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2017年6月

2017年6月26日 (月)

心理学的拷問を行った心理学者と被害者,CIA高官の宣誓供述ビデオ

 9.11同時多発テロの後,アメリカが主導する「テロとの戦争」において,テロ容疑者に「過酷尋問」を行った米空軍出身の2名の心理学者を対象として,拷問を受けた被害者と遺族が被害の賠償を求めて裁判を起こしました. 

 ニューヨークタイムズ紙が6月23日の社説でこの問題を取り上げています.
 「拷問者は語る(The Torturers Speak)」

(https://www.nytimes.com/2017/06/23/opinion/cia-torture-enhanced-interrogation.html?action=click&pgtype=Homepage&clickSource=story-heading&module=opinion-c-col-left-region&region=opinion-c-col-left-region&WT.nav=opinion-c-col-left-region&_r=0)

 上記のサイトでCIAに雇用されて「強化尋問技法」を開発し,アルカイダ幹部に自ら拷問を行ったブルース・ジェッセン博士とジェームズ・ミッチェル博士のビデオによる宣誓供述が公開されています.二人はアメリカ空軍でパイロットなどが敵軍に補足され尋問を受けた場合に備えて対策を教えるSEREプログラムの教官を務めた臨床心理学者です.
 ジェッセン博士が公の場で心理学的拷問について発言するのは初めてだと言われています.

 拷問を受けた被害者と拷問により死亡した被害者の遺族の宣誓,2名の心理学者の上司だったCIA高官(元CIA尋問センター長)の宣誓も見ることができます.
 
 2名の心理学者は彼らが行った「強化尋問」は被尋問者に深刻な被害を生じなかった,アメリカで核爆弾によるテロが起こるのを防ぐためにテロ情報が必要だった,などの主張を展開しています.
 被害者のひとりが,尋問とその被害の実態を証言している途中で当時を思い出したのか,急に泣き崩れる場面が記録されています.
 
 対テロ戦争におけるテロ容疑者への拷問は,アメリカ史に残る汚点だ,とニューヨークタイムズ紙の論説記事が指摘しています.
 この問題にかかわる多くの人物の中で,裁判で責任を問われているのは2名の心理学者だけです.


 今後,裁判のゆくえが注目されています.

2017年6月 7日 (水)

ホノルル空港がイノウエ空港に名称変更されました:イノウエ米上院仮議長と「アメリカ心理学会拷問問題」

 ハワイのホノルル国際空港が「イノウエ国際空港」に名称変更されたニュースを,テレビや新聞やネットの報道で知られた方も多いことでしょう.
 故ダニエル・K・イノウエ米連邦上院議(1924-2012)の功績を讃えて,出身地であるハワイのホノルル国際空港の名称が変更されました.
 産経新聞の記事です(5月31日).

  「イノウエ」空港で式典、ホノルル 改名祝い看板も変更
(http://www.sankei.com/photo/story/news/170531/sty1705310007-n1.html)


 
イノウエ議員(民主党)は福岡からハワイに移民した両親をもつ日系2世です.第2次大戦で日系人部隊の一員としてヨーロッパ戦線の激戦地で活躍し,ドイツ兵の砲撃を受けて右腕を失いながら戦功をあげました.全米に知られる大戦の英雄になりました.
 1959年に日系米国人で初めてアメリカ連邦下院議員に選出され,後に上院議員に転じて9期にわたって議席を守りました.
 アメリカの政界で国家安全保障の領域の重鎮として長年,大きな役割を果たしました.ウォータゲート事件やイラン・コントラ事件の調査でも勇名をはせました.

 ハワイで少年時代を過ごしたオバマ前米大統領が,イノウエ議員の活躍ぶりを知って政治家を志した逸話は有名です.日系アメリカ人が連邦議会で活躍できるなら,アフリカ出身の父をもつ自分にもできるはずだ,と考えたそうです.

 イノウエ議員は晩年,アメリカ大統領職の継承順位3位(副大統領,下院議長に次ぐ)の上院仮議長に選出されました.
 亡くなった後,米連邦議会のロタンダ(円形会堂)に棺が安置されました.アメリカの歴史上,数えるほど少数の愛国の勇者に捧げられる栄誉とされています.
 おそらくオバマ前大統領も,ブッシュ元大統領(父子)も,クリントン元大統領もこの栄誉に浴することはないでしょう.

 そのアメリカン・ドリームを体現した偉人が,アメリカ心理学会が9.11後の「テロとの戦い」において加担したテロ容疑者への心理学的拷問に深く関与していた,と報道されています.

 私はイノウエ議員が生涯をかけて為し遂げた偉大な仕事に,心から敬意を抱いています.
 アメリカ社会の周縁で疎外されていたハワイの日系人のコミュニティから起って,マイノリティの福祉や健康を向上させる政策に取り組みました.医療とともに臨床心理学・心理療法もそのための政策に含まれていました.

 しかし研究や臨床実践の倫理を重んじ幸福に寄与する心理学を目指す研究者(批判心理学者)のひとりとして,イノウエ議員と「アメリカ心理学会拷問問題」の関係から目を逸らすことはできません.
 下記はハフィントンポストに2009年に掲載された記事です.

 拷問と心理学とダニエル・イノウエ:拷問で心理学が果たした役割の真実の物語(Torture, Psychology, and Daniel Inouye: The True Story Behind Psychology’s Role in Torture )
 
 (http://www.huffingtonpost.com/bryant-welch/torture-psychology-and-da_b_215612.html)

 詳細は以前,当ブログに記しました.
  『442日系部隊:アメリカ史上最強の陸軍』- イノウエ上院議員から対テロ戦争における「心理学的拷問」までの距離

 (http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2016/12/442-935b.html)

 テレビなどでハワイの空港のニュースを聞くと,イノウエ議員を,さらに9.11後にアメリカ心理学会がテロ容疑者の拷問に加担するに至った一連の出来事を連想してしまいそうです.



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