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2017年2月

2017年2月 7日 (火)

トランプ米大統領がCIA副長官に過酷尋問の責任者を指名しました

 トランプ米大統領が就任後の最初のテレビインタビューで,テロ対策では水責めを含む拷問が有効だ,と述べたニュースが話題になりました.
 新聞やテレビなどで,このニュースに触れた方も多いことでしょう.

 その後,マティス国防長官が拷問の有効性を否定した,と報道されました.
 大統領もテロ対策は国防長官に任せていると述べ,「過酷尋問」が再び行われることはない,という見方が大勢を占めているようです.

 先週,トランプ大統領がCIAのナンバー2である副長官にG.W.ブッシュ政権の時代に過酷尋問を主導したジナ・ハスペル(Gina Haspel)氏を指名した,とアメリカの各種メデイアが報道しました.
 日本のマスコミではまだ,取り上げられていないようです.

 ニューヨクタイムズの記事です(2月2日).
 新任のCIA副長官,ジナ・ハスペルは拷問を主導していた(New C.I.A. Deputy Director, Gina Haspel, Had Leading Role in Torture)

(https://www.nytimes.com/2017/02/02/us/politics/cia-deputy-director-gina-haspel-torture-thailand.html?_r=0)

 独立系ニュースメディア,インターセプトによる報道です(2月3日.『暴露:スノーデンが私に託したファイル』の著者,グレン・グリーンウォルドの記事です.).
 新しいCIA副長官は拷問の舞台になった秘密拘禁施設を運営していた(The CIA’s New Deputy Director Ran a Black Site for Torture)

(https://theintercept.com/2017/02/02/trumps-cia-chief-selects-major-torture-operative-to-be-agencys-deputy-director/)

 ハスペル氏は9.11同時多発テロの後にCIAがタイに設営した秘密拘禁施設の責任者で,テロ容疑を掛けられた人に過酷尋問を実施するプログラムにおいて中心的な役割を担ったそうです.

 法執行機関ではないCIAはテロ容疑者を収容する施設をもたなかったため,9.11後にアジアやアフリカ,ヨーロッパの各地に新たに設営されました.拷問を禁止しているアメリカの国内法の適用を免れるために米国外に秘密裡に設置された「ブラック・サイト」です.
 同氏はテロ容疑者を米国外のブラック・サイトに移送して,アメリカ国内法が適用されない条件の下で過酷な尋問が行われた「超法規的移送」プログラムの責任者でした.

 以前,当ブログでドキュメンタリー映画「強いられた沈黙」を取り上げました.
 この映画に2002年,パキスタンでアルカイダ幹部を捕捉する作戦を指揮していたCIA作戦課員のジョン・キリアコウ氏が,銃撃戦で重傷を負ったアブ・ズベイダ容疑者をCIAの専用ジェット機でパキスタンから移送するシーンが出てきます.
 キリアコウ氏は自分の手を離れて同容疑者がどこに移送されたか,知らされなかったそうです.機密情報を秘匿するためでしょう.
 その後,調査報道によって同容疑者がタイの秘密拘禁施設に送られ,CIAが雇用した2名の軍事心理学者によって,初めて「強化尋問技法」を用いて過酷尋問を受けたことが明らかになりました.
 ハスペル氏がこの作戦でも「活躍」したのでしょう.

 以前,当ブログに記載された記事です.
 強化尋問技法:「強いられた沈黙」(NHK BS世界のドキュメンタリー)

 (http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2015/12/bs-7dea.html)


 「強いられた沈黙」は社会派ドキュメンタリーで知られるジェームズ・スピオーネ監督の作品です.
 原題:Silenced
 監督:James Spione
 制作:Morninglight Films/NakedEdge Films(アメリカ,2014)  
 【トールグラス映画祭 ゴールデンストランド賞】
 【トラバースシティ映画祭 特別賞】


 またハスペル氏は,
CIAによる過酷尋問が人道に反する拷問ではないかと批判が高まると,テロ容疑者の尋問を記録したビデオテープを破壊した,と報道されています.
 尋問の模様を撮影したビデオテープが真相を解明する資料になるはずでしたが,失われました.連邦議会や司法当局が証拠を隠滅し捜査を妨害する行為だ,と非難しました.

 もし,このビデオテープが連邦議員や報道関係者の目に触れていれば当時の政権は大きなダメージを受けただろう,と言われています.

 同氏がCIAの秘密作戦の責任者だったため,今まで同氏の名が公けに報道されることはありませんでした.
 新しい副長官に導かれてCIAは再び,変わるのでしょうか? 



 

2017年2月 4日 (土)

シンポジウム 対テロ戦争における「心理学的拷問」を考える:ホフマン報告の後の心理学

 「テロとの戦い」におけるテロ容疑者への「過酷尋問」に,アメリカの心理学者とアメリカ心理学会が加担した事実を認定したホフマン報告はアメリカだけでなく,多くの国の心理学者に衝撃を与えています.
 この問題をテーマとして,下記のシンポジウムが開催されます.心理学者の倫理や心理学と社会の関係,心理学史など心理学にかかわるメタ学問的問題を討議します.
 こうした主題に関心をおもちの方は,気軽にご参加ください.


シンポジウム
「対テロ戦争における『心理学的拷問』を考える:ホフマン報告の後の心理学」
日時:3月11日(土),午後6時開会
話題提供:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学)  「理論心理学・批判心理学の立場からみた『心理学的拷問』とアメリカ心理学」
指定討論:いとう たけひこ(和光大学)
指定討論:田辺 肇(静岡大学)
会場:和光大学 A棟4階 第2会議室
(https://www.wako.ac.jp/access/campus.html)
参加費:無料
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会
共催:平和のための心理学者懇談会,心理科学研究会平和部会


企画趣旨:
 2014年10月,アメリカ心理学会幹部とアメリカ国防総省やCIAなどの担当官の間で交わされた多数の電子メールにもとづいて,9.11後の「テロとの戦い」においてCIAや米軍がテロ容疑者に行った「過酷尋問」に心理学者が関与していたと報道され,北米社会で大きな反響を呼びました.

 真相の究明を求める声が高まり,アメリカ心理学会(APA)は組織不正の調査にたけたデビッド・ホフマン弁護士に調査を委嘱しました.APAの運営に関する各種文書や電子メール,当事者への聴聞などで得られた資料をもとに調査が行われました.
 翌年7月に同弁護士を長とする独立調査委員会が報告書を公開しました.

 ホフマン報告書は,
1).拷問に反対する人々が10年前から指摘してきた国防総省とAPAの協働関係が概ね事実だったこと,
2).9.11後にAPAがとった行動の動機はおもに,対テロ戦争を担う国防総省の要請に応じることや,社会における心理学のよいイメージを保つこと,心理学の職業的発展をめざすことにあり,拷問の防止や拷問の被害者の救済が考慮されなかったこと,
3).国防・情報当局とAPA指導部が結託して,拷問を含む過酷な尋問を法的に正当化した米政府の政策に合わせてAPAの倫理指針を改定したこと,
4).もしアメリカの心理学者が加担しなければ,国防・情報当局が設営した尋問施設などで心理学者が悪を為す機会は低減した,などの見解を認定しました(Olson,2106).

 同報告を受けて長年,APAの運営を担ってきた同学会の最高執行責任者(CEO)と副CEO,倫理部長,広報部長の辞職が発表されました.
 2015年8月にAPAの最高意志決定機関である代議員会は「国家安全保障に関する尋問」にAPA会員が関与することを禁止する決議を採択し,尋問に関する倫理指針を変更しました.
 その後,今日まで9.11後のAPAの行動を振り返り,改革へ向けて努力が続けられています.

 最近,トランプ米大統領がテロ対策では「水責め(ウォーター・ボーディング)」などの拷問が有効だと述べ,CIAによる過酷尋問を復活させる可能性に言及した,と報道されました.
 CIAが水責めを含む「強化尋問技法」を用いて行った尋問は,アメリカの心理学者が加担した拷問の一つです.2014年12月,アメリカ上院インテリジェンス委員会はCIAによる過酷尋問の効果を否定する報告を公表しました.
 このファインスタイン報告では,CIAが雇用した2名の軍事心理学者が過酷さの程度を異にする技法を組み合わせて強化尋問技法(EIT)としてパッケージ化し,米国外に設営された秘密拘禁施設(ブラック・サイト)でアルカイダ幹部に自ら,過酷尋問を行った経緯が詳述されました.
 各種メディアの報道によって幅広い公衆がこの事実を知り,心理学の倫理的正当性が疑われるようになりました.

 テロ容疑者への拷問は戦争捕虜の人道的な処遇を定めたジュネーブ条約国連拷問等禁止条約に反する「心理学的拷問」と呼ばれ,国際的関心を集めてきました.
 昨年,横浜で開催されたICP2016でも,国際心理科学連合会長の企画によるシンポジウム「心理学者の名のもとで拷問を行わない:ホフマン報告の後の心理学」が開かれました.APA会長や,APAの倫理指針が変更された工作の舞台となった心理学の倫理と国家安全保障に関する特別委員会(PENSタスクフォース)の元委員らが報告を行い,国際心理科学連合会長が拷問に反対する立場を表明しました.

 一般に軍隊では敵兵に尋問を行う技法や,敵軍に捕捉された自軍兵士の尋問への対策が求められます.自衛隊がPKO活動の一環として海外の紛争地で「駆けつけ警護」を行うことになり,日本でも「尋問の心理学」の必要性が高まっていると考えられます.

 本シンポジウムでは話題提供者は理論心理学と批判心理学の立場から,ホフマン報告後の心理学のあり方や戦時下のアメリカ心理学に影響を与えてきた諸要因,心理学と社会の関係,心理学の倫理などをメタ学問的に考察します.
 昨年のシンポジウム「心理学と対テロ戦争と『国家安全保障の尋問』」に続き,ホフマン報告の後の状況を討議します.


参考文献:
 Olson,B. (2016)  Why More of U.S.Psychology Needs to Follow Community and Peace Psychology Principle. ピース・レポート(国際基督教大学平和研究所ニューズレター),11,1,8-9. 

参照ウエブサイト:
1.ホフマン報告とAPAのプレスリリースのアーカイブ
   Report of the Independent Reviewer and Related Materials
   (http://www.apa.org/independent-review/)
2.心理学的拷問に反対する活動を行ってきた「Coalition for an Ethical Psychology」のウェブサイト
   (http://ethicalpsychology.org/index.php)

 

「Hoffman report」の画像検索結果

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2017年2月 3日 (金)

イギリスの大学が批判心理学者を公募しています

 イギリスのリーズ・ベケット大学 社会科学部心理学科が,批判心理学者を公募しています.

 職位:シニア・レクチュラー
 契約の種別:雇用期限のつかない常勤職
 給与:41,709ポンドから48,327ポンド

 詳細については下記のサイトをご参照ください.
  
http://www.jobs.ac.uk/job/AWY470/senior-lecturer-in-critical-psychology/

 大学教員を採用するときに,批判心理学を指定して公募される国・地域は多くありません.
 イギリスはそのひとつです.これまで何度か,批判心理学者を求める公募情報を聞いたことがあります.

 心理学を学ぶ学生の間に主流だけでなく,批判的な研究も知りたい,というニーズがあります.
 そのため,主流心理学者で占められている心理学科・専攻のスタッフの中に,ひとりは批判心理学者がいた方がいいとする意見がイギリスでは一定程度,受け入れられているそうです.イギリスで多くの批判心理学者が活躍している理由の一端はこうした雇用事情にあるのでしょう.
 ドイツなど他国で教育を受けた批判心理学者がイギリスの大学で教職に就く例もあります.

 

 リーズ・ベケット大学の心理学科は,次の3つの研究領域を探究しています(http://www.leedsbeckett.ac.uk/research/research-areas/research-areas/psychology/).
・認知と行動
・健康
・性,ジェンダー,アイデンティティと力

 おもに3番目の領域が,同大学が求めている批判心理学と関連しているのでしょう.

 批判心理学は研究者によって,目的や理論的リソースや方法の差違によって,国・地域の状況の差違によって,多様です.

 下記は同大学の批判心理学者が現在,取り組んでいるおもな研究のテーマです.
・摂食や飲酒に関する批判的な質的フェミニスト研究
・職場における性差別
・若者が経験している性的いじめ
・社会階級とジェンダー
・トランスジェンダーの若者の健康
・コンドーム使用のジェンダー差
・男性性と男性の健康


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