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2013年8月

2013年8月15日 (木)

心理学と対テロ戦争における拷問の関係を問う映画:「Doctors of the Dark Side」

 心理学の教科書や心理学概論の講義で,D.Hebbらが行った感覚遮断(剥奪)実験についてきいたことのある方は多いのではないでしょうか.ごく短時間で知覚や行動に劇的な変化が生じることを報告した研究は印象的です.

 しかし,この実験が拷問(あるいは「強制的尋問」)や「マインドコントロール」に関する研究と深く関連していることは,あまり知られていないようです.

 9.11後にアメリカの対テロ戦争の一環として「違法な敵性戦闘員」などを尋問して情報を得るため,「行動科学コンサルテーション・チーム(BSCT)」が水責め(water boarding)を含む「強化尋問技法」を開発し,運用してきました.アメリカの心理学者がこれに深く係っていることがひろく報道され,多くの議論を呼びました.

 心身の健康や福祉のために貢献するという心理学者の職業倫理に真っ向から反する実践が,強大な国家権力の下で組織的に行われてきたのですから,問題は深刻です.心理学と社会の関係や制度的学問としての心理学の特質などメタ的問題を考えるうえで,戦争や軍事と心理学の関係を忘れてはなりません.

 心理学的拷問の歴史や対テロ戦争におけるその使用の詳細については,下記の本が参考になります.

 Roberts,R. (編) (2007) Just war: Psychology and terrorism. PCCS Books
 McCoy,A.(著) (2012) Torture and Impunity: The U.S. Doctrine of Coercive Interrogation. University of Wisconsin Press

 拙論文「心理学と社会的実践:批判心理学と理論心理学の立場から」は,強制的尋問をめぐるアメリカ心理学会の論争の動向を例として,心理学と社会の関係や心理学者の倫理を考察しています.『心理科学』誌34巻2号に掲載されました(http://www.hobunsya.com/magazine/shinri/).

 アメリカの臨床心理学者で映像作家でもあるMartha Davisのドキュメンタリー映画「Doctors of the Dark Side」(2011)は,強化尋問技法の誕生の背景や凄惨な尋問の実際を告発しています.この映画は2012年の国際連合映画祭の正式参加作品に選ばれました.

 昨年,ケープタウン(南アフリカ)で開催された第30回国際心理学会議で,平和心理学者など心理学と社会正義に係わる問題を討究する研究者が中心になり,この映画を上映して心理学と拷問の関係を問うシンポジウムが開催されました.私もこれに参加して多くを学びました.大きなホールが満席になるほどの盛会で,心理学の倫理や心理学と軍事・防諜部門との関係などをめぐって活発に意見が交わされました.シンポジウムの後に旧知の批判心理学者たちと「今回の会議の数多いプログラムの中で一番,中身の濃いプログラムだ」と語り合ったのを覚えています.欧米では大学などでこの映画の自主上映会が開かれています.

 日本語版は今のところ制作されていないようですが,英語のオリジナル版のDVDをアマゾンなどで2000円ほどで購入できます.

 
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 ディスカバリー・チャンネルやヒストリー・チャンネルなどで,このドキュメンタリー映画に日本語字幕をつけて放映されれば,と願っています.みなさん,リクエストメールを送りましょう.

 次の公式サイトにこの作品の詳しい情報が掲載されています. http://www.doctorsofthedarkside.com/

 

 

 

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