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2013年6月

2013年6月25日 (火)

Lois Holzman先生とMarx,Wittgenstein,Vygotsky

 ヴィゴツキー理論を応用したパフォーマンスの心理学で知られるLois Holzman先生が2012年夏に来日され,日本質的心理学会大会で「The Methodology of Social Therapy: Marx and Vygotsky」と題して講演されました.その論文が『質的心理学フォーラム』誌第4号に掲載されました.

 ホルツマン先生はニューヨークでEast Side Institute for Group and Short Term Psychotherapyを主宰され,ヴィゴツキーの学習理論などに基づいてコミュニティや学校,企業などでパフォーマンスによるソーシャル・セラピーを実践しておられます.

 第二次大戦後に国際的な心理学界で主流となったアメリカ心理学の哲学的特徴のひとつは心と身体を,感情と認知を,自己と他者を,個人と集団を,人と環境を,発達と学習を,思考と遂行を,理論と実践を二分する発想です.

 これを超えるためにホルツマン先生は,マルクスから人間が孤立した存在ではなく,世界の変革と人間の変革は同時に一体として行われるべきだという思想を学び,ウィトゲンシュタインから従来,疑われることのなかった言語や思考や感情の諸前提を詳細に検討する方法論を学び,ヴィゴツキーから結果のための道具(tool for result)という考えを批判し,方法は前提であると同時に産物でもあり,研究の道具でもあり結果でもあるというアイデアを学ばれたそうです. 

 ホルツマン先生が推進しておられるソーシャル・セラピーは人間の生涯にわたる発達と学習を新たに達成する方法として40年にわたって発展してきました.数千人の子どもや若者や大人が実践し,病院における治療や,学校や企業やNPOやコミュニティー開発において教育のために活用されています.

 学校や企業など現代社会で活動する様々な組織はたいてい,新しいパフォーマンスを生み出す人間の能力を促進せず,むしろ妨げとなる場合が多く,人は既存の慣行に適応し,その場にふさわしく振舞うように教えられています.このため,学校や職場や家庭やコミュニティーでもう一度,発達し直すことが重要だとされます.
 こうした研究関心は貧困層が暮らす地域で困窮する人々を支援するために働き,中産階級や富裕層の人々が社会改革を目指す活動に参加するように促してきた先生の経験に裏打ちされています.

  現代の資本主義的消費社会では物質的貧困だけが問題なのではなく,富裕な人も貧しい人も感情的,知的,文化的な貧困のために心や主観性が大きな影響を受けているいう認識に立つホルツマン先生の研究関心は,不平等や抑圧の問題に取り組む点で政治的であり,学習や発達の理解をめざす点で科学的なものだとされています.

 こうしたホルツマン先生の立脚点は,諸国の多くの批判心理学者と理論心理学者が共有するものです.

 『質的心理学フォーラム』誌に掲載された論文は平易な英文で書かれています.日本語の解説も付されています.ホルツマン先生の多くの著書や論文については,次のサイトをご参照ください.http://loisholzman.org/

2013年6月 2日 (日)

Annual Review of Critical Psychology誌 批判心理学特集号が刊行されました

 Annual Review of Critical Psychology誌の批判心理学特集号‘Critical Psychology in a Changing World: Building Bridges and Expanding the Dialogue’が刊行されました(http://www.discourseunit.com/annual-review/arcp-10-critical-psychology-in-a-changing-world-building%20bridges-and-expanding-the-dialogue/).

 イギリスやデンマーク,ドイツ,南アフリカ,北米,ニュージーランドなど近年の批判心理学運動を牽引してきた国だけでなく,ブラジルやチリ,メキシコ,キューバ,コロンビアなどの中南米諸国,中国やインド,スリランカ,フィリピン,ナイジェリアやタンザニアなど多様な国々での批判心理学の動向を論じた49本の論文が掲載されています.

 日本の批判心理学に関する論文‘Critical Psychology in Japan: Voices for Change’も掲載されています.

 Annual Review of Critical Psychology誌は第6号(2006)でも,批判心理学特集‘Critical Psychology in a Changing World (Contributions from different geo-political regions)’を刊行しています(http://www.discourseunit.com/annual-review/arcp-5-critical-psychology-in-a-changing-world-contributions-from-different-geo-political-regions/).

 今日,世界各国で批判心理学に取組む研究者の活動をAnnual Review of Critical Psychology誌から知ることができます.

 

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