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2019年12月

2019年12月29日 (日)

トランプ大統領のアンガーマネジメント,ザギトワ選手の自分探し:2019年末の「心理学化」

 心理学の概念や専門用語や理論などが,日常的な言語使用に立ち現れる現象は「心理学化」のひとつの事例です.
 心理学化は,心理学が産出した知的産物が社会に流布したことを示すとともに,教育やビジネスや健康など社会の諸領域でどのような心理学知識・技術が求められているかを示唆しています.

 最近,マスメディアの報道に接して,理論心理学者・批判心理学者の目に留まった例をふたつ.


トランプ米大統領のアンガーマネジメント
 地球温暖化など気候変動への対処を政治経済界の指導者に求める運動を先導し,世界各地に広めたグレタ・トゥーンベリさん.タイムズ誌が2019年の「顔」に選出しました.

 すると,トランプ米大統領がツィッターに,
 「本当にばかげている.グレタは自分のアンガーマネジメント(怒りの制御)の問題に取り組まなきゃならない.それから友達と良い映画を見に行ってこい! 落ち着けグレタ,落ち着け!」と投稿しました.

 トランプ氏、グレタさんに「落ち着け」 映画見ればと皮肉(AFP通信,2019年12月13日)
 (https://www.afpbb.com/articles/-/3259334)

 アンガーマネジメントは近年,日本でも知られるようになりました.認知行動主義的なアプローチを用いて,個人の内部の怒りの過程を自分でコントロールするものです.
 過度の怒りの反応が自他にもたらす損失を自己コントロールによって低減できるなら,当人にも職場や学校など社会にとっても有益です.
 このためビジネスや教育などの現場で活用できる,という考えが北米で広まり普及しました.
 日本でも今後,いっそう活用されそうです.

 ところで,グレタさんに「忠告」したトランプ大統領は,政治集会や記者会見でしばしば,怒りや不満を露わにしています.本人は,自分では怒りをコントロールできている,と考えているのでしょうか?
 あるいは,ああした公的な場所での怒りの表出は,周到に計算された政治的パフォーマンスなのでしょうか?

ザギトワ選手の自分探し
 2018年,ピョンチャンで行われた冬季オリンピックのフィギュアスケート競技で金メダルを獲得したロシアのアリーナ・ザギトワ選手.愛らしい容姿も相まって,日本でも大人気です.

 12月,トリノで開かれたグランプリ・ファイナルで最下位に終わりました.
 すると今後の競技生活について,
 「スケートを続けるために,これからは調子の回復につとめる.自分探しの旅に出る.その後は…分かるでしょ」と語ったそうです.

 ザギトワ「自分探しの旅に出る」“引退報道”の真相を告白/フィギュア(サンスポ,2019年12月19日)
 (https://www.sanspo.com/sports/news/20191219/fgr19121917320007-n1.html)

 ロシア語でどのように「自分探し」について語ったのか,明らかでありません.が,日本の報道で「自分探し」という言葉が用いられたのは,この言葉が日本社会で広く普及しているからでしょう.
 「自己実現」や「自己アイデンティティ」のよりくだけた表現として,日本社会の中で「自分探し」が生まれ,前世紀末ころから広まりました.
 サッカー日本代表として若者の人気を集めた中田英寿選手が引退表明したときに,「自分探し」の旅に出ると述べたことを覚えている方も多いのではないでしょうか.

 誰にとっても「自分」は重要な関心の的ですが,それをどのようなものとして理解し考えるか,文化や社会が異なれば異なりえます.その際には自分を形容し概念化する言葉やカテゴリーが,陰に陽に「自分(自己)」についての考えに影響を及ぼしています.
 「自分探し」は20世紀末以降の日本社会の文化や社会状況,価値観などを背景として,既存の心理学的概念とかかわりながら生まれ,普及した言葉(概念)です.
 それを用いようとするニーズが社会とそこで生きる人々の中にあるのでしょう.だから「自分探し」は2020年も,広く用いられると予想されます.

 

 

 

2019年12月18日 (水)

1月25日に批判心理学セッションが開かれます.

 次回の批判心理学セッションは,1月25日(土)に開かれます.
 会場はこれまでと同じ静岡大学東京事務所,午後2時開始です.

 批判心理学に関心をおもちの方は,どなたでも参加できます.
 自由に,前向きに新しい研究について学び,討議しましょう!
 参加費は無料です.

 研究発表も募集しています.批判心理学の研究主題や目的や方法,理論的リソースは多様です.多様な研究の発表の場として是非,活用してください.

 当ブログ開設者に,気軽にご連絡ください.

 

 

 

2019年12月 8日 (日)

トッド・スローン教授のために:批判心理学・カウンセリング・心理療法ジャーナルの特集号

 批判心理学・カウンセリング・心理療法ジャーナルJournal of Critical Psychology,Counselling and Psychotherapyが,北米を代表する批判心理学者として知られるトッド・スローン教授(1952-2018)が成した研究を振り返り,再評価する特集を刊行しました.

 スローン教授は北米のパーソナリティ心理学やヨーロッパの批判心理学を深く理解したのち,ラテンアメリカにかかわる解放の心理学やコミュニティ心理学に取り組みました.
 ゼロ年代以降はアメリカのシアトル市に拠点をおき,ルイス&クラーク大学教授としてスローン博士が活動した同市のコミュニティにおいて格差や貧困や平和問題等,社会課題の解決をめざす心理学的実践を探究しました.
 また,多くの社会活動家と交流し,次世代の活動家の育成や支援に尽力しました.
 昨年12月に訃報が伝えらえると,多くの国・地域から早すぎる死を悼む声が寄せられました.

 この特集は世界各地でスローン教授と交流をもった研究者が,彼の仕事を考察しその知的遺産を継承する道を論じています.

Journal of Critical Psychology, Counselling and Psychotherapy (Volume 19, Number 4, December 2019)
Special issue : For Tod Sloan, Edited by David Fryer
-Editorial Tod Sloan :work in progress  (David Fryer)
-Tod Sloan’s Struggle  (Dennis Fox)
-Valediction for Tod  (John Kaye)
-An interview with Tod Sloan  (Wayne Dykstra and Tod Sloan)
-Tod Sloan (1952-2018)'s Micro Critical Psychology Movement: A view and memoir of a Japanese critical psychologist  (Yasuhiro Igarashi)
-Ghost Walks or Thoughtful Remembrance. How should the heritage of psychiatry be approached?  (Elisabeth Punzi)
-Against Humanism  (Grant Jeffrey)
-The Emergent Rebel:Tod Sloan’s legacy in critical psychology and beyond  (Creston Davis)
-Proposal for Courses and a Certificate at the Institute for Critical Psychology, -Global Center for Advanced Studies  (Tod Sloan)
-If You Are A Critical Psychologist, Read and Cite Tod Sloan  (Robert K Beshara)


 スローン教授が20年前に刊行した『批判心理学:変革を求める世界の声』は,20世紀末に始まった現代国際批判心理学運動の道標として世界の批判心理学者に知られ,必読文献のひとつになりました.
 当時,既存の心理学とは異なる批判的なアプローチを模索していた世界各地の心理学者に,多くの刺激を与えました.

 Sloan T (2000). Critical Psychology: voices for change. Basingstoke: Macmillan.

              Critical Psychology 


 私も20年近くの間,交流をもつ機会に恵まれ,「トッドさん」の仕事と生活の送り方から様々な刺激を受けました.こうした経験を記録し共有すべきと考え,上の特集に論文を投稿しました.
 スローン教授の事績について,詳しく知りたい方は下記をご参照ください.

Tod Sloan, Professor Emeritus (https://graduate.lclark.edu/live/profiles/248-tod-sloan)



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