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2017年10月 4日 (水)

批判心理学セッションと「批判心理学ハンドブック」(パーカー編,2015)

  (公社)日本心理学会 批判心理学研究会が企画した批判心理学セッションが1日,開かれました.

 世界の心理学ワールドの中での批判心理学の位置づけや,相模原事件とヘイトスピーチ,日本の精神科医療と福祉,ドイツ批判心理学などを主題とする話題提供に続いて,自由に意見交換を行いました.
 関西や東海地方からの参加者も加わり,大学院のゼミのように少人数での熱心な討論の場となりました.
 (批判心理学「セッション」はシンポジウムのようなフォーマルなかたちではなく,ジャズのセッションのように自由に討議し知的刺激を与え合う場を目指しています.)

 次回の批判心理学セッションは12月に開かれる予定です.詳細が決まり次第,お知らせします.


 日本でも批判心理学への関心が高まりつつあります.
 心理学研究が発展し,心理学と心理学の産物である心理検査やセラピー,心と行動を説明する用語や理論などの心理学知識が社会の諸領域に浸透すると,心理学が抱えている問題も次第に明らかになります.

 そこから既存の心理学の研究や心理臨床,教育,社会的活動,学会活動,社会諸セクターでの応用などへの「批判」的取り組みが始まるのは,日本でも他の国・地域でも同じです.

  もし心理学が今日の日本で重要でないなら,たとえ深刻な問題を見いだしたとしても,わざわざ「批判」的な心理学を始める必要はありません.
 声をあげることなく,ただ心理学から立ち去ればよいでしょう.

 批判心理学者が心理学にあえて「批判的に取組む」のは現在,日本社会で生きる私たちにとって,心理学があまりに重要なものになったからです.
 こうした立場から批判心理学に取り組む心理学者が世界各地で,自分が見出した問題を解決するために活動しています.


 批判心理学の全体像を手軽に知りたい,という方に下記のハンドブックを推薦します.


 イアン・パーカー編 批判心理学ハンドブック ラウトレッジ社 2015
 (Parker, I. (ed.). Handbook of Critical Psychology, 2015, Routledge)

 主流心理学の諸領域への批判的アプローチや,批判心理学の新しい理論と方法,多様な批判心理学的実践の実際,世界の各地域における展開を手際よくレビューする諸章を収録しています.
 1章あたり10ページから10数ページと短く,読みやすいフォーマットで編集されています.
 初めて批判心理学を学ぶ方にお薦めです.北米やイギリス,ドイツなど特定の国・地域に偏った視点ではなく,幅広い視界を提示しています.執筆者は欧米とラテンアメリカ,アフリカ,アジアの各地の批判心理学者です.

 できれば日本語で読みたいですね.
 どなたか,日本語に翻訳しませんか?


 下に各章のタイトルをお示しします.邦題は当ブログ開設者による試訳です.

イアン・パーカー編 批判心理学ハンドブック 2015
1. イントロダクション  Ian Parker
第1部: 心理学とその批判の多様性
第1部a: 主流
2. 量的方法:科学の方法と目的  Lisa Cosgrove, Emily E. Wheeler & Elena Kosterina
3. 認知心理学:中産階級の個人から階級闘争へ  Michael Arfken
4. 行動主義:徹底的行動主義と批判的探究  Maria R. Ruiz
5. 感情:主流心理学を越えて  Paul Stenner
6. 生物学的心理学と進化心理学:批判心理学の極限  John Cromby
7. パーソナリティ:テクノロジー,商品,病理学  China Mills
8. 発達心理学:脱構築への転回  Erica Burman
9. 社会心理学:組織研究を論評する  Parisa Dashtipour
10. 異常心理学:さまざまな障害の心理学  Susana Seidmann & Jorgelina Di Iorio
11. 犯罪心理学:臨床的,批判的視点  Sam Warner

第1部b: 主流心理学を問うラディカルな試み
12. 質的方法:批判的実践と多様な領域の展望
13. 理論心理学:核心的問題の批判的哲学概説  Thomas Teo
14. 人間性心理学:批判的対抗文化  Keith Tudor
15. 政治心理学:権力への批判的アプローチ  Maritza Montero
16. コミュニティ心理学:主観性と権力と集団性  David Fryer & Rachael Fox
17. 組織心理学と社会問題:場所が位置づけられる地点  Mary Jane Paris Spink & Peter Kevin Spink
18. カウンセリング心理学:重要な成果と可能性と限界  Richard House & Colin Feltham
19. 健康心理学:ウェルビーイングと社会正義のための心理学を目指して  Yasuhiro Igarashi
20. ブラックサイコロジー:抵抗と再生と再定義   Garth Stevens
21. 女性心理学:ポリティクスと実践の諸問題   Rose Capdevila & Lisa Lazard
22. 「レズビアンとゲイの心理学」から「セクシュアリティの批判心理学」へ  Pam Alldred & Nick Fox

第1部C: サイ-コンプレックスの隣接領域 
23. 精神鑑定医と疎外:自分探しをする批判的精神医学  Janice Haaken
24. 心理療法:改革のエージェントか,修理屋か  Ole Jacob Madsen
25. 教育と心理学: ついに変化がおとずれるのだろうか?  Tom Billington & Tony Williams
26. ソーシャルワーク:抑圧と抵抗  Suryia Nayak
27. セルフ・ヘルプ: ポップ・サイコロジーとともに    Jan De Vos

第2部: さまざまな批判心理学
28. 活動理論:理論と実践  Manolis Dafermos
29. マルクス主義心理学と弁証法的方法  Mohamed Elhammoumi
30. ドイツ批判心理学:主体の立場からの心理学  Johanna Motzkau & Ernst Schraube
31. 精神分析が批判心理学に言うべきことは?  Kareen Ror Malone with Emaline Friedman
32. 脱構築:批判心理学の基礎  Andrew Clark & Alexa Hepburn
33. ドゥルーズ的視点:スキゾ分析と欲望のポリティクス  Hans Skott-Myhre
34. ディスコース心理学: おもな見解,いくつかの対立と2つの事例  Margaret Wetherell

第3部: 心理学と批判心理学に関するさまざまな立脚点と視座 
第3部a: さまざまな視座
35. フェミニスト心理学:研究,介入,課題  Amana Mattos
36. クイア理論:批判心理学を解体する  Miguel Rosell Pealoza & Teresa Cabruja Ubach
37. 解放の心理学:もうひとつの批判心理学  Mark Burton & Luis Gmez
38. 土地固有の心理学と批判的な抑圧から解放する心理学  Narcisa Paredes-Canilao, Ma. Ana Babaran-Diaz, Ma. Nancy B. Florendo & Tala Salinas-Ramos with S. Lily Mendoza
39. ポストコロニアル理論:批判心理学の世界へ向けて  Desmond Painter
40. 批判的ディザビリティ・スタディーズから批判的でグローバルなディザビリティ・スタディーズへ  Shaun Grech
41. 批判心理学のための政治的見識を備えた内在的スピリチュアリティ     Kathleen S. G. Skott-Myhre

第3部b:様々な地点
42. アフリカの批判心理学:不可能な課題  Ingrid Palmary & Brendon Barnes
43. 政治心理学とアメリカ大陸:植民地化と支配から解放へ  Raquel S. L. Guzzo
44. アラブ世界の批判心理学:パレスティナの植民地の文脈における批判コミュニティ心理学からの考察  Ibrahim Makkawi
45. アジアの批判心理学:4つの基本的概念  Anup Dhar
46.ヨーロッパの批判心理学の動向:心理学の常習的悪行への道  Angel J. Gordo Lopez & Roberto Rodrguez Lpez
47. 南太平洋:私たちの居場所の中にある空間の緊張  Leigh Coombes & Mandy Morgan

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