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2022年1月

2022年1月27日 (木)

2021年にアメリカ心理学会でもっとも注目を集めた10論文

 コロナ禍のなかで新しい生活様式が模索されるなど,さまざまな変化が起きた2021年.
 心理学者はどのような研究を行っていたのでしょうか?

 アメリカ心理学会(APA)が2021年に注目を集めた10本の論文を発表しました(https://www.apa.org/monitor/2022/01/top-journal-articles).
 APAが刊行する89のジャーナルに掲載された5000本以上の中から,最も多くダウンロードされた10本の論文は下記のとおりです.
 アメリカ心理学の動向や,社会における心理学への関心のあり方がうかがえます.

1.大学生が経験する新型コロナウィルスによる困難:学業と社会‐感情面への影響
著者:Tasso, A. F., Hisli Sahin, N., San Roman, G. J.
掲載誌:Psychological Trauma: Theory, Research, Practice, and Policy (Vol. 13, No. 1)

2.新型コロナウィルスと職場:その影響と課題,さらなる研究と行動のための洞察
著者:Kniffin, K. M., Narayanan, J., Anseel, F., Antonakis, J., Ashford, S. P., Bakker, A. B., Bamberger, P., Bapuji, H. Bhave, D. P., Choi, V. K., Creary, S. J., Demerouti, E., Flynn, F. J., Gelfand, M. J., Greer, L. L., Johns, G., Kesebir, S., Klein, P. G., Lee, S. Y., Ozcelik, H., Petriglieri, J. L., Rothbard, N. P., Rudolph, C. W., Shaw, J. D., Sirola, N., Wanberg, C. R., Whillans, A., Wilmot, M. P., Vugt, M.
掲載誌:American Psychologist (Vol. 76, No. 1)

3.外見とソーシャルメディアの詳細な検討:活動性,自己呈示と社会的比較,それらの感情的適応との関係
著者:Zimmer-Gembeck, M. J., Hawes, T., Pariz, J.
掲載誌:Psychology of Popular Media (Vol. 10, No. 1)

4.社会的孤立は新しいものではない:コロナ禍における大学生の心理学的悲嘆に関する長期的研究(以前からあったメンタルヘルスの問題との関係)
著者:Hamza, C. A., Ewing, L., Heath, N. L., Goldstein, A. L.
掲載誌:Canadian Psychology (Vol. 62, No. 1)

5.移行期の若者の対人的トラウマに対するトラウマに焦点をおく認知行動療法(TF-CBT)
著者:Peters, W., Rice, S., Cohen, J., Murray, L., Schley, C., Alvarez-Jimenez, M., Bendall, S.
掲載誌:Theory, Research, Practice, and Policy (Vol. 13, No. 3)

6.思春期の若者の日常生活におけるソーシャルメディアの利用と友人関係の親密さ:体験サンプリング研究
著者:Pouwels, J. L., Valkenburg, P. M., Beyens, I., van Driel, I. I., Keijsers, L.
掲載誌:Developmental Psychology (Vol. 57, No. 2)

7.インスタグラムはみな,影響をもつのか(Every (Insta)gram counts?):若者のボディイメージに対するインスタグラムの効果を検討するためにカルティベーション理論を適用する
著者:Stein, J.-P., Krause, E., Ohler, P.
掲載誌:Pouwels, J. L., Valkenburg, P. M., Beyens, I., van Driel, I. I., Keijsers, L.

8.非言語的な過重負担:ZOOM疲労の原因の理論的討議
著者:Bailenson, J. N.
掲載誌:Technology, Mind, and Behavior (Vol. 2, No. 1)

9.新型コロナウィルスが感染爆発する状況におけるコーピング:心の健康と生活の質との関係
著者:Shamblaw, A. L., Rumas, R. L., Best, M. W.
掲載誌:Canadian Psychology (Vol. 62, No. 1)

10.反応的動機づけ面接(responsive motivational interviewing)を,全般性不安障害の認知行動療法と統合する:対人的行動への直接,間接の効果
著者:Muir, H. J., Constantino, M. J., Coyne, A. E., Westra, H. A., Antony, M. M.
掲載誌:Journal of Psychotherapy Integration (Vol. 31, No. 1)

 メンタルヘルスに関する論文が多いことに,気づかれたでしょうか.
 APAでは臨床心理学や心理療法を職業として実践する「プロフェッショナル・サイコロジスト」が,大きな勢力をもっています.

 同じアメリカの心理学会でもAPS(Association for Psychological Science )では,より「科学的心理学研究」が重んじられています.APSの2021年のトップ10論文を,下記のサイトが紹介しています.
 Bilingual Children, Jealous Dogs, and Gender Stereotypes: Our Most Impactful Articles in 2021
(https://www.psychologicalscience.org/publications/observer/obsonline/top-10-2021.html)


 

 

2022年1月20日 (木)

心理学における社会構成主義

 心を研究するには心とは何か,心をどのようにして研究できるか,という心理学の哲学に関する問題について,ひとつの立場をとる必要があります.心理学の学派やパラダイムはそれぞれ,こうした哲学的立場をとっています.
 19世紀の最後の四半世紀の間に「現代心理学」が成立したころから,心理学界では複数の学派やパラダイムが並立してきました.何をどのようにして研究するか,心理学研究の在り方をこれらが方向づけています.
 今日でも認知行動主義や精神分析,人間性心理学,ユング心理学,行動分析など多くのアプローチが併存しています.

 近年,心理学の新たなアプローチに社会構成主義が加わりました.一般に心理学は人間の心に関する普遍的な知識をもたらす学問だ,と考えられています.特に自然科学にならって実験室実験や大規模な質問紙調査などの量的研究を重んじる「科学的心理学」では,心理学が「普遍的な人間一般の心理学」であることが自明視されています.

 しかし文化や社会や言語が異なると,心を記述する用語や概念も異なることがあります.心に関する知識や理論に,これらが影響することは明らかでしょう.
 社会構成主義は心理学が生み出す知識が,特定の文化や価値観や利益関心をもつ人々によって集合的に作り出されるものだ,という視点から,心理学研究やそれが生み出した「心理学的生産物」(専門用語や理論,心理検査,心理療法など)の社会における適用を再検討し,よりよい心理学を目指しています.

 日本における社会構成主義的心理学の動向を知るには,下記がお薦めです.

 能智正博・大橋靖史編 2021「ソーシャル・コンストラクショニズムと対人支援の心理学:理論・研究・実践のために」.新曜社(https://www.shin-yo-sha.co.jp/book/b597285.html)

 
 批判心理学と理論心理学の立場から,私も1章を寄稿しました.

     ソーシャル・コンストラクショニズムと対人支援の心理学

 

 

 

 

 

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