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2016年9月

2016年9月20日 (火)

クークラ著「理論心理学の方法:論理・哲学的アプローチ」(2005,北大路書房)

 心理学のメタ学問としての理論心理学は,数多い心理学の理論や方法(論)を比較研究し,理論構成に影響を与える要因を検討し,心理学の歴史や哲学を研究するなど多様です.
 そうした研究の成果を踏まえて,新しい理論や新しい心理学のあり方を探究しています.

 理論心理学のさまざまなアプローチのひとつに,心理学理論の構造を論理分析の方法によって検討する研究があります.


 アンドレ・クークラ著「理論心理学の方法:論理・哲学的アプローチ」(羽生義正監訳,2005,北大路書房)はこのアプローチを代表する著書として,理論心理学者の間で広く知られています.
 実はこの良書は,11年前にすでに邦訳されているのです!!!

 3年前にも当ブログで紹介しました.が,まだまだ十分に活用されていないようです.
 私も一部,翻訳を担当したので手前味噌になりますが,埋もれてしまうには惜しい良書です.

 心理学の理論や方法論に関心をお持ちの方は是非一度,手に取ってご覧になるよう,お薦めします.

 以下,目次を再掲します.

アンドレ・クークラ著,羽生義正監訳,「理論心理学の方法:論理・哲学的アプローチ」(2005,北大路書房)

 理論心理学の方法―論理・哲学的アプローチ

まえがき
第1章 理論心理学という営み
 1.1 理論心理学の定義
 1.2 心理学史における経験論と合理論
 1.3 本書の概要
第2章 基本的な道具立て
 2.1 基本用語
 2.2 集合
 2.3 文章と語句
 2.4 命題と概念
 2.5 必然的命題と偶然的命題
 2.6 命題間の論理的関係
 2.7 命題論理における演繹的論証
 2.8 条件つき証明と間接証明
 2.9 量化論理における演繹的論証
第3章 理論とデータ
 3.1 データ
 3.2 自然の法則
 3.3 理論的用語,理論的言明,理論
 3.4 理論的実体の道具論的説明
 3.5 理論的実体の実在論的説明
第4章 理論の構成と評価
 4.1 科学理論の構成
 4.2 理論構成と理論評価の間の相互影響
 4.3 真実性
 4.4 普遍性
 4.5 理論に関するその他の評価基準
第5章 経験的仮説の導出と検証
 5.1 経験的プロジェクトのいろいろ
 5.2 経験的確認(仮説・演繹的説明)
 5.3 経験的確認(ベイズ派の説明)
 5.4 経験的否認
 5.5 経験的検証と理論調整のサイクル
 5.6 理論的活動としての予測
 5.7 理論心理学の一形式としての
    弱い人工知能
第6章 理論の拡充
 6.1 拡充とは何か
 6.2 理論の内的一貫性の欠如
 6.3 理論間の含意関係
 6.4 理論間の一貫性の欠如
 6.5 理論間の相補性
 6.6 理論間の独立性の論証
 6.7 理論的確認(追言)
 6.8 一貫性の論証
 6.9 理論的否認
第7章 理論の単純化
 7.1 理論の好ましさ
 7.2 統語的な単純性
 7.3 Rc単純性
 7.4 Rm単純性
 7.5 形而上的単純性
 7.6 認識上の単純性
 7.7 単純化の2つのタイプ
 7.8 理論還元のしくみ
 7.9 理論の統一
第8章 必然的命題
 8.1 必然的命題と偶然的命題の区別
 8.2 強すぎる生得性の論証
   (詳しい事例研究)
 8.3 新たな必然的真理の発見
 8.4 強い人工知能
第9章 概念にかかわる諸問題
 9.1 概念図式の案出
 9.2 ラッセルのパラドックス
 9.3 概念上の革新  
 9.4 概念図式が評価対象ならない理由
 9.5 概念評価の副次的規準
 9.6 表現力
 9.7 データの即時的増殖
 9.8 データの創造
第10章 先験的偶然知
 10.1 大前提の必要性
 10.2 根拠のある大前提
 10.3 根拠のない大前提
 10.4 根拠のない大前提の発見と評価
 10.5 心理学における根拠のある前提
 補遺 「理論心理学」について
 用語解説
 


2016年9月19日 (月)

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスが質的研究者を公募しています

 社会科学の名門大学として知られるロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)が,質的研究者を公募しています.

 公募されているのはLSEの「方法論学科(Department of Methodology)」で「質的研究方法論(Qualitative Research Methodology)」を担当する助教授です.詳細は下記のサイトを参照してください.
 
Assistant Professor in Qualitative Research Methodology
London School of Economics and Political Science - Department of Methodology

 (
http://www.jobs.ac.uk/job/AOP349/assistant-professor-in-qualitative-research-methodology/)

 国際批判健康心理学会のネットワークを通して,この公募情報が伝えられました.質的方法を用いて健康心理学を研究している心理学者も歓迎されているようです.

 こうした公募から,イギリスで質的心理学が社会的認知を得ていることがうかがわれます.
 イギリスの心理学教育では1990年代前半から学部レベルの教育科目で質的方法が取り上げられ,研究も盛んです.ディスコース分析は最もよく用いられてきた質的研究法もひとつです.

 ディスコース分析を行う批判心理学者がLSEの教員に採用されることも,あながちあり得ない話ではないでしょう.

 公募案内をみると,年俸は諸条件を考慮して「競争的」に決められるが最低でも53,004ポンド(約700万円)以上,雇用期限の無い常勤職,「トップ・ジャーナル」に研究論文を発表した人が望ましい,などと記載されています.
 おそらく若手の質的研究者が,候補者として想定されているのでしょう.

 また採用されると,LSEが世界に誇る最高の研究教育環境で研究を行うことができる,と同大学の長所が述べられています.

 もし,日本の質的心理学者がLSEの教員に採用されれば壮挙です.






 

2016年9月18日 (日)

セクシュアリティの心理学に関する学術会議

 イギリス心理学会 セクシュアリティの心理学部会が,12月8日に「心理学のイノベーションとセクシュアリティ(Innovations in Psychology and Sexualities)」をテーマとして学術会議を開きます.会場はロンドンの同学会本部です.
 会議の詳細については,次のサイトをご覧ください.


Psychology of Sexualities Section: Innovations in Psychology and Sexualities Conference & Annual General Meeting
Friday 2nd December 2016 at BPS Offices, Tabernacle Street, London

http://www.kc-jones.co.uk/pos2016)

 日本でも最近,テレビなどでLGBTに関する話題を見聞きする機会が増えてきました.
 セクシャルマイノリティの心理学も今後,もっと関心を集めるようになるといいですね.そのためにはまず,心理学者が関心をもつことが大切です.

 発表申し込みの締め切りは,10月9日です.この会議はイギリス心理学会セクシュアリティの心理学部会の年次大会を兼ねています.

 下記のようなテーマに関する発表が予定されているそうです.
 •LGTBQ+ experiences, identities, and relationships (including civil partnerships, equal marriage, monogamies, non-monogamies and polyamory)
 •Sexual fluidity
 •Asexuality
 •Marginalisation of LGBTQ+ identities (e.g., heterosexism / homophobia / biphobia / transphobia)
 •Representations of LGBTQ+ identities (e.g., in media, politics, healthcare, professional settings)
 •LGBTQ+ health
 •LGBTQ+ communities
 •Equalities and inequalities / sameness and difference
 •Feminist, queer and other critical approaches to sexualities

2016年9月12日 (月)

国際批判健康心理学会大会が来年,7月に開催されます

 国際批判健康心理学会の第10回大会が来年7月9日から12日まで,イギリスのラフブラ大学で開催されます.
 下記のウェブサイトに詳細な情報が記載されています.


International Society of Critical Health Psychology 2017:10th Biennial Conference
(http://ischp2017.weebly.com/)

 健康心理学は批判心理学的アプローチが最も盛んな領域のひとつです.
 批判心理学者が実際に何を行っているのか,この領域を通して知ることができます.研究や理論や方法の探究だけでなく,様々な社会的実践が世界各地の固有の文脈において行われています.

 社会的,経済的格差や文化的要因が健康に大きな影響を与えていることは明らかです.認知行動主義的アプローチに依拠する「主流心理学」はこうした要因を重んじてきませんでした.
 しかし,健康心理学者がもし「万人の健康」を目指すなら,これらを無視することはできません.

 健康心理学は1970年代に北米で,増大する医療費の抑制を求める社会的要請や,個人の行動や認知を変容して健康を実現する目的のもとで生み出されました.
 既存の社会心理学や臨床心理学などから理論や方法論を導入したため,健康心理学でも主流は認知行動主義です.

 しかし上述のように,認知行動主義的アプローチだけでは「万人の健康を実現する」という目的を達成できないことは明らかです.
 また健康心理学が比較的,若い領域であるため,主流とは異なるアプローチを排除する勢力がさほど強くなかったため,批判心理学が発展しました.(臨床心理学のような,長い歴史をもち既に堅固に確立された領域で批判心理学的アプローチを推進するのは容易ではありません.)

 国際批判健康心理学会が隔年開催している大会は,批判心理学の理論や方法だけでなく,健康格差などの重要な社会的課題に取り組んでいる世界各地の研究者の活動を理解する格好の機会です.

 グローバル化が進んだ今日の世界では,南北間でも日本を含む先進国の内部でも,健康格差は深刻な問題です.身体の健康は心の健康と密接に係っています.誰にとっても他人ごとではない重要な問題でしょう.

 世界各地の批判健康心理学者がこうした問題を解決すべく努力してきました.
 批判心理学の実際と可能性を,この学会を通して知ることができます.

 批判健康心理学に関する邦語文献は現在までのところ,わずかしかありません.下記の拙論文は第7回大会の模様を報告しています.

批判健康心理学の挑戦:第7回国際批判健康心理学会大会
(https://www.academia.edu/11957532/%E6%89%B9%E5%88%A4%E5%81%A5%E5%BA%B7%E5%BF%83%E7%90%86%E5%AD%A6%E3%81%AE%E6%8C%91%E6%88%A6_%E7%AC%AC7%E5%9B%9E%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E6%89%B9%E5%88%A4%E5%81%A5%E5%BA%B7%E5%BF%83%E7%90%86%E5%AD%A6%E4%BC%9A%E5%A4%A7%E4%BC%9A)

 一方,批判健康心理学に関する英語文献は,研究論文も教科書も数多く刊行されています.この領域を概観した拙論文の末尾に各種の参考文献を記載しています.
Health Psychology: Towards Critical Psychologies for Well-Being and Social Justice

(https://www.academia.edu/15898843/Health_Psychology_Towards_Critical_Psychologies_for_Well-Being_and_Social_Justice)

 第10回大会が開催されるラフブラ大学はディスコース分析による研究と教育のメッカとして知られています.おそらくこのアプローチによる研究や社会的実践が取り上げられるのでしょう.

 個人的には,デビッド・ハーパー博士(イーストロンドン大学)による招待講演「公衆精神衛生へのサイコソ-シャル・アプローチの可能性(と危険性)(The possibilities (and perils) of a psychosocial approach to public mental health)」に関心をもっています.
 ハーパー博士は統合失調症に関するディスコース分析的研究で知られています.ディスコース分析から発展したサイコソーシャル・スタディーズがメンタルヘルスが何をもたらすか,ハーパー博士の見解を伺いたいものです.
 下記のサイトに招待講演のアブストラクトが掲載されています.
  http://ischp2017.weebly.com/keynote-speakers.html

 

 

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