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2014年1月

2014年1月15日 (水)

東日本大震災,福島原発事故と心理学:『質的心理学フォーラム』震災特集

 東日本震災と原発事故は日本の心理学者にとって,心理学という学問のあり方を振り返る契機となりました.

 研究や心理臨床など専門家として日々自分が行っている実践が,誰のために何を目指しているのかを改めて考えるなど,メタ学問としての理論心理学的考察が図らずも,多くの心理学者によって行われてきました.

 批判心理学者が取り組む課題は多様で,そのために用いる方法も理論的リソースも多岐に渡ります.しかし管見では諸国の批判心理学者は,

  1)幸福や福祉に積極的に寄与する心理学を目指す,

  2)研究や理論構成や心理臨床や教育や社会との関係などについて現行の心理学が抱えている問題を解決し,新しい心理学を目指す,

という姿勢を共有しています.1990年代後半から欧米だけでなくラテンアメリカや南アフリカの心理学者も加わり,国際的なネットワークが生まれました.

 メタ学問である理論心理学の立場から心理学の歴史や方法論や諸学派の変遷を振り返ると,心理学には

  1)心に関する厳密な知的探究,

  2)悩みなどを解決してよりよい生の実現に寄与する,

という二つの側面があると考えられます.前者が実験心理学と,後者が臨床心理学や心理療法と親和性が高いことは言うまでもありません.

 心理学者が元々,心理学を志した動機としてこの2つのうち,どちらのウェイトがより大きいかは個々の人によって異なります.その動機の差違に応じて心理学実践のあり方も異なってきます.3.11の巨大な被害は否応なく,2)の心理学実践を増しました.しかしそれだけでなく,震災と原発事故に係わる取り組みを通して,学問としての心理学の役割や特徴,将来の可能性などメタ的考察へと誘っています.理論心理学と批判心理学にとって「3.11後の心理学」は,重要な主題です.

 心理学系の多くの学会が3.11後に被災者の支援や防災などに関するプロジェクトを立ち上げ,それぞれ活動してきました.

 日本質的心理学会の第2機関誌『質的心理学フォーラム』は2009年に年刊誌として創刊されました.第3号から第5号に「質的心理学の東日本大震災」と題した特集を組みました.震災の直後から被災した方々を避難所などで支援し,コミュニティの復旧・復興のために働き,原発事故後の観光地の風評の問題や科学コミュニケーション,将来に備える防災教育などの主題に取り組んできた質的心理学者と被災当事者の活動を,同誌は3年にわたって記録しています.

 心理学者が行う研究活動の出発点となるのは,心理学者の主観性です.量的心理学者は研究者の主観性を,客観的な研究を妨げる障害と見做して排除しようと試みることが多いようです.しかし,質的心理学者はこれを積極的に活用して研究を行っています.

 『質的心理学フォーラム』の震災特集は,3.11がもたらした巨大な被害を眼前にした心理学者の主観性の動きと,そこから生まれた考察を15本の報告として記録しています.今後,この主観性を出発点として,それぞれの問題関心に応じて新しい心理学実践が営まれていくことでしょう.

 『質的心理学フォーラム』は国立情報学研究所のCiNii(サイニィ)で無料で閲覧できます.すでに第4号まで公開されています.同誌の目次は次のサイトをご参照ください.http://www.jaqp.jp/forum/forummokuji/

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