« アメリカ心理学会とグアンタナモ収容所への心理学者の再配属 | トップページ | アメリカ心理学会と軍事心理学:グアンタナモ収容所における心のケア »

2018年8月10日 (金)

アメリカ心理学会代議員会がグアンタナモ収容所への心理学者の再派遣を認める動議を否決しました

 8月8日にサンフランシスコで開かれたアメリカ心理学会代議員会において,アメリカの軍事・情報当局が設営する捕虜やテロ容疑者の収容施設で,国防総省やCIAに所属する心理学者が活動することを認める動議が否決されました.

 ニューヨークタイムズも速報しました.

 「心理学者は軍の収容施設での活動することを禁止する指針を変更しない(Psychologists’ Group Maintains Ban on Work at Military Detention Facilities)」
 (https://www.nytimes.com/2018/08/09/health/interrogation-psychologists-guantanamo.html?smid=tw-nythealth&smtyp=cur)


 グアンタナモ収容所など,収容者の虐待や人権侵害が懸念される施設に再び心理学者(APA会員に限られます)を配属する施策(国防総省やAPA軍事心理学部会が求めています)は,多数の賛同を得られなかったようです.
 上の動議に賛成する票が32.9%,反対票は60.7%,棄権票が6.4%だったそうです.

  国際赤十字など米国防総省とは独立した団体が収容者の健康のために心理学者を派遣することは,現在もAPA倫理指針によって認められています.
 アメリカ心理学会(APA)の代議員会は,心理学の諸領域を探究する専門部会と北米と近隣の諸地域を代表する地域部会,APA理事会メンバーによって構成されます.同学会の運営を司る最高決定機関です.

 7月初旬に私が今回の問題を初めて聞いたときには,この動議がAPA代議員会によって採択されるかもしれない,という声を耳にしました.
 代議員会は理事会など執行部が主導する運営チームによって司会進行されます.代議員会に提出される動議はすでに理事会の承認を得ています.
 その動議はAPA内の各種の委員会で専門家が時間をかけて討議し,そうするのが妥当だという資料を添えて提議されます.

 APA代議員会の代議員を務めた経験をもつ知人の話では,執行部が提出した動議に反対するのは容易ではないそうです.
 専門家が正しいと認め,証拠とともに提議している事案に,非専門家が反対するのは困難なことです.
「専門家でないくせに反対するのは,専門家の倫理に反している」という非難を招くおそれもあります.
 
1,2日の短い会期の間に多数の議事が組まれているため,よく考えて討議する時間もありません.
 こうしたことからAPA理事会が承認した事案は通常,APA代議員会でも承認されます.

 今回,APA理事会が採択した動議が代議員会で否決されたのは,「心理学的拷問」が再び行われる危険性に多くの代議員たちが懸念を抱いていることを示しているのでしょう.

 この数週間,アメリカ自由人権協会(ACLU)やアムネスティ・インターナショナル,人権のための医師団,ヒューマン・ライツ・ウォッチなどの人権団体や拷問被害者の治療にあたる専門家が声明や公開書簡を発表し,APAとAPA代議員に上記の動議を承認しないように働きかけてきました.
 拷問に反対するAPA会員も懸命に活動していました.

 こうした声が代議員たちを動かしたようです.



« アメリカ心理学会とグアンタナモ収容所への心理学者の再配属 | トップページ | アメリカ心理学会と軍事心理学:グアンタナモ収容所における心のケア »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« アメリカ心理学会とグアンタナモ収容所への心理学者の再配属 | トップページ | アメリカ心理学会と軍事心理学:グアンタナモ収容所における心のケア »