心理学と身体:『質的心理学フォーラム』誌の特集 「実践する身体」(2011)
心とは何か,心と身体はどのような関係にあるのか,という古くからの哲学的問題を別にしても,心理学にとって身体が重要なことは言うまでもありません.
心理学は心を研究する学問なのだから,身体に注目しないのは当然だという意見もあります.しかし身体の影響や機能などを考慮せずに,心を深く理解できないことは明らかです.
実験心理学などアカデミックな心理学の領域で長く主流の座を占めてきた北米の認知行動主義的アプローチは,身体をめぐる問題を重んじてきませんでした.
しかし,これが「唯一の正当な心理学的アプローチ」ではありません.
ヴィゴツキー理論に基づいてソーシャルセラピーを実践するホルツマンは北米主流心理学の哲学的特徴として心と身体を,感情と認知を,自己と他者を,個人と集団を,人と環境を,発達と学習を,思考と遂行を,理論と実践を二分する発想をあげ,新たな視座を得るにはこの二元論を克服しなければならないと述べています(Holzman,2012).
その一方,人文社会科学の諸領域では1980年代以来,人工知能研究や新興の認知科学などとの交流の中で身体は新たな関心の的になってきました.
心理学では直接,身体に焦点をあてるアプローチは盛んではありません.しかし,『質的心理学フォーラム』誌第3号(2011)の特集「実践する身体」は,質的研究の立場からこの問題に取り組んでいます.
今日の日本の心理学者による取り組みの一例を示す意欲的な論文集です.
この特集に掲載された論文を下記のサイトからダウンロードできます.
http://www.jaqp.jp/forum/forummokuji/
引用文献
Holzman,L. (2012) The methodology of social therapy: Marx and Vygotsky. 質的心理学フォーラム,4, 119-123. (http://ci.nii.ac.jp/vol_issue/nels/AA12555460/ISS0000490731_ja.html)
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