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2017年9月

2017年9月14日 (木)

カリフォルニア大学サンタクルーズ校が社会正義を研究する社会心理学者を2名,公募しています

 カリフォルニア大学サンタクルーズ校の心理学科が,社会正義を研究する社会心理学者を2名,公募しています.テニュア・トラックの職種です.
 
 ・職種:助教授(2名).終身雇用も可
 ・専門領域:社会正義に関する社会心理学
 ・給与:経験や資格等に応じて決定
 ・応募期限:10月2日


 カリフォルニア大学サンタクルーズ校には,低所得層出身のヒスパニック系学生が多く学んでいるそうです.
 同大心理学科が社会正義を主題とする社会心理学プログラムを設けているのは,学生や地域社会のニーズを反映しているのでしょう.

 こうした社会心理学を実践する研究者は,本人が自称するかはどうかは別として,おそらく「批判心理学者」です.

 もう
十数年前のことですが,アメリカの心理学ワールドでは「批判的(critical)」という言葉は「コミュニスト」を連想させ,強すぎるという話をアメリカの心理学者から聞いたことがあります.
 (つまり,批判心理学者を自称する若手研究者がアメリカの大学で職を得るのは難しい,ということです.同じ北米でもカナダではそれほど困難ではなかったようです.)

 アメリカは「客観的な科学的心理学」が生まれ発展した土地柄です.また歴史的に共和党と民主党の2大政党の他に政権政党を批判する野党の存在感に乏しく,「批判」という言葉が過度にラディカルに響くようです.

 元来,科学や学問は既存の研究成果を批判的に検討するところから,次の新しい研究が始まります.
 「批判」がネガティブな含意を帯びている現状は不幸なことですね.

 しかし2010年代後半の今日では,アメリカの心理学者が「社会正義」や「フェミニズム」について語ることは,タブーではなくなりました.


 公募情報の詳細は次のサイトに記載されています.

   https://apo.ucsc.edu/academic_employment/jobs/JPF00464-18.pdf

 これをみると,社会正義の社会心理学の主題や観点として,下記が例として挙げられています.
  ・社会正義と構造的問題
  
種やエスニシティと不平等
  
抑圧と特権
  
偏見やステレオタイプ,差別への領域横断的アプローチ
  
社会的経済的正義を目指すさまざまな運動
  
犯罪と正義の制度の社会心理学
  
教育にまつわる諸問題
  
新自由主義的な政策と実践の社会心理学
  
移民の諸問題
  
コロニアリズムと脱植民地化
  
健康と健康格差の社会心理学
  
政治心理学
  
環境問題と正義
  
女性やマイノリティが高等教育において直面する諸問題

2017年9月12日 (火)

ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ソーシャルサイコロジーの特集「急激な社会変動を理解する」

 ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ソーシャルサイコロジーが,特集「急激な社会変動を理解する:新しい視点と方法」に掲載する論文を募集しています.
 同誌編集委員会から,論文の投稿を促すメールが届きました.

 この特集では特に,下記の3つの主題に関する研究が重んじられています.
・分離主義的事象(ブレクジットやスコットランドの独立問題など)と個人の心理学的転換と社会変動
・極端へと振れること(polarization)をどう説明するか
・どのようにして個人の内部の変化が社会変動へと結びつくか


 同誌はバリバリの主流心理学(客観的な科学的心理学)のジャーナルです.
 しかし,ときに実生活における重要な社会的問題・課題を取り上げています.

 EUからのイギリスの離脱や移民の増加に伴う諸問題,スコットランドの独立問題,トランプ現象の影響など,イギリスの社会心理学者にとって本来,重要な問題です.
 科学的心理学は社会問題や政治的問題から距離をおくべきだ,こうした問題に係れば,客観性や価値中立性が侵されることになる,という声も聞こえそうです.

 しかし,社会と個人の心や生活に大きな影響を与えている社会的事象を社会心理学が研究しないなら,その方が不自然です.
 同誌がこうした特集を企画するのは,主流心理学の変化を示すよい兆しといえるでしょう.

 論文の投稿を検討している場合は今月末までに,500語のアブストラクトを編集委員会に提出する必要があります.アブストラクトが審査され,投稿の可否が決められます.
 詳細は下記のサイトをご参照ください.
  
「急激な社会変動を理解する:新しい視点と方法(Understanding rapid societal change: Emerging perspectives and methods)」
  (http://onlinelibrary.wiley.com/journal/10.1111/(ISSN)2044-8309)

 現在,進行している急激な社会の変化を主題として,どのような新しい視点と研究方法が提示されるか,ワクワクします.
 日本社会で生活を送る私たちも近年,政治経済や外交問題など,様々な変化を経験しています.
 近い将来,これらを対象として社会心理学や心理学の専門誌が特集号を企画するようになるでしょうか?



2017年9月11日 (月)

BBCラジオの番組『良い心理学者,悪い心理学者』:テロ容疑者への「心理学的拷問」

 BBCのラジオ4が9.11同時多発テロの後,アメリカが戦う「テロとの戦争」において,心理学者が加担してテロ容疑者に行われた「過酷尋問(心理学的拷問)」を問う番組を放送しました.

 「良い心理学者,悪い心理学者(Good Psychologist, Bad Psychologist)」
 BBC Radio 4.8月30日に放送.
 この番組は下記のサイトで公開されています.
  
http://www.bbc.co.uk/programmes/b092fwzr

 2009年にオバマ米大統領(当時)が「我々は拷問を行った」と記者会見で述べた音声や,パキスタンでアルカイダ幹部を捕捉する作戦を指揮したCIA要員へのインタビュー,拷問を受けた被害者の肉声などが取り上げられています.

 「強化尋問技法」を開発してテロ容疑者に自ら過酷尋問を行ったアメリカの軍事心理学者も登場します.アメリカの法律家がこの技法による尋問は拷問ではないと認定した,だから自分は罪を問われない,と主張しています.

  強化尋問技法を支える理論になった「学習性無気力」と,この現象をイヌを被験体とする学習心理学実験を行って見いだし,理論化したアメリカの心理学者マーティン・セリグマンも取り上げられています.
 ポジティブ心理学の創始者として日本でも有名になりました.アメリカ心理学会会長を務め,存命する北米の心理学者の中ではもっとも著名なひとりです.

 また,アメリカ心理学会とアメリカの心理学者がテロ容疑者への過酷尋問に加担した実態を解明し,同学会会員が「国家安全保障に係わる尋問」に関与しないよう同学会の倫理指針を改訂する活動を行ったアメリカの心理学者も,インタビューに答えています.

 番組のタイトルに含まれる「良い心理学者」は彼(女)らを指しているのでしょう.「悪い心理学者」はもちろん,強化尋問技法を開発して尋問を行った軍事心理学者や,彼らに助言しサポートした心理学者たちです.

 30分足らずの短い番組ですが,対テロ戦争における心理学的拷問の争点を手際よく説明しています. (英語音声のみ)



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