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2015年10月

2015年10月22日 (木)

心理学的拷問をコミュニティ心理学者や社会心理学者は,どう考えるか

 コミュニティ心理学と応用社会心理学の専門誌‘Journal of Community & Applied Social Psychology’が,対テロ戦争の後にガンタナモやアブグレイブの収容所でブッシュ政権の認可のもとで制度的に実施された「心理学的拷問」をテーマとして特集号を刊行することになりました.

 9.11の後に行われてきたテロ容疑者に対する「国家安全保障に関する尋問」は,実質的には心理学者が加担することで可能になった拷問でした.

 アメリカの心理学者とアメリカ心理学会がCIAや国防総省,ブッシュ政権の要人と協働して,「強化尋問技法」を合法化するうえで重要な役割を果たしてたことが明らかになりました.
 拷問や虐殺は人権の保護という普遍的価値に反する人道への犯罪とされ,ジュネーブ条約などの国際法が明確に禁止しています.

 第二次大戦後に世界の心理学を主導してきたアメリカ心理学会の幹部職員が,9.11の直後から軍事・諜報セクターと連携してアメリカ心理学会(APA)の倫理指針を変更するなどして,この過酷な尋問に関与してきました.
 10年以上にわたってニューヨーク・タイムズ紙やデモクラシー・ナウ!などが報道し広く知られるようになった諸事実は,アメリカ心理学の根幹を揺るがすスキャンダルを巻き起こしました.

 7月には長年,アメリカ心理学会の運営を担ってきた最高執行責任者(CEO)と副CEO,倫理部門責任者,広報部門責任者の離職や引退が,同学会によって公表されました.
 2005年にAPA会長直属の「心理学の倫理と国家安全保障に関する特別委員会(PENSタスクフォース)」を舞台として政権と軍事・諜報セクターの意向に沿ってAPAの倫理政策を変更する工作が行われました.
 その実態がホフマン報告で厳しく指弾されました.

 PENSタスクフォースにおける工作の中核を担ったAPA倫理部門責任者が訴訟に備えて,元FBI長官と顧問契約を結び,後者が前者の違法性を否認するキャンペーンを始めたことは問題の深刻さを表してしています.

 8月にトロントで開かれたAPAの年次大会で,最高意思決定機関である代議員会が「国家安全保障に関する尋問」に心理学者が関与することを禁止する決議案を採択し,APAは失われた信頼を回復する一歩を歩み始めました.
 アメリカ精神医学会やアメリカ医学会,イギリス心理学会はずっと前から,拷問への加担を禁止していました.遅まきながら,アメリカ心理学会もこれらの学会と同じ地点に立つことになりました.

 Journal of Community & Applied Social Psychology’誌が刊行の作業を進めている特集号のタイトルは,「倫理と心理学と戦争(Ethics, Psychology and War)」です.
 7月に公表されたホフマン弁護士による独立調査委員会の報告を踏まえて,戦争と心理学の倫理の関係を問う論文を募集しています.

  この問題に取り組んでおられる方は,論文を投稿されてはいかがでしょうか?
 投稿は二段階のプロセスをへて行われます.
1.12月1日までにアブストラクト(500語)を編集委員会に提出する.
2.アブストラクトが認められた後に,来年の3月1日までに論文を提出する.

 詳細については,同誌の投稿要領が記載された下記のサイトをご覧ください.
http://mc.manuscriptcentral.com/casp

 コミュニティ心理学者は社会正義や抑圧や貧困や格差の是正など,心理学者の倫理観に直接かかわる問題に取り組んでいます.コミュニティにおける暴力の防止は重要なテーマです.
 軍事セクターや情報収集・分析セクターで活動するアメリカの心理学者とアメリカ心理学会の幹部たちが拷問に加担したことを重く受け止め,この問題を考察すべきだとコミュニティ心理学者が考えるに至ったことは,意外ではありません.

 対テロ戦争における心理学的拷問について,どのような見解や視座が提示されるか,期待しましょう.
 できれば日本で活動している批判心理学者・理論心理学者の立場から,何がしかの寄与をしたいと考え,その方途を思案しています.



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