   http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2016/03/index.html

 CIAによる過酷尋問の技法はアメリカ軍のSEREプログラムで,敵軍に捕捉された兵士が尋問に耐える訓練を行っていた心理学者によって開発されました.いわゆる「強化尋問技法」です.

 過酷さの程度の異なる各種の尋問技法を組み合わせ,パッケージ化された尋問プログラムです.ブッシュ政権の認可を得て「水責め」の技法も採用されました

 通常,尋問では用いられない「強化」された技法が用いられました.

 しかし常識的にみて,この尋問は拷問以外の何ものでもありません.被尋問者の心身の健康に重大な障害が生じ,尋問の過程で死亡した被疑者も報告されています.
 
国連の反拷問条約やジュネーブ条約などが禁止する拷問にあたるとして,アメリカの内外で激しい論争を呼び,拷問に反対する運動が巻き起こりました.
 第1次オバマ政権は過酷尋問は拷問だと認め,禁止しました. 

 心理学者が作成したため,CIAによる過酷尋問は「心理学的拷問」と呼ばれるようになりました.
 CIAがアメリカ国外に設置した秘密拘禁施設で,このプログラムを用いてテロ容疑者に尋問が行われました.強化尋問技法を開発した心理学者が自ら,アルカイダ幹部などに尋問を行いました.

 19日付の朝日新聞の報道によると,CIA長官に指名されたマイク・ポンペオ下院議員は「CIAによるテロ容疑者への「水責め」など過酷な尋問が明るみに出て,オバマ大統領が拷問中止を発表した際に,「(水責めを行ったのは)拷問者ではなく,愛国者だ」と主張した.「水責め」を復活させる可能性もある」とのことです.
 同氏は共和党系の草の根運動「ティーパーティー(茶会)」出身です.

 CIA長官の人事には連邦下院議会の承認が必要です.果たして共和党や民主党の下院議員はこの人事を承認するでしょうか?

 朝日新聞の記事を下記のサイトで読むことができます.
  「トランプ人事,強硬派3氏 イスラム敵視・「水責め」肯定」

    http://digital.asahi.com/articles/DA3S12666810.html

2016年11月14日 (月)

アメリカ理論・哲学心理学会:ミッドウィンター・ミーティングが開催されます

アメリカ心理学と理論的,哲学的問題

 アメリカ心理学会(APA)の中に理論的,哲学的問題に関心をもつ研究者が集う専門部会があることを,ご存知でしょうか.

 APAには専門領域や研究主題に応じて下位部会が設置されています.設立の順に通し番号が付され現在,54の部会があります.
 日本の心理学界には専門領域などを異にする大小,多くの学会があります.それらがひとつの大きな学会の下で専門部会として位置づけられている,といったイメージです.

 APAの第24部会がアメリカ理論・哲学心理学会(
Society for Theoretical and Philosophical Psychology)です.
 1963年にアメリカ心理学会の24番目の専門部会として設立されました(http://www.theoreticalpsychology.org/
).

 前世紀を通して今日まで「科学的心理学」が重んじられてきたアメリカ心理学会の中に,理論的,哲学的問題を主題とする専門部会が設けられていることは意外だ,と思われるでしょうか.

 北米の心理学者の間では1950年代になると,新行動主義的アプローチに依拠して「行動の一般理論」を目指していた「理論の時代」の終りが自覚されるようになりました.
 このため研究方法論にかかわる諸問題に改めて関心が高まりました.
 また,第二次大戦後に実存主義など,ヨーロッパの新しい哲学に関心をもつ心理学者も現れました.
 こうした事情が心理学の理論的,哲学的問題を専門とする新しい部会の設立を促しました.

 同学会が刊行する公式ジャーナルが
The Journal of Theoretical and Philosophical Psychology です.

 また,同学会のメンバーによって,The Wiley Handbook of Theoretical and Philosophical Psychology: Methods, Approaches, and New Directions for Social Sciences  が昨年,刊行されました.北米における理論心理学的研究の動向を,このハンドブックから知ることができます.


ミッドウインター・ミーティング
 アメリカ理論・哲学心理学会は例年,8月に開催されるアメリカ心理学会年次大会でシンポジウムや個人発表を主催しています.
 これに加えて,冬季に「ミッドウィンター・ミーティング」と銘打って,独自に学術集会を開いています.
 毎回,一つのテーマを掲げ,APA年次大会よりもカジュアルで近しい雰囲気の中で活発な討議が行われています.

 次回の
ミッドウィンター・ミーティングは来年3月10日から12日まで,リッチモンド市(バージニア州)で開催されます.
 メインテーマは,
「研究と教育と心理臨床において哲学的心理学を実践する」です.
 
発表申し込みの締切は,12月15日です.

 詳細は下記のサイトをご覧ください.
  
https://drive.google.com/file/d/0B_3dWFfM46u3RjVfZUlDTVdJSG8/view



2016年10月27日 (木)

心理学と自文化中心主義,植民地主義:オーストラリア心理学会がアボリジニとトレス諸島民に謝罪しました

 オーストラリア心理学会がオーストラリアの先住民であるアボリジニとトレス諸島民に,長年にわたる「白人の心理学」による植民地主義的な処遇について,謝罪しました.
 先月,メルボルンで開催された同学会の年次大会で会長が正式に表明しました.


  心理学の教科書を読むと,心理学は「科学的心理学」であり「客観的な」立場から研究を行い,その成果が様々な領域で公正に応用されている,と説明されていることが多いようです.
 そこで採用されている心理学の定義は,「心理学は心的過程と行動の科学」である,というものです.これは認知行動主義の立場からみた心理学の定義です.

 数々の巨大な成果をあげてきた科学の重要性に,疑いの余地はないように思われます.
 しかし「科学的心理学」が語られる場合には,どのような研究の方法論が「科学的」なものとされ,科学の名の下で何が行われているか,ときに立ち止って一考することも必要です.

 世界の各地で批判心理学者は,心理学が必ずしも「科学的で客観的で偏りのない人間一般の心理学」とは言いえない実例に出くわし,問題の重大さを自覚することになりました.
 ここから出発して,各国・地域の状況に応じて「人間を不幸にする科学的心理学」が抱えている問題を解決するために,様々な努力を続けてきました.



オーストラリアの「白人の心理学」
 アボリジニによるアボリジニのための健康の増進を目的とする公的組織(National Aboriginal Community Controlled Health Organisation,NACCHO)のニュースサイトが,オーストラリア心理学会会長による謝罪を詳報しています.

 それによると,

・オーストラリア心理学会が先住諸民族の文化や信念体系や世界観を認めず,西洋心理学の診断方法論を用いてきたこと.
・オーストラリア心理学会が用いてきたアセスメントの技法や手続きが,アボリジニとトレス諸島民の能力を過小評価してきたこと,またそうした見方を広める役割を同学会が担ってきたこと.
・アボリジニとトレス諸島民の生活条件を向上させるためではなく,心理学者が自分の業績をあげるために研究を行ってきたこと.
・セラピーにおいて,アボリジニとトレス諸島民の伝統的なヒーリング文化を無視してきたこと.社会的,情緒的なウェルビーイングを理解し促進するうえで,固有の文化が果たす役割を認めてこなかったこと.
・先住民の子どもを親から隔離し,西洋化を強制して「盗まれた世代」を生み出した政策など重大な諸政策が決定・実施される過程で,オーストラリア心理学会がアボリジニやトレス諸島民の権利を擁護せず,沈黙を保ったこと.


 詳細については,NACCHOの下記のサイトをご参照ください.写真入りで詳報しています.

 Australian Psychological Society issues a formal apology to Aboriginal and Torres Strait Islander People.
(https://nacchocommunique.com/2016/09/15/naccho-aps2016-australian-psychological-society-issues-a-formal-apology-to-aboriginal-and-torres-strait-islander-people/)


 「盗まれた世代」が経験した苦悩を,次の映画が描いています.
 『裸足の1500マイル』(フィリップ・ノイス監督,2002,オーストラリア映画)
 
  政府のアボリジニ保護局長をケネス・ブラナーが演じています.アボリジの子どもを親から引き離し,白人の手で育てて西洋文化に同化させる政策の責任者です.
 局長はアボリジニを保護するために同時代の科学的知見にもとづき,良心的に行動しているようにみえます.自分の考えが科学的な,正しいものだと信じているようです.
 心理学もそこで活用された「科学」の一部だったのかもしれません.

 
     裸足の1500マイル [DVD]

 



主流心理学に潜む自文化中心主義

 心理学は一般に,「客観的で価値中立的な人間一般の心理学」だと考えられています.
 しかし文化が異なると,心観や人間観も異なることがあります.そのため,非西洋文化圏ではときに西洋の心理学が自文化中心的に過ぎる,と映ることもあります.

 特に西洋心理学によって,非西洋文化に属する人が欧米人よりも劣った,未開な人々だと診断された場合,非西洋文化圏の人々は重大な不利益を被ることになります.

 西洋文化に属する人が「正常」で,非西洋文化に属する人が「異常」な,「逸脱」した,「病理的」な存在だと「人間一般の科学的心理学」によって診断される悲劇が続いてきました.
 アボリジニやトレス諸島民は長年,オーストラリアの「白人の心理学」に
抗議の意を表していました.

 時代が移り状況が変われば,主流心理学も変わっていくようです.
 オーストラリア心理学会が過去の過誤を自覚して謝罪し,新たな道を歩き始めたことは評価できます.

 これより前,2008年2月にラッド首相(労働党)が先住民に謝罪しました.下記はAFP通信が配信した記事です.
  豪先住民「盗まれた世代」、政府謝罪を機に新しい人生に踏み出す
   (http://www.afpbb.com/articles/-/2349559)



固有文化の心理学

 西洋の心理学が「普遍的な人間一般の心理学」ではないのではないか,という視点から近年,「indigenous psychology」が注目を集めています.
 日本語に訳しにくい言葉ですが,欧米とは異なった地に根付いた,その土地に固有の文化の意義を重んじる立場にたつ「固有文化の心理学」といった意味です.
 欧米とは異なる文化をもつ国・地域で,このアプローチに関心が高まっています.
 日本の心理学も,「固有文化の心理学」のアプローチで検討できると考えています.

 オーストラリア心理学会とは別に,オーストラリア固有文化心理学会(Australian Indigenous Psychologists Association)も設立されました(http://www.indigenouspsychology.com.au/).

 この学会のウェブサイトで日本では知る機会の少ない,新しい心理学の見方に触れることができます.




2016年10月22日 (土)

ヨーロッパ心理学会議のメインテーマは「もっとも重要な社会的課題に取り組む心理学」です

 第15回ヨーロッパ心理学会議が来年7月11日から14日まで,アムステルダムで開催されます.

 一昨日,会議の開催を知らせる電子メールが届きました.メールを読んで,会議のテーマが「もっとも重要な社会的課題に取り組む心理学(Psychology addressing Society’s greatest Challenges)」であると知り,ちょっと驚きました.


ヨーロッパの主流心理学と社会

 同会議は「もっとも重要な社会的課題に取り組む心理学」というメインテーマのもと,下の5つの主題に関する発表を募集しています.
・生活を一変させる出来事:移民,統合,適応      
・効果的な心理学的介入を作る      
・社会のレジリエンスを強化する:予防と初期介入
・長所を伸ばし,労働市場への参入を刺激する        
・テクノロジーと行動の変容(インターネットによる介入,モバイル技術と健康,脳研究など)

 ヨーロッパ心理学会議の詳細については,次のサイトをご参照ください.
 
https://psychologycongress.eu/2017/


 同会議はヨーロッパ各国の心理学会が集うヨーロッパ心理学連合(http://www.efpa.eu/)が,隔年で開催しています.ヨーロッパの主流心理学を代表する学術会議です.

 欧米の主流心理学は「科学的心理学」を旗印として,実験心理学や量的方法による実証的研究が重んじられています.日本のアカデミックな心理学も同様です.(日本の臨床心理学や心理療法は,必ずしもそうではありません.)

 一般に科学の重要性は,改めてここで述べるまでもありません.
 主流心理学では
「心理学は科学なのだから,社会問題に係るべきではない」という考えが受け入れられています.客観的な研究を行うために,心理学者は「価値中立的」である必要がある,だから社会と距離をおくべきだという考え方です.

 そのため貧困や紛争や対立,差別など,私たちの心や実生活に大きな影響を与えている社会的課題に取り組む心理学者は,「科学的心理学」を標榜する人たちに疎んじられることになります.
 
 もちろん,科学が社会と無関係で,科学者が社会的課題の解決のために働いてはいけない,というわけではありません.
 科学者も社会の一員ですから,実際には多くの科学者が社会的課題に取り組んでいます.「科学的心理学」はこの点で混乱しているようです.
 心理学と科学と社会の関係は理論心理学や批判心理学のおもな研究主題のひとつです.

 管見では,アメリカ心理学会や日本心理学会が近い将来,「もっとも重要な社会的課題に取り組む心理学」をメインテーマに掲げて年次大会を開くことはなさそうです.

 ヨーロッパの主流心理学が社会問題に正面から取り組む時代になったのですね!?
 それほど,直面している問題が深刻なものなのでしょう.

 ゼロ年代以降,ヨーロッパの批判心理学者から,新自由主義経済政策による格差の拡大や教育や福祉への公共支出の削減,テロや中東危機,移民問題などが喫緊の課題になっていることは,折に触れて聞いていました.

 心理学には様々な側面があります.「心を対象とする純粋な知的探究」としての心理学よりも,「社会的ニーズに応える心理学」,「マネージメントのツールとしての心理学」などが注目を集めているのでしょう.
 今後,いっそう社会の心理学化が進みそうです. 

 しかし,社会的課題に取り組む心理学者が必ず批判心理学者だ,というわけではありません.
 社会的課題に直面して苦しんでいる人の福祉や幸福のためではなく,社会を統治し人々を管理するために心理学を適用することもできます.(不幸なことに,主流心理学は長年,こうした役割を担ってきました.)

 来年,開催されるヨーロッパ心理学会議が主題とする「社会的課題に取り組む心理学」が,「社会の管理・統制のための心理学」ではなく,貧困や紛争や移民問題などの解決のために役立つ「人間の幸福に寄与する心理学」へと発展するよう願っています.


ヨーロッパ心理学会議と批判心理学
 10年ほど前のことですが,ヨーロッパ心理学会議で世界各地における批判心理学の発展と可能性を主題とするシンポジウムが開かれるので,日本の批判心理学について報告してほしい,と誘われたことがありました.

 同会議の主催者が批判心理学に関心をもち,発表と討議のために十分な時間を設けると約束している,という話でした.このころには批判心理学は,主流心理学が無視できない世界の心理学の新動向として認知されていたのでしょう.
 ヨーロッパ心理学会議で世界の批判心理学を討議するシンポジウムが求められる時代になった,と時代の変化を印象づける出来事でした.

 日本の心理学は1870年代にさかのぼる長い歴史を持っています.そこで主流心理学に対してどのような批判心理学が営まれているのか,他国の批判心理学者は大きな関心をもっています.
 残念なことに他の学会とのスケジュールの調整がつかず,私はこのシンポジウムに参加できませんでした.(その後,シンポジウムは成功裏に行われた,と聞きました.)

 批判心理学は世界の各地で,国・地域の状況の差違を反映して多様な方向へ発展しています.日本とは異なる文脈で行われている批判心理学を知ることは,日本の心理学者に多くの刺激を与えてくれます.
 一方,日本の固有の文脈で行われている批判心理学は,他国の批判心理学者が新たな視座を開くヒントになりえるのです.

 批判心理学年報(Annual Review of Critical Psychology)は,もっとも広く読まれている批判心理学の専門誌です.これまでに二度,世界の批判心理学に関する特集号を刊行しました.日本の批判心理学に関する論文も含まれています.ネット上で公開されています.

 
Annual Review of Critical Psychology 5: Critical psychology in a changing world. 2006. (https://discourseunit.com/annual-review/5-2006/)

 Annual Review of Critical Psychology 10: Critical psychology in a changing world: building bridges and expanding the dialogue.  2013.  (https://discourseunit.com/annual-review/10-2013/)

2016年10月19日 (水)

世界の大学 トップ10 :心理学篇

 イギリスの教育情報誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」が先月,2016年の世界の大学ランキングを発表しました.
 同誌は
「教育」,「研究」,「論文被引用数」,「産業界からの収入」,「国際性」などについて大学ごとに調査し,2004年から世界の大学ランキングを発表しています.

 新聞などのマスコミ報道で,日本の大学が同ランキングの上位200校の中に何校入ったか,アジアでトップの座を日本の大学が得ることができたか,などが取り上げられました.
 大学の運営や文教政策,科学技術政策に携わる関係者の間では,こうしたランキングが大学の価値を客観的に示す指標とされ,重んじられています.
(その結果,大学の研究や教育が影響を受けるようになりました.)
 このランキングで上位に入る大学が多い国は,科学技術の研究・開発において成功を収めている,と見なされています.

 政・官・産業界では,諸外国と比較して日本の科学技術の研究と教育の水準を評価する分かりやすい指標として活用されています.

 同誌は主要な学問領域ごとにランキングを調査しています.
 心理学や心理療法に関する情報を提供しているウェブサイト「Psychreg」に,同ランキングをもとに心理学の研究・教育を行う大学のトップ10を紹介する記事が掲載されました.

 Top 10 Universities in the World for Psychology: THEWUR 2016 (http://www.psychreg.org/top-10-universities-world-psychology-thewur-2016/)


 世界の心理学のトップ10大学として紹介されているのは次の大学です.

1.オックスフォード大学
2.カリフォルニア工科大学
3.スタンフォード大学
4.ケンブリッジ大学
5.マサチューセッツ工科大学
6.ハーバード大学
7.カリフォルニア大学バークレー校
8.シカゴ大学
9.イェール大学
10.ペンシルバニア大学


 私が知る限りでは,心理学界ではこうしたランキングはまだ.重んじられていないようです.
 しかし,自然科学系や工学系の諸学科のように近い将来,日本の大学の心理学科もグローバル化されたランキングの影響を受けるようになるかも知れません.
 経済と同様に,知の領域でも今後,グローバル化がいっそう推進されると考えられます.


 心理学の研究主題や研究方法,教育や社会との係り方も多様です.

 タイムズ・ハイヤー・エデュケーション誌は
「教育」や「研究」,「論文被引用数」,「産業界からの収入」,「国際性」などに関する指標を用いてランキングを産出したそうです.
 多様な心理学のあり方を的確に反映する指標とは,どのようなものでしょうか?上記の10大学における心理学の研究と教育も,それぞれ得意分野を異にし,独自の特色を持っているのでは,と思います.

 アメリカの理論心理学者 S.コッチは半世紀以上前に,「サイコロジー」という言葉に代えて「サイコロジカル・スタディーズ」という呼称を用いるべきだ,と述べていました.
 「サイコロジー」という言葉が,ひとつの共通した目的や方法,理論をもつまとまった学問が現に存在している,という誤ったを印象を生んでいるとコッチは考えました.

 「サイコロジカル・スタディーズ」を用いると,心に関する多様な研究(目的や方法や主題,理論の多様性)の総称が心理学だ,という意味になります.
 日本で活動する理論心理学者の立場から,私は現状ではこうした幅広い心理学観が役に立つと考えています.




2016年9月20日 (火)

クークラ著「理論心理学の方法:論理・哲学的アプローチ」(2005,北大路書房)

 心理学のメタ学問としての理論心理学は,数多い心理学の理論や方法(論)を比較研究し,理論構成に影響を与える要因を検討し,心理学の歴史や哲学を研究するなど多様です.
 そうした研究の成果を踏まえて,新しい理論や新しい心理学のあり方を探究しています.

 理論心理学のさまざまなアプローチのひとつに,心理学理論の構造を論理分析の方法によって検討する研究があります.


 アンドレ・クークラ著「理論心理学の方法:論理・哲学的アプローチ」(羽生義正監訳,2005,北大路書房)はこのアプローチを代表する著書として,理論心理学者の間で広く知られています.
 実はこの良書は,11年前にすでに邦訳されているのです!!!

 3年前にも当ブログで紹介しました.が,まだまだ十分に活用されていないようです.
 私も一部,翻訳を担当したので手前味噌になりますが,埋もれてしまうには惜しい良書です.

 心理学の理論や方法論に関心をお持ちの方は是非一度,手に取ってご覧になるよう,お薦めします.

 以下,目次を再掲します.

アンドレ・クークラ著,羽生義正監訳,「理論心理学の方法:論理・哲学的アプローチ」(2005,北大路書房)

 理論心理学の方法―論理・哲学的アプローチ

まえがき
第1章 理論心理学という営み
 1.1 理論心理学の定義
 1.2 心理学史における経験論と合理論
 1.3 本書の概要
第2章 基本的な道具立て
 2.1 基本用語
 2.2 集合
 2.3 文章と語句
 2.4 命題と概念
 2.5 必然的命題と偶然的命題
 2.6 命題間の論理的関係
 2.7 命題論理における演繹的論証
 2.8 条件つき証明と間接証明
 2.9 量化論理における演繹的論証
第3章 理論とデータ
 3.1 データ
 3.2 自然の法則
 3.3 理論的用語,理論的言明,理論
 3.4 理論的実体の道具論的説明
 3.5 理論的実体の実在論的説明
第4章 理論の構成と評価
 4.1 科学理論の構成
 4.2 理論構成と理論評価の間の相互影響
 4.3 真実性
 4.4 普遍性
 4.5 理論に関するその他の評価基準
第5章 経験的仮説の導出と検証
 5.1 経験的プロジェクトのいろいろ
 5.2 経験的確認(仮説・演繹的説明)
 5.3 経験的確認(ベイズ派の説明)
 5.4 経験的否認
 5.5 経験的検証と理論調整のサイクル
 5.6 理論的活動としての予測
 5.7 理論心理学の一形式としての
    弱い人工知能
第6章 理論の拡充
 6.1 拡充とは何か
 6.2 理論の内的一貫性の欠如
 6.3 理論間の含意関係
 6.4 理論間の一貫性の欠如
 6.5 理論間の相補性
 6.6 理論間の独立性の論証
 6.7 理論的確認(追言)
 6.8 一貫性の論証
 6.9 理論的否認
第7章 理論の単純化
 7.1 理論の好ましさ
 7.2 統語的な単純性
 7.3 Rc単純性
 7.4 Rm単純性
 7.5 形而上的単純性
 7.6 認識上の単純性
 7.7 単純化の2つのタイプ
 7.8 理論還元のしくみ
 7.9 理論の統一
第8章 必然的命題
 8.1 必然的命題と偶然的命題の区別
 8.2 強すぎる生得性の論証
   (詳しい事例研究)
 8.3 新たな必然的真理の発見
 8.4 強い人工知能
第9章 概念にかかわる諸問題
 9.1 概念図式の案出
 9.2 ラッセルのパラドックス
 9.3 概念上の革新  
 9.4 概念図式が評価対象ならない理由
 9.5 概念評価の副次的規準
 9.6 表現力
 9.7 データの即時的増殖
 9.8 データの創造
第10章 先験的偶然知
 10.1 大前提の必要性
 10.2 根拠のある大前提
 10.3 根拠のない大前提
 10.4 根拠のない大前提の発見と評価
 10.5 心理学における根拠のある前提
 補遺 「理論心理学」について
 用語解説
 


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