シンポジウム 対テロ戦争における「心理学的拷問」を考える:ホフマン報告の後の心理学
「テロとの戦い」におけるテロ容疑者への「過酷尋問」に,アメリカの心理学者とアメリカ心理学会が加担した事実を認定したホフマン報告はアメリカだけでなく,多くの国の心理学者に衝撃を与えています.
この問題をテーマとして,下記のシンポジウムが開催されます.心理学者の倫理や心理学と社会の関係,心理学史など心理学にかかわるメタ学問的問題を討議します.
こうした主題に関心をおもちの方は,気軽にご参加ください.
シンポジウム 「対テロ戦争における『心理学的拷問』を考える:ホフマン報告の後の心理学」
日時:3月11日(土),午後6時開会
話題提供:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「理論心理学・批判心理学の立場からみた『心理学的拷問』とアメリカ心理学」
指定討論:いとう たけひこ(和光大学)
指定討論:田辺 肇(静岡大学)
会場:和光大学 A棟4階 第2会議室(https://www.wako.ac.jp/access/campus.html)
参加費:無料
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会
共催:平和のための心理学者懇談会,心理科学研究会平和部会
企画趣旨:
2014年10月,アメリカ心理学会幹部とアメリカ国防総省やCIAなどの担当官の間で交わされた多数の電子メールにもとづいて,9.11後の「テロとの戦い」においてCIAや米軍がテロ容疑者に行った「過酷尋問」に心理学者が関与していたと報道され,北米社会で大きな反響を呼びました.
真相の究明を求める声が高まり,アメリカ心理学会(APA)は組織不正の調査にたけたデビッド・ホフマン弁護士に調査を委嘱しました.APAの運営に関する各種文書や電子メール,当事者への聴聞などで得られた資料をもとに調査が行われました.
翌年7月に同弁護士を長とする独立調査委員会が報告書を公開しました.
ホフマン報告書は,
1).拷問に反対する人々が10年前から指摘してきた国防総省とAPAの協働関係が概ね事実だったこと,
2).9.11後にAPAがとった行動の動機はおもに,対テロ戦争を担う国防総省の要請に応じることや,社会における心理学のよいイメージを保つこと,心理学の職業的発展をめざすことにあり,拷問の防止や拷問の被害者の救済が考慮されなかったこと,
3).国防・情報当局とAPA指導部が結託して,拷問を含む過酷な尋問を法的に正当化した米政府の政策に合わせてAPAの倫理指針を改定したこと,
4).もしアメリカの心理学者が加担しなければ,国防・情報当局が設営した尋問施設などで心理学者が悪を為す機会は低減した,などの見解を認定しました(Olson,2106).
同報告を受けて長年,APAの運営を担ってきた同学会の最高執行責任者(CEO)と副CEO,倫理部長,広報部長の辞職が発表されました.
2015年8月にAPAの最高意志決定機関である代議員会は「国家安全保障に関する尋問」にAPA会員が関与することを禁止する決議を採択し,尋問に関する倫理指針を変更しました.
その後,今日まで9.11後のAPAの行動を振り返り,改革へ向けて努力が続けられています.
最近,トランプ米大統領がテロ対策では「水責め(ウォーター・ボーディング)」などの拷問が有効だと述べ,CIAによる過酷尋問を復活させる可能性に言及した,と報道されました.
CIAが水責めを含む「強化尋問技法」を用いて行った尋問は,アメリカの心理学者が加担した拷問の一つです.2014年12月,アメリカ上院インテリジェンス委員会はCIAによる過酷尋問の効果を否定する報告を公表しました.
このファインスタイン報告では,CIAが雇用した2名の軍事心理学者が過酷さの程度を異にする技法を組み合わせて強化尋問技法(EIT)としてパッケージ化し,米国外に設営された秘密拘禁施設(ブラック・サイト)でアルカイダ幹部に自ら,過酷尋問を行った経緯が詳述されました.
各種メディアの報道によって幅広い公衆がこの事実を知り,心理学の倫理的正当性が疑われるようになりました.
テロ容疑者への拷問は戦争捕虜の人道的な処遇を定めたジュネーブ条約や国連拷問等禁止条約に反する「心理学的拷問」と呼ばれ,国際的関心を集めてきました.
昨年,横浜で開催されたICP2016でも,国際心理科学連合会長の企画によるシンポジウム「心理学者の名のもとで拷問を行わない:ホフマン報告の後の心理学」が開かれました.APA会長や,APAの倫理指針が変更された工作の舞台となった心理学の倫理と国家安全保障に関する特別委員会(PENSタスクフォース)の元委員らが報告を行い,国際心理科学連合会長が拷問に反対する立場を表明しました.
一般に軍隊では敵兵に尋問を行う技法や,敵軍に捕捉された自軍兵士の尋問への対策が求められます.自衛隊がPKO活動の一環として海外の紛争地で「駆けつけ警護」を行うことになり,日本でも「尋問の心理学」の必要性が高まっていると考えられます.
本シンポジウムでは話題提供者は理論心理学と批判心理学の立場から,ホフマン報告後の心理学のあり方や戦時下のアメリカ心理学に影響を与えてきた諸要因,心理学と社会の関係,心理学の倫理などをメタ学問的に考察します.
昨年のシンポジウム「心理学と対テロ戦争と『国家安全保障の尋問』」に続き,ホフマン報告の後の状況を討議します.
参考文献:
Olson,B. (2016) Why More of U.S.Psychology Needs to Follow Community and Peace Psychology Principle. ピース・レポート(国際基督教大学平和研究所ニューズレター),11,1,8-9.
参照ウエブサイト:
1.ホフマン報告とAPAのプレスリリースのアーカイブ
Report of the Independent Reviewer and Related Materials
(http://www.apa.org/independent-review/)
2.心理学的拷問に反対する活動を行ってきた「Coalition for an Ethical Psychology」のウェブサイト
(http://ethicalpsychology.org/index.php)
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