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2019年11月

2019年11月30日 (土)

CIAによるテロ容疑者への「強化尋問」を描いた映画:「ザ レポート」

 CIAによるテロ容疑者への過酷尋問を描いた映画「ザ レポート」がアメリカで公開され,話題になっています.
 日本でもAmzonプライムで視聴できるようになりました.日本語字幕付きです.

 2001年にアメリカを襲った9.11同時多発テロの直後にCIAが尋問技法を検討する場面から,2名の心理学者が「学習性絶望感」理論に基づく「強化尋問技法」をCIA幹部に提案する場面,凄惨な尋問(拷問)の実態,米上院情報委員会が調査を行って報告書を作成し,政治的駆け引きを経て報告書概要の公表に至る過程が描かれています.

 この公開された上院報告書(概要)で明らかになった数々の出来事から,作品の原案が作られました.
 ちょうど5年前の12月に公開されると,日本を含め世界各国で広く報道され,「CIAによる心理学的拷問」に非難の声があがり,アメリカ心理学とアメリカ心理学会のあり方に関心が集まりました.
 当時,このブログでもお伝えしました.
 「アメリカ上院がCIAの強化尋問技法(心理学的拷問)の効果を否定するレポートを公表しました」(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2014/12/post-545d.html)

 主演はアダム・ドライバー.スター・ウォーズのカイロ・レン役で有名になりました.
 上院インテリジェンス特別委員会委員長を務めるファインスタイン議員(民主党)のスタッフとして調査報告を指揮する役を演じています.
 同議員の他,CIAの長官やテロ対策センター長など政府機関の実在する当事者・関係者が作品の中で演じられています.

 タイトルの「レポート」は「拷問レポート」を意味しています.この映画のもとになった上院の報告書のほかに,CIAも自ら「過酷尋問」を検証する報告書を作成しました.
 しかし政府や議会が作成した米国の暗部を明かす報告書が,広く公開されることは稀です.この上院の報告書も全文ではなく,概要だけが公表されました.

  下のポスターではTortureという単語が,赤く塗りつぶされています.

     The Report(原題)



 「CIA拷問問題」に関心をお持ちの方にも,映画好きの方もおすすめです.
 ワシントンDCで激しい権力闘争が繰り広げられる,アメリカ政治の舞台裏を描いた政治ドラマとして楽しめます.

 「過酷尋問」を主導した2名の空軍出身の心理学者の振る舞いがあまりに酷いので,心理学に対する視聴者のイメージが悪化しそうです.
 幸か不幸か,この「CIAによる拷問」に加担したアメリカ心理学会の幹部たちは,映画には登場しません.空軍出身の臨床心理学博士はAPA幹部と会議をもち,情報交換を行っていました.(「学習性絶望感」やポジティブ心理学の提唱者として有名な元APA会長は,自宅で彼らやCIA幹部と会合をもっていたそうです.)

 「学習性絶望感」など「科学的心理学」にもとづき,国を守るために愛国者としてテロ容疑者を尋問したと主張する心理学者が,これほど醜く描かれた理由をあらためて考える必要がありそうです.

 当ブログでこの問題をたびたび,取り上げました.
  「CIAの拷問に加担した心理学者の罪:リフトンとの対話」(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2016/02/cia-96b6.html)
  「心理学的拷問を行った心理学者と被害者,CIA高官の宣誓供述ビデオ」(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2017/06/cia-aef7.html)
  「アメリカ心理学会とCIAと強化尋問技法(心理学的拷問)1
(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2015/05/cia-1e82.html)


    

 

 

 

2019年11月20日 (水)

12月15日に批判心理学セッションが開かれます

 13回目の批判心理学セッションが12月15日に開かれます.
 批判心理学にかかわる様々な主題について学び,討議する(おそらく日本で唯一の)貴重なフォーラムです.

 批判心理学に関心をお持ちの方は,どなたでも参加できます.
 参加費は無料です.


批判心理学セッション13

日時:12月15日,午後2時から

会場:静岡大学東京事務所.同事務所は東京工業大学キャンパス・イノベーションセンター内,6階612号室(エレベータを出て左側正面)

プログラム
1.いとう たけひこ(和光大学)「原発避難者の語り」

2.山本 登志哉(発達支援研究所)「裁判官と心理学者のディスコミュニケーション:対話的にその構造を分析する」

3.田辺 肇(静岡大学)「Semi-lay theories: How effectance shape our actions, beliefs, and constructs: the critical discussion on Tanabe & Tokuyama (2019) Model development to improve capabilities to cope with dissociation and affect dysregulation in a context of social care of children」

4.百合草 禎二(主体科学としての心理学研究所)「体験概念(переживания,Perezhivanie)の検討-エフ・イ・ヴァシリューク「体験概念の歴史について」(2013)とM.Cole(eds)「MCA Symposium on Perezhivanie(2016)を参考に- 」

5.増田 匡裕(和歌山県立医科大学)「パーソナル・コンストラクト理論による対人魅力の類似性仮説を蘇らせてみる」

主催:(公社)日本心理学会 批判心理学研究会

参加費:無料

アクセス:JR山手線・京浜東北線,田町駅下車.芝浦口徒歩1分(http://www.cictokyo.jp/access.html)
所在地 : 〒108-0023 東京都港区芝浦3-3-6.

※当日,建物玄関・ロビー等に開催掲示はありません.6階の612号室までお越し下さい.

 

 

 

2019年11月18日 (月)

アメリカの公共放送NPRが「エルサルバドルの虐殺」の30周年について報道しました:マルティン‐バロ(1942‐1989)の解放の心理学

 アメリカの公共放送 NPRが,1989年11月16日におきた「エルサルバドルの虐殺」から30年が経った機会に,生存者や目撃者など,当事者の声を報道しました.

 30年前のこの日,中米のエルサルバドルにあるセントラル・アメリカ大学構内の教職員宿舎で深夜,6名のイエズス会神父と宿舎の調理師,その16歳の娘が銃殺されました.
 米国の軍事支援を受けた軍隊(いわゆる「死の部隊」)が同大学を襲い,教職員と家族を殺害した事件は当時,世界に衝撃を与えました.
 ラテンアメリカ諸国への米国の政治的介入や軍事支援の実態に,改めて注目が集まりました.

 下のNPRのウェブサイトで,30周年に配信された記事とラジオ放送にアクセスできます.

 1989年にエルサルバドルで起きたイエズス会士の虐殺を記憶する(Remembering The 1989 Massacre Of Jesuits In El Salvador
(https://www.npr.org/2019/11/15/779628824/remembering-the-1989-massacre-of-jesuits-in-el-salvador?fbclid=IwAR2p8pper2BAo7OkUkZy6tT-9nruvw98Y9-c-2PT59QoBPY5yG_yoK5nqDQ)

 「いつも彼らを思い出しています」:目撃者が1989年のエルサルバドルでのイエズス会士虐殺を語る('I Miss Them, Always': A Witness Recounts El Salvador's 1989 Jesuit Massacre)
(https://www.npr.org/2019/11/16/774176106/i-miss-them-always-a-witness-recounts-el-salvador-s-1989-jesuit-massacre)


 銃殺された犠牲者のひとりは,解放の心理学を樹立し実践したスペイン出身の心理学者,イグナシオ・マルティン‐バロ(Ignacio Martín-Baró,1942‐1989)です.
 彼は社会心理学者として,カソリックの宗教者としてエルサルバドル政府の圧政や激しい経済格差,それらの人々の生活への悲惨な影響などを心理学研究をとおして批判していました.

 そのため,彼の仕事は当時の政権や右派勢力に疎まれました.
 同じように貧困者や政治的抑圧を受ける弱者の側に立ち,社会正義を求めて活動していた同僚の神父と,虐殺が行われた教職員宿舎の調理師とその子どもとともに,軍兵士によって殺害されてしまいました.
 
 マルティン‐バロがスペイン語で書いた論文が英訳され,手軽に読むことができます.
    Writings for a Liberation Psychology (Ignacio Martín-Baró, 1996, Harvard University Press)

   Writings for a Liberation Psychology


 ラテンアメリカでは彼が活躍する前から,解放の神学や解放の教育学が発展していました.
 解放の心理学もラテンアメリカ諸国が共有する政治的,経済的,文化的文脈(貧困や格差,米国の強大な力,カソリック信仰など)を背景として,それらの影響を受けて生まれました.
 マルティン‐バロの没後,解放の心理学は社会心理学を中心に多くの研究やコミュニティでの実践を生み出しました.
 今日までに北米の主流心理学とは異なるアプローチを代表する批判心理学(非主流心理学)のひとつへと発展しています.




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