批判的教育学事典(明石書店,2017)
ラウトレッジ社のインターナショナル・ハンドブックの1冊,‘The Routledge International Handbook of Critical Education′(2009) が翻訳されていることを,ご存知でしょうか?
日本語版のタイトルは「批判的教育学事典 」です.
子どもや若者の教育がその在り方や目的,方法などをめぐって利害を異にする各種の主体の重要な関心事となることは,容易に予想できます.
たとえば,子どもの自発的な興味や発達を重んじるか,時代の政治経済や社会からの要請を重んじて教育の目的や内容を決めるか,など多くの論争点が浮かんできます.
「主流」の教育学とは異なる,様々な「批判的」なアプローチが登場するのも,うなずけます.
次世代を担う子どもや若者の教育は,19世紀に国民国家が成立して以来,政治や行政,経済などを管理し統治する人々の関心の焦点でした.心理学が19世紀の後半に成立する背景になったのも,こうした社会セクターのニーズです.
この事典から心理学の隣接学問である教育学における様々な批判的研究を,手軽に知ることができます.
心理学を専攻する学生のために研究室に1冊,備えておかれるとよいのではないでしょうか?
27,000円と高価ですが,有用な事典です.
同じラウトレッジ社の国際ハンドブックシリーズから刊行されている‘The Routledge International Handbook of Critical Psychology’(2015)も,翻訳されるといいですね.
批判的教育学事典
マイケル・W・アップル,ウェイン・アウ,ルイ・アルマンド・ガンディン編
長尾彰夫,澤田稔監修
27,000円
明石書店, 2017.1.(原著の35章のうち28章を邦訳)
以下,目次をお示しします.
第1部
序
第1章
批判的教育学の全体像 マイケル・W・アップル,ウェイン・アウ,ルイ・アルマンド・ガンディン
第2部
社会的文脈と社会的構造
第2章
世界銀行・IMFと批判的教育学の可能性 スーザン・L・ロバートソン,ロジャー・デール
第3章
学校教育の新自由主義的再編における運動と停滞 キャメロン・マッカーシー,ヴィヴィアナ・ピトン,スチョル・キム,デイヴィッド・モンヘ
第4章
企業化と学校の支配 ケネス・J・ソルトマン
第5章
カリキュラムというトロイの木馬 フルホ・トレス・サントメ
第3部
再配分・承認・差異化権力
第6章
再生産論再考-批判的教育理論におけるネオ・マルクス主義 ウェイン・アウ,マイケル・W・アップル
第7章
資本主義の君臨-階級闘争におけるペダゴジーと実践 ヴァレリー・スキャタンブロ-ダンニバーレ,ピーター・マクラーレン
第8章
人種はいまなお問題である-教育における批判的人種理論 グローリア・ラドソン-ビリングズ
第9章
教育におけるポスト構造主義的フェミニズムとは何だったのか ジュリー・マクロード
第10章
安全な学校、セクシュアリティ、批判的教育 リサ・W・ルーツェンヘイザー,シャノン・D・M・ムーア
第11章
男らしさと教育 マーカス・ウイーバー-ハイタワー
第12章
インクルーシブ教育という逆説-差異の文化的政治学 ロジャー・スリー
第13章
教育の批判理論に対するフーコーの異議申し立て ローザ・マリア・ブエーノ・フィッシャー(英語訳:リサ・G・ベッカー)
第4部
フレイレの遺産
第14章
テキストと闘うこと-フレインの批判的ペダゴジーを文脈化し、再文脈化する ウェイン・アウ
第15章
我々はどのようなタイプの革命に向けたリハーサルを積んでいるのだろうか-アウグスト・ボアールの「被抑圧者の演劇」 リカルド・D・ロサ
第5部
実践のポリティクスと理論の再生
第16章
批判的メディア教育とラディカル・デモクラシー ダグラス・ケルナー,ジェフ・シェア
第17章
批判的教育学のための教師教育 ケン・ザイクナー,ライアン・フレッスナー
第18章
集合的記憶の修復-批判的教育(学)の歴史 ケネス・テイテルバウム
第19章
教育力のある都市と批判的教育学 ラモン・フレチャ
第20章
市民学校プロジェクト-ブラジル、ポルトアレグレ市における批判的教育の適用と再生 ルイ・アルマンド・ガンディン
第21章
「日本」版批判的教育学・教育研究を創出する-批判的知の脱西洋化に向けて ケイタ・タカヤマ
第22章
中国における批判的教育研究の現状と可能性 グァン-ツァイ・ヤン,イン・チャン
第6部
社会運動と教育実践
第23章
批判的意識だけでは十分ではない-社会的公正、政治的参加、学生の政治化 ジーン・エニオン
第24章
教員組合と社会正義 メアリー・コンプトン,ロイス・ウェイナー
第25章
教員、実践と民衆-韓国教員の承認をめぐる闘争 ヒー・リョン・カン
第7部
批判的教育学のための批判的研究方法
第26章
転換期における批判的研究方法論に向けて ロイス・ウェイス,ミシェル・ファイン,グレッグ・ディミトリアディス
第27章
批判的教育研究は「量的」たりうるか ジョセフ・J・フェラール
第28章
文化横断的研究と教育におけるオリエンタリズム、西洋と非西洋の二元主義とポスト・コロニアルな視点 ヨシコ・ノザキ
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