心理学における社会構成主義
心を研究するには心とは何か,心をどのようにして研究できるか,という心理学の哲学に関する問題について,ひとつの立場をとる必要があります.心理学の学派やパラダイムはそれぞれ,こうした哲学的立場をとっています.
19世紀の最後の四半世紀の間に「現代心理学」が成立したころから,心理学界では複数の学派やパラダイムが並立してきました.何をどのようにして研究するか,心理学研究の在り方をこれらが方向づけています.
今日でも認知行動主義や精神分析,人間性心理学,ユング心理学,行動分析など多くのアプローチが併存しています.
近年,心理学の新たなアプローチに社会構成主義が加わりました.一般に心理学は人間の心に関する普遍的な知識をもたらす学問だ,と考えられています.特に自然科学にならって実験室実験や大規模な質問紙調査などの量的研究を重んじる「科学的心理学」では,心理学が「普遍的な人間一般の心理学」であることが自明視されています.
しかし文化や社会や言語が異なると,心を記述する用語や概念も異なることがあります.心に関する知識や理論に,これらが影響することは明らかでしょう.
社会構成主義は心理学が生み出す知識が,特定の文化や価値観や利益関心をもつ人々によって集合的に作り出されるものだ,という視点から,心理学研究やそれが生み出した「心理学的生産物」(専門用語や理論,心理検査,心理療法など)の社会における適用を再検討し,よりよい心理学を目指しています.
日本における社会構成主義的心理学の動向を知るには,下記がお薦めです.
能智正博・大橋靖史編 2021「ソーシャル・コンストラクショニズムと対人支援の心理学:理論・研究・実践のために」.新曜社(https://www.shin-yo-sha.co.jp/book/b597285.html)
批判心理学と理論心理学の立場から,私も1章を寄稿しました.
« 【開催日が変更されました!】次回の批判心理学セッションは,3月27日に開かれます. | トップページ | 2021年にアメリカ心理学会でもっとも注目を集めた10論文 »
« 【開催日が変更されました!】次回の批判心理学セッションは,3月27日に開かれます. | トップページ | 2021年にアメリカ心理学会でもっとも注目を集めた10論文 »
コメント