EUの経済危機と心理学:社会科学は何をなしえるか
長年,隠されていたギリシア政府の巨額の財政赤字が発覚して,2010年に始まったギリシアの経済危機はEU諸国に波及し,世界経済を揺るがす大問題になりました.
アイルランドやスペイン,イタリア,イギリスなどEU加盟国の政府は緊縮財政政策に転じ,教育や医療や福祉や文化など市民の日常生活に直接かかわる領域の予算や公共投資が削減され,大きな影響が生じています.
心理学は「客観的な科学」だから,こうした社会的,政治的問題に関与すべきではない,と考える心理学者が多数派を占めています.
その一方で,多くの人に重大な影響を与えている問題にこそ取り組むべきだ,と考える心理学者もいます.
ギリシアのクレタ大学の社会科学者(心理学者を含みます)が今年6月に「危機と社会科学:新しい挑戦と新しい視点」とテーマとして国際会議を開くことになりました.
会議のタイトル:
1st INTERNATIONAL CONFERENCE IN CONTEMPORARY SOCIAL SCIENCES -CRISIS AND THE SOCIAL SCIENCES: NEW CHALLENGES AND PERSPECTIVES-
主催者:
Faculty of Social, Economic and Political Sciences, University of Crete
会期:2016年,6月10-12日
会場:レティムノ市(クレタ島,ギリシア)
発表申し込みの期限:2016年1月31日
ウェブサイト:http://icconss.soc.uoc.gr/index.php/en/
下記はこの国際会議で討議されるトピックの一部です.同会議のウェブサイトに記載されています.
心理学者にとって,興味深い問題が目白押しです.
・Methodological issues and theoretical inquiries in the study of crises: Social sciences at the crossroad?
・Interpreting the crisis: different economic perspectives.
・Social and economic consequences of the crisis and policy responses: reviews and perspectives.
・Crisis and the future of the Euro
・Impacts of economic crisis on labour, employment and education
・Inequality and social exclusion at times of crisis
・Public health and neoliberal economic crises
・Social stratification and crisis.
・ State and public policy in the European and global contexts in times of crisis.
・Reform policies and the demand for competitiveness: Public
Administration, Education, Taxation, Social Security and Labour
Relations in comparative perspectives.
・Business environment, pressure groups and social dialogue: convergence and competition.
・Political parties and electoral de-alignments: Trends and dynamics.
・Political identities, conflicts and divisions: Ideological and cultural aspects.
・Crisis, political communication, and mass media systems.
・Social movements, social activities and civil societies: Practices, claims and issues.
・Democracy and crisis.
・“We” and “Others” in the time of crisis: Cognitive schemata and social stereotypes.
・Mental health impacts of crisis ridden milieus
・Austerity, precarity and subjectivity
・Debt and personhood
過去6年の間, 「ギリシア危機」によって大きな経済的,政治的変動の渦中におかれ社会不安が高まったギリシアで活動する研究者にとって,上記のトピックは切実な問題です.
自分が専門とする学問が何を為し得るかを考え,こうした国際会議を開催して社会科学の新しい可能性を探究し,現実の問題に立ち向かおうとすることは,むしろ自然な流れでしょう.
理論心理学と批判心理学の立場から,
1.心理学者が現実の社会問題に積極的に関与することによって,何を為し得るか,
2.心理学が社会科学の諸分野と連携して研究や社会的実践を行うことで,何が生まれるか,
注目されます.
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