CIAによるテロ容疑者への「強化尋問」を描いた映画:「ザ レポート」
CIAによるテロ容疑者への過酷尋問を描いた映画「ザ レポート」がアメリカで公開され,話題になっています.
日本でもAmzonプライムで視聴できるようになりました.日本語字幕付きです.
2001年にアメリカを襲った9.11同時多発テロの直後にCIAが尋問技法を検討する場面から,2名の心理学者が「学習性絶望感」理論に基づく「強化尋問技法」をCIA幹部に提案する場面,凄惨な尋問(拷問)の実態,米上院情報委員会が調査を行って報告書を作成し,政治的駆け引きを経て報告書概要の公表に至る過程が描かれています.
この公開された上院報告書(概要)で明らかになった数々の出来事から,作品の原案が作られました.
ちょうど5年前の12月に公開されると,日本を含め世界各国で広く報道され,「CIAによる心理学的拷問」に非難の声があがり,アメリカ心理学とアメリカ心理学会のあり方に関心が集まりました.
当時,このブログでもお伝えしました.
「アメリカ上院がCIAの強化尋問技法(心理学的拷問)の効果を否定するレポートを公表しました」(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2014/12/post-545d.html)
主演はアダム・ドライバー.スター・ウォーズのカイロ・レン役で有名になりました.
上院インテリジェンス特別委員会委員長を務めるファインスタイン議員(民主党)のスタッフとして調査報告を指揮する役を演じています.
同議員の他,CIAの長官やテロ対策センター長など政府機関の実在する当事者・関係者が作品の中で演じられています.
タイトルの「レポート」は「拷問レポート」を意味しています.この映画のもとになった上院の報告書のほかに,CIAも自ら「過酷尋問」を検証する報告書を作成しました.
しかし政府や議会が作成した米国の暗部を明かす報告書が,広く公開されることは稀です.この上院の報告書も全文ではなく,概要だけが公表されました.
下のポスターではTortureという単語が,赤く塗りつぶされています.
「CIA拷問問題」に関心をお持ちの方にも,映画好きの方もおすすめです.
ワシントンDCで激しい権力闘争が繰り広げられる,アメリカ政治の舞台裏を描いた政治ドラマとして楽しめます.
「過酷尋問」を主導した2名の空軍出身の心理学者の振る舞いがあまりに酷いので,心理学に対する視聴者のイメージが悪化しそうです.
幸か不幸か,この「CIAによる拷問」に加担したアメリカ心理学会の幹部たちは,映画には登場しません.空軍出身の臨床心理学博士はAPA幹部と会議をもち,情報交換を行っていました.(「学習性絶望感」やポジティブ心理学の提唱者として有名な元APA会長は,自宅で彼らやCIA幹部と会合をもっていたそうです.)
「学習性絶望感」など「科学的心理学」にもとづき,国を守るために愛国者としてテロ容疑者を尋問したと主張する心理学者が,これほど醜く描かれた理由をあらためて考える必要がありそうです.
当ブログでこの問題をたびたび,取り上げました.
「CIAの拷問に加担した心理学者の罪:リフトンとの対話」(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2016/02/cia-96b6.html)
「心理学的拷問を行った心理学者と被害者,CIA高官の宣誓供述ビデオ」(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2017/06/cia-aef7.html)
「アメリカ心理学会とCIAと強化尋問技法(心理学的拷問)1」
(http://critical-psychology.cocolog-nifty.com/blog/2015/05/cia-1e82.html)
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