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2017年11月

2017年11月29日 (水)

マーク・ファロン著「不正な手段:CIAと国防総省とアメリカ政府が共謀した拷問の内幕話」

 グアンタナモ収容所やCIAの秘密収容施設(ブラックサイト)におけるテロ容疑者への「過酷尋問」をめぐって,現在も活発な議論が続いています.

 拷問の再発防止や被害者・遺族への補償,真相の解明と責任の追究など,重要な問題が目白押しです.
 CIAによる「強化尋問技法」を用いた尋問(拷問)を担った心理学者の責任を問う裁判も始まりました.

 長年,アメリカ海軍犯罪捜査局に勤務し,1990年代から最前線でテロ対策に取り組んできた専門家がこの問題を論じた著書が10月に刊行され,話題を集めています.

 マーク・ファロン著「不正な手段:CIAと国防総省とアメリカ政府が共謀した拷問の内幕話」

Mark Fallon, Unjustifiable Means: The Inside Story of How the CIA, Pentagon, and US Government Conspired to Torture.Regan Arts, 2017)


 9.11同時多発テロの後,ホワイトハウスや国防総省,CIAはテロ情報を求めて容疑者に「過酷尋問」を行う政策を採用しました.
 著者のファロン氏はその政策が生まれ,設計され実施される過程を,内側から見てきました.「強化尋問技法」による尋問がグアンタナモや他のアメリカ国外の秘密収容施設で行われるに至った状況を,この本が教えてくれます.

 ページをめくると,ところどころ単語や語句が黒塗りにされています.ファロン氏は国防総省でテロ対策の要職に就いていたため,本書を刊行するには国防総省のチェックを受け許可を得る必要がありました.
 黒塗りされ隠された氏名などは,著者が取り組んだ仕事の重要性を示しています.

 強化尋問技法を開発しアルカイダ幹部に自ら過酷尋問を行った心理学者や,国防総省やCIAやホワイトハウスと協働して過酷尋問を実施する体制を支えたアメリカ心理学会も,同書に登場します.

 ファロン氏はテロ対策のために過酷尋問が有効だ,という主張は誤りだと言います.
 「心理学的拷問」を採用しなかったアメリカのテロ対策担当官の考えを,この本から知ることができます.

   

2017年11月26日 (日)

国際質的研究学会が5月に開かれます

 国際質的研究学会の第14回大会が来年5月16日から18日まで,アメリカのイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で開催されます.

 今次大会のテーマは「困難な時代における質的研究(Qualitative  Inquiry  In Troubled Times)」です.

 大会案内をみると,ブレグジット(イギリスのEUからの離脱)やトランプ米大統領の登場,それに対するグローバルな抗議,異論の抑圧,民主主義の倫理的基盤への攻撃など,解決の容易でない問題に直面している困難な時代における質的研究を問う,といった企画趣旨が記されています.

 大会の詳細は次のウェブサイトをご覧ください. http://icqi.org/
  

 国際質的研究学会は心理学を含む人文社会科学の様々な領域の質的研究者が集う学会です.質的研究に関する最も規模の大きな学会のひとつです.

 質的研究の目的も主題も方法も,理論的リソースも多様です.

 研究関心の多様さに応じて,13の「スペシャル・インタレスト・グループ」が設けられ,グループごとにまとめてプログラムが組まれ発表が行われます.

 13のうち,「批判心理学とポスト構造主義心理学(Critical and Poststructural Psychology)」と「批判的な質的研究(Critical Qualitative Inquiry)」のグループが,私のような批判心理学と質的心理学に関心をもつ研究者が集まるグループです.

 質的研究における批判心理学の位置をこの学会が例示している,と言えるでしょう.日本の質的心理学者の間で批判心理学があまり理解されていないのは残念なことです.






2017年11月25日 (土)

批判心理学の新シリーズ「セラピーの文化」(ラウトレッジ社)

 臨床心理学が生み出した各種の心理療法など,多くのセラピーが身近なものになりました.
 今日の日本社会で生きる私たちの周りには,臨床心理士が提供する治療的サービスを始め,さまざまな「いやし」が日常生活に普及しています.
 欧米の批判心理学者はこうしたセラピーがセラピーの利用者や社会にもたらすものに,かねて注目していました.

 その文化を問う新しいシリーズがラウトレッジ社から刊行されることになりました.

 叢書「セラピーの文化(Therapeutic Cultures)」(https://www.routledge.com/Therapeutic-Cultures/book-series/TC)

 イギリスとノルウェイ,スペイン,トリニダード・トバゴで活動する若手の批判心理学者を中心とする編集委員が今,この叢書の企画を練っています.

 シリーズの1冊として刊行される研究を募集中です.
 関心をおもちの方は上記のウェブ・サイトに記載されている編集委員にメールで相談できます.

 日本社会でも今,さまざまなかたちの「いやし」をもたらすセラピー文化が花開いています.欧米で発展したセラピーもあれば,日本で生まれたものもあります.
 日本の文化や社会の諸条件,他国の影響などのもとでセラピー文化が私たちに何をもたらしているか,どのような社会的機能をもっているかなど,興味深い主題でしょう.
 私たちの日々の経験の中から,面白い研究を発信できそうです.

2017年11月 5日 (日)

トランプ大統領 「容疑者をグアンタナモに送る」:TBSニュースの報道

 ニューヨークで起きたピックアップトラックの暴走によって8名が死亡したテロ事件を受けて,トランプ米大統領が「容疑者をグアンタナモ」に送る,と発言しました.
 TBSテレビが報道しました.


 トランプ大統領「容疑者をグアンタナモに送る」
(http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3200570.html)

 この報道によると「ニューヨークのテロ事件で拘束されたサイポフ容疑者について,トランプ大統領はキューバのアメリカ軍グアンタナモ基地にあるテロ容疑者の収容施設に送ることを「検討する」と述べ,「容疑者をグアンタナモに送ることを必ず検討する.そして,現在の刑罰より迅速で厳しいものを考え出さなければならない」と述べたそうです.
 また大統領は「サイポフ容疑者がアメリカに入国する際に利用した「移民多様化ビザ抽選プログラム」について,「悪い人たちが入ってくる抽選制度は要らない」と述べて,廃止すべきとの考えを示し」たとのことです.

 
11月2日付けで中日新聞も報道しました.
 トランプ氏,反移民鮮明 「野獣はグアンタナモに」
 (http://www.chunichi.co.jp/s/article/2017110201000638.html)

 2001年に9.11同時多発テロが起き,アメリカが主導する「テロとの戦い」が始まりました.
 ブッシュ政権はキューバにあるグアンタナモ米軍基地内にテロ容疑者を収容する施設を設置し,テロ情報を求めて捕虜や容疑者に「過酷尋問」を行いました.
 この尋問が被尋問者の心身に重大な悪影響を与えていることが,人権NGOの調査やマスコミ報道によって明らかになり,国際社会から厳しい批判を受けました. (「過酷尋問」は拷問の言い替えです.)
 人権や自由を重んじる民主的な国だと自認してきたアメリカの倫理的正当性に,疑いの目が向けられるようになりました.

 グアンタナモ収容所でのテロ容疑者への尋問の計画と実施に当たって米軍の臨床心理学者が重要な役割を果たしました.
 また,アメリカ心理学会幹部が国防総省やホワイトハウスの担当官と協力し,同学会の倫理指針を改定するなどして政府が求めた過酷尋問を可能にしました.

 2009年にオバマ前大統領が就任すると,過酷尋問を拷問と認めて禁止しました.その舞台になったグアンタナモ収容所を廃止しようと試みました.が,果たせないまま今年1月,トランプ政権が始まりました.

 トランプ大統領は選挙キャンペーン中からテロ容疑者への過酷尋問は必要だ,と繰り返し発言してきました.大統領職に就くと,CIA副長官にかつて過酷尋問を担った職員を登用しました.

 グアンタナモ収容所における過酷尋問をめぐる論争は今後も続きそうです.
 ニューヨークのテロ事件の容疑者は既に連邦裁判所が統括する米国の司法制度のもとで裁かれています.その容疑者を国外の軍事施設に移送する,という同大統領の発言は異例です.

 同収容所とそこで行われた(現在も一部,行われているかもしれない)過酷尋問,またアメリカの心理学者が過酷尋問に加担した事実は,長く歴史に刻まれることでしょう.

  アメリカやカナダではテレビや新聞,インターネットなどでのマスコミ報道により,グアンタナモにおけるテロ容疑者への拷問と,米軍やCIAの心理学者が「過酷尋問」を行ったこと,アメリカ心理学会がそれに加担した事実は一般に広く知られています.

 トランプ米大統領が「テロ容疑者をグアンタナモへ移送する」と述べた報道を聞いて,北米ではテロ容疑者への「心理学的拷問」を思い出した人が少なからずいたことでしょう.





2017年11月 4日 (土)

批判心理学セッションのお知らせ:ディスコース分析,心理学教育,イギリス批判心理学,心理学観,アメリカ心理学と対テロ戦争

 批判心理学セッションが12月3日(日),午後2時から開かれます.
 2回目のセッションでは原発事故のディスコース分析やメンタルヘルスに関する心理学教育,イギリス批判心理学,心理学者の心理学観,アメリカ心理学と対テロ戦争における尋問などについて話題提供が行われます.

 批判心理学に関心をおもちの方なら,どなたでも参加できます.
 気軽にお運びください.



批判心理学セッション(2) 
日時:12月3日(日),午後2時から
会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)です
話題提供1:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学) 「原子力発電所事故のディスコース分析:「ただちに健康に影響はありません」をめぐって」
話題提供2:田辺 肇(静岡大学)「批判心理学を教育に活かすには?:精神保健福祉史,心理学史,心理学論における(2)」
話題提供3:百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所) 「Ian Parker.ed.
Critical Psychology: Critical Concepts in Psychologyを読む(2)」
話題提供4:小田 友理恵(法政大学大学院)「心理学観測定の試み」
話題提供5:五十嵐 靖博(山野美容芸術短期大学)「アメリカ心理学と対テロ戦争における拷問:最近の展開」ncepts in Psychologyを読む(2)」
主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会
参加費:無料
アクセス:JR山手線・京浜東北線 田町駅下車 芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)
所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6
※当日,建物玄関ロビー等に開催掲示はありません.6階612号室までお越し下さい.


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