批判心理学のシンポジウム :発達心理学会第26回大会
発達心理学会第26回大会において,批判心理学研究会によってふたつのシンポジウムが開催されました.
話題提供をもとに活発な議論が行われ,有意義な知見を得ることができました.
ひとつめの「『発達心理学の脱構築』の射程:フェミニスト心理学,批判心理学,ディスコース分析」では,イギリスのフェミニスト心理学者がこの20年間に心理学(方法論や哲学,教育など)と現実の社会(子どもや女性やマイノリティの擁護)において達成した仕事を振り返り,日本における批判心理学的アプローチの可能性を論じました.
話題提供者の報告に対して,指定討論者から多くの意見をいただきました.その中で,同書が性的マイノリティとしてゲイとレズビアンにしか言及していないことが指摘されました.
性的マイノリティのあり方は,もっとずっと多様です.マイノリティを支援する見地に立つ同書がこれを認知していないとすれば,様々な抑圧や差別のために苦む当事者をディスエンパワーしてしまう恐れはないか,という意見です.異性愛者に比べて自殺の危険性が数倍も高く,QOLが著しく低いなど過酷な現実を変える取り組みが必要とされています.
バーマン先生は今,同書の改訂版を執筆中です.上記の日本の心理学者の見解をお伝えしました.
ふたつめの「心理学における新しい流れ 2:『主体科学としての批判心理学』を読む」では,難解なことで知られるホルツカンプの理論を読み解きました.
話題提供に続いてフロアから活発に質問や意見が出され,ドイツ批判心理学(ベルリン学派)について理解を深めることができました.「主体」や「主体の立場からの心理学」というアプローチの意義や専門用語の概念について私も多くを学びました.
ホルツカンプ英訳論文選集の刊行によって,ドイツ批判心理学は世界各地で再評価されつつあります.日本の心理学にも多くの刺激を与えてくれることでしょう.
ふたつのシンポジウムに,予想した以上に多くの方にご参加いただきました.
どうもありがとうございました. (2015.3.23.)
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発達心理学会第26回大会(3月20-22日)にて,批判心理学研究会により下記の2つのシンポジウムが開催されることになりましたので,お知らせいたします.
会場は東京大学本郷キャンパスです.
ラウンドテーブル 「『発達心理学の脱構築』の射程」
3月21日(土) 3:00 PM-5:00 PM 講義室233 (工学部2号館)
企画者:五十嵐 靖博/批判心理学研究会
話題提供1:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 理論心理学の立場からみた『発達心理学の脱構築』
話題提供2:青野 篤子(福山大学) フェミニスト心理学からみた『発達心理学の脱構築』
指定討論:柘植 道子(一橋大学)
指定討論:尾見 康博(山梨大学)
指定討論:根ヶ山 光一(早稲田大学)
司会:杉田 明宏(大東文化大学)
企画趣旨:
イギリスの発達心理学者Erica Burmanの著書‘Deconstructing Developmental Psychology’(1994年に初版,2007年に第2版,Routledge)は20年にわたり諸国で発達心理学やフェミニスト心理学や批判心理学に取り組む研究者に大きな影響を与えてきた.
Burmanは同書において発達心理学の研究対象や研究方法や理論を歴史的に再構成し,政治経済や行政,軍事などの外的諸要因が発達心理学というディシプリンのあり方に影響を与える様態を明らかにした.ディスコース分析などの新しい方法論を創出し,質的研究を行って女性や子どもなどの立場を擁護する心理学実践がその基礎にある.
本ラウンドテーブルでは同書の邦訳『発達心理学の脱構築』(ミネルヴァ書房,2012)に携わった心理学者が,発達心理学や社会心理学,理論心理学,批判心理学の視点からその意義と日本における可能性を考察する.
ラウンドテーブル 「心理学における新しい流れ 2:『主体科学としての批判心理学』を読む」
3月22日(日) 9:30 AM-11:30 AM 講義室242 (工学部2号館)
企画者:百合草 禎二/批判心理学研究会
ファシリテーター:白井 利明(大阪教育大学)
話題提供1:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学)
話題提供2:大久保 智生(香川大学)
話題提供3: 岡花 祈一郎(福岡女学院大学)
話題提供4:百合草 禎二(常葉大学)
企画趣旨:
ドイツ批判心理学を主導したクラウス・ホルツカンプの論文の英訳選集が刊行され(Ernst Schraube,Ute Osterkamp(ed.),Psychology from the Standpoint of the Subject,selected writing of Klaus Holzkamp, 2013, Palgrave),各国でその仕事を再評価する機運が高まっている.
本ラウンドテーブルでは話題提供者がそれぞれ一本の論文を報告し指定討論を踏まえて,ホルツカンプが構想し推進した新しい心理学について理解を深めたい.