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2017年1月

2017年1月28日 (土)

トランプ米大統領がテロ対策で水責めなどの拷問は有効だ,と述べました:心理学的拷問

 トランプ米大統領が25日,大統領職に就任した後,初めてテレビでのインタビューに応じました.
 移民規制やオバマ前大統領が創設した医療制度の改変など記者の質問に答えるなかで,大統領は米政府の治安・諜報部門の高官からテロ対策では拷問が有効だと説明を受け,自分もそう信じている,と述べました.
 「イスラム国」が人間の首を切っているのだから拷問も必要だ,「水責め(ウォーター・ボーディング)」などの拷問は役に立つと主張しました.

 ABCニュースのインタビューでの出来事です.

 大統領は,テロ容疑者を尋問するためにCIAが米国外に設営していた秘密収容施設を復活させることも検討している,と報道されました(下記のワシントンポストの報道,25日).

 アメリカやイギリスの各種メディアが25日に大統領の発言を速報しました.
 「対テロ戦争」における容疑者への尋問のあり方に対する関心の高さがうかがわれます.拷問はジュネーブ条約国連反拷問条約に反する人道に対する犯罪だと考えられています.

 CNNの報道です.
 Trump on waterboarding: 'We have to fight fire with fire' (http://edition.cnn.com/2017/01/25/politics/donald-trump-waterboarding-torture/)

 ワシントンポストの報道です.
 Trump signals changes to US interrogation, detention policy
 
(https://www.washingtonpost.com/politics/federal_government/trump-says-torture-works-as-his-government-readies-a-review/2017/01/25/72767070-e35b-11e6-a419-eefe8eff0835_story.html?utm_term=.87c96bb189b5)

 BBC日本語サイトの記事です(1月26日)
 トランプ米大統領、水責め拷問は「もちろん効果がある」
 
(http://www.bbc.com/japanese/video-38753504)

 日経新聞も速報しました(1月26日).
 トランプ氏、水責め尋問の復活検討 テロ容疑者らに

 (http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM26H2A_W7A120C1EAF000/)

 NHKの報道です(1月26日).
 トランプ大統領 テロ容疑者への水責め尋問 「効果ある」
 (http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170126/k10010853541000.html?utm_int=detail_contents_news-related-auto_001)

拷問の「ポスト真実」?
 9.11後にCIAがテロ容疑者に行った「過酷尋問」は,米軍出身の心理学者が「学習性絶望感」などを理論モデルとして作成した「強化尋問技法」を用いて行われました.水責めもこの技法の中に含まれました.

 学習性絶望感を発見し理論化したM.セリグマン(1998年にアメリカ心理学会会長)が米軍のSEREプログラムで同理論などについて講演を行い,自宅にCIA上級職員(心理学者)や上記の米軍の心理学者を招いて会議をもったことが,拷問に反対するジャーナリストの調査報道によって明らかになりました.

 またアメリカ心理学会の幹部職員たちがテロ容疑者の尋問を主題とする非公開の会議を,上記の
CIA上級職員や米軍の心理学者,ホワイトハウス科学顧問(心理学者)らとともに開いていたことも,後に明らかになりました.

 こうした事実がマスメディアで広く報道され,北米社会における心理学への信頼が揺らいでいます.

 米上院インテリジェンス委員会は2014年12月に,CIAによる過酷尋問の効果を否定する報告書をまとめました(ファインシュタイン報告).通常の尋問技法によってテロ対策に必要な情報を得られていた,と結論づけました.
 CIAなど米政府の情報部門もかつての過誤を反省して拷問の効果を否定し,同様の立場を取っていると報道されてきました.
 しかし上記のトランプ大統領の発言は,これまでの常識を覆すものです.

 米政府当局の真意はどうなのか,本当はテロ容疑者に拷問を行えばより効果的なテロ対策を行える,と考えているのでしょうか?

 一般に拷問はテロ対策の情報を得る手段としては有効ではない,とされています.
 拷問を受けた人は今,経験している著しい苦痛から逃れるため,虚偽の自白を強いられます.テロとは無関係でテロ情報を知らない人でも,尋問者が望んでいるような供述をしやすくなります.
 また,激しい苦痛や恐怖のために心的機能が阻害され,正しい供述をできなくなると指摘されています.

 しかし,少数の極悪なテロ容疑者を拷問して多数の市民の生命を守る,という「時限
爆弾シナリオ」が政治家を含む多くの人々に受け入れられています.

 意見が対立している問題について,通説とは異なる見解が大統領によって真実だと提示されました.
 これも昨年のアメリカ大統領選挙で話題になった「ポスト真実」のひとつかもしれませんね.

2017年1月26日 (木)

トランプ米大統領のIQとIQテスト:理論心理学の視点

トランプ米大統領にみる心理学化

 1月20日に第45代アメリカ大統領に就任したドナルド・トランプ氏の言動に,世界の注目が集まっています.

 トランプ氏は就任式の前日,共和党幹部が集まった昼食会で自分が選んだ閣僚たちを紹介して「賢い人たちを閣僚に集めた.歴代の政権の中で最もIQが高い」と述べ,会場を沸かせたそうです (「トランプ次期大統領 『懸命に働く』就任式前に決意」
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170120/k10010845991000.html ,1月20日のNHKによる報道).

  同氏は大統領選挙中にテロ対策などのため,イスラム教徒の米国への入国を禁止すると述べていました.
 この主張を知ったイスラム教徒のロンドン市長がトランプ氏は無知だと批判すると,同氏は「IQテストをしよう」と反論した,と報道されました(「『IQテストやろう』 トランプ氏、英市長に「無知」と呼ばれ」(
http://www.bbc.com/japanese/video-36309476 ,2016年05月17日).

 IQやIQテストは心理学における知能研究が生み出した心理学的知識です.
 トランプ氏がそれらを用いているのは,心理学の産物が社会の様々な領域で活用され,心理学者ではない多くの人々が自明視するようになる「心理学化」の一例です.


理論心理学からみたIQと心理学化

 トランプ氏が用いた「IQ(知能指数)」という言葉とそれが表す概念は,IQと名づけられた数字が人間の知的な能力を表示している,という考えを含んでいます.
 さまざまな人の,おそらくは多様な知的能力を一つの指数によって客観的に表すことができる,その能力を「IQテスト」によって科学的に測定できる,と考えられているのです.

 トランプ氏がこれらを用いるようになる前に長い歴史がありました.
 学校教育などの社会的領域におけるニーズを背景として,百数十年前から心理学者が研究を行って知能という概念を生み出し,それを説明する理論や測定する検査を産出しました.
 トランプ氏の発言に至るまで長い時間の流れの中で,役割や目的を異にする多くの人々が関与してきたことでしょう.

 同氏にとってIQやIQテストは,どのような意義をもっているのでしょうか?



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