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2017年4月

2017年4月13日 (木)

CIAによるテロ容疑者への「過酷尋問」を担った心理学者の回想録:『強化尋問:アメリカを破壊しようとするイスラムテロリストの心理と動機』

 9.11同時多発テロの後,CIAはテロ容疑者に「過酷尋問」を行うようになりました.尋問を現場で担った心理学者の回想録が刊行されました.

  ジェームズ・ミッチェル(
James E. Mitchell)著
  「強化尋問:アメリカを破壊しようとするイスラムテロリストの心理と動機(Enhanced Interrogation: Inside the Minds and Motives of the Islamic Terrorists Trying To Destroy America )」 Crown Forum社,2016年11月.


 
2001年にアメリカを襲った9.11同時多発テロの後,CIAはテロ対策のためにテロに係わる情報の収集にいっそう力を入れるようになりました.
 テロの容疑をかけられた人を尋問して情報を得ることが,さらなるテロを防ぐために決定的に重要だと考えられました.

 CIAには尋問の専門家がいなかったため,当初はFBIの尋問官がCIAがパキスタンなどで捕捉したテロ容疑者への尋問を行いました.FBIの尋問官は通常の尋問技法(尋問者が被尋問者とラポールを築き,尋問を行う技法)を用いました.
 しかしブッシュ政権や軍事・情報当局の中枢では,被尋問者に苦痛を与える過酷な尋問技法を用いれば,もっと多くのテロ情報を得られるという考えが採用されました.

 そこでCIAはアメリカ空軍出身の2名の心理学者,ジェームズ・ミッチェルとブルース・ジェッセンを雇用しました.彼らは過酷さの程度の異なる既存の各種の尋問技法を組み合わせてパッケージ化して「強化尋問技法」を開発しました.水責めや数日間にわたる睡眠の剥奪,ストレス姿勢の強要など被尋問者に身体的,心理的に苦痛を与える技法が採用されました.

 CIAがアジアやヨーロッパやアフリカの各地に設営した秘密拘禁施設(CIAブラック・サイト)で,2名の心理学者はCIA要員らとともに自らアルカイダ幹部に「過酷尋問」を行いました.
 2名の心理学者は軍事コンサルテーション会社を設立して
CIAからテロ容疑者の尋問を請け負い,8000万ドル以上の報酬を得ました.
 2015年12月にアメリカ連邦上院のインテリジェンス委員会がCIAによるテロ容疑者への拷問に関する報告書(ファインスタイン報告書)を公開しました.そこで2名の心理学者が行った活動が詳細に記述されました.

 ミッチェルの回想録『強化尋問:アメリカを破壊しようとするイスラムテロリストの心理と動機』は,「CIA拷問問題」を
当事者の立場から記述しています.
 CIAに見いだされて雇用契約を結ぶ経緯や,アルカイダ幹部への尋問の実際,「強化尋問技法による過酷尋問は拷問ではない」という見解の背景,この尋問がテロ対策のために有用だとする心理学者の考え方を知ることができます.

 対テロ戦争における「心理学的拷問」はおそらく後世の歴史家によって,第2次大戦後に起きた人道への犯罪の事例として記述される重大な事件です.

 拷問に反対したジャーナリストや人権活動家や心理学者の考えを理解するとともに,拷問を行った心理学者の考え方を知ることも今後,心理学的拷問を防止するために必要です

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